フルクトース代謝酵素の欠損は,無症状のことも,低血糖を引き起こすこともある。
フルクトースは単糖類で,果実および蜂蜜に高濃度で含まれ,スクロースおよびソルビトールの構成成分の1つである。フルクトース代謝異常症は,数多くある糖代謝異常症の1つである。
遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。
フルクトース1-リン酸アルドラーゼ(アルドラーゼB)欠損症
この欠損症は遺伝性フルクトース不耐症の臨床症候群を引き起こす。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)であり,発生率は出生20,000人当たり1例と推定されている。乳児はフルクトースを摂取するまでは健康であるが,摂取後はフルクトース1-リン酸の蓄積により,低血糖,悪心および嘔吐,腹痛,発汗,振戦,錯乱,嗜眠,痙攣発作,ならびに昏睡を来す。フルクトースの摂取を続けると,肝硬変,精神遅滞,ならびにリン酸塩およびグルコースの尿中への喪失を伴う近位尿細管性アシドーシスを起こすことがある。
フルクトース1-リン酸アルドラーゼ欠損症の診断は,直近のフルクトース摂取に関係する症状によって示唆され,DNA解析により確定される。過去には診断確定のための検査として,肝生検またはフルクトース200mg/kgの静注による低血糖の誘発が行われていた。
遺伝子変異がヘテロ接合体の保因者の診断および同定は,直接DNA分析によっても可能である。(遺伝性代謝疾患が疑われる場合の検査も参照のこと。)
フルクトース1-リン酸アルドラーゼ欠損症の短期的治療は,低血糖に対するブドウ糖投与であり,長期的治療は食事からのフルクトース,スクロース,およびソルビトールの除去である。多くの患者はフルクトースを含有する食物に対して自然に嫌悪感を示す。治療を行えば,予後は極めて良好である。
フルクトキナーゼ欠損症
この欠損症は,血中および尿中フルクトース値の無害な上昇を引き起こす(良性フルクトース尿症)。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)であり,発生率は出生130,000人当たり約1例である。
この病態は無症状であり,尿中にグルコース以外の還元性物質が検出されることで偶発的に診断される。
フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ欠損症
この欠損症では,糖新生が障害されることにより,空腹時低血糖,ケトーシス,および代謝性アシドーシスが引き起こされる。新生児では,この欠損症により死に至ることがある。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)であり,発生率は不明である。熱性疾患が誘因となって発症することがある。
フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ欠損症の急性期の治療は,ブドウ糖の経口または静脈内投与である。絶食への耐容性は一般的に年齢とともに高まる。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Online Mendelian Inheritance in Man® (OMIM®) database: Complete gene, molecular, and chromosomal location information