コンパートメント内圧の測定は,コンパートメント症候群の診断を補助する目的で行う。コンパートメント内圧の測定は,非常に高度な技術を要する,病院で行うべき処置であり,典型的には整形外科医または一般外科医へのコンサルテーションを伴う。
コンパートメント内圧は,前腕の3つのコンパートメント(掌側,背側,mobile wad)で測定できる。
ここでは市販の機器であるStryker®システムを用いる。機器の全ての指示に従う。自身の施設でどの機器が利用できるか把握しておくこと。
(コンパートメント症候群も参照のこと。)
前腕のコンパートメント内圧測定の適応
コンパートメント症候群の疑い
コンパートメント症候群は,患部の区画(コンパートメント)に生じた疼痛が損傷の見た目の重症度に釣り合わないほど悪化し,区画内の筋を他動的に伸展すると増悪することから示唆される。触診では,区画が腫脹して緊張していることがあるが,このような所見が常にみられるとは限らない。
前腕のコンパートメント内圧測定の禁忌
絶対的禁忌
なし
相対的禁忌
予想される刺入部位の皮膚または深部組織の感染:可能であれば,感染のない別の部位で刺入する。
出血性素因(コンパートメント内圧の測定前に是正しなければならない場合がある)
前腕のコンパートメント内圧測定の合併症
エラーによる内圧測定の高値または低値(原因は,針の位置不良や閉塞,機器の較正が失敗ないし不正確,患者の興奮,区画内への過剰な検査用生理食塩水の注入など)。このような測定エラーは誤った治療につながる可能性がある。
針の挿入により感染,出血,または組織損傷が起こることがある。
前腕のコンパートメント内圧測定で使用する器具
滅菌ガウン,手袋,およびドレープ
滅菌ガーゼ
Stryker®システム(針,チューブ,およびトランスデューサーなどで構成される)
消毒液(例,2%クロルヘキシジン)
局所麻酔薬(例,1%または2%リドカイン)
25~27G針
局所麻酔注射用の約3~5mLシリンジ
滅菌ドレッシング
処置時の鎮静が必要な場合は,適切な薬剤(例,プロポフォール,ケタミン)およびパルスオキシメトリーまたはカプノメトリー
前腕のコンパートメント内圧測定に関するその他の留意事項
区画組織の微生物汚染を予防するために,無菌操作が必要である。
深部の区画では触知可能な緊張や腫脹を認めない場合があること,疼痛が非特異的であること,ならびに意識障害のある患者では症状や徴候がみられないか非特異的な場合があることから,リスクのある患者ではコンパートメント内圧測定の閾値を低く維持する。
蒼白または脈拍消失が生じる前に,診断を下して治療を開始する必要がある。
前腕のコンパートメント内圧測定における重要な解剖
前腕には以下の3つの区画がある:
掌側区画:尺側手根屈筋,長母指屈筋,深指屈筋,浅指屈筋,長掌筋,および橈側手根屈筋のほか,尺骨神経,橈骨神経浅枝,および正中神経,ならびに橈骨動脈,尺骨動脈,および前骨間動脈を含む
背側区画:長母指伸筋,長母指外転筋,総指伸筋,小指伸筋,尺側手根伸筋のほか,後骨間神経および後骨間動脈を含む
Mobile wad区画:腕橈骨筋,短橈側手根伸筋,および長橈側手根伸筋を含む
コンパートメント症候群は掌側区画に最もよく生じる。
前腕のコンパートメント内圧測定での体位
患肢を心臓の高さにし,測定する区画に対して垂直の角度で針を皮膚に刺入できるようにする。
前腕のコンパートメント内圧測定のステップ-バイ-ステップの手順
機器を準備する
Stryker®システムを開封し,内容物を清潔野に置く。
針をダイヤフラムチャンバーの先細の軸にしっかりと接続する。プレフィルドシリンジのキャップを外し,軸の反対側に接続する。
モニターのカバーを開け,黒い面が下になるようにチャンバーを圧力モニターの中に入れる。所定の位置に固定されるまで慎重に押し込む。モニターのカバーをカチッという音がするまで閉じる。
針を45度上方の角度で把持し,プランジャーを押してシステムの中の空気を抜く。生理食塩水が針からトランスデューサーの中まで流れないようにすること。
モニターの電源を入れ,表示窓に数値が表示されることを確認する。
機器を較正する:機器を挿入予定の角度に保つ。「zero」ボタンを押して,数秒後に「00」と表示されることを確認する。続行する前に「00」と表示されていなければならない。測定を追加するたびに,機器を「00」に再較正する必要がある。
全ての区画に対する一般的な手順
処置の前に患側前腕の神経血管系の診察を行う。
クロルヘキシジンなどの消毒液を測定部位の皮膚に塗布する。周囲にドレープをかける。
25~27G針を使用して,刺入部の皮下に局所麻酔薬を注入して膨疹を作る。麻酔薬を深部組織の筋肉および筋膜に注入しないようにすること。これをすると,コンパートメント内圧の測定値が偽高値になることがある。
組み立てて較正した圧力モニターを,測定する区画に対して垂直に保持し,可能な限り愛護的に針を皮膚に刺入して,目標の区画に適する深さまで挿入する。
区画の中に生理食塩水0.3mLをゆっくりと注入する。
表示窓に平衡に達したことが表示されるまで待ち,圧力の結果を記録する。
測定を追加するたびに,装置を「00」に再較正し,手順を繰り返す。
圧力の測定値が約30mmHgを超えるか,拡張期血圧との差が約30mmHg以内であれば,コンパートメント症候群の診断が裏付けられ,迅速な筋膜切開を考慮しなければならない。
コンパートメント症候群はコンパートメント内圧が上昇していなくても起こる可能性があり,臨床所見から疑われる場合は,コンパートメント症候群の診断を想定して,コンパートメント内圧を連続的に測定すべきである。
掌側区画に対する特異的な手順
患者を仰臥位にして,前腕を回外させる。
長掌筋腱およびその近位筋の走行を同定する。
長掌筋のすぐ内側,前腕の近位3分の1と中央3分の1の移行部に針を刺入する。
針を垂直に進め,尺骨の後縁に向かって1~2cmの深さまで挿入する。
針の刺入部のすぐ近位または遠位の掌側区画を指で押したときの圧力上昇と,指および手関節を伸展させたときの圧力上昇を観察することにより,針が適切な位置にあることを確認する。
背側区画に対する特異的な手順
患者を仰臥位にして,前腕を回内させる。
前腕の近位3分の1と中央3分の1の移行部のレベルで,尺骨後面を触診する。
このレベルで尺骨後面から1~2cm外側に針を刺入する。
針を垂直に1~2cmの深さまで進める。
針の刺入部のすぐ近位または遠位の背側区画を指で押したときの圧力上昇と,指および手関節を屈曲させたときの圧力上昇を観察することにより,針が適切な位置にあることを確認する。
Mobile wad区画に対する特異的な手順
患者を仰臥位にして,上肢を回外させる。
前腕の近位3分の1と中央3分の1の移行部における最も外側の部分を同定する。
このレベルで橈骨の外側に針を刺入する。
針を垂直に1~1.5cmの深さまで進める。
針の刺入部のすぐ近位または遠位のmobile wadを指で押したときの圧力上昇と,手関節を尺側に屈曲させたときの圧力上昇を観察することにより,針が適切な位置にあることを確認する。
前腕のコンパートメント内圧測定のアフターケア
全ての刺入部を滅菌ドレッシング材で被覆する。
上肢の神経血管系の診察を再度行う。
前腕のコンパートメント内圧測定の注意点とよくあるエラー
コンパートメント症候群は臨床的に診断されるが,しばしば診断が困難である。整形外科医または一般外科医への早期のコンサルテーションが推奨される。
末梢の脈拍と毛細血管の再充満を認める場合や,コンパートメント内圧が正常な場合でさえ,コンパートメント症候群は除外されない。
患肢のうち,侵されている可能性のある全ての区画で内圧を測定する。
前腕のコンパートメント内圧測定のアドバイスとこつ
精度を最大限高めるために,外傷がある部位または触診で最も緊張の強い部位で内圧を測定する。