アキレス腱裂傷(断裂)は足関節背屈によって生じることが最も多く,特に腱が緊張しているときに多い。診断は診察,およびときにMRIによる。治療は,底屈位での副子固定および迅速な整形外科医への紹介による;外科的修復が必要になることがある。
(捻挫およびその他の軟部組織損傷の概要も参照のこと。)
アキレス腱裂傷は一般的である。典型的にはランニング中または跳躍時に起こり,中年男性およびアスリートに最も多い。非常にまれであるが,フルオロキノロン系抗菌薬またはコルチコステロイドの投与を受ける人においてアキレス腱裂傷が自然発生している。
アキレス腱裂傷は部分的な場合と完全断裂の場合がある。
アキレス腱裂傷の症状と徴候
腓腹部の遠位部の疼痛により歩行が困難になる(特に完全断裂の場合)。腓腹部の腫脹および皮下出血が認められることもある。
完全断裂により触知できる欠損が生じることがあり,完全断裂は通常,腱付着部から2~6cm近位に生じる。
アキレス腱裂傷の診断
臨床的評価
ときにMRIまたは超音波検査
アキレス腱裂傷の診断は臨床的に行う(1)。足関節を屈曲できることで,断裂が除外されることはない。
アキレス腱裂傷を疑う場合は,診断の確定に役立てるために3つの主要なテストを実施できる。
Thompson test(calf squeeze test)では,患者を腹臥位にして,腓腹部を強くつまみ底屈を誘発する。結果としては以下のものがある:
完全断裂の場合,足関節の底屈がみられないか減弱している。
部分断裂の場合,結果はときに正常であるため,断裂がしばしば見逃される。
Matles testは,静止張力を評価するために用いられる。患者を腹臥位にして膝関節を90°屈曲させ,腓腹筋を収縮させる。患者の両足を比較する。結果としては以下のものがある:
アキレス腱に損傷がない場合,足関節が20~30°底屈する。
アキレス腱に裂傷がある場合,足が下がり中間位となる。
裂傷に対するMatles testの感度は88%,特異度は85%である。
腱の陥凹の触知では,患者に患肢で立つように指示する(可能な場合)。その後アキレス腱に沿って愛護的に触診し,陥凹を検索する;陥凹があれば腱の裂傷が示される。
アキレス腱裂傷の検出にはMRIより身体診察の方が感度が高い(2)。アキレス腱裂傷患者を対象とした研究(2012年)では,3つのテスト(Thompson,Matles,陥凹の触知)が全て陽性であればアキレス腱裂傷に対する感度が100%となることが判明した。American Academy of Orthopedic Surgeonsのガイドライン(2009年)によれば,裂傷と診断するには,以下のうちどれかが当てはまればよい(3):
これら3つのテストのうち2つが陽性である。
1つのテストが陽性で足関節の底屈力が減弱している。
腱断裂の確認のため,または画像検査が必要な場合に部分断裂と完全断裂の鑑別のために,超音波検査が用いられることが多くなってきている。診断精度は,経験豊富な術者が行えば良好と考えられる。
診断に関する参考文献
1.Maffulli N: The clinical diagnosis of subcutaneous tear of the Achilles tendon: A prospective study in 174 patients.Am J Sports Med 26 (2):266–270, 1998.doi:10.1177/03635465980260021801
2.Garras DN, Raikin SM, Bhat SB, et al: MRI is unnecessary for diagnosing acute Achilles tendon ruptures: Clinical diagnostic criteria.Clin Orthop Relat Res 470 (8):2268–2273, 2012.doi: 10.1007/s11999-012-2355-y
3.Chiodo CP, Glazebrook M, Bluman EM, et al: Diagnosis and treatment of acute Achilles tendon rupture: Practice guideline.J Am Acad Orthop Surg 18 (8):503–510, 2010.doi: 10.5435/00124635-201008000-00007
アキレス腱裂傷の治療
底屈位での副子固定
直ちに整形外科医に紹介
ときに外科的修復
アキレス腱裂傷の初期治療としては,足関節を底屈位で副子固定し,直ちに整形外科医に紹介する。
腱裂傷を外科的に治療すべきかどうかは議論がある。
治療としては,4週間にわたり足関節を底屈位にして足関節後方を副子固定し,荷重負荷を回避する。