薬物-受容体相互作用

執筆者:Abimbola Farinde, PhD, PharmD, Columbia Southern University, Orange Beach, AL
レビュー/改訂 2021年 6月
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    受容体は,細胞間および細胞内の化学的なシグナル伝達に関与する高分子であり,細胞膜表面上または細胞質内に存在する(生理的および薬物受容体タンパク質の種類の表を参照)。活性化した受容体は,細胞の生化学的過程(例,イオン伝導率,タンパク質リン酸化,DNA転写,酵素活性)を直接的または間接的に制御する。

    受容体に結合する分子(例,薬物,ホルモン,神経伝達物質)をリガンドと呼ぶ。その結合は特異的かつ可逆的である可能性がある。リガンドは,受容体を活性化または不活化することがあり,活性化により特定の細胞機能が上昇または低下することがある。各リガンドが複数の受容体サブタイプと相互作用を起こす場合もある。1つの受容体またはサブタイプだけに完全に特異的な薬物はほとんどなく,大半の薬物は相対的な選択性を有する。選択性とは,薬物が他の部位よりもある特定の部位に作用しやすい程度のことであり,選択性は細胞受容体への薬物の物理化学的結合と大きく関連する。(薬力学の概要も参照のこと。)

    表&コラム
    表&コラム

    ある薬物がある受容体に作用する能力には,その薬物の親和性(ある瞬間においてその薬物が1つの受容体を占有している確率)と内在的な効力(内在的活性―リガンドが受容体を活性化して細胞応答を誘導する強さ)が関係する。薬物の親和性と活性はその化学構造によって規定される。

    薬理作用は,薬物-受容体複合体が存続する時間(滞留時間)にも規定される。薬物-受容体複合体の存続時間は,薬物の標的分子に対する結合速度や標的分子からの解離速度を制御する動的な過程(高次構造の変化)の影響を受ける。滞留時間が長いことは,薬理作用が持続することを意味する。滞留時間が長い薬物としてはフィナステリドやダルナビルなどがある。薬物の毒性が長引くと,長い滞留時間が不利になる可能性がある。一部の受容体では,薬物による一次的な受容体占有が望ましい薬理効果につながる一方,長時間の受容体占有は毒性の発現につながる。

    生理機能(例,収縮,分泌)は通常,複数の受容体が媒介する機序によって制御されており,最初の分子生物学的な薬物-受容体相互作用と最終的な組織または臓器応答までの間には,いくつかの段階(例,受容体共役,複数の細胞内2次情報伝達物質)が介在することがある。そのため,いくつかの異なる薬物分子を用いて同一の望ましい応答を誘導できる場合が多い。

    受容体に結合する能力は,細胞内の調節機序だけでなく細胞外の因子にも影響を受ける。ベースラインの受容体密度と刺激-応答機序の効率性は組織毎に異なっている。薬物,加齢,遺伝子変異,疾患などにより,受容体の数や結合親和性が増加(アップレギュレーション)または減少(ダウンレギュレーション)することがある。例えば,クロニジンはα2受容体のダウンレギュレーションを引き起こすため,クロニジンの投与を急に中止すると,高血圧クリーゼを引き起こす可能性がある。β遮断薬を長期投与するとβ受容体の密度が増加するため,その投与を突然中止すると,重度の高血圧や頻脈を来す可能性がある。受容体のアップレギュレーションやダウンレギュレーションは,薬物への順応に影響を及ぼす(例,脱感作,タキフィラキシー,耐性,獲得耐性,投与中止後の過感受性)。

    リガンドは受容体高分子上の認識部位と呼ばれる精密な分子領域に結合する。薬物に対する結合部位は,内因性作動物質(ホルモンまたは神経伝達物質)の結合部位と同じである場合もあれば,異なる場合もある。受容体の隣接部位や異なる部位に結合する作動薬は,ときにアロステリック作動薬と呼ばれる。さらに非特異的な薬物結合,すなわち,受容体と認定されていない分子部位(例,血漿タンパク質)での結合もみられる。血清タンパク質への結合のような非特異的部位への薬物結合は,その薬物が受容体に結合することの妨げになり,薬物の不活化につながる。非結合型の薬物は受容体と結合でき,そのため効果を示すことができる。

    作動薬と拮抗薬

    作動薬は受容体を活性化して期待する反応を引き起こす。従来の作動薬は,活性化された受容体の割合を増加させる。逆作動薬は,受容体をその不活性な高次構造の状態で安定化し,競合的な拮抗薬と同様に作用する。多くのホルモン,神経伝達物質(例,アセチルコリン,ヒスタミン,ノルアドレナリン)および薬物(例,モルヒネ,フェニレフリン,イソプレナリン,ベンゾジアゼピン系薬剤,バルビツール酸系薬剤)は,作動薬として作用する。

    拮抗薬は受容体の活性化を妨げる。活性化の阻止は多くの効果をもつ。細胞機能を通常は低下させる物質の作用を拮抗薬が遮断すれば,拮抗薬によって細胞機能が高まる。細胞機能を通常は高める物質の作用を拮抗薬が遮断すれば,拮抗薬によって細胞機能が低下する。

    受容体拮抗薬は,可逆性または不可逆性に分類できる。可逆性拮抗薬は受容体から容易に解離し,不可逆性拮抗薬は安定的かつ永続的またはほぼ永続的な化学結合を受容体と形成する(例,アルキル化により)。偽不可逆的な拮抗薬は受容体から緩徐に解離する。

    競合的な拮抗では,拮抗薬の受容体への結合が作動薬の受容体への結合を妨げる。

    非競合的な拮抗では,作動薬と拮抗薬は同時に結合でき,拮抗薬の結合が作動薬の作用を低下または阻止する。

    可逆的な競合的拮抗では,作動薬と拮抗薬は短時間持続する結合を受容体と形成し,作動薬,拮抗薬,ならびに受容体との間で定常状態に達する。そのような拮抗は,作動薬の濃度を上昇させることによって克服できる。例えば,ナロキソン(構造がモルヒネと似ているオピオイド受容体拮抗薬)は,モルヒネの前または後に時間を空けず投与した場合,モルヒネの作用を遮断する。しかし,モルヒネを多く投与することによってナロキソンによる競合的な拮抗は克服できる。

    作動薬分子の構造類似体は,しばしば作動薬と拮抗薬の特性を有し,そのような薬物は,部分(低効力)作動薬もしくは作動薬-拮抗薬と呼ばれる。例えば,ペンタゾシンはオピオイド受容体を活性化するが,他のオピオイドによる受容体の活性化を遮断する。それゆえ,ペンタゾシンはオピオイド作用を引き起こすが,ペンタゾシンがまだ結合している間に別のオピオイドを投与すると,そのオピオイドの作用は低下する。ある組織で部分作動薬として作用する薬物が,別の組織では完全作動薬として作用することがある。

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