開放創では，洗浄，修復，および閉鎖の前に，露出した皮下組織に局所麻酔薬を直接注射することがある。
創傷に麻酔薬を浸潤させる方法（浸潤麻酔）は一般的に行われており，しばしば神経ブロック（区域麻酔）よりも処置が簡単であると考えられている。
（裂創治療のための局所麻酔薬，ならびに創傷の清浄化，洗浄，デブリドマン，およびドレッシングも参照のこと。）
適応
裂傷またはその他の外科的に治療される皮膚病変
異物除去
切開排膿
禁忌
絶対的禁忌
麻酔薬または添加剤に対するアレルギーの既往（別の麻酔法を選択すること）
相対的禁忌
大きな創傷（そのような創傷へ局所浸潤麻酔を行うには毒性量の麻酔薬が必要となる可能性がある）*
正確な解剖学的アライメントが必要な創傷（例，赤唇縁の裂創）で，浸潤麻酔による創縁の変形が問題となる場合*
*必要に応じて神経ブロックおよび処置時の鎮静・鎮痛を行うべきである。
合併症
麻酔薬に対する有害反応（例，麻酔薬［まれ］またはメチルパラベン［防腐剤］に対するアレルギー反応）
麻酔薬の過量投与による中毒（例，痙攣発作，不整脈）またはアドレナリンの交感神経刺激作用
麻酔薬/アドレナリンの血管内注入
血腫
感染部位に注射針を刺入することによる感染の拡大
器具
非滅菌手袋
適切なバリア法（例，マスク，保護眼鏡またはフェイスシールド，帽子およびガウン）
消毒液（例，クロルヘキシジン，ポビドンヨード，アルコール）
麻酔薬注入用のシリンジ（例，1～10mL）および針（例，25または27G）
注射用局所麻酔薬*（例，1:100,000に希釈されたアドレナリン‡を含有するまたは含有しない1％リドカイン†，25G針）
表面麻酔薬§（例，LET液：4％リドカイン［lidocaine］，0.1％アドレナリン［epinephrine］，0.5％テトラカイン［tpinephrine］）と綿球または歯科用綿球；任意であり，小児に対してしばしば使用される
組織鑷子（例，アドソン鑷子），創傷の側面を露出させるために必要に応じて組織用の鈎
組織の皮下剥離（undermining）およびデブリドマン用の11番のメス刃（必要であれば）
* 局所麻酔薬については，裂創の項で考察されている。
† 局所麻酔薬の最大用量は，アドレナリンを含有しないリドカインでは5mg/kg，アドレナリンを含有するリドカインでは7mg/kg，ブピバカインでは1.5mg/kgである。注：1％溶液は（いずれの物質であれ）10mg/mL（1g/100mL）に相当する。
‡ アドレナリンは血管収縮を引き起こし，止血を促進し，麻酔作用を延長させる。心疾患のある患者には，アドレナリンは量を制限して投与すべきである（1:100,000に希釈されたアドレナリンを含む溶液を最大3.5mL）；あるいは，アドレナリンを含まない局所麻酔薬を使用する。末梢血管疾患のある患者の四肢遠位部では，アドレナリンを避けることを検討する。
§ 表面麻酔用のLET液の最大用量は3mLである。LET液とリドカインによる浸潤麻酔を併用する場合，リドカインの合計用量は5mg/kgを超えてはならない。
その他の留意事項
創傷より遠位に既存の神経障害が判明している場合は，浸潤麻酔を行う前に記録しておく。
患者が協力できない場合は，浸潤麻酔の手技を中止し，鎮静を検討する。
重要な解剖
麻酔薬の皮内注射は痛みを伴う。局所の創傷への浸潤時に生じる疼痛を軽減するために，皮下注射を行う。
体位
患者を楽な状態にさせ，露出させた創傷にしっかり照明が当たるようにする。
ステップ-バイ-ステップの手順
創傷より遠位の構造に対して神経血管診察を行う。
手袋を装着し，適切なバリア法を用いる。
創傷縁から外側へ向けて同心円をいくつか描くようにして，消毒液で皮膚を消毒する。消毒液の多くは組織に対して毒性があり，創傷治癒を妨げる可能性があるため，創内に直接入れてはならない。
表面麻酔（小児および不安のある成人に対して任意で行う）
創傷の長さ分の歯科用綿球（または綿球）を数mLの表面麻酔薬に浸し，それを創傷内部に入れて30分間待つ。
それでも麻酔が不完全な場合は，部分的に麻酔のかかった創縁から補助的に局所麻酔薬を投与する（それに伴う痛みは通常，最小限である）。
局所浸潤麻酔
局所麻酔用のシリンジを皮膚に対して浅い角度をつけて持つ。
露出した創縁の皮下組織に針を直接挿入し（すなわち，経皮的に針を挿入しない），針をハブまで進める。
シリンジを吸引して血管内に刺入していないことを確認した後，針を引き抜きながら麻酔薬をゆっくり注入する。
1本の針でできる限り広範囲の皮膚を麻酔できるように，一度注射した針をまだ麻酔されていない領域に向け直す。同様にして創傷の全周に麻酔を続ける。
肉眼的に汚染された創傷または感染した創傷には，代わりに創傷周囲の無傷で感染していない（または消毒した）皮膚からの経皮的注射を考慮する（フィールドブロック）。
麻酔の効果が現れるまで数分間待つ。麻酔薬が組織内に広がるのを促すために，皮膚の上から指先で愛護的にマッサージしてもよい。
アドバイスとこつ
隣接する無傷の皮膚からではなく，清潔な創縁に直接注射する。この方が痛みが少なく，創傷感染のリスクを高めない。
針を創傷の長軸に沿って持ち，創傷の両側に麻酔をかけるのに必要な注射を1回だけ（または最小限の回数）行う。
消毒および洗浄はかなりの痛みを伴う可能性があるため，これらの処置を行う前に麻酔を行うことを考慮する。
特に顔面および頭皮の創傷ならびに皮膚用の接着剤/接着テープで閉鎖される創傷には，表面麻酔薬の使用を考慮する。
注射の痛みを最小限にするため，麻酔薬の溶液に緩衝剤を添加し，体温まで温めてから，ゆっくり（例，30～60秒かけて）注入する。
