2000年以上前に起こった中国伝統医学(TCM)は,疾患は生命力(気)の不適切な流れから生じるという哲学に基づいた医療体系である。気の流れは,対立する力である陰と陽のバランスを保つことで回復し,陰と陽は,体内では冷と温,内因と外因,欠乏と過剰として現れる。
気の貯蔵と回復,およびそれにより健康を維持し回復するために,様々なものが用いられる。最も一般的に用いられるものは以下の通りである:
その他の実践には,食事,マッサージ,気功と呼ばれる瞑想訓練などがある。
TCMは,生物学と疾患についての現在の科学的理解に対応しない診断カテゴリーをしばしば用いる(例,全身性の異常,陰または陽の過剰)。
(統合・補完・代替医療の概要も参照のこと。)
中国伝統医学のエビデンス
質の高いエビデンスを得ることは難しく,その主な理由はTCMの漢方薬の有効成分が精製されておらず,しばしば同定されておらず,数が多すぎることがあるためである。そのため,用量の決定が困難または不可能であり,漢方薬の原料間で用量が異なることがある。生物学的利用能,薬物動態,および薬力学に関する情報は通常入手できない。さらに,有効成分が複雑かつ様々に相互に作用することがある。
漢方薬には,様々な疾患を治療するために,複数の漢方薬を混合した製剤が用いられる。伝統的な製剤は全体として研究可能であり,製剤に含まれる各漢方薬は個別に研究可能である。1種類の漢方薬が単独で使用された場合,それほど効果的でなかったり,有害作用が生じたりする可能性がある。それにもかかわらず,現在の通常の研究では,変数をコントロールしやすくするために1種類の漢方薬の研究が多い。別の問題は,研究可能な漢方薬の混合製剤の数が多いことである。
複数の研究(大半が中国で実施された)を対象としたシステマティックレビューとメタアナリシスでは,以下に対するTCMの効力に関するエビデンスが示されている:
トゥレット症候群の症状(1)
慢性腎臓病(西洋医学と併用した場合)(2)
脳卒中後のうつ病(西洋医学と併用した場合)(3)
ときに閉経期のうつ病(鍼治療と併用した場合)(4)
ときにCOVID-19の特定の転帰(例,胸部画像所見および咳嗽の消失)(西洋医学と併用した場合)(5)
ときに急性痛風性関節炎(6)
ときに,小細胞肺癌における生活の質および症状管理(7)
これらのレビューの多くには大きな限界があり,さらなる前向き研究による確認の必要性が示唆された。
過敏性腸症候群に対する漢方薬およびその混合製剤の研究では様々な結果が出ており,それらの研究のレビューではより厳格な研究が必要であると結論されている。
生じうる有害作用
TCMの1つの問題は漢方薬の標準化と品質管理である。漢方薬の多くはアジアでは規制されていない;これらは汚染された地下水に含まれる重金属によって汚染されていたり,抗菌薬やコルチコステロイドなどの薬物が混入したりしていることがある。原料がしばしば代替され,その理由の一部は漢方薬の名称が不適切に翻訳されることにある。
漢方薬の混合製品では,有効成分間の相互作用によって有害作用が生じる可能性もある。相互作用は,TCMの漢方薬と薬剤の間でも起こりうる。
参考文献
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