弱視とは,視力発達過程における眼の不使用によって引き起こされる機能的な視力低下のことである。弱視の発見および治療が小児期の早期のうちになされない場合,患眼に重度の視力障害が起こる可能性がある。ほかに病因がなく,最大矯正視力に左右差が検出された場合に診断される。治療は原因に応じて異なる。
弱視は小児の約2~3%に発生し(1),通常は2歳未満で始まるが,約8歳未満であれば全ての小児に発生しうる。
視覚系が適正に発達するために脳は,鮮明な焦点の合った正しく整合された像を両眼から同時に受け取らなければならない。この発達は主に生後3年間に起こるが,約8歳まで完成しない。片眼からの像のみが持続的に干渉を受け続けると,弱視が発生する。視覚野では患眼からの像が抑制される。抑制がかなり長期に及ぶと視力障害が永続的になりうる。
総論の参考文献
1.Hashemi H, Pakzad R, Yekta A, et al: Global and regional estimates of prevalence of amblyopia: A systematic review and meta-analysis.Strabismus 26(4):168–183, 2018.doi: 10.1080/09273972.2018.1500618
弱視の病因
原因は以下の3つである:
斜視
屈折異常
視軸の遮断
斜視では,眼位の異常により異なる網膜像が視覚野に送られるため,弱視が発生することがある。この眼位の異常が起こった場合,小児の脳は一時に一側の眼のみに注意を向け他側からの情報が抑制される。成人では視路がすでに十分発達しているため,異なる2つの像が提示されると1つの像の抑制ではなく複視が起こる。
屈折異常(乱視,近視,遠視)は,脳に到達する像がぼやけるために弱視を引き起こすことがある。不同視による弱視は,両眼の屈折度に差がある場合に発生するが,これは網膜像の焦点が異なる結果,屈折異常の大きい方の眼において結像不良となるためである。両眼の屈折異常が同等に高い場合に両側性弱視が起こることがあるが,これは脳が2つのぼやけた像を受け取るためである。
視軸の遮断が眼表面から網膜までの一点で発生した場合(例,先天性白内障),患眼における網膜の結像が妨げられたり,完全に損なわれたりする。この視軸の遮断により弱視が起こりうる。
弱視の症状と徴候
弱視はしばしば無症状で,ルーチンの視覚スクリーニングでのみ明らかになることが多い。小児は眼を細めたり片眼を覆ったりするが,片眼性の視力障害を訴えることはまれである。年少の幼児では,両眼の視力に差が生じていても気づかないか,たとえ自覚していても表現することができない。これより年長児では,患眼の視覚障害を訴えたり,奥行きの知覚不良を示したりする場合がある。斜視が原因の場合は,注視線の偏位が他の原因の場合よりも顕著となる。視軸を遮断している完全な白内障では,白色瞳孔(瞳孔が白く反射する状態で,写真で確認できる)を呈することがあるが,部分白内障では見逃されることがある。
弱視の診断
早期およびその後の定期的な視覚スクリーニング
フォトスクリーナー検査
追加検査(例,遮閉試験,遮閉-遮閉除去試験,屈折検査,眼底検査,細隙灯顕微鏡検査)
弱視(および斜視)に対する視覚スクリーニングは,出生直後から赤色反射の評価により開始し,年1回の小児健診で繰り返し実施する。視覚スクリーニングは,年齢に応じたスクリーニングを小児期を通じて定期的に行う場合に最も効果が得られる。3~4歳までに視力表を用いた自覚的視力検査を行えるようにならない場合は,眼科医療専門職への紹介が推奨される(1)。
まだ話せない小児や学習症または発達症のために自覚検査を受けられない小児に対するスクリーニングには,フォトスクリーナー検査が1つのアプローチになる。フォトスクリーニング検査では,特殊なカメラを使用することにより,視標固視中の赤色反射を解析して,弱視の危険因子を同定する。
これより年長児におけるスクリーニングは,アルファベットの知識を必要としない図形(例,タンブリングE,Allenカード,HOTV図形もしくはキャラクター)またはスネレン視標を用いた視力検査から成る。
基礎的原因を同定するには追加検査が必要となる。斜視は,遮閉試験または遮閉-遮閉除去試験によって確認できる(斜視の診断を参照)。眼科医は各眼の屈折検査により屈折異常を確認できる。視軸の遮断は,眼底検査または細隙灯顕微鏡検査によって確認できる。
診断に関する参考文献
1.Loh AR, Chiang MF: Pediatric vision screening.Pediatr Rev 39(5):225–234, 2018.doi: 10.1542/pir.2016-0191
弱視の予後
小児期早期に視覚系が成熟するまでに弱視の診断および治療がなされない場合,永続的な視力障害につながる可能性がある。治療の開始が早いほど,視力の完全回復の可能性が高まる。特定の状況では,これより年長の弱視の小児でも治療により視力の改善が見込める。Ambeliopia Treatment Studiesにより,14歳までの青年期早期に開始した場合でも,弱視治療により視力の改善が得られる可能性があることが示されている(1)。一部の症例では,視覚系が成熟するまでに再発の可能性が残る。視力が成熟した後でも,視力の軽度低下を示す患者がみられる。
予後に関する参考文献
1.Scheiman M, Hertle R, Beck R, et al: Randomized trial of treatment of amblyopia in children aged 7 to 17 years.Arch Ophthalmol 123(4):437–447, 2005.doi: 10.1001/archopht.123.4.437
弱視の治療
眼鏡またはコンタクトレンズ
白内障摘出術
眼帯装着(遮閉治療)
アトロピン点眼
斜視があればその治療
弱視の治療は,小児の眼疾患の管理経験を豊富にもつ眼科医の指示で行われるべきである。屈折矯正(眼鏡またはコンタクトレンズ)または視軸からの異物除去(白内障摘出術)を行ったら,健眼を遮閉して脳に患眼を使わせることが弱視治療の中心となる。屈折性の弱視では,眼鏡またはコンタクトレンズを常時装用させて,綿密なモニタリングを行うことで十分な治療となりうる(特に両側性弱視の場合)。眼鏡装用で視力の改善がプラトーになったら,遮閉治療を開始する(1)。斜視を原因とする弱視の場合は,まず遮閉治療を行い,続いて斜視の治療を行う。そして,よい方の眼への眼帯装着またはアトロピン点眼により弱視眼の使用を促進し,弱視眼に視覚的優位性を与える。治療に対するアドヒアランスは点眼療法の方が良好である。
改善が安定してからも1~2年は,再発予防のための維持治療が推奨される。
治療に関する参考文献
1.Writing Committee for the Pediatric Eye Disease Investigator Group, Cotter SA, Foster NC, et al: Optical treatment of strabismic and combined strabismic-anisometropic amblyopia.Ophthalmology 119(1):150–158, 2012.doi: 10.1016/j.ophtha.2011.06.043
要点
弱視とは,視路が成熟する前の小児期早期に各眼から鮮明に焦点の合った正しく整合された像が視覚野に入力されないことによって生じる一側眼の視力障害である。
診断は主にフォトスクリーナー検査などのスクリーニング検査によるが,治療の成功には早期診断と治療の早期開始が極めて重要である。
病因に対する治療(例,屈折異常の矯正,白内障摘出術,斜視の治療)を行うとともに,弱視眼に視覚的優位性を与えるために健側の眼に対して眼帯装着またはアトロピン点眼を行う。