統合・補完・代替医療の概要

執筆者:Denise Millstine, MD, Mayo Clinic
レビュー/改訂 2021年 10月
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統合健康・医療(IMH)および補完・代替医療(CAM)には,従来の主流の西洋医学に歴史的に含まれていなかった癒しのアプローチや治療法が含まれる。

CAMは,主流の西洋医学の原則に基づかない医療としばしば考えられている。しかしながら,この解釈は厳密には正確ではない。

CAMと主流の医療との重要な相違点の1つは,ベストプラクティスを支持する根拠の強度である。主流の医療は,可能な場合,その実践の基礎を最も決定的な科学的根拠にのみ置く。対照的に,CAMはその実践の基礎を,根拠情報に基づく実践(evidence-informed practices)―効力および安全性に関する最も高く厳密な基準を満たしているとは限らないときでも,利用可能な最良の根拠に基づく実践に置いている。しかしながら,一部の栄養補助食品の使用を含む,一部のCAM療法は,従来の科学的な基準により妥当性が確認されている。

補完医療,代替医療,および統合医療の定義

補完医療,代替医療,および統合医療という用語は互換的に用いられることが多いが,それぞれ意味が異なる。

  • 補完医療とは,通常医療とともに用いられる非主流の医療を指す。

  • 代替医療とは,通常医療の代わりに用いられる非主流の医療を指す。

  • 統合医療とは,健康,治療者と患者の関係,および患者の全体像に焦点をあてる考え方に基づいて,全ての適切な治療アプローチ(通常医療と非主流の医療)を用いる医療である。

IMHの目的は,適切な場合にCAMを主流の医療と組み合わせることである。現在では,一部のCAM療法は病院で提供されており,費用が保険会社から払い戻されることもある。Academic Consortium for Integrative Medicine and Healthに参加している北米の70の医科大学など,一部の伝統的な医科大学では統合医療および療法に関する教育を行っている。

National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES)の最新のデータによると,CAMをどれほど広く定義するかにもよるが,最大では38%もの成人と12%の小児が過去にCAMを用いたことがある。National Health Interview Survey(2012年)によると,一般的に用いられているCAM療法には以下のものがある:

  • 深呼吸訓練(11%)

  • ヨガ,太極拳および気功(10%)

  • 手技療法(8%)

  • 瞑想(8%)

  • ヨガ(6.1%)

その他のCAM療法の使用状況は依然として様々であり,定量化は困難である(ホメオパシー[2.2%],ナチュロパシー[0.4%],およびエネルギー療法[0.5%])。米国では,成人の57.6%が過去30日間に少なくとも1種類の栄養補助食品を使用していた。

患者は必ずしも医師にこれらの療法の使用について自発的に報告するわけではない。そのため,医師は率直かつ非判断的な態度でこれらの療法の使用(植物薬および栄養補助食品を含む)について具体的に尋ねることが非常に重要である。患者のCAMの使用について知ることで,以下のことが可能である:

  • 信頼関係を強化し信頼を築く

  • CAMのエビデンスおよびその妥当性とリスクについて話し合う機会をもつ

  • ときに,医師や他の医療従事者(薬剤師を含む)が薬物とCAM療法または栄養補助食品との間で生じうる有害な相互作用を同定して回避するのを助ける

  • 患者の経過をモニタリングする

  • 患者がどの資格や免許をもつCAM施術者を利用すべきか決めるのを助ける

  • 患者のCAM経験から学ぶ

表&コラム
表&コラム

効力

代替療法の効力および安全性の研究を行うため,1992年,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)に代替医療事務局(Office of Alternative Medicine)が開設された。1998年にこの事務局は米国国立補完・代替医療センター(National Center for Complementary and Alternative Medicine:NCCAM)となり,2015年に米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)となった。その他のNIH事務局(例,米国国立がん研究所[National Cancer Institute])もいくつかのCAM研究に資金を提供している。NCCIHは,この分野の研究結果の一覧表を公開している。

CAM療法を支持するものには以下の3種類がある:

  • 対照をおいた臨床試験で示された臨床アウトカムに対する効力(臨床での使用の最も強固なエビデンスとみなされる)

  • 確立された生理学的作用機序のエビデンス(例,セイヨウカノコソウによる脳内のγ-アミノ酪酸[GABA]活性の修飾),ただし,妥当性が確認された生理学的作用機序であれば必ずしも臨床アウトカムに対する効力があるというわけではない

  • 何十年から何世紀という期間にわたる使用(より低質のエビデンスとみなされる)

CAMに関する相当量の情報は,査読を経た文献,エビデンスに基づくレビュー,専門家委員会のコンセンサスドキュメントや権威ある教科書から入手可能である;これらの多くは英語以外の言語(例,ドイツ語,中国語)で公表されている。多くのCAM療法について研究が行われ,効果的であること,および/または通常医療と同等であることが明らかになっているが,中には効果がないことが判明し,研究の結果が矛盾し一貫しないものもある。一部のCAM療法にはこれまで決定的な臨床試験が実施されていない。そのような研究を制限する因子としては以下のものがある:

  • ホリスティック(全体的)療法(例,健康的な食事パターン)は多数の変数を包含し,その多くまたは全てをコントロールできない。対照的に,エビデンスに基づく医療では,1つまたは少数の変数,理想的にコントロールされた介入(例,薬剤または手順)に重点を置く。

  • CAM療法は費用が安く十分な償還が得られない傾向があるため,研究に資金を提供する金銭的インセンティブが限定される。

  • CAM製品および療法の規制では,疾患特異的な効力の証明は要求されていない。

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)はDietary Supplement Health and Education Act(DSHEA)of 1994のもとに栄養補助食品の販売やCAM器具の使用を許可しているが,効力に関する主張については大幅に制限している。一般的に,栄養補助食品の製造業者は,安全性または効力に関するエビデンスをFDAに提出する必要なしに身体の構造や機能に対する便益(例,心血管系の健康を改善する)を主張することはできるが,疾患治療に関する便益(例,高血圧を治療する)を主張することはできない。2019年には,FDAはDSHEAの強化と栄養補助食品の規制強化に取り組むことを発表した。

研究

CAM療法の研究デザインには,通常医療の研究者が直面する困難より多くの困難が伴う:

  • 療法が標準化されていないことがある。例えば,鍼治療には様々な体系があるほか,同じ植物から作られた抽出物でも成分や生物学的活性は大きく異なる。

  • 診断が標準化されていないことがある。多くのCAM療法(例,伝統的なハーブ療法,ホメオパシー,鍼治療)の使用は,通常医療で診断される疾患や障害ではなく,患者固有の特性や経験に基づく。

  • CAM療法では患者の全体が重視されるため,エビデンスに基づく医療におけるランダム化比較試験からは併存症があるという理由で除外されるかもしれない患者が含まれる可能性がある。

  • 二重盲検化や単盲検化は,しばしば困難または不可能である。例えば,瞑想を行っているかどうかに関して患者を盲検化することはできない。エネルギー療法を用いているかどうかに関して,レイキ施術者を盲検化することはできない。

  • アウトカムは,客観的で一様な測定値(平均動脈圧,HbA1C値,死亡率のように)に基づくものではなく,しばしば個人に特有であるかまたは全身健康状態に重点を置くため,標準化が困難である。

  • 補完療法では,プラセボや対照の介入を設定することも困難な場合がある。例えば,マッサージにおける効果的な要素は,触れること,マッサージを施す特定の部位,使用する特定のマッサージ法,または施術時間でありうる。

通常の研究の観点からすると,プラセボ対照を用いることは重要である。プラセボ効果は複雑であり,ケアの概念における自然治癒力を考慮する場合には特にそうである。しかしながら,CAMの体系では,プラセボ効果は心身への影響を伴った神経生物学的なものであって,しばしば症状と疾患体験に有意な影響を与えるものと認識および解釈される(1)。

実際に,CAM療法は,癒やしの環境や患者との関係の質を高めることで,患者の治癒力を最大限に引き出すことを意図している。研究の場において,CAM療法を構成する効果的な要素を不活性のプラセボや対照と比較して研究することは,依然として方法論的な挑戦である。

そのような困難にもかかわらず,CAM療法(例,鍼治療,ホメオパシー)について質の高い研究が数多くデザインされ,実施されている。鍼治療における対照の手順や装置を評価する研究の多くを評価したシステマティックレビューがある(2)。注意深くデザインされたプラセボを用いることで,一部のCAM療法が全体的な臨床反応に与える影響を分離することができる。CAMの使用を支持するエビデンスとしては,プラセボより効力があるという結果や,通常の治療法に対して劣らないことを示した結果などがある。しかしながら,CAMと通常の医学的治療を統合してIMH療法とする介入(例,メトホルミンの長期使用に伴うビタミンB12欠乏症など,既知の欠乏症を引き起こす薬剤と組み合わせた栄養補助食品)の効力および安全性について,質の高いエビデンスがいくらか得られている。

安全性

大半のCAM療法の安全性は臨床試験で検討されていないが,それらの治療法の多くには安全性に関して良好な記録がある。多くのCAM療法(例,無毒性の植物薬,瞑想やヨガなどの心身療法,マッサージなどの身体技法)は,有害性に関するエビデンスがほとんどないまま何千年にもわたって用いられており,また多くは潜在的な有害性もほとんどないように思われる。しかし,以下のような安全性に関する検討事項がある:

  • 通常医療によって効果的に治療できる,生命を脅かす疾患に対して代替療法を用いること(例,髄膜炎,がん)―特定の療法によって直接的な害を受けるリスクというよりは,これがおそらく代替医療の最大のリスクである

  • 特定の植物薬またはサプリメントの製剤の毒性(例,ピロリジジンアルカロイド,Atractylis gummifera,チャパラル,ニガクサ,クサノオウ,金不換,カヴァ,ペニーロイヤルなどによる肝毒性;Aristolochiaによる腎毒性;マオウによるアドレナリン刺激)

  • 汚染(例,一部の漢方薬やアーユルヴェーダで用いるハーブ製剤の重金属による汚染;PC-SPESや一部の漢方薬などの製品の,他の薬物による汚染)

  • とりわけ薬物の治療係数が低い場合には,CAM療法(例,植物薬,微量栄養素,その他の栄養補助食品)と他の薬物との相互作用(例,セントジョーンズワートによるチトクロムP450[CYP3A4]酵素の誘導によって,抗レトロウイルス薬,免疫抑制薬やその他の薬物の活性低下が生じること)

  • あらゆる手技療法(理学療法などの主流の技法を含む)と同様に,損傷(例,リスクのある患者に対する脊椎マニピュレーションによる神経または脊髄損傷,出血性疾患を有する患者における皮下出血)

有害な栄養補助食品に関する最新の注意事項がFDAのウェブサイト(Safety Alerts and Advisories)で公開されている。かつては,FDAは栄養補助食品の生産を厳格に規制しておらず,一部で希釈や汚染の事例が発覚していた。例えば,2013年の研究では,ボタニカルサプリメント(CAMサプリメントに限定されない)の32%には表示された主な有効成分が含まれておらず,20%には汚染物質(望まれる成分にも表記されている成分にも該当しない生理学的活性を有する化合物)が含まれ,さらに21%には表記されていない賦形剤が含まれていたことが明らかにされた(3)。しかしながら,現在ではFDAの新しい規制により,サプリメントの品質および安全性を改善する製造方針を遵守することが求められており,FDAの製造基準(Good Manufacturing Practices)に適合する特定の製造業者を通じて高い品質の製品を入手できるようになっている。

手技療法による負傷を予防するため,患者は正式な訓練を受けて専門職の免許を取得した施術者を探すべきである。正式な資格をもつ施術者がカイロプラクティックまたは鍼治療を行う場合,合併症の発生率は非常に低くなる。

参考文献

  1. 1.Finniss DG, Kaptchuk TJ, Miller F, et al: Placebo effects: biological, clinical and ethical advances.Lancet 375(9715): 686–695, 2010.doi: 10.1016/S0140-6736(09)61706-2

  2. 2.Zhang CS, Tan HY, Zhang GS, et al: Placebo devices as effective control methods in acupuncture clinical trials: A systematic review.PLoS One 10(11):e0140825, 2015.doi: 10.1371/journal.pone.0140825

  3. 3.Newmaster SG, Grguric M, Shanmughanandhan D, et al: DNA barcoding detects contamination and substitution in North American herbal products.BMC Med 11;11–222, 2013.

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Academic Consortium for Integrative Medicine and Health: Information for academic institutions to advance the principles and practices of integrative healthcare

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