運動の概要

執筆者:Brian D. Johnston, Exercise Specialist, International Association of Resistance Training
レビュー/改訂 2023年 7月
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運動は組織の変化と順応(例,筋肉量および筋力の増加,心血管系の持久力の増強)の刺激となり,一方で,安静および回復によりそのような変化と順応が起こることが可能となる(1)。運動からの回復は,運動による刺激と等しく重要である。定期的な運動は,内科的疾患の可能性を減少させ,主要な死亡原因の発生率を低下させ,大半の病態の患者で全体的な健康状態および生活の質を向上させる。

運動は,筋肉量および筋力を増加させ,心血管系の持久力を高めることで,スポーツおよび日常生活動作の機能状態を改善し,損傷を予防する。また,心筋梗塞,大手術,および筋骨格系の損傷の後に,患者のリハビリのためにも,特定の運動プログラムが一般的に処方される。術後の回復を促すために,多くの待機手術では術前の運動レジメンが処方される(1)。適応に関係なく,運動に対する推奨は以下の2つの原則に基づくべきである:

  • 運動の目標は,意欲,必要性,身体能力,および心理状態に合わせて,患者の参加および望ましい転帰の可能性を最大にするために,患者毎に個別に設定すべきである。

  • 望ましい効果を得るために適切な運動量を処方すべきである。運動による刺激は,身体がより高い機能状態に順応する,機能水準を維持する,または機能喪失を遅らせるために十分なものとすべきであるが,損傷またはアドヒアランス不良を引き起こすほど激しくすべきではない。運動量が多ければ,または運動強度が高ければ必ずしもよいわけではない;運動が少なすぎても多すぎても,望ましい結果および効果的な回復を得る妨げとなりうる。

特定の結果または目標を達成するために個人が必要とする運動量(「耐えられる」運動量ではない)については,収穫逓減の原則を考慮に入れるべきである。少量の運動である程度の結果が得られることもあるが,おそらくは十分な結果や意図した結果は得られない。望ましい結果を得るためにはより多くの活動が必要となるが,どこかで害が便益を上回ってしまう。例えば,労作を25%増やせば,5%よい結果が得られる可能性があるとしても,関節や精神的および身体的能力により多くの負荷がかかるため,追加の労作に要する回復時間が延長する可能性がある。したがって,運動プログラムは経済的に設計され,結果(成果および回復)をモニタリングしながら全体的な負担(例,運動の量または強度)を徐々に増加させるべきである。

運動処方には,強度(労作のレベル),量(1回に行う運動量),頻度(運動を行う回数),および漸進性の過負荷(1回の運動につき,これらの要素の1つまたは複数を増やすか,実際の負荷重量を増やす)を明記すべきである。これらの要素のバランスは,個人の耐容能および生理的要因に左右される(すなわち,強度を上げるに従って量と頻度を減らす,または逆に,量を増やすに従って強度を下げる必要が生じる可能性がある)。強度,量,および頻度は同時に増やすこともできるが,負荷に対する人間の耐容能には限界があるため,増加には制限がある。目的は,患者の目標,健康状態,および現在の健康水準に対する最適な効果を得るための適切な運動量を見出すことである。固定された従来の一般的な推奨(例,反復運動10~12回を3セット,ランニング30分を週3回)は,個人の具体的な必要量や能力に焦点を当てていないため,最適ではないことがある(すなわち,デコンディショニングが著しい人では,より高い強度のトレーニングができる人とは異なるプログラムが必要となる)。レジメンを変えることは,反復動作に起因する軽微な損傷だけでなく,同じ刺激に対する過度の適応(順化)の回避に役立つ。

長期のアドヒアランスを達成することが重要であるが,容易ではない。つらいと感じることがある運動を継続する意欲および能力は人によって大きく異なる。アドヒアランスを改善するために,トレーニングプログラムは一般的に低い運動強度から開始し,目標のレベルまで徐々に上げていくべきである。個別の指導下での運動(例,パーソナルトレーナーによる)が必要な人もいれば,組織されたグループ活動(例,運動クラス,サイクリンググループ)の支援が有益な人や,1人で運動を長期間実行できる人もいる。長期間意欲を維持するために,運動処方ではニーズ(例,車椅子生活の人に下肢の筋力強化運動),特定の目標を達成するために実際に必要なこと(すなわち,目標がどれほど現実的であるか),および好み(例,フィットネスプログラムの種類)を考慮に入れるべきである。

運動プログラムは,以下を含む,フィットネスの様々な側面を取り込むべきである:

  • ストレッチ運動および柔軟性

  • 有酸素能力(心血管系の持久力)

  • 筋力(筋持久力および筋肉のサイズまたは構造を含む)

  • バランス

表&コラム

概要の参考文献

  1. 1.Fletcher GF, Ades PA, Kligfield P, et al: Exercise standards for testing and training: A scientific statement from the American Heart Association.Circulation 128(8):873-934, 2013.doi: 10.1161/CIR.0b013e31829b5b44

運動前の医学的評価

スポーツまたは激しい運動プログラムを開始する前に,小児および成人には,心血管リスクの発見に重点を置いたスクリーニング(例,病歴聴取および身体診察)を行うべきである。検査は臨床的に疑われる疾患がある場合にのみ実施する。

ストレッチ運動および柔軟性

柔軟性は,運動を安全で快適に実行するために重要である。ストレッチ運動は,筋力トレーニングにおいて,関節可動域を広げ,筋肉を弛緩させる点で有益であろう。ストレッチ運動は他の形態のトレーニングの前または後に行っても,ヨガやピラティスのセッションのようにそれだけで1つのレジメンとして行ってもよい。運動前のストレッチによって心の準備がより整うものの,ストレッチが損傷のリスクまたは筋肉痛を減少させるというエビデンスはない(1)。しかしながら,患者が楽しんでいるのであれば,運動前のストレッチをやめさせる必要はない。運動の安全性を高めるには,ストレッチよりも全身のウォーミングアップ(例,これから行う運動を軽い強度で行う,その場ジョギング,柔軟運動,または深部体温を上昇させるその他の軽い運動)の方が効果が高いようである。体の組織は温まるとより効果的に伸びるため,一般的に運動後のストレッチが望ましい。

具体的な柔軟運動では,筋群をゆっくりと着実に伸ばし,急に引いたり弾みをつけたりはしない。柔軟性を高めるためには,ストレッチした状態を少なくとも10~30秒間保ち,60秒を超えないようにすべきである(60秒を超えてストレッチ姿勢を保持することによる有害作用はないが,追加の便益もない)(2, 3)。各ストレッチを2~3回繰り返し,回を重ねる毎にさらに伸ばしていく。軽度の不快感がいくらか予想されるが,痛みは意図しない組織の軽い裂傷や関節を通る神経の圧迫(例,股関節の過度のストレッチ運動による坐骨神経の圧迫)の徴候である可能性が場合があるため,強い痛みは避けるべきである。適切にデザインされた筋力トレーニングプログラムによって,筋肉が意図した関節可動域で伸びて動くために,多くの筋肉の柔軟性は十分に高まる。

ストレッチ運動および柔軟性に関する参考文献

  1. 1.Herbert  RD, de Noronha  M, Kamper  SJ: Stretching to prevent or reduce muscle soreness after exercise.Cochrane Database of Systematic Reviews Issue 7.Art.No.: CD004577, 2011.doi: 10.1002/14651858.CD004577.pub3

  2. 2.Bandy WD, Irion JM, Briggler M: The effect of time and frequency on static stretching on flexibility of the hamstring muscles.Phys Ther 77(10):1090-1096, 1997.doi: 10.1093/ptj/77.10.1090

  3. 3.Borms J, Van Roy P, Santens JP, Haentjens A: Optimal duration of static stretching exercises for improvement of coxo-femoral flexibility.J Sports Sci 5(1):39-47, 1987.doi: 10.1080/02640418708729762

有酸素運動

有酸素(心血管)運動は,連続的でリズミカルな運動である。運動は,好気性代謝で耐えられるレベルで行い(嫌気性代謝を引き起こすより強度の高い運動を,ところどころ短時間含めることもある),始めは少なくとも5分間持続し,時間の経過とともにゆっくりと持続時間を延ばしていく。有酸素コンディショニングにより,最大酸素摂取量および心拍出量(主に一回拍出量)が増加し,安静時の心拍数が減り,心疾患死亡率および全死亡率が低下する;しかしながら,過度の運動は身体に過剰な疲労をもたらし(例,変形性関節症の一因となる軟骨の摩耗),細胞の酸化を高め,フリーラジカルを増加させる。有酸素運動の例としては,ランニング,ジョギング,速歩,水泳,サイクリング,ボートこぎ,カヤック乗り,スケート,クロスカントリースキー,有酸素運動マシンの使用(例,トレッドミル,ステアクライマー,エリプティカルマシン)などがある。バスケットボールやサッカーなど,特定のチームスポーツも激しい有酸素運動となるが,膝関節およびその他の関節に負荷がかかることがある。推奨は,患者の希望および運動能力に基づくべきである。

有酸素運動は運動開始から2分以内に始まるが,健康上の便益を得るためには,努力運動をそこからさらに続ける必要がある。通常は,1日30分以上の運動(およびウォーミングアップ5分とクールダウン5分)を少なくとも週3回行うことが推奨されるが,この推奨はエビデンスと同程度に利便性にも基づいている。自転車でのインターバル運動を行えば,1回に10~15分を週2~3回行うだけでも,最適な有酸素コンディショニングが可能である。自転車でのインターバル運動では,短時間の中等度の運動と激しい運動を交互に行う。あるレジメンでは,約90秒の中等度の運動(最大心拍数[HRmax]の60~80%)と,約20~30秒の激しいスプリントタイプの運動(HRmaxの85~95%,またはその時間適切なボディメカニクスを維持しながら実行できる最大の激しさ)を交互に行う。このレジメンは高強度インターバルトレーニング(HIIT)とも呼ばれ,関節および組織により多くの負荷がかかるため,頻度を低くするか(例,身体を負荷に適応させるために最初は週1回とし,その後は最大で週2回または3回まで増加させる),またはより従来型の軽度から中等度の強度のトレーニングと交互に行うべきである。運動は全体的な心血管リスクを低下させるが,耐久競技のアスリートで,特に55歳未満のアスリートでは心房細動のリスクが増大するようである(1, 2)。

レジスタンストレーニングマシンまたはフリーウェイトは,1セットに行う反復回数が十分で,セット間の休憩を最小(ほぼゼロ~60秒)とし,トレーニングの強度を比較的高くすれば,有酸素運動に利用できる。サーキットトレーニングでは,大きな筋肉(下肢,股関節部,背部,および胸部の筋肉)の運動を行い,それから小さな筋肉(肩,腕,腹部,および頸部の筋肉)の運動を行う。より激しい運動によって心拍数および酸素摂取量の増加が大きくなるため,わずか15~20分間のサーキットトレーニングの方が,ジョギングまたは有酸素運動マシンでの運動を同じ時間行った場合よりも,心血管系に高い便益が得られる。このように有酸素運動とレジスタンストレーニングを組み合わせることで,関係する全ての筋肉(すなわち,心臓だけでない)の筋持久力が高まる。

有酸素運動の量は,単純に運動の時間によって等級分けされる。強度は心拍数を参考にする。適切な強度に対する目標心拍数は,その人のHRmax(最大酸素消費量[VO2peak]のときの心拍数,またはそれを超えると酸素が不足して好気性代謝が継続できなくなり,嫌気性代謝が始まるときの心拍数)の60~85%である。HRmaxは,直接測ることで大よその値を得るか(3, 4),または次の式を用いて算出できる:

equation

別の方法として,Karvonenの式を用いて目標心拍数を算出できる(4):

equation

これらの式は一般集団に基づいており,極端な体力の人(すなわち,高度なトレーニングを積んだアスリートまたは身体的デコンディショニングの患者)では正確な目標値が得られない場合がある。そのような人では,代謝またはVO2の検査によってより正確な情報が得られることがある。

暦年齢を生物学的年齢と区別すべきである。有酸素運動に慣れていない(コンディショニングされていない)人は,年齢に関係なく,かなり早い段階で少ない努力運動で目標心拍数に達するため,少なくとも最初は運動時間を短くする必要がある。肥満者はデコンディショニング状態にある可能性があり,より重い体重を動かす必要があるため,やせている人に比べ,強度の低い運動で心拍数がはるかに早く大幅に増加する。また,内科的疾患のある患者または特定の薬剤(例,β遮断薬)の投与を受けている患者では,年齢と心拍数との関係が変化している場合がある。このような患者における安全な開始点は,年齢に基づいた目標心拍数の50~60%となる場合がある。目標心拍数は患者の耐容能および進行に基づいて高めてよい。

有酸素運動に関する参考文献

  1. 1.Newman W, Parry-Williams G, Wiles J, et al: Risk of atrial fibrillation in athletes: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med 55(21):1233-1238, 2021.doi:10.1136/bjsports-2021-103994

  2. 2.Rao P, Shipon D: Latest in Cardiology.Atrial Fibrillation in Competitive Athletes, American College of Cardiology.2019.

  3. 3.Robergs RA, Landwehr R: The surprising history of the “HRmax=220-age” equation.Am J Soc Exercise Physiol 5(2), 2002.

  4. 4.Karvonen J, Vuorimaa T: Heart rate and exercise intensity during sports activities.Practical application.Sports Med 5(5):303-311, 1988.doi: 10.2165/00007256-198805050-00002

筋力トレーニング

筋力(レジスタンス)トレーニングでは,負荷(一般的にはフリーウェイトまたはマシンのウェイト,ケーブル式のウェイト,またはときに体重[例,腕立て伏せ,腹筋運動,懸垂,膝の深い屈曲]によってかかる)に対して筋肉を強く収縮させる。そのようなトレーニングによって,筋力,筋持久力,および筋肉のサイズが増大する。また,筋力トレーニングによって,機能的能力が向上し,プログラムのペースによっては有酸素運動能力が向上する。同時に心血管系の持久力および柔軟性が増す。また,筋肉は強化されるとより機能的となり,機能的な筋肉ほど発達して再構築する際の痛みが少ないため,損傷部周囲の筋肉(例,損傷した膝関節の場合は大腿筋)が強化されることで疼痛を軽減する。したがって,筋力トレーニングプログラムが損傷のリハビリテーションに役立つ可能性がある。

運動量は一般的に持ち上げるウェイトの重さ,セット回数,および1セット当たりの反復回数によって分類する。しかしながら,同程度に重要なパラメータが緊張時間であり,これは1セットにウェイトを上げ下げする合計時間である。中等度のコンディショニング(筋肉量と筋力の両方の発達)を達成するには,適切な緊張時間は約60秒であると考えられる。損傷のリハビリテーションおよび筋持久力の向上に対しては90~120秒の緊張時間が適切である。目標が筋力の増強である場合には,用いる手法,1セットの継続時間,および1回の動作をどれだけゆっくり行うの違いにより,一定の緊張時間内での反復回数が変化する可能性があるため,反復回数より緊張時間の方が重要になる。ある人は少なくとも60秒間の緊張時間をよい技術で達成できる場合は,一段階上のウェイトのレベルで最低でも60秒間の緊張時間を目標として抵抗(ウェイト)を増やしてもよい。セット回数はトレーニングの強度によって決定する;より高い強度のトレーニングでは,必要なセット数は少なくてもよい。

強度とは本質的に,自覚される努力,および任意のセットにおいてどれほど早く筋肉疲労(または運動中の消耗)に至るかの主観的な尺度である。強度は,持ち上げたウェイトの量によって客観的に表現されることもあり,任意の運動の1回反復できる最高値(1RM)の%で表される;すなわち,最高で100kgをデッドリフトできる人にとって,75kgの重量は75%RMとなる。一般的な指針は,70~85%RMの負荷で運動することである。より大きな負荷は損傷のリスクを増加させ,通常は筋力競技のアスリートにのみ適切である。30~40%RM未満の重量挙げでは最小限の筋力増強しか得られないが,十分な緊張時間および努力運動が伴えば,有酸素コンディショニングおよび筋持久力を得られることがある。筋力トレーニングにおいて,組織変化の刺激は主にトレーニングの質,努力,および量に影響される。例えば,85%RMの重量挙げを1回行った場合(最大努力では6回行える),75~80%RMで複数回(筋肉疲労に至るまたはそれに近い程度)行った場合よりも組織変化の刺激は少なくなる。

強度は意欲と耐容能によって制限される。リハビリテーションを受ける患者の多くは,不快感,疼痛,運動に不慣れなこと,および/または可動域の制限(不快感または疼痛による)により,可能なまたは耐えられるよりも少ない努力しか行わない。結果として,望む効果を引き出すためにはより多くのセットが必要となる(ただしセットを追加する場合は,過度な活動を行うことで損傷に対する刺激や痛みが増す可能性があることを考慮に入れるべきである)。精神的および身体的な休憩をとるために,トレーニングの強度を定期的に変化させるべきである。最も高い強度の運動を,一度のトレーニングで行うセット数の半数以上とならないように行うべきである。十分な回復を得るために,強度の高いトレーニングからの休息またはレイオフ(例,3カ月毎に1週間,休日や休暇と調整してもよいかもしれない)をフィットネス計画に取り入れるべきである。

非常に強度の高いトレーニングを頻繁に行う人には,より頻繁なレイオフが必要になる場合がある。強度の高いトレーニングを持続して行うことは,たとえトレーニングを積んだアスリートであっても逆効果である。そのような人では,運動時以外の疲労または筋肉の重感,運動する意欲の欠如,運動能力の低下,関節および腱の疼痛(炎症により引き起こされる),安静時心拍数の増加などの症状は,強度が高すぎる運動を長すぎる時間行ったことを示唆する。一部の人(例,強度の高いトレーニングを行うアスリート)は定期的に非常に激しいトレーニングをするように精神的または身体的にコンディショニングされており,そのため,そのような定期的な激しい活動から回復するための休息期間(例,3週間のトレーニング後,1週間の休息)が必要になる場合がある。

筋肥大を最大化するには,適切な努力が必要である。しかし,筋肉が反復運動をできなくなる状態(筋肉不全)までの運動は不要であり,耐容が難しくなることがある。筋肥大を最大化するのに必要なセット数は,個人の遺伝的特徴によって異なり,セット数が多い方が筋肥大が増える人もいれば,セット数が少ない方が良好な結果が得られる人もいる。セット数または運動の回数にかかわらず,反復または運動を繰り返す毎に改善幅は小さくなっていく。過度の運動を行ってもよりよい結果は得られず,過剰刺激による筋肉および筋力の喪失につながる可能性がある。初心者は,筋肉毎または筋群毎に1セットまたは1つの運動から始めて,その後1つの運動を3~5セット,または3~5つの運動をそれぞれ1セットにするまで,反復または運動の数を徐々に増やしていくべきである(特に筋肉不全に至るまでトレーニングをしない場合)。

変化を加えることは,異なる刺激を与えることができるため有用である;同じ刺激(例,同一運動面での運動)を繰り返し用いても,筋肉がその刺激に順化するため,最終的には望む効果を引き出すことはできない。変化を加えることにより,反復動作によって引き起こされる軽微な損傷の防止にも役立つ。

適切なボディメカニクスは安全性および効果的な筋力トレーニングに重要である。適切なボディメカニクス(例,胸を高くし,肩を水平にして後ろに引き,腹を引き締め,関節は固定しないようにする)を目指し,滑らかで連続した動きで運動を行い,ウエイトを急激に引き上げたり落としたりしないようにすべきである。バルサルバ法に伴って起こることがあるめまい(および極端な例では失神)を防ぐ,コントロールされた呼吸を促すことも同様に重要である。ウェイトを持ち上げる間に息を吐き,下ろす間に息を吸い込むべきである。5秒以上かけてウェイトを下ろすなど,動作がゆっくりの場合は複数回の呼吸が必要なこともあるが,その場合もウェイトを持ち上げる直前に最後に息を吸い込み持ち上げ始める際に吐くように呼吸を調整すべきである。レジスタンストレーニングの最中は血圧が上昇し(動脈硬化とは関係しない),強く握りすぎるときに最も高くなる傾向がある(下半身の大きな筋肉を動かしマシンのグリップを非常に強く握る,レッグプレス運動時に多い)。しかし,血圧は運動をやめるとすぐに正常値に戻る;呼吸法が正しければ,運動の激しさにかかわらず,血圧の上昇は最小限に抑えられる。

バランストレーニング

バランストレーニングでは,片脚立位やバランスボードまたはウォブルボードの使用など,不安定な状況で運動を行うことによって重心の維持を試みる。基礎的な筋力トレーニングは関節周辺の筋肉のサイズおよび筋力を増大させるため,間接的に安定性を向上させ,バランスを改善させる。バランストレーニングは,固有感覚の障害を有する一部の人に役立つことがあり,高齢者ではしばしば転倒を予防する試みで用いられる(高齢者の運動を参照)。

水分補給

適切な水分補給が重要であり,特に運動が長時間に及ぶときまたは高温環境で運動するときに重要である。運動前には十分に水分を補給し,長時間の運動中には定期的に水分を摂り,運動後は補いきれなかった不足分を補給すべきである。運動中,暑さおよび運動レベルによって,約120~240mL(半カップ~1カップ)の水分を15~20分毎に補給するのが妥当である;しかしながら,水分過剰は低ナトリウム血症およびその結果として痙攣発作を引き起こすことがあり,避けるべきである。口渇は水分必要量の正確な指標ではない。軽度または中等度の渇きを感じているが,極度の口渇を感じる前の水分摂取は,適切な水分補給を維持し,電解質平衡異常,疾病,ならびに痙攣発作および/または死亡(例,自由水の過剰摂取による低ナトリウム血症に起因するもの)の可能性を回避するのに役立つ。

パール&ピットフォール

  • 運動中の水分過剰は,ときに痙攣発作を引き起こすほど重度の低ナトリウム血症を引き起こすことがあるため,避けるべきである。

運動後の水分欠乏量は,運動前後の体重を比較することにより算出する。水分欠乏は1対1で補充する(すなわち,1kgの体重減に対して1L,または1ポンド[453.6g]に対して2カップ[480mL])。ほとんどの場合,真水でよい。電解質含有のスポーツ飲料が好まれることもあり,特に長時間の運動および/または多湿環境で行われる運動に適している。しかし,炭水化物を8%(100mL当たり8g,または一般的な250mLの飲料では20g)より多く含有する飲料では,胃排出が低下し,水分吸収が遅くなる。真水とスポーツ飲料を50:50の割合で混ぜると,グルコースと電解質の吸収が速くなる。熱中症または体液量減少を示唆する所見がみられる患者には,直ちに経口または静注での補液と電解質補充が必要である。

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