松葉杖の調整と松葉杖による歩行

執筆者:James Y. McCue, MD, University of Washington
レビュー/改訂 2021年 6月
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松葉杖は,患者が受傷した下肢で全荷重または部分荷重を支えられない場合に,歩行のために用いる補助器具である。

適応

  • 全荷重も部分荷重もできない,またはするべきでない下肢の損傷

禁忌*

絶対的禁忌

  • 松葉杖の使用を妨げる上肢の損傷

  • 運動失調

  • バランス不良

  • 全身の筋力低下またはフレイル

相対的禁忌

  • 健側下肢の異常または筋力低下

* 松葉杖を安全に使用するには,ある程度の筋力,バランス,協調運動能力,および両腕が完全に使えることが必要である。階段の昇降はさらに困難であり,昇降を許可する患者は慎重に選択しなければならない。また,患者が指示を理解し,指示の後に松葉杖の安全な使用法を実演できなければならない。高齢患者では,これらの必要条件のうち1つまたは複数が満たされない場合,松葉杖を用いた歩行には問題があることになる。

合併症

  • 松葉杖の調整が不良であったり使い方が正しくなかったりする(松葉杖に寄りかかったり腋窩部で体重をかけたりする)と,橈骨神経の一過性神経伝導障害が生じることがある。

器具

  • 松葉杖

松葉杖には大きく分けて,腋窩支持型杖と前腕支持型杖(肘支持型杖またはロフストランド杖とも呼ばれる)の2種類がある。様々なサイズが利用可能であり,いずれのサイズでも長さが調節できる。腋窩支持型杖の方がよく用いられる。腋窩支持型杖では,杖の全長とは別に,上端からハンドグリップまでの距離を調節することができる。前腕支持型杖では,体重の大部分を手で支えなければならず,腋窩部に荷重できないため,橈骨神経の一過性神経伝導障害のリスクがない;前腕支持型杖は通常,松葉杖の長期使用が必要な患者において治癒過程の後期に使用される。

重要な解剖

  • 橈骨神経は腋窩部では表在性であるため,圧迫による一過性神経伝導障害が生じやすい。

体位

  • 松葉杖の調整中は,患者を支えて立位をとらせるべきである。

松葉杖の調整のステップ-バイ-ステップの手順

  • 松葉杖1本の長さを調節して,脇当てが腋窩部から2.5~5cm(1~2インチ)下にくるようにする。

  • 肘がわずかに曲がる(約15~30度)ように松葉杖のハンドグリップの位置を調整する。

  • 2本目の松葉杖の長さおよびグリップの位置が1本目の松葉杖で確立されたものと一致するように,2本目の松葉杖を調整する。

  • 調整用のピンまたはネジがしっかりと締められていることを確認する。

松葉杖の調整

患者に普段履いているものと同じタイプの靴を着用させ,直立して肩を弛緩させ,まっすぐ前を向かせる。正しく合わせるためには,左右それぞれの松葉杖の下端を靴の側面から横に約5cm,つま先から前方に15cm離れた地点についた状態で,松葉杖の上端が腋窩から2~3横指(約5cm)下にくるように長さを調整すべきである。ハンドグリップは,肘が20~30°曲がるように調節すべきである。

松葉杖を用いた免荷歩行のステップ-バイ-ステップの手順

  • 患者は左右の手に持った松葉杖を支えにして健側下肢で立つ。

  • 患肢は地面に着かないように保つべきである。

  • 腋窩ではなく手に荷重する;脇当ては実際には腋窩のすぐ下で胸壁に当てて支える。

  • 足を踏み出す前に,健側下肢に荷重した状態で,両方の松葉杖の先端をおよそ1歩分前方に置く。

  • 足を踏み出すには,松葉杖のハンドグリップに荷重して,健側下肢を地面から浮かせて前方に振り出し,松葉杖の先端からおよそ1歩分前方にその足を着地させる。

  • 続けて歩くには,この一連の流れを繰り返す。

椅子の着座と起立のステップ-バイ-ステップの手順

  • 患者が椅子に近づき,椅子が体の真後ろにくるように体の向きを変える。

  • 健側の手で両方の松葉杖を持ち,着座していく間の支えとして使用する。

  • 着座したら,立ち上がる準備ができたときに手が届くように,松葉杖は近くに置くべきである。

  • 椅子から起立するには,健側の手で両方の松葉杖を持ち,椅子の前の端に座る。

  • 次に健側の手に持った松葉杖を補助にして,健側下肢で立つ。

  • 健側下肢で起立している状態で患側の手に松葉杖を1本持ち替えてから歩き出す。

松葉杖を用いた階段昇りのステップ-バイ-ステップの手順

  • 介助なしで階段で松葉杖を使用するのは,筋力が強く,機敏で,バランスが良好な患者のみとするべきである。理想的には,頑丈な手すりを使えるのが望ましい。

  • 患者は最下段の近くに立つ。

  • 両方の松葉杖を手すりと反対側の腕の下に配置する。

  • 片方の手で両方の松葉杖を,もう片方の手で手すりをつかんで体を支える。

  • 松葉杖に体重をかけ,手すりをつかんで支えにしながら,健側の足で1段昇る。

  • 昇った後,松葉杖を持ち上げて今乗っている段につく。

  • 次の一歩に備えるために,支えにする手を手すりのより高い位置に動かすべきである。

  • 階段をさらに昇るには,この一連の流れを繰り返す。

  • 手すりが利用できない場合は,通常の松葉杖歩行を用いて階段を昇ることができるが,これは患者の筋力,機敏さ,およびバランスが非常に優れている場合のみに限る。

  • 松葉杖を使って階段を昇ることができない患者は,座ってから一度に1段ずつ体を持ち上げることで階段を昇ることもできる。

松葉杖を用いた階段降りのステップ-バイ-ステップの手順

  • 介助なしで階段で松葉杖を使用するのは,筋力が強く機敏な患者のみとするべきである。理想的には,頑丈な手すりを使えるのが望ましい。

  • 患者は最上段の近くに立つ。

  • 両方の松葉杖を手すりと反対側の腕の下に配置する。

  • 片方の手で両方の松葉杖を,もう片方の手で手すりをつかんで体を支える。

  • 松葉杖に体重をかけ,支えを得るために手すりをつかんだ後,松葉杖を1段下に降ろす。

  • 健側の足を使って,松葉杖をついている段に降りる。

  • 次の一歩に備えるために,支えにする手を手すりのより低い位置に動かす。

  • 階段をさらに降りるには,この一連の流れを繰り返す。

  • 手すりが利用できない場合は,通常の松葉杖歩行を用いて階段を降りることができるが,これは患者の筋力,機敏さ,およびバランスが非常に優れている場合のみに限る。

  • 松葉杖を使って階段を降りることができない患者は,座ってから体を持ち上げて下に降ろすことで,一度に1段ずつ階段を降りることもできる。

注意点とよくあるエラー

  • ハンドグリップが低すぎないことを確認し,腕がほぼ完全に伸びるようにする。

  • 患者は本能的にハンドグリップではなく腋窩に荷重するため,そうしないように特に注意を与えること。

  • 松葉杖に別に包装された滑り止めの先端部がある場合は,その先端を松葉杖の底につける。

アドバイスとこつ

  • 松葉杖を壁または家具に立てかけるには,倒れにくくなるように脇当てを下にして置く。

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