外傷性脳損傷(TBI)

執筆者:Gordon Mao, MD, Indiana University School of Medicine
レビュー/改訂 2023年 2月
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外傷性脳損傷(TBI)は,脳機能を一時的または恒久的に障害する脳組織の物理的損傷である。診断は臨床的に疑い,画像検査(主にCT)により確定する。初期治療は確実な気道確保,十分な換気,酸素化,および血圧の維持で構成される。損傷が重度の患者では,しばしば外科手術が必要となり,頭蓋内圧亢進の追跡および治療のためにモニターを設置し,頭蓋内圧亢進に対する脳の除圧,または頭蓋内血腫の除去を行う必要がある。損傷後数日間は,十分な脳灌流および酸素化の維持と,合併症による意識変容の予防が重要である。その後は,多くの患者でリハビリテーションが必要となる。

米国では,他の多くの国と同様,TBIは死亡および生活機能障害の一般的な原因である。

TBIの原因としては以下のものがある:

  • 転倒・転落(特に高齢者および幼児)

  • 自動車事故やその他の交通事故(例,自転車での転倒,歩行者との衝突)

  • 暴行

  • スポーツ(例,スポーツ脳震盪

外傷性脳損傷の病理

頭部損傷による器質的変化は,受傷機転と加わった力に応じて,肉眼的変化の場合と顕微鏡的変化の場合がある。比較的軽度の損傷では,肉眼的な器質的変化がみられない可能性がある。臨床像は重症度と最終的な経過の点で大きく変動する。損傷は一般的に開放性と閉鎖性に分類される。

頭部の開放性損傷は,頭皮および頭蓋骨(ならびに通常は髄膜とその下の脳組織)の穿孔が生じたものである。典型的には銃弾または鋭利な物体によって生じるが,強い鈍的外力によって生じた裂創を伴う頭蓋骨骨折も開放性損傷とみなされる。

頭部の閉鎖性損傷は,典型的には頭部に打撃を受けた場合,頭部を物体に打ち付けた場合,または激しく揺さぶられた場合に,脳に急激な加速および減速が生じることで発生する。加速または減速が生じると,衝撃を受けた部位の組織(直撃[coup]),その反対側にある組織(反衝[contrecoup]),またはびまん性に損傷が生じることがあり,前頭葉と側頭葉が特にこの種の損傷を受けやすい。軸索,血管,またはその両方に剪断または断裂が生じ,びまん性軸索損傷に至る可能性がある。破綻した血管からの出血により,脳挫傷,脳内またはくも膜下出血,および硬膜外または硬膜下血腫が生じる(外傷性脳損傷の一般的な病型の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

脳震盪

脳震盪(スポーツ脳震盪も参照)は,外傷後にみられる一過性および可逆性の精神状態変化(例,意識または記憶の消失,混乱)と定義され,持続時間は数秒から数分とされるが,その定義は恣意的で,6時間未満とするものもある。

肉眼的な器質的脳病変や重篤な神経学的後遺症は脳震盪に含まれないが,悪心,頭痛,めまい,記憶障害,集中困難などの症状によって一時的な機能障害が起きることがあり(脳震盪後症候群),この機能障害は通常,数週間以内に消失する。ただし,複数回脳震盪を起こすと慢性外傷性脳症につながりうると考えられており,これは重度の脳機能障害を引き起こす。

脳挫傷

脳挫傷(脳の圧挫)は,開放性と閉鎖性の両方があり,挫傷の大きさおよび位置によって,様々な脳機能が障害される。脳挫傷が大きければ,脳浮腫および頭蓋内圧亢進を来すことがある。脳挫傷は最初の受傷から数時間ないし数日かけて拡大して,神経機能の悪化を招くことがある;手術が必要になることがある。

びまん性軸索損傷

びまん性軸索損傷(DAI)は,回転方向の減速によって一種の剪断力が発生した結果として,軸索線維と髄鞘が広範囲にわたりびまん性に破壊されることによって生じる。数個のDAI病変であれば,軽微な頭部損傷でも生じうる。DAIには肉眼的な器質的病変は含まれないが,CT(MRIの方が感度が高いことがあるが)および病理組織学的検査では,しばしば白質に小さな点状出血が観察される。

DAIはときに,特異的な局所病変がない状況で6時間以上持続する意識消失と臨床的に定義されることもある。

この損傷による浮腫は,しばしば頭蓋内圧を亢進させて,様々な症候をもたらす。

DAIは,揺さぶられっ子症候群における典型的な基礎病態である。

血腫

血腫(脳の内部または周囲への血液の貯留)は,開放性または閉鎖性の損傷に伴って,以下の部位に生じる可能性がある:

  • 硬膜外

  • 脳内(脳実質内)

  • 硬膜下

くも膜下出血(SAH―くも膜下腔への出血)は外傷性脳損傷(TBI)でよくみられるが,CT上での様相は脳動脈瘤によるSAHとは通常異なる。TBIに続発したSAHからの血液は,独立した1つの血腫として貯留しない。

硬膜下血腫は,硬膜とくも膜の間に血液が貯留したものである。急性硬膜下血腫は,皮質と硬膜静脈洞の間で生じる皮質静脈の破綻または架橋静脈の断裂に起因する。

急性硬膜下血腫は以下のある患者でしばしば発生する:

  • 転倒・転落または自動車事故による頭部外傷

  • 基礎にある脳挫傷

  • 対側の硬膜外血腫

血腫に起因する脳の圧迫と浮腫または充血(血管の怒張による血流増加)に起因する脳の腫脹により,頭蓋内圧が上昇することがある。圧迫と腫脹の両方が生じると,死亡および後遺症のリスクが高くなる可能性がある。

慢性硬膜下血腫は,受傷から数週間かけて徐々に出現して症状を引き起こすことがある。慢性硬膜下血腫は,アルコール使用症の患者および高齢患者(特に抗血小板薬または抗凝固薬を服用している患者,および脳萎縮のある患者)でより多くみられる。高齢患者は,頭部損傷を比較的軽視することがあり,受傷自体を忘れることさえある。急性硬膜下血腫の場合とは対照的に,浮腫および頭蓋内圧亢進は通常みられない。

硬膜外血腫は,頭蓋骨と硬膜の間に血液が貯留したものであり,硬膜下血腫より頻度が低い。大きいまたは急速に増大する硬膜外血腫は,通常は動脈出血が原因であり,古典的には側頭骨骨折による中硬膜動脈の損傷に起因する。動脈性の硬膜外血腫の患者は,介入なしでは急速に悪化して死亡することがある。小さな静脈性の硬膜外血腫が死に至ることはまれである。

脳内血腫は,脳内部に血液が貯留したものである。外傷の場合,脳内血腫は挫傷が融合することによって生じる。1つまたは複数の挫傷が厳密にどの時点をもって血腫となるかについては,明確な定義がない。続いて頭蓋内圧亢進,脳ヘルニア,および脳幹機能不全が発生する可能性があり,特に側頭葉の病変でよくみられる。

頭蓋骨骨折

穿通性損傷はその定義から骨折を伴う。閉鎖性損傷でも頭蓋骨骨折が生じることがあり,その形態としては線状骨折,陥没骨折,および粉砕骨折がある。骨折の存在は,受傷時に有意な力が加わったことを示唆する。

線状の単純骨折では,神経学的異常を伴わない患者の大半で脳損傷のリスクは高くならないが,神経学的異常を伴う骨折がある患者では,頭蓋内血腫のリスクが高まる。

特殊なリスクを伴う頭蓋骨骨折として以下ものがある:

  • 陥没骨折:この種の骨折では,硬膜の断裂,その下の脳損傷,またはその両方のリスクが最も高い。

  • 前頭骨骨折:この骨折では前頭洞が侵害されるリスクがあり,未認識の髄液瘻による粘液嚢胞および髄膜炎の長期的な発生リスクが高まる可能性がある。

  • 中硬膜動脈の領域を横切る側頭骨骨折:この種の骨折では,硬膜外血腫のリスクがある。

  • 主要な硬膜静脈洞の1つを横切る骨折:この種の骨折では,有意な出血と静脈性の硬膜外または硬膜下血腫を引き起こすことがある。静脈洞の損傷は,後に血栓を生じて脳梗塞を引き起こすことがある。

  • 後頭骨および頭蓋底(後頭骨底部)の骨折:これらの骨は厚く強靱であるため,これらの部位の骨折は強い衝撃を受けたことを意味し,脳損傷(例,脳挫傷および血腫)のリスクを有意に高める。側頭骨の錐体部に及んだ頭蓋底の骨折では,しばしば中耳および内耳の構造が損傷し,顔面神経,聴神経,および前庭神経の機能が障害される可能性がある。頭蓋底の骨折ではまた,硬膜が損傷して,耳,鼻,または喉への髄液漏出を引き起こすことがある。

  • 頸動脈管を巻き込んだ骨折:この種の骨折は,頸動脈解離を引き起こす可能性がある。

  • 乳児の骨折:頭頂骨の線状骨折部に髄膜が入り込むことで軟膜嚢胞(leptomeningeal cyst)が形成され,当初の骨折が拡大することがある(growing fracture)。

外傷性脳損傷の病態生理

まず脳組織の直接的な損傷(例,衝突,裂傷)によって,脳機能が直ちに障害されることがある。また,最初の損傷が引き金となって一連の事象が次々と発生することにより,直後にさらなる損傷が生じることもある。

あらゆる外傷性脳損傷(TBI)は,脳浮腫を引き起こし,脳血流を減少させる可能性がある。頭蓋冠は大きさが固定されており(頭蓋骨の制約を受ける),圧縮されない髄液とほとんど圧縮されない脳組織で完全に満たされているため,浮腫による腫脹や頭蓋内血腫が生じると,広がる余地がないために頭蓋内圧の上昇につながる。脳血流は脳灌流圧に比例するが,これは平均動脈圧と平均頭蓋内圧の差である。そのため,頭蓋内圧が上昇すれば(または平均動脈圧が低下すれば),脳灌流圧は低下する。

脳灌流圧が50mmHgを下回ると,脳が虚血状態になる可能性がある。虚血および浮腫は様々な二次的損傷機序(例,興奮性神経伝達物質,細胞内カルシウム,フリーラジカル,およびサイトカインの放出)の引き金となり,さらなる細胞傷害,さらなる浮腫,そしてさらなる頭蓋内圧亢進を引き起こしうる。外傷により生じる全身性の合併症(例,低血圧,低酸素症)も脳虚血に寄与する可能性があり,しばしば二次性脳損傷と呼ばれる。

頭蓋内圧が過度に上昇すると,まず全般的な大脳機能障害が生じる。頭蓋内圧の亢進が改善されないと,脳組織が圧迫されて小脳テントまたは大後頭孔を越えて押し出され,脳ヘルニアを来す可能性があり,死亡および後遺症の可能性が高まる。また,頭蓋内圧が上昇して平均動脈圧と等しくなると,脳灌流圧が0になり,その結果,完全な脳虚血に陥って脳死に至る;頭蓋内に血流がみられないことは,脳死の客観的証拠である。過剰な頭蓋内圧は短期および長期の自律神経機能障害も引き起こす可能性があり,その結果として重大な血行動態異常を来すことがあり,これは多発外傷やその他の内臓損傷,体液の喪失,電解質平衡異常,凝固障害,低血圧,および急性失血による貧血の患者で特に危険である。

全体的な交感神経緊張,血流循環,および圧反射反応を調節する視床下部,脳弓下器官,および孤束核の損傷は,心機能および腎機能に重大な変化をもたらす可能性がある。視床下部機能障害は視床下部-下垂体-副腎系に影響を及ぼし,交感神経系の「嵐」(心収縮能を亢進させて腎内の体液貯留を誘発する)による血行動態不安定,高血圧,および頻脈を引き起こす。これらの変化はその後,急性腎障害(AKI)およびたこつぼ型心筋症(ときにneurogenic stress myocardiumまたはstunned cardiomyopathyと呼ばれる)を引き起こす可能性があり,これらは急性収縮性心不全として現れる。脆弱で影響を受けやすい多発外傷患者では,集中治療室以外の環境で,このような全身的変化が認識されていないか過少治療されている場合,受傷後最初の数週間の入院死亡率が有意に上昇する可能性がある。

青年または小児では,脳震盪によって脳の充血および脳血流の増大が起こることがある。

セカンドインパクト症候群は,議論のあるまれな病態であり,先行する軽微な頭部損傷から完全に回復する前に起きた2度目の外傷に続いて,頭蓋内圧が突然上昇し,ときに死に至る病態と定義される。脳の血流自己調節能力の喪失に起因するもので,その結果として血管の怒張,頭蓋内圧亢進,および脳ヘルニアが生じると考えられている。

外傷性脳損傷の症状と徴候

中等度から重度の外傷性脳損傷の患者の多くは,まず意識を消失する(通常は数秒または数分間)が,軽症患者の一部では混乱または健忘(健忘は通常逆行性であり,受傷前の数秒から数時間の記憶がなくなることがある)のみのこともある。幼児の場合は単に易刺激性が生じるだけのことがある。痙攣発作が起きる場合もあり,受傷後1時間または1日以内に発現することが多い。これらの初期症状に続いて,完全に意識清明となることもあれば,意識および機能に変化がみられることもあり,その程度は軽度の混乱から昏迷,昏睡まで幅がある。意識消失の持続時間と意識障害の重症度は,損傷の重症度と大まかに比例するが,特異的ではない。

グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)(CGS―グラスゴーコーマスケールの表を参照)は,迅速かつ再現性のあるスコアリングシステムであり,TBIの重症度を評価する最初の診察で使用する。開眼,言語反応,および最良の運動反応に基づいて評価される。最低スコア(3)は致死的な脳損傷を意味している可能性が高く,特に両眼の瞳孔が光に反応せず,前庭眼反射も認められない場合は重篤である。初期のスコアが高いほど,良好な回復が見込まれる。慣習的に,頭部損傷の重症度はまずGCSによって次のように定義される:

  • 13~15点は軽度TBI

  • 9~12点は中等度TBI

  • 3~8点は重度TBI

表&コラム
表&コラム

TBIの重症度と予後の予測は,CT所見とその他の因子も考慮に入れることで,より洗練させることができる。初期に中等度のTBIと判定された患者の一部と初期に軽度のTBIと判定された患者の少数では,その後に状態が悪化する。乳幼児には,乳児・小児用改変グラスゴーコーマスケール(Modified Glasgow Coma Scale for Infants and Children)が使用される(乳児・小児用改変グラスゴーコーマスケールの表を参照)。低酸素症および低血圧はGCSスコアを低下させる可能性があるため,心肺蘇生後に評価したGCSの方が蘇生前のGCSよりも脳機能障害に対する特異度が高い。同様に,鎮静薬および筋弛緩薬もGCSスコアを低下させる可能性があるため,これらの使用は全ての神経学的診察を終えるまで避けるべきである。

パール&ピットフォール

  • 可能であれば常に,鎮静薬および筋弛緩薬の使用は全ての神経学的診察を終えるまで遅らせるべきである。

表&コラム
表&コラム

各病型の外傷性脳損傷でみられる症状

TBIの症状は各病型間で大きく重複する。

硬膜外血腫の症状は通常,受傷後数分から数時間以内に出現し(無症状の期間は意識清明期と呼ばれる),具体的には以下のものがみられる:

  • 増悪する頭痛

  • 意識レベルの低下

  • 局所神経脱落症状(例,不全片麻痺)

このような患者では,対光反射の消失を伴う散瞳は通常,脳ヘルニアを意味する。硬膜外血腫の患者の一部は意識を消失した後,一時的な意識清明期を経て,徐々に神経機能が悪化していく。

急性硬膜下血腫は通常,見当識,覚醒レベル,および/または認知機能の変化を伴う。基礎にある脳挫傷および脳浮腫のため,たとえ小さくても,一般的に頭蓋内圧亢進を伴う。症状としては以下がみられる:

  • 頭痛

  • 痙攣発作

  • 不全片麻痺

  • 頭蓋内圧亢進の症状

  • 瞳孔非対称,脳幹反射異常,および鈎回ヘルニアによる脳幹圧迫による昏睡

脳内の血腫と挫傷は,不全片麻痺などの局所神経脱落症状,進行性の意識低下,またはその両方を引き起こす可能性がある。

進行性の意識低下は,頭蓋内圧を亢進させるあらゆる病変(例,血腫,浮腫,充血)によって生じる。

視床下部およびその他の重要な皮質下構造の損傷による自律神経機能障害は,以下を引き起こす可能性がある:

  • 高血圧および頻脈を伴う交感神経の活動亢進

  • 虚血性変化および心機能低下を伴う神経病性(たこつぼ)心筋症

  • 腎機能の低下を伴う急性腎障害

頭蓋内圧亢進により,ときに嘔吐を来すが,嘔吐は非特異的である。頭蓋内圧の著明な亢進は,古典的に以下の組合せ(クッシング三徴と呼ばれる)として現れる:

  • 高血圧(通常は脈圧増大を伴う)

  • 徐脈

  • 呼吸抑制

呼吸は通常遅く,不規則になる。重度のびまん性脳損傷または著明な頭蓋内圧亢進は,除皮質または除脳硬直を引き起こすことがある。どちらも予後不良の徴候である。

テント切痕ヘルニアでは,昏睡,片眼または両眼の非反応性散瞳,片麻痺(通常は散瞳の対側),およびクッシング三徴がみられることがある。

頭蓋底骨折は以下をもたらすことがある:

  • 鼻または喉からの髄液漏出(髄液鼻漏)または中耳への髄液漏出(髄液耳漏)

  • 鼓膜が破裂した場合,鼓膜後方の出血(鼓室内出血)または外耳道内の出血

  • 耳介後部の斑状出血(Battle徴候)または眼窩周囲の斑状出血(パンダの目徴候[raccoon eyes])

  • 嗅覚および聴覚障害は通常すぐに生じるが,患者が意識を回復するまでは気づかれない。

顔面神経の機能障害は,直後に起こることもあれば,遅れて現れることもある。

頭蓋冠のその他の骨折は,ときに触知できることがあり,特に頭皮の裂創を介して,陥没または階段状に変形しているのが分かる。しかしながら,帽状腱膜下の出血が階段状の変形に類似することもある。

慢性硬膜下血腫は,日増しに激しくなる頭痛,変動する眠気または混乱(初期の認知症に似ることがある),軽度から中等度の不全片麻痺または他の局所神経脱落症状,および/または痙攣発作を呈することがある。

長期症状

健忘は遷延することがあり,逆行性と前向性(すなわち,受傷後の出来事に対するもの)のいずれもありうる。

脳震盪後症候群は,一般的に中等度から重度の脳震盪に続いて起こるもので,具体的には持続する頭痛,めまい,疲労,集中困難,様々な健忘,抑うつ,無関心,不安などがみられる。一般的に嗅覚(したがって味覚も),ときに聴覚,まれに視覚が変化または消失する。症状は通常,数週間から数カ月で自然に消失する。

重度および中等度TBIの発生後には,あるいは軽度のTBIであっても,特に器質的損傷が重大であれば,様々な認知機能障害や神経精神医学的異常が遷延することがある。よくみられる問題としては以下のものがある:

  • 健忘

  • 行動面の変化(例,興奮,衝動性,脱抑制,意欲の欠如)

  • 情緒不安定

  • 睡眠障害

  • 知的能力低下

少数の患者では遅発性の痙攣発作(受傷から7日間以上経過後に発生する)がみられ,しばしば数週間,数カ月,さらには数年経過してから起こることもある。痙性の運動障害,歩行および平衡感覚障害,運動失調,ならびに感覚消失が起こることがある。

TBIによって前脳の認知機能が障害された一方で,脳幹は正常の場合には,遷延性植物状態となることがある。自己認識の能力や他の精神活動は一般に欠如するが,自律神経反射および運動反射は保たれ,睡眠-覚醒サイクルは正常である。受傷後に遷延性植物状態が3カ月続いた場合には,正常な神経機能を回復することはほとんどなく,6カ月以降の回復はほぼ皆無である。

神経機能はTBIの発生後数年間で改善する傾向があり,最初の6カ月間で最も急速に回復する。

外傷性脳損傷の診断

  • 外傷の迅速な初期評価

  • グラスゴーコーマスケールおよび神経学的診察

  • CT

(CTおよび特殊外傷ケアの利用が米国よりも選択的である医療制度内での頭部損傷のトリアージ,診断,および治療の例については,National Institute for Clinical Excellence of the United Kingdomの診療ガイドラインHead injury: triage, assessment, investigation and early management of head injury in children, young people and adults[2014年出版,2019年改訂]も参照のこと。)

初期対応

損傷に対する全体的な初期評価を行うべきである(外傷患者へのアプローチ:評価と治療を参照)。気道および呼吸が適切な状態であるか評価する。重篤な損傷がみられる患者では,TBIの診断と治療を同時に進める。

初期評価には迅速かつ的を絞った神経学的評価も含まれ,具体的にはグラスゴーコーマスケール(GCS)の各要素および瞳孔の対光反射を評価する。筋弛緩薬および鎮静薬の投与前に患者の評価を行うのが理想的である。患者の評価は頻回(例,初期は15~30分毎,安定化した後は1時間毎)に繰り返す。その後の改善または増悪は,損傷の重症度および予後の予測に役立つ。

完全な臨床的評価

患者の状態が十分に安定したら,速やかに完全な神経学的診察を行う。乳児および小児では網膜出血がないか慎重に診察すべきであり,この所見は揺さぶられっ子症候群を示唆している可能性がある。成人の眼底検査では,外傷性網膜剥離および/または頭蓋内圧亢進による網膜静脈の拍動消失を認めることがあるが,脳損傷があっても診察で正常となることもある。

意識消失または記憶障害の持続時間が6時間未満で,かつ症状が神経画像上の脳損傷で説明できない場合は,脳震盪と診断される。

意識消失の持続が6時間を超え,CTまたはMRI上で微小出血がみられる場合には,びまん性軸索損傷(DAI)が疑われる。

その他の病型のTBIはCTまたはMRIで診断する。

神経画像検査

一過性ではない意識障害,GCSスコア15点未満,局所的な神経所見,遷延する嘔吐,痙攣発作,意識消失の既往,または骨折を疑わせる臨床所見がある患者では,常に画像検査を行うべきである。血腫を見逃すと臨床的および法医学的に重大な結果を招くため,些細な頭部損傷を除いて全ての患者に頭部CTを施行するのが望ましいが,若年患者ではCTによる放射線関連の有害作用リスクとのバランスを検討すべきである。

頭部単純CT
硬膜下血腫
硬膜下血腫

このCTには,脳組織を覆う半月状の陰影が写っている。これは硬膜下血腫の特徴である。腫瘤効果(mass effect)もみられ,脳室の圧迫および正中偏位を伴う。

Cavallini James/BSIP/SCIENCE PHOTO LIBRARY

硬膜下出血(CT)
硬膜下出血(CT)

縫合線を越えて進展している古典的な三日月形の高吸収域。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

硬膜外出血(CT冠状断像)
硬膜外出血(CT冠状断像)

縫合線を越える進展のない典型的なレンズ形の高吸収域。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

硬膜外出血(CT水平断像)
硬膜外出血(CT水平断像)

縫合線を越える進展のない典型的なレンズ形の高吸収域。

© 2017 Elliot K.Fishman, MD.

硬膜外血腫
硬膜外血腫

CT上で硬膜外血腫(右下の陰影)を認める。

Cavallini James/BSIP/SCIENCE PHOTO LIBRARY

単純X線撮影でも一部の頭蓋骨骨折を検出できるが,脳の評価には有用となりえず,より診断価値の高い脳画像検査の施行を遅らせることになるため,単純X線撮影は通常行われない。

初期の画像検査としてはCTが最良の選択肢であり,血腫,挫傷,および頭蓋骨骨折(臨床的に頭蓋底骨折が疑われる場合は薄いスライス厚で撮影する;そうしないと頭蓋底骨折は描出されない可能性がある)のほか,ときにびまん性軸索損傷を検出できる。

CTでは以下の所見が認められることがある:

  • 挫傷および急性出血は脳組織より高吸収の(濃い)領域として描出される。

  • 動脈性硬膜外血腫は,古典的には脳組織に接した両凸レンズ状の陰影を呈し,しばしば中硬膜動脈の支配領域にみられる。

  • 硬膜下血腫は,古典的には三日月状の陰影として,脳組織に被さるような形でみられる。

慢性硬膜下血腫の領域は脳組織より低吸収であるが,亜急性期の硬膜下血腫は脳組織と同程度の放射線透過性を示す(等吸収である)ことがある。等吸収の硬膜下血腫は,特に両側性かつ対称性の場合,微妙な異常にしか見えないことがある。重度の貧血患者では,急性硬膜下血腫は脳組織と等吸収に見えることがある。個々の患者では,このような古典的外観とは異なる所見がみられる可能性がある。

腫瘤効果(mass effect)の徴候としては,脳溝の消失,脳室および脳槽の圧迫,正中偏位などがある。これらの所見がないからといって頭蓋内圧亢進は除外できず,また頭蓋内圧が正常でも腫瘤効果がみられることがある。

5mmを超える正中偏位は,通常は外科的な血腫除去術の適応とみなされる。

パール&ピットフォール

  • 説明のつかない精神状態変化と危険因子を有する患者(抗血小板薬または抗凝固薬を服用している高齢者,脳萎縮がみられる高齢患者,アルコール使用症患者を含む)では,たとえ外傷の既往がなく,初回の脳画像検査で明らかな異常がない場合でも,慢性硬膜下血腫を疑うこと。

臨床経過の後期には,より軽微な挫傷,びまん性軸索損傷,および脳幹損傷を検出するのにMRIが有用となる場合がある。非常に小さな急性硬膜下血腫,等吸収の亜急性硬膜下血腫,および等吸収の慢性硬膜下血腫の診断には,通常はMRIの方がCTより感度が高くなる。確認は得られていないものの予備的なエビデンスによると,特定のMRI所見から予後を予測できることが示唆されている。

血管損傷の評価には血管造影CT血管造影,およびMRアンギオグラフィーはいずれも有用である。例えば,CT所見が身体所見と矛盾する場合(例,不全片麻痺があり,頸動脈解離による血栓または塞栓に続発する進行性虚血の疑い例で,CTが正常であるかCTで診断がつかない)には,血管損傷が疑われる。

外傷性脳損傷の治療

  • 軽度の損傷であれば,退院および自宅での経過観察

  • 中等度および重度の損傷には,換気,酸素化,および脳灌流の最適化;合併症(例,頭蓋内圧亢進,痙攣発作,血腫)の治療;ならびにリハビリテーション

車の衝突事故および転落では頭部以外にも複数の損傷が生じている可能性が高く,しばしば同時進行の治療が必要になる。外傷患者の初期蘇生については,本マニュアルの別の箇所で考察されている(外傷患者へのアプローチを参照)。

受傷現場では,気道を確保して外出血をコントロールしてから患者を移動させる。脊髄および血管を保護するため,特別の注意を払って脊椎またはその他の骨の転位を回避する。適切な診察および画像検査によって脊椎全体の安定性が確認されるまで,頸椎カラーと長い脊椎ボードで適正な固定を維持すべきである(脊椎・脊髄外傷:診断を参照)。初期の迅速な神経学的評価を終えたら,短時間作用型のオピオイド(例,フェンタニル)で疼痛を緩和すべきである。

状態悪化時には早急な対応が必要になるため,病院では,迅速な初期評価の後,数時間にわたって神経所見(グラスゴーコーマスケール[GCS]および瞳孔反応),血圧,脈拍数,および体温を頻回に記録すべきである。GCSおよびCTによる一連の評価結果から損傷の重症度を層別化し,それを治療の指針とする(損傷の重症度に基づく外傷性脳損傷の管理の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

全ての外傷性脳損傷患者における管理の中心となる対応は以下のものである:

  • 十分な換気,酸素化,および脳灌流を維持しつつ,二次性脳損傷を回避する

低酸素症,高炭酸ガス血症,低血圧,および頭蓋内圧亢進に対して積極的に早期治療を行うことが,二次的合併症の回避に役立つ。損傷部からの出血(外出血および内出血)を速やかにコントロールし,電解質輸液(例,生理食塩水)または望ましくは輸血により速やかに血管内容量を補充して脳灌流を維持する。低張液(特に5%ブドウ糖溶液)は,自由水を過剰に含み,脳浮腫を助長して頭蓋内圧を上昇させる可能性があるため,禁忌である。

検査して予防すべきその他の合併症としては,高体温,低ナトリウム血症,高血糖,体液バランスの異常などがある。

軽度損傷

軽度損傷の患者で意識消失が短時間であるか全くみられず,バイタルサインが安定しており,頭部CTが正常で,かつ精神および神経機能に(いかなる中毒も関与していないことも含めて)異常がない場合は,その後24時間は家族または友人が綿密に観察できることを条件に帰宅させてもよい。観察者には,以下のいずれかが発生した場合は再度受診させるように指示すべきである:

  • 意識レベルの低下

  • 局所神経脱落症状

  • 悪化する頭痛

  • 嘔吐

  • 精神機能の悪化(例,混乱しているように見える,人を認識できない,異常な行動)

  • 痙攣発作

意識消失または精神もしくは神経機能の異常がみられる患者で,退院後入念に観察できない場合は,一般に病院の救急部で一晩観察し,症状が持続する場合には8~12時間後にフォローアップCTを施行してもよい。神経学的変化はないが頭部CTで軽度の異常(例,小さな挫傷,腫瘤効果(mass effect)を伴わない小さな硬膜下血腫,点状または小さな外傷性くも膜下出血)を認める患者では,24時間以内のフォローアップCTのみでよい場合がある。CT所見が安定しており,かつ神経学的診察の結果が正常であれば,このような患者は帰宅させてもよい。

中等度および重度の損傷

(Brain Trauma Foundation of the American Association of Neurological Surgeonsの2016年度版診療ガイドラインGuidelines for the management of severe traumatic brain injury, 4th editionも参照のこと。)

中等度の損傷の患者では,挿管および機械的人工換気と頭蓋内圧のモニタリングは(他の損傷がない限り)不要である場合が多い。しかしながら,状態が悪化する可能性があるため,たとえ頭部CTが正常でも,このような患者は入院させて経過を観察すべきである。

重度の損傷のある患者は集中治療室で管理する。通常は気道防御反射が障害され,頭蓋内圧が亢進することがあるため,気管挿管を行いつつ,頭蓋内圧亢進を回避するための措置を講じる。

院内死亡率および受傷後2週間時点の死亡率を低減するため,頭蓋内圧モニタリングの情報に基づいて重度TBI患者の管理を行うことが推奨されるが(1, 2),臨床的評価とX線検査を組み合わせた管理のみでも転帰が同等になることを示唆するエビデンスもある(3)。脳灌流圧モニタリングについても,受傷後2週間時点の死亡率の低減に役立つことを示唆したエビデンスがあるため,管理に組み込むことが推奨されている(4)。それでも,GCSおよび瞳孔反応による綿密なモニタリングを継続すべきであり,CTは繰り返し施行する(特に原因不明の頭蓋内圧亢進がみられる場合)。

頭蓋内圧亢進

頭蓋内圧亢進がある患者の治療原則には以下が含まれる:

  • 迅速導入経口気管挿管(rapid-sequence orotracheal intubation)

  • 機械的人工換気

  • 頭蓋内圧および脳灌流圧のモニタリング

  • 必要に応じて鎮静

  • 血管内容量を正常に維持し,血清浸透圧を295~320mOsm/kg(295~320mmol/kg)に維持する

  • 難治性の頭蓋内圧亢進に対し,ときに髄液ドレナージ,一時的な過換気,開頭減圧術,またはペントバルビタールによる昏睡の誘導

TBI患者が気道確保または機械的人工換気を必要とする場合,覚醒下の経鼻気管挿管ではなく,迅速導入経口気管挿管(筋弛緩薬を使用)が行われる。経鼻気管挿管は咳嗽および咽頭反射を誘発して頭蓋内圧を上昇させる恐れがある。気道操作を行う際には,頭蓋内圧の上昇を最小限にとどめるために薬剤(例,リドカイン1.5mg/kg,静注,筋弛緩薬投与の1~2分前)を使用する。エトミデート(etomidate)は,血圧に与える影響が最小限であるため,導入薬として非常に優れている;静注での用量は成人で0.3mg/kg(または平均的な体格の成人では20mg),小児で0.2~0.3mg/kgである。あるいは,低血圧がなく,その後に発生する可能性も低ければ,プロポフォール0.2~1.5mg/kgを静注する。典型的には,筋弛緩薬としてスキサメトニウム1.5mg/kgを静注する。

酸素化および換気が十分であるかは,パルスオキシメトリーと動脈血ガス分析(可能であれば呼気終末CO2)を用いて評価すべきである。目標は正常レベルのPaCO2値(38~42mmHg)である。予防的過換気(PaCO2 25~35mmHg)は,もはや推奨されていない。PaCO2が低下すると,脳血管収縮が生じて頭蓋内圧が低下するものの,この血管収縮により脳灌流量も減少するため,虚血を招く可能性がある。したがって,過換気(目標PaCO2は30~35mmHg)は,最初の数時間にのみ,かつ頭蓋内圧の上昇が他の対策で改善しない場合にのみ用いられる。

頭蓋内圧のモニタリングおよび脳灌流圧のモニタリングとコントロールは,もし用いるのであれば単純な指示に従えない重度のTBI患者,特に頭部CTで異常がみられる患者に推奨される。目標は,頭蓋内圧を25mmHg未満(ときにカットオフ値は20mmHg)に維持し,脳灌流圧をできる限り60mmHgに近づけることである。ベッドの頭側を30°挙上し,患者の頭部を正中位に維持することにより,脳の静脈還流が促される(したがって頭蓋内圧が低下する)。必要であれば,脳室内にカテーテルを挿入し,髄液のドレナージにより頭蓋内圧を下げることができる。ある多施設共同研究では,頭蓋内圧のモニタリングに基づく頭蓋内圧亢進症の治療と臨床およびCT所見に基づく治療との間で,TBIの回復に差はみられなかった(3)。しかしながら,この知見の解釈については議論があり,その理由の1つとして,米国とは異なる状況で治療が行われたため,データの外挿に限界があることが挙げられる。

興奮,過剰な筋活動(例,せん妄による)を予防し,疼痛への反応を緩和することで頭蓋内圧の亢進を予防するために,鎮静を行ってもよい。鎮静には,作用の発現が速く持続時間も短いことから,成人では(小児では禁忌)しばしばプロポフォールが使用される;用量は0.3mg/kg/時の持続静注であり,必要に応じて(3mg/kg/時まで)漸増する。初回ボーラス投与は行わない。最も頻度の高い有害作用は低血圧である。高用量で長期使用すると膵炎を引き起こす可能性がある。ベンゾジアゼピン系薬剤(例,ミダゾラム,ロラゼパム)も鎮静に使用されることがあるが,プロポフォールほど作用の発現が速くなく,個人毎の用量反応が予測しにくい可能性がある。抗精神病薬は回復を遅らせる可能性があるため,可能であれば回避すべきである。まれに筋弛緩薬が必要になることがあり,その場合は十分な鎮静を確保しなければならない。

十分な疼痛コントロールには,しばしばオピオイドが必要になる。

正常な血液量および血清浸透圧を維持する(等張またはやや高張;血清浸透圧の目標値は295~320mOsm/kg[295 ~ 320 mmol/kg])ことが重要である。頭蓋内圧のコントロールには,マンニトールよりも高張食塩水(3%または23.4%)の方が効果的である。必要に応じて2~3mL/kgを急速静注で,または1mL/kg/時を持続静注で投与する。血清ナトリウム値をモニタリングし,155mEq/L(155mmol/L)以下に維持する。

頭蓋内圧を下げ,血清浸透圧を保つための代替手段として,浸透圧利尿薬(例,マンニトール)を静注することがある。しかしながら,これらの薬剤は状態が悪化している患者を対象とするか,血腫のある患者に対して手術前に使用すべきである。20%マンニトール溶液0.5~1g/kg(2.5~5mL/kg)を15~30分かけて静注し,必要に応じて0.25~0.5g/kg(1.25~2.5mL/kg)の範囲で(通常は6~8時間毎に)反復投与する;これにより数時間で頭蓋内圧が低下する。マンニトールは血管内容量を急速に増大させるため,重度の冠動脈疾患,心不全,腎機能不全,または肺血管にうっ血のある患者にマンニトールを使用する場合は注意が必要である。浸透圧利尿薬は腎臓での水の排泄量をナトリウムに比して増加させるため,マンニトールを長期間使用すると,脱水と高ナトリウム血症を来す可能性もある。フロセミド1mg/kgの静注も体内総水分量の低減に役立ち,特にマンニトール投与に伴う一過性の循環血液量増加を回避する必要がある場合に役立つ。浸透圧利尿薬を使用する間は,水・電解質バランスを注意深くモニタリングすべきである。

減圧開頭術(外減圧術)は,他の介入で頭蓋内圧亢進が改善されない場合のほか,ときに主な処置(例,有意な血腫のドレナージのための手術時)として考慮される。外減圧術では,かなりの大きさの骨弁を一塊で除去して(後で元に戻す),脳が外方向に腫脹できるように硬膜形成を施す。骨除去量および部位は損傷によるが,腫脹により脳組織が骨片除去部の辺縁で圧迫されないように開口部を十分な大きさにする必要がある。外減圧術と内科的管理を比較したランダム化試験では,外減圧術を受けた群での6カ月後の全死亡率は低かったが,重度の身体障害および植物状態の割合は高く,良好な機能回復の割合は群間で同等であった(5)。

ペントバルビタールによる昏睡は,難治性の頭蓋内圧亢進に対するより積極的な選択肢であるが,現在ではあまり用いられなくなった。ペントバルビタール10mg/kgを30分かけて静注した後,5mg/kg/時で3時間,その後は1~2mg/kg/時で持続静注を維持し,昏睡を誘導する。脳波活動のバーストを抑えるために,用量を調節し,脳波を継続的にモニタリングする。低血圧はよくみられ,補液と必要に応じた昇圧薬により管理する。

全身低体温療法が役立つ可能性は証明されていない。

以前は,脳浮腫を緩和し頭蓋内圧を低下させる目的での高用量コルチコステロイド投与が支持されていた。しかしながら,コルチコステロイドは頭蓋内圧のコントロールに有用でなく,推奨されない。ある大規模なランダム化プラセボ対照試験では,TBIから8時間以内にコルチコステロイドを投与すると,生存者の死亡率および重度の身体障害の発生率が上昇した(6)。

様々な神経保護薬がこれまでも研究されており,現在も研究が続いているが,臨床試験で効力が実証されたものはない。

痙攣発作

痙攣発作は脳損傷を悪化させ,頭蓋内圧を亢進させる可能性があるため,速やかに治療すべきである。有意な器質的損傷(例,大きな挫傷または血腫,脳の裂傷,頭蓋骨の陥没骨折)がある患者とGCSスコアが10点未満の患者には,抗てんかん薬の予防投与を考慮すべきである。

フェニトインを使用する場合は,負荷量として20mg/kgを静注する(低血圧や徐脈などの心血管系の有害作用を予防するため,50mg/分を上限とする)。成人への投与開始時の維持量は2~2.7mg/kg,静注,1日3回であり,小児にはより高用量が必要である(4歳未満の小児には最高5mg/kg,1日2回)。血清中濃度を測定して用量を調節すべきである。

治療期間は損傷の型と脳波検査の結果に依存する。1週間以内に痙攣発作がみられなければ,それ以降の発作に対する予防効果は確立されていないため,抗てんかん薬は中止すべきである。

新しい抗てんかん薬が研究されている。ホスフェニトインは,水溶性が改良されたフェニトインの一種であり,末梢静脈路から投与した場合の血栓性静脈炎のリスクを低下させるため,中心静脈路を確保できない一部の患者で使用されている。用量はフェニトインと同じである。レベチラセタムの使用が増えてきており,特に肝疾患を有する患者で頻用されている。

頭蓋骨骨折

転位のない閉鎖性骨折には特別な治療は不要である。

陥没骨折には,骨片の挙上,損傷した皮質血管の処置,硬膜の修復,および損傷した脳組織の除去のために,ときに外科手術が必要となる。

開放性骨折には,髄液漏がなく,陥没の深さが頭蓋骨の厚さを超えない場合を除いて,外科的なデブリドマンが必要である。

前頭骨の骨折は修復し,特に著しくanterior tableおよびposterior tableが転位している場合(審美上の理由のため)または基礎にある硬膜の裂傷から鼻への髄液漏がある場合には修復を行う。

抗菌薬の予防投与については,効力を証明するデータが少なく,薬剤耐性株の出現を促す懸念があるため,議論がある。

手術

頭蓋内血腫には,脳の偏位,圧迫,およびヘルニアを予防または治療するために緊急の外科的除去が必要になる場合がある;そのため,脳外科への早期のコンサルテーションが必須である。

しかしながら,全ての血腫に外科的な除去が必要となるわけではない。小さな脳内血腫に対して外科手術が必要になることはまれである。小さな硬膜下血腫の患者は,しばしば外科手術なしで治療できる。

緊急手術の必要性を示唆する因子としては以下のものがある:

  • 5mmを超える正中偏位

  • 脳底槽の圧迫

  • 神経学的診察の悪化所見

慢性硬膜下血腫は,外科的ドレナージを要することがあるが,急性硬膜下血腫と比べると緊急性ははるかに低い。大きな硬膜外血腫と動脈性の硬膜外血腫は外科的に治療されるが,静脈起源と考えられる小さな硬膜外血腫は一連のCTでフォローアップすることができる。

TBIの救命医療に関するその他の問題

貧血および血小板減少症は,TBIの受傷者によくみられる問題である。しかしながら,輸血は合併症発生率および死亡率を著しく高める可能性があり,そのため,TBI患者における輸血は,その他の集中治療患者と同様に,基準を高めに設定しておくべきである。

高血糖は頭蓋内圧亢進,脳代謝障害,尿路感染症,菌血症の危険因子であるため,TBI患者では厳重な血糖コントロールが試みられている。しかしながら,集中的なレジメン(血糖値を80~120mg/dL[4.4~6.7mmol/L]未満に維持する)と従来のレジメン(血糖値を220mg/dL[12.2mmol/L]未満に維持する)を比較したランダム化比較試験では,6カ月後のGCSスコアは群間で同じであった一方,集中的なレジメンで治療を受けた群では低血糖の発生率がより高かった(7)。

TBI後の急性期に神経組織を保護し,頭蓋内圧を低下させて神経学的回復を向上させる目的で,様々な低体温療法が提唱されている。ただし,早期(2.5時間以内)に開始する短時間(受傷後48時間)の予防的低体温療法は,標準的な内科治療と比べて重度TBI患者の転帰を改善せず,凝固障害および心血管系の不安定性のリスクを高めることが複数のランダム化比較試験で示されている(8, 9)。

カルシウム拮抗薬は,TBI後の脳血管攣縮を予防し,脳への血流を維持することによりさらなる損傷を防ぐ目的で使用されてきた。しかし,急性TBIおよび外傷性くも膜下出血の患者を対象としたカルシウム拮抗薬のランダム化比較試験のレビューでは,その有効性は依然として不確実であると結論づけられた(10)。

リハビリテーション

神経脱落症状が遷延する場合には,リハビリテーションが必要となる。脳損傷後のリハビリテーションは,理学療法,作業療法,言語療法,および技能訓練と患者の社会的および精神的ニーズを満たすためのカウンセリングを組み合わせたチームアプローチで行うのが最適である。脳損傷患者の家族は,脳損傷患者の支援団体から支援を受けられることがある。

昏睡の持続時間が24時間を超える患者の50%では,恒久的な重度の神経学的後遺症が生じ,長期間のリハビリテーション(特に認知および感情領域)が必要になる。リハビリテーションの計画は早期に立てるべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Carney N, Totten AM, O'Reilly C, et al: Guidelines for the management of severe traumatic brain injury, fourth edition.Neurosurgery 80(1):6–15, 2017.doi: 10.1227/NEU.0000000000001432

  2. 2.Alali AS, Fowler RA, Mainprize TG, et al: Intracranial pressure monitoring in severe traumatic brain injury: Results from the American College of Surgeons Trauma Quality Improvement Program.J Neurotrauma 30(20):1737–1746, 2013.doi: 10.1089/neu.2012.2802

  3. 3.Chesnut RM, Temkin N, Carney N, et al: A trial of intracranial-pressure monitoring in traumatic brain injury.N Engl J Med 367(26):2471–2481, 2012.doi: 10.1056/NEJMoa1207363

  4. 4.Gerber LM, Chiu YL, Carney N, et al: Marked reduction in mortality in patients with severe traumatic brain injury.J Neurosurg 119(6):1583–1590, 2013.doi: 10.3171/2013.8.JNS13276

  5. 5.Hutchinson PJ, Kolias AG, Timofeev IS, et al: Trial of decompressive craniectomy for traumatic intracranial hypertension.N Engl J Med 375(12):1119–1130, 2016.doi: 10.1056/NEJMoa1605215

  6. 6.Edwards P, Arango M, Balica L, et al: Final results of MRC CRASH, a randomised placebo-controlled trial of intravenous corticosteroid in adults with head injury-outcomes at 6 months.Lancet 365(9475):1957–1959, 2005.doi: 10.1016/S0140-6736(05)66552-X

  7. 7.Bilotta F, Caramia R, Cernak I, et al: Intensive insulin therapy after severe traumatic brain injury: A randomized clinical trial.Neurocrit Care 9(2):159–166, 2008.doi: 10.1007/s12028-008-9084-9

  8. 8.Clifton GL, Valadka A, Zygun D, et al: Very early hypothermia induction in patients with severe brain injury (the National Acute Brain Injury Study: Hypothermia II): A randomised trial.Lancet Neurol 10(2):131–139, 2011.doi: 10.1016/S1474-4422(10)70300-8

  9. 9.Andrews PJD, Sinclair HL, Rodriguez A, et al: Hypothermia for intracranial hypertension after traumatic brain injury.N Engl J Med 373(25):2403–2412, 2015.doi: 10.1056/NEJMoa1507581

  10. 10.Vergouwen MDI, Vermeulen M, Roos YBWEM: Effect of nimodipine on outcome in patients with traumatic subarachnoid haemorrhage: A systematic review.Lancet Neurol 5(12):1029–1032, 2006.doi: 10.1016/S1474-4422(06)70582-8

外傷性脳損傷の予後

米国において,治療を受けた重度の外傷性脳損傷(TBI)の成人患者における死亡率は約25~33%である。グラスゴーコーマスケール(GCS)スコアが高いほど死亡率は低い。5歳以上の小児では死亡率がより低い(GCSスコアが5~7点の場合は10%以下)。損傷が同程度の成人と比較すると,小児での経過は全体として良好である。

軽度のTBI患者の大半では,良好な神経機能が維持される。中等度または重度のTBIでは,予後良好とは言えないものの,一般に考えられているよりは,はるかに良好である。TBI患者の転帰の評価に最も頻用されている尺度は,グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)である。この尺度では転帰を以下のように分類する:

  • 良好な回復(受傷前の機能水準に戻る)

  • 中等度の後遺症(自己管理能力あり)

  • 重度の後遺症(自己管理能力なし)

  • 植物状態(認知機能なし)

  • 死亡

長期間の生存率を推定するために,Marshall分類やより最近開発されたRotterdam CT scoreなど,CT所見に基づいたその他の予後予測システムも使用できる(1, 2)。

重度のTBIを有する成人のうち50%以上は,良好な回復または中等度の後遺症となる。TBI発生後の昏睡の有無および持続時間は,後遺症に対する強力な予測因子である。昏睡の持続時間が24時間を超える患者のうち,50%では恒久的な重度の神経学的後遺症が生じ,最大6%は6カ月時点で遷延性植物状態のままとなる。重度TBIの成人では,最初の6カ月間で最も急速な回復がみられる。比較的小さな回復は,おそらく数年もの長期にわたって続く。TBIの重症度にかかわらず,小児はより良好かつ速やかな回復を示し,改善が続く期間もより長い。

局所的な運動または感覚障害よりも,集中力,注意力,および記憶力の障害を伴う認知障害と様々な人格変化が,社会での人間関係および雇用における障壁の原因となることが多い。外傷後の嗅覚脱失と急性期の外傷性失明は,3~4カ月を過ぎるとほとんど回復しない。不全片麻痺と失語症は通常,高齢者を除いて,少なくとも部分的には改善する。

予後に関する参考文献

  1. 1.Maas AI, Hukkelhoven CW, Marshall LF, et al: Prediction of outcome in traumatic brain injury with computed tomographic characteristics: A comparison between the computed tomographic classification and combinations of computed tomographic predictors.Neurosurgery 57(6):1173–1182, 2005.doi: 10.1227/01.neu.0000186013.63046.6b

  2. 2.Charry JD, Falla JD, Ochoa JD, et al: External validation of the Rotterdam computed tomography score in the prediction of mortality in severe traumatic brain injury.J Neurosci Rural Pract 8(Suppl 1):S23–S26, 2017.doi: 10.4103/jnrp.jnrp_434_16

要点

  • TBIは様々な神経症状を引き起こし,ときに画像上で器質的脳損傷が検出できない場合にも症状がみられることがある。

  • 初期評価(外傷の評価および安定化,GCSスコア,迅速かつ的を絞った神経学的診察)に続いて,状態が安定すれば,より詳細な神経学的診察を行う。

  • 意識障害が一過性でない場合や,GCSスコア15点未満,局所的な神経所見,遷延する嘔吐,痙攣発作,意識消失の病歴,骨折を疑わせる臨床所見,またはその他の所見がみられる患者では,速やかに神経画像検査(通常CT)を行う。

  • 軽度のTBIであれば,大半の患者を帰宅させることができ,神経画像検査が正常であるか適応がなく,神経学的診察が正常であれば,自宅での経過観察が可能である。

  • 重度のTBI患者は,集中治療室で管理するとともに,二次性脳損傷を回避するために積極的な治療を行って,十分な換気,酸素化,および脳灌流を維持する。

  • 頭蓋内圧亢進があれば,通常は迅速導入気管挿管,頭蓋内圧モニタリング,鎮静,正常な循環血液量および血清浸透圧の維持のほか,ときに外科的処置(例,髄液ドレナージ,減圧開頭術)により治療する。

  • 一部の病変は外科的に治療する(例,大きなまたは動脈性硬膜外血腫,5mmを超える正中偏位を伴う脳内血腫,基底槽の圧迫,神経学的診察での悪化所見)。

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