日々の身体活動を増やすための目標と報酬を構築する方法ついての洞察
私たちの生活では座って過ごす時間がますます長くなっています。大半の人が座位時間の長い仕事をしており,かつてないほどに車の中や画面の前で過ごす時間が長くなっています。この現状を打破するために,1日の歩数を増やす試みを始めている人たちもいます。しかし,時間の経過とともに意欲を維持することが難しくなることがあります。そこで研究者たちは,1日の歩数を増やそうとする人の意欲を高める最善の方法の解明に着手しました。研究者たちはまず,歩数の目標を1つ決めて変更しない静的目標を設定する場合と,直近の活動度に応じて目標を変更する動的目標を設定する場合を比較しました。また,目標を達成した直後に金銭報奨を与える場合と,研究に参加しただけで数カ月後に金銭報奨を与える場合も比較しました。
研究者たちは過体重で運動不足の成人96人を募集して登録し,覚醒中は歩数計を装着させ,ベースライン時点での1日当たりの歩数を約10日間かけて記録しました。1日目から10日目までは,4群全ての被験者に日常の行動を変えないよう指示し,研究者たちが普段の生活を感じ取れるようにしました。介入段階が開始される研究11日目に全被験者に対して電子メールが送られ,1日1万歩の最終目標に向けて少なくとも週5日は努力するよう奨励しました。
被験者は,動的目標・即時報酬群,動的目標・遅延報酬群,静的目標・即時報酬群,静的目標・遅延報酬群の4群にランダムに割り付けられました。その後,これら4群の被験者をさらに110日間(4カ月弱)にわたってモニタリングしました。2つの静的目標群に対しては,1日1万歩を残りの研究期間の目標としました。一方,動的目標群に対しては,直近9日間の歩数に基づいて1日の目標が設定されました。具体的には,直前9日間の歩数を数え,歩数の少ない順に並べ,4番目に多かった日の歩数を選択して,25歩単位で最も近い値に切り上げた歩数を翌日の目標にしました。例えば,直近9日間の歩数が951歩,1256歩,4508歩,4563歩,5218歩,6235歩,7358歩,9563歩,10,200歩であった場合,4番目に多い6235歩を選択し,最も近い25歩単位の数に切り上げます。この場合,翌日の目標歩数は6250歩となります。このようにして,2つの動的目標群では被験者の1日当たりの目標を毎日再設定しました。2つの即時報酬群では,被験者には目標を達成した日毎に1ポイントが与えられ,5ポイントを獲得するたびに5ドル相当のギフトカードが送られました。遅延報酬群には,参加しただけで即時報酬群が獲得できる最大報酬とほぼ同等の報酬が与えられましたが,研究終了時点まで報酬を受け取ることができませんでした。
では何が起きたでしょうか。11日目には,1日1万歩を目標とするように指示された2つの静的目標群の歩数が,ベースラインの1日7200歩から1日約9800歩へと1日2600歩だけ増加しました。一方,1日1万歩を最終目標とするように指示され,直近データに基づいて各自の動的目標が設定された2つの動的目標群では,歩数がベースラインの1日7600歩から1日約9700歩へと1日2100歩だけ増加しました。この2群間の差は統計学的に有意ではありませんでした。その日はたくさん歩くことができてよかったのですが,その後の110日間では,4群全てで歩数が徐々に減少していきました。しかし,ここで非常に興味深いことがわかりました。2つの動的目標群では1日の歩数が平均8歩減少したのに対して,2つの静的目標群では1日の歩数が平均18歩減少しました。そのため研究終了時までに,動的目標群の被験者は静的目標群の被験者と比較して1日約1000歩余分に歩いていました。
次に,即時報酬群と遅延報酬群の結果を比較してみましょう。11日目に全ての群に1日1万歩の最終目標を目指すよう指示したところ,即時報酬群では,ベースラインの1日7800歩から1日約10,600歩へと1日2800歩だけ増加しました。一方,2つの遅延報酬目標群では,ベースライン時の1日7000歩から1日約9000歩へと1日2000歩だけ増加しました。この2群間の差は統計学的に有意でした。次の110日間では,即時報酬群と遅延報酬群ともに同程度の割合で歩数が減少しました。しかし,即時報酬群の方が11日目の歩数が多かったため,即時報酬群は最終的な歩数でも遅延報酬群より1日1400歩多くなりました。4群を合わせて検討すると,静的目標・即時報酬群では11日目に歩数の最高値を記録したのに対し,動的目標・遅延報酬群では120日目に研究終了までの最高値が記録されことが明らかでした。
では,この研究から何がわかるでしょうか。この結果から示唆されるのは,短期目標を達成したことに対する即時報酬の方が,長期目標に対する遅延報酬よりも意欲を高めるということです。つまり,「次の6カ月で体重が40ポンド減ったら,クルーズに行きます」のように宣言するのではなく,「食事と運動の計画を1週間続ける毎に50ドル貯金して,好きなことに使います」のように宣言する方がやる気が起こるかもしれません。さらに,行動変容の開始時点では静的目標の方がわずかに意欲を高めるようですが,直近の運動パフォーマンスを考慮した動的目標の方が持続力があります。
Video credit: Osmosis (https://osmosis.org/)