切断前に,術後必要とされる長期的なリハビリテーションプログラムについて患者に説明する。心理カウンセリングが適応となることもある。リハビリテーションチームと患者は,義足または車椅子が必要かどうかを決定する。(リハビリテーションの概要および義肢の概要も参照のこと。)
リハビリテーションにより歩行技術を指導する;具体的には,全身状態およびバランスの向上,股関節および膝のストレッチ,四肢の強化,ならびに患者が義足に耐えられるようにする運動などを施行する。歩行に必要なエネルギー消費量は,膝下の切断患者で10~40%,膝上の切断患者で60~100%で増加するため,持久運動が適応となる場合もある。患者が医学的に安定すれば,二次的な障害を予防するため直ちにリハビリテーションを始めるべきである。高齢患者は,平行棒を使って立ち,バランスをとる運動をできるだけ早く開始するべきである。
股関節および膝の屈曲拘縮は急速に進行するため,義足の装着および使用が困難になるが,作業療法士が製作する伸展ブレースで拘縮を防ぐことができる。
理学療法士は患者に断端のケアの方法や,皮膚の破綻の最初期の徴候を認識する方法を指導する。
断端の手入れと義足
断端(残存している下肢)の手入れにより,義足が使用できるようになる前に必ず起こる自発的な収縮過程が促進される。わずか数日間の手入れで,断端は大幅に収縮する。伸縮性のシュリンカーや伸縮包帯を1日24時間巻いておくことで,断端が先細りし,浮腫を防ぐことができる(残存肢の浮腫を参照)。シュリンカーは容易に着用できるが,包帯の方が圧の大きさや圧を加える場所をコントロールしやすいため,望ましい。しかしながら,伸縮包帯を巻くには技術が求められ,包帯が緩んだときには巻き直さなければならない。
仮義足を用いた早期の歩行開始は,以下の目的に役立つ:
患者を活動的にする
断端の収縮を速める
屈曲拘縮を予防する
幻肢痛を軽減する
パイロン(義足の内部の骨組みまたは骨格)のソケットは,断端にぴったり合わなければならない―これは,最新のコンピュータ化設計および製造プロセスによって実現されている。ソケットを調整できる様々な仮義足が利用できる。本義足ができるまでは,仮義足を装着し,平行棒を用いた歩行訓練を開始し,松葉杖や杖を使った歩行訓練へと進むことができる。
本義足は軽量で,患者のニーズと安全性を満たすものであるべきである。断端の収縮が止まる前に本義足が完成した場合は,調整を要することがある。このため,本義足の製作は,断端の収縮が止まるまで一般に数週間遅らせる。膝下を切断した高齢患者の多くには,PTB(patellar tendon-bearing)式下腿義足とSACH(solid-ankle cushion-heel)足部,および膝蓋上カフによるサスペンションが最も適している。大腿コルセットと腰ベルト付きの下腿義足は重くて大きいため,患者の特別な要望がない限り処方されない。膝上で切断した患者には,患者のスキルと活動レベルに応じていくつかの膝ロックのオプションが利用可能である。新しい技術には,マイクロプロセッサーにより制御される膝継手や足継手があり,患者は必要に応じて動作を調整できる。
断端および義足のケア
患者は断端のケアを学習しなければならない(残存肢の皮膚の手入れを参照)。義足は歩行のみを目的に製作されているため,寝る前には取り外すべきである。就寝前には,断端を入念に調べ(患者が調べる場合は鏡を使用する),低刺激性の石鹸と微温湯で洗い,完全に乾かし,ベビーパウダーをまぶす。患者は,以下の起こりうる問題に対処すべきである:
乾燥皮膚:断端にラノリンまたはワセリンを塗布する。
大量発汗:無香料の制汗剤を使用する。
皮膚の炎症:直ちに刺激物を取り除き,ベビーパウダーまたは作用の弱いコルチコステロイドクリームもしくは軟膏を使用する。
皮膚の破綻:創傷が治癒するまで義足を装着しない。
断端の靴下は毎日取り替え,低刺激性の石鹸を使ってソケットの内側を洗浄する。標準的な義足は防水性でも耐水性でもない。したがって,義足の一部分でも濡れた場合は,すぐに十分に乾かすべきであるが,熱を加えてはならない。義足を装着したまま泳いだり,シャワーを浴びたりすることを望む患者には,浸水に耐えられる義足を作製できる。
合併症
断端痛は最もよくみられる愁訴である(残存肢の疼痛を参照)。以下はその一般的な原因である:
義足ソケットの不適合:これが原因であることが最も多い。
神経腫:断端神経腫は通常,触知可能である。連日超音波治療を5~10セッション施行するのが非常に効果的な可能性がある。その他の治療法としては,神経腫またはその周辺部へのコルチコステロイドまたは鎮痛薬の注射,凍結療法,断端部の持続緊縛などがある。外科的切除はしばしば期待外れな結果に終わる。
骨断端における骨棘形成:骨棘は触診とX線で診断できる。唯一の効果的な治療法は外科的切除である。
切断後間もない患者の一部は,幻肢感(切断肢が存在するような無痛の感覚で,ピリピリ感を伴うことがある)を覚えることがある。この感覚は数カ月あるいは数年続くことがあるが,通常は無治療でも消失する。患者はしばしば,失われた肢の一部分のみを感じるが,多くの場合失った足の部分に起こり,これは幻肢感覚のうち最後に消失するものである。幻肢感は無害であるが,患者は何も考えずに両脚で立ち上がろうとして転倒することが多く,特に夜中にトイレに行こうとして起き上がるときに生じる。
幻肢痛はより頻度が低いが,重度で抑制が困難な場合がある。患者が切断前に苦痛を伴う状態であったり,術中および術後に疼痛が十分に抑制されなかった場合に,幻肢痛が起こる可能性が高いと考える専門家もいる。様々な治療,例えば,切除肢と対側肢の同時運動,断端のマッサージ,指での断端の叩打,器具(例,バイブレーター)や超音波の使用などの効果が報告されている。薬物(例,ガバペンチン)が助けになりうる。
皮膚の破綻は,義足による皮膚の圧迫や摩擦,さらには断端と義足ソケットの間にたまる湿気によって起こりやすくなる。皮膚の破綻は多くの場合,義足の調整が必要であること,直ちに対処する必要があることを示す最初の指標である。皮膚の破綻の初期徴候は発赤で,続いて切り傷,水疱,潰瘍が発生することがあり,しばしば義足の着用に痛みを伴ったり,長時間の着用ができなくなり,感染を来すこともある。以下のような方法により,皮膚の破綻を予防したり,進行を遅らせたりすることが可能である:
ぴったりフィットするインターフェイスを使用する
体重を一定に維持する(体重のわずかな変化でも装着具合に影響する)
健康的な食事をとり,水をたくさん飲む(体重管理や皮膚の健康状態を維持するため)
糖尿病患者は,血糖値のモニタリングとコントロールを行う(血管疾患を予防し,皮膚への血流を維持するのに役立てるため)
義足を使用する患者は,体のアライメントを維持する(例,同じ高さのヒールの靴だけを履く)
しかしながら,ぴったりフィットしていても問題は起こりうる。断端の形状とサイズは1日のうちでも活動レベル,食事,および天候によって変化する。したがって,インターフェイスがよくフィットしているときと,そうでないときとがある。このような継続的な変化の対応策として,より厚い(またはより薄い)ライナーや靴下に取り替える,ライナーと靴下を併用する,薄手の靴下を余分に履く(または脱ぐ)などして,適切な装着状態を保つことができる。しかしそれでも,断端のサイズが頻繁に変化し,皮膚の破綻を招くことがある。皮膚の破綻の徴候がみられる場合,患者は速やかに医療従事者と義肢装着士の診察を受けるべきである;可能であれば,調整が済むまで義足を使用しないようにすべきである。(義肢の緩みも参照のこと。)