悪性高熱症

執筆者:David Tanen, MD, David Geffen School of Medicine at UCLA
レビュー/改訂 2023年 3月
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悪性高熱症とは,通常は脱分極性筋弛緩薬と強力で揮発性の吸入全身麻酔薬の併用に対する代謝亢進反応により生じる,生命を脅かす体温上昇である。臨床像としては,筋硬直,高体温,頻脈,頻呼吸,横紋筋融解症,ならびに呼吸性および代謝性アシドーシスなどがある。診断は臨床的に行う;リスクのある患者には感受性試験を行ってもよい。最優先の治療は,迅速な冷却およびダントロレンの使用を含む積極的な支持療法である。

関与する筋弛緩薬は通常スキサメトニウムである;吸入麻酔薬はハロタンが最も一般的であるが,その他の麻酔薬(例,イソフルラン,セボフルラン,デスフルラン)が関与する場合もある。この薬物併用は,筋ジストロフィーおよび筋強直の患者の一部において類似した反応を引き起こす。これらの薬物への最初の曝露の後に悪性高熱症が発生する場合もあるが,平均的には,3回の曝露が発症には必要である。

熱中症の概要も参照のこと。)

悪性高熱症の病態生理

悪性高熱症は約2万人に1人の割合で起こる。感受性が遺伝し,遺伝形式は常染色体顕性(優性)であり,その浸透率は様々である。ほとんどの場合,原因となる突然変異が骨格筋のリアノジン受容体に影響を与えるが,そのほかにも原因となる突然変異が少なくとも22個同定されている。

その機序は,麻酔薬によって骨格筋の筋小胞体からのカルシウム(Ca)放出が感受性のある患者で増大することに関与している可能性がある。結果として,カルシウム誘導性の生化学的反応が促進され,重度の筋収縮および代謝速度の上昇を引き起こし,呼吸性および代謝性アシドーシスが生じる。アシドーシスに反応して,自発呼吸のある患者は頻呼吸を発症するが,部分的にしか代償されない。

合併症

高カリウム血症,呼吸性および代謝性アシドーシス,低カルシウム血症,およびクレアチンキナーゼ上昇とミオグロビン血症を伴う横紋筋融解症が生じることがあり,また凝固異常(播種性血管内凝固症候群を含む)も生じることがある。

悪性高熱症の症状と徴候

悪性高熱症は,麻酔中または術後早期に生じる可能性がある。臨床像は,使用された薬物および患者の感受性により様々である。筋硬直(特に顎)がしばしば最初の徴候であり,その後頻脈,他の不整脈,頻呼吸,アシドーシス,ショック,および高体温が生じる。高炭酸ガス血症(呼気終末二酸化炭素[CO2]の増加により検出される)が初期徴候である場合がある。体温は通常,40℃以上であり,極めて高い(すなわち,43℃を超える)場合もある。横紋筋融解症およびミオグロビン尿が生じた場合は,尿が褐色または血性に見えることがある。

悪性高熱症の診断

  • 臨床的評価

  • 合併症の検査

  • リスクのある患者の感受性試験

吸入麻酔薬の開始後10分以内に,ときには数時間経過して典型的な症状および徴候が現れることにより本症を疑う(1)。顎の硬直,頻呼吸,頻脈,および呼気終末CO2の増加の迅速な確認により,早期診断が容易になることがある。

迅速に確定診断を下せる検査法はないが,心電図検査,血液検査(血小板数を含めた血算,電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,クレアチンキナーゼ,カルシウム,プロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,フィブリノーゲン,Dダイマー),ミオグロビン尿の尿検査など,合併症に対する検査を行うべきである。

他の診断を除外する必要がある。周術期の敗血症が高体温を引き起こすことがあるが,麻酔導入の直後ではまれである。不十分な麻酔によって筋緊張の増大および頻脈が生じる場合があるが,体温は上昇しない。甲状腺クリーゼおよび褐色細胞腫がまれに麻酔導入の直後に発現する。

感受性試験

悪性高熱症に対する感受性の試験は,本症の家族歴,または全身麻酔に対する重度のもしくは十分に特徴づけられない有害反応の個人の既往に基づき,リスクのある患者に推奨される。カフェイン・ハロタン拘縮試験(CHCT)が最も精度の高い検査である。これは,筋肉組織検体のカフェインおよびハロタンに対する反応を測定する。遺伝子検査も容易に利用可能であるが,その解釈は検出された突然変異の種類によって制限されることがある。

診断に関する参考文献

  1. 1.Hopkins PM, Girard T, Dalay S, et al: Malignant hyperthermia 2020: Guideline from the Association of Anaesthetists.Anaesthesia 76:655-664, 2021.doi: 10.1111/anae.15317

悪性高熱症の治療

  • 迅速な冷却および支持療法

  • ダントロレン

中枢神経系の損傷を防ぐために,悪性高熱症の患者をできるだけ速やかに,また効果的に冷却すること(熱射病熱射病:治療を参照),また代謝異常を是正するために支持療法を行うことが極めて重要である。筋硬直が全身に広がる前,かつ横紋筋融解症,重度の高体温,および播種性血管内凝固症候群が発生する前に治療を開始すれば,転帰が最良となる。通常の物理的な冷却法に加えて,ダントロレン2.5mg/kgを5分毎に,計10mg/kgの最大量まで,必要に応じて静脈内投与すべきである。ダントロレンの用量は,心拍数および呼気終末CO2に基づき調整する。一部の患者では,症状をコントロールし,支持療法を行うために,気管挿管(気道確保および管理/気管挿管を参照),筋弛緩,および催眠鎮静が必要となる。興奮をコントロールするためにベンゾジアゼピン系薬剤の静脈内投与(通常は高用量)を用いてもよい。悪性高熱症は死亡率が高く,早期の積極的な治療にさえ反応しない場合がある。

悪性高熱症の予防

可能な場合には,全身麻酔よりも,局所麻酔または区域麻酔の方が望ましい。感受性の高い患者および濃厚な家族歴がある患者では,強力な吸入麻酔薬および脱分極性筋弛緩薬を避けるべきである。ダントロレンをベッドサイドで使用できるようにすべきである。

要点

  • 悪性高熱症は,脱分極性筋弛緩薬と強力な揮発性の吸入全身麻酔薬に同時に曝露した(通常は複数回),遺伝的感受性を有する患者において発生する。

  • 合併症には,高カリウム血症,呼吸性および代謝性アシドーシス,低カルシウム血症,横紋筋融解症,DICなどがある。

  • 吸入麻酔薬の開始から数分以内,またはときに数時間以内に,患者に顎の硬直,頻呼吸,頻脈,または呼気終末CO2の増加が発生した場合,本症を疑う。

  • 積極的な早期の冷却およびダントロレンの静脈内投与により治療する。

  • リスクのある個人には遺伝子検査または筋生検による検査を行う。

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