フェニルケトン尿症はアミノ酸代謝異常症の1つであり,血清中フェニルアラニン濃度の上昇による認知および行動の異常を伴う知的障害の臨床症候群である。主な原因はフェニルアラニン水酸化酵素の活性低下である。診断は,フェニルアラニン高値および正常以下のチロシン値の検出による。治療は生涯にわたる食事でのフェニルアラニンの摂取制限である。治療を行えば,予後は極めて良好である。
フェニルケトン尿症(PKU)は,全ての民族で発生する可能性があるが,アシュケナージ系ユダヤ人および黒人では比較的頻度が低い。遺伝形式は常染色体潜性(劣性)であり,白人での発生率は出生10,000人当たり約1例である。
関連するその他のアミノ酸の代謝異常症については,フェニルアラニン・チロシン代謝異常症の表を参照のこと。遺伝性代謝疾患が疑われる患者へのアプローチも参照のこと。
PKUの病態生理
正常では,食事で摂取された過剰なフェニルアラニン(すなわち,タンパク質合成に利用されない分)はフェニルアラニン水酸化酵素によってチロシンに変換されるが,この反応には補因子としてテトラヒドロビオプテリン(BH4)が不可欠である。いくつかある遺伝子変異の1つによってフェニルアラニン水酸化酵素が欠乏または欠損することにより,食事で摂取されたフェニルアラニンが蓄積する;脳が主な障害臓器であり,これは髄鞘形成の障害が原因と考えられる。
この過剰なフェニルアラニンの一部がフェニルケトンに代謝され,これが尿中に排泄されることから,フェニルケトン尿症という用語が用いられている。酵素欠損の程度とその結果としての高フェニルアラニン血症の重症度は,個々の遺伝子変異に依存して患者毎に異なっている。
病型
PKUはほぼ全例(98~99%)がフェニルアラニン水酸化酵素の欠損によるものであるが,ジヒドロビオプテリン合成酵素の欠損のためにBH4が合成されない場合,また,ジヒドロプテリジン還元酵素の欠損のためにBH4が再生されない場合でも,フェニルアラニンの蓄積が起こりうる。さらに,BH4はドパミンおよびセロトニンの合成に関与するチロシン水酸化酵素の補因子でもあるため,BH4の欠乏は神経伝達物質の合成に影響を与えることにより,フェニルアラニンの蓄積とは独立して神経症状を引き起こす。
PKUの症状と徴候
出生時にはフェニルケトン尿症の小児の大半が正常であるが,フェニルアラニンの蓄積に伴い数カ月かけて症状と徴候が徐々に出現してくる。無治療のPKUの特徴は重度の知的障害である。患児は極度の多動性,歩行障害,精神症症状を呈し,尿および汗に含まれるフェニル酢酸(フェニルアラニンの分解産物)によるネズミの匂いに似た不快な体臭がしばしば認められる。患児はまた,罹患していない家族と比べて皮膚,毛髪,および眼の色が薄くなる傾向にあり,症例によっては乳児湿疹に類似した発疹がみられることもある。
PKUの診断
ルーチンの新生児スクリーニング
フェニルアラニン値
(American College of Medical Genetics and Genomics Therapeutic Committeeのフェニルアラニン水酸化酵素欠損症の診断および管理に関する2013年版ガイドラインも参照のこと。)
米国および多くの先進国においては,フェニルケトン尿症に対して出生後24~48時間後にいくつかの血液検査の1つを用い,全ての新生児にスクリーニングが実施されており,異常がみられた場合には,フェニルアラニン値の直接測定により確認される。古典型PKUでは,新生児のフェニルアラニン値がしばしば20mg/dL(1.2mM/L)を超える。部分的欠損の典型例では通常食で8~10mg/dL未満であるが(6mg/dLを超える場合は治療が必要),古典型PKUとの鑑別には,遺伝子変異解析による該当遺伝子の軽度の変異の同定か,頻度は下がるが肝フェニルアラニン水酸化酵素活性の定量による正常比5~15%の活性の証明が必要となる。
BH4欠乏型は,尿中,血中,髄液中,またはこれら全てにおけるビオプテリンまたはネオプテリン濃度の高値によって他の病型のPKUと鑑別される;遺伝子検査が用いられることもある。PKUに対する標準治療では神経損傷を予防できないため,この病型を認識しておくことが重要であり,初回診断時にビオプテリンの尿中プロファイルをルーチンに測定すべきである。
家族歴が陽性の家系における小児では,絨毛採取または羊水穿刺施行後の直接的変異分析による出生前診断が可能である。
PKUの予後
出生当日から十分な治療を開始すれば,本疾患の重度の症状を予防できる。しかしながら,たとえ食事管理が良好であっても,軽度の認知障害や精神衛生上の問題が発生する可能性は依然としてある。2~3歳を過ぎてから治療を開始した場合は,治療効果が期待できるのは,極度の多動性および治療抵抗性の痙攣発作のコントロールのみである。
妊娠中にPKUの管理が不良であった(すなわち,フェニルアラニン高値であった)母親から生まれる子では,小頭症および発達障害のリスクが高い。
PKUの治療
フェニルアラニン制限食
フェニルケトン尿症の治療は,生涯にわたる食事でのフェニルアラニンの摂取制限である。天然タンパク質には例外なく約4%フェニルアラニンが含まれている。そのため,以下を含む食事が必要である:
低タンパク質の自然食品(例,果物,野菜,特定の穀物)
フェニルアラニンを除去したタンパク質加水分解物
フェニルアラニンを含有しない基本アミノ酸混合物(elemental amino acid mixture)
市販されているフェニルアラニン除去食品としては,PKU Anamix®(乳児用),XPhe Maxamaid®(1~8歳の小児用),XP Maxamum®(> 8歳の小児用);Phenex®-1およびPhenex®-2;Phenyl-Free® 1およびPhenyl-Free® 2;PhenylAde®(シリーズ);PKU Lophlex®LQ;ならびにPhlexy-10®(複数の製品)などがある。フェニルアラニンは成長および代謝のために一定量が必要となるため,牛乳または低タンパク質食品から天然タンパク質の量を測定して,この必要量を摂取する。
血漿フェニルアラニン値の頻回のモニタリングが必要であり,全ての小児において推奨目標値は2~6mg/dL(120~360μmol/L)である。妊娠する可能性のある女性では,胎児の転帰を良好にするために食事の計画および管理を妊娠前から開始する必要がある。PKU患者ではチロシンが必須アミノ酸であるため,チロシン補充の使用が増加している。さらに,フェニルアラニン水酸化酵素の欠損がある全ての患者において,サプロプテリンの有益性を判定するため,この薬剤の試験的投与を行うべきである。
BH4欠乏型の患者に対する治療法としては,テトラヒドロビオプテリン1~5mg/kg,経口,1日3回;レボドパ,カルビドパ,5-OHトリプトファン;ジヒドロプテリジン還元酵素欠損症の場合のフォリン酸10~20mg,経口,1日1回などもある。ただし,治療目標およびアプローチはPKUのものと同じである。
要点
PKUの原因は,いくつかある遺伝子変異の1つが原因でフェニルアラニン水酸化酵素が欠乏または欠損し,食事で摂取されたフェニルアラニンが蓄積することによる;主に障害される臓器は脳であり,これは髄鞘形成の障害によるものと考えられる。
PKUは,認知および行動の異常を伴う知的障害の臨床症候群を引き起こし,無治療の場合,知的障害は重度となる。
米国および多くの先進国においては,全ての新生児に対し出生後24~48時間後にいくつかの血液検査の1つを用いてフェニルケトン尿症のスクリーニングが実施されており,異常がみられた場合には,フェニルアラニン値の直接測定により確認される。
治療はフェニルアラニン制限食を生涯続けることによる;出生当日から十分な治療を開始すれば,多くの症状を予防できる。
治療を行えば予後は極めて良好であるが,血漿フェニルアラニン値の頻回のモニタリングが必要であり,全ての小児において推奨目標値は2~6mg/dL(120~360μmol/L)である。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
American College of Medical Genetics and Genomics Therapeutic Committee: Diagnosis and management guidelines for phenylalanine hydroxylase deficiency (2013)
Online Mendelian Inheritance in Man® (OMIM®) database: Complete gene, molecular, and chromosomal location information