産後うつ病

執筆者:Julie S. Moldenhauer, MD, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2022年 1月
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産後うつ病は,分娩後2週間を超えて持続し,うつ病の基準を満たす抑うつ症状である。

産後うつ病は分娩後の女性の10~15%に起こる。全ての女性にリスクがあるが,以下を有する女性でリスクがより高い:

  • マタニティーブルー(例,激しい気分変動,易刺激性,不安,集中力低下,不眠症,涙もろさ)

  • 産後うつ病の以前のエピソード

  • 以前に診断されているうつ病

  • うつ病の家族歴

  • 生活面での著明なストレス因子(例,夫婦間の不和,前年のストレスの強い出来事,経済的困難,片親での育児,うつ病のパートナー)

  • パートナーまたは家族のサポートの欠如(例,金銭的または育児サポート)

  • 月経または経口避妊薬使用に伴う一過性の気分変化の既往

  • 以前または現在の不良な産科転帰(例,以前の流産,早産,児の新生児集中治療室への入室,児の先天性形成異常)

  • 現在の妊娠についての以前のまたは持続する「望んでいなかった」という気持ち(例,妊娠が計画外,または中絶を考慮していた)

  • 授乳に関する問題

産後うつ病の明確な病因は不明であるが,うつ病の既往は大きなリスクであり,産褥期のホルモン変化,睡眠不足および遺伝的感受性が寄与することがある。

一過性の抑うつ症状(マタニティーブルー)は,分娩後の1週間に非常に多くみられる。マタニティーブルーは典型的には2~3日間(最長2週間まで)続き,比較的軽度であるため,産後うつ病とは異なる;対照的に,産後うつ病は2週間以上続き,生活機能を障害し,日常生活動作を困難にする。

産後うつ病の症状と徴候

産後うつ病の症状はうつ病のそれと類似し,以下のものがある:

  • マタニティーブルー(例,激しい気分変動,易刺激性,不安,集中力低下,不眠症,涙もろさ)

  • 極度の悲しみ

  • 気分変動

  • コントロールできずに泣く

  • 不眠症または過眠

  • 食欲喪失または過食

  • 易刺激性および怒り

  • 頭痛,身体の疼きおよび痛み

  • 極度の疲労

  • 子供に対する非現実的な心配または無関心

  • 育児ができない,または母親として不十分であるという感覚

  • 子供を傷つける恐れ

  • 自分の感情への罪悪感

  • 希死念慮

  • 不安またはパニック発作

典型的には,症状は3カ月にわたり潜行性に進行するが,発症は突然であることがある。産後うつ病は女性が自分自身および子供をケアする能力を妨げる。

女性は乳児と絆を築くことができず,後に子供に情緒的,社会的,および認知的問題が生じることがある。

パートナーもうつ病のリスクが高くなる可能性があり,両親のどちらかがうつ病である場合には関係におけるストレスが生じることがある。

無治療では,産後うつ病は自然に解消することも慢性うつ病となることもある。再発のリスクは約1/3~4である。

産後精神症の発生はまれである;未治療の産後うつ病および精神症は最も重度の合併症である自殺および子殺しのリスクを上昇させる。

産後うつ病の診断

  • 臨床的評価

  • うつ病の基準

産後うつ病の早期診断および治療によって女性および乳児の転帰が顕著に改善する。

産後うつ病(またはその他の重篤な精神疾患)は,2週間を超えて5つ以上の症状がみられる場合に診断される;症状としては,抑うつ気分および/または興味もしくは喜びの喪失などがあり,さらに以下のものがみられる:

  • 有意な体重減少,食欲不振,または体重増加

  • 不眠症または過眠

  • 精神運動興奮または制止

  • 無価値感または罪悪感

  • 集中力の低下

  • 自殺または他殺念慮(女性にこれらの願望について具体的に尋ねるべきである)

文化的および社会的因子のために,女性が抑うつ症状を自ら言い出さないことがあるため,医療従事者は分娩前後にこれらの症状について尋ねるべきである。また女性には,新しく母親になったことへの正常な反応(例,疲労,集中困難)と取り違えられることがある,抑うつの症状を認識するように伝えるべきである。

産後健診の際には全ての女性に対し,妥当性が確認されたスクリーニングツールを用いて,産後うつ病のスクリーニングを行うべきである。そのようなスケールには,例えばエジンバラ産後うつ病スケール(Edinburgh Postnatal Depression Scale)や産後うつ病スクリーニングスケール(Postpartum Depression Screening Scale)も含まれる(1)。

幻覚,妄想,または精神症的行動のある患者では,産後精神症について評価するべきである。

診断に関する参考文献

  1. 1.American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG) Committee on Obstetric Practice: Committee Opinion No. 757: Screening for Perinatal Depression.Obstet Gynecol 130 (3): 132 (5):e208–e212, 2018.doi: 10.1097/AOG.0000000000002927

産後うつ病の治療

  • 抗うつ薬

  • 精神療法

産後うつ病の治療には,抗うつ薬および精神療法を含む。女性がかなりの不安を有する場合,抗不安薬で治療することがある。

産後に精神症症状がみられる女性は,入院が必要な場合があり,その場合には乳児とともに過ごせるような監督下の病室が望ましい。抗うつ薬とともに,抗精神病薬が必要となりうる。

要点

  • マタニティーブルーは分娩後最初の1週間に非常によく起こり,典型的には2~3日間(最長2週間まで)持続し,比較的軽度である。

  • 産後うつ病は女性の10~15%に起こり,2週間を超えて持続し生活に支障を来す(マタニティーブルーと対照的)。

  • 症状はうつ病のそれと類似することがあり,不安が含まれることもある。

  • 産後うつ病は,児に有害作用を及ぼしたり,パートナーとの関係にストレスをもたらすことがある。

  • 全ての女性に産後うつ病の症状を認識するように伝え,分娩の前後に抑うつ症状について尋ねる。

  • 産後健診の際には全ての女性に対し,気分症の定型的なスクリーニングを行う。

  • 可能な限り最善の転帰を得るため,可能な限り早期に産後うつ病を同定し治療する。

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