卵巣がん,卵管癌,および腹膜癌

執筆者:Pedro T. Ramirez, MD, Houston Methodist Hospital;
Gloria Salvo, MD, MD Anderson Cancer Center
レビュー/改訂 2022年 7月
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卵巣がんは通常,診断時には進行しているため,致死的となることが多い。最も頻度の高い組織型である高異型度漿液性卵巣がんは,共通する臨床的特徴があることから,卵管癌および腹膜癌と併せて単一の臨床疾患単位と考えられている。症状は通常,みられないか,非特異的である。評価として通常,超音波検査,CTまたはMRI,および腫瘍マーカー(例,CA125)の測定を行う。診断は組織学的分析による。進行期診断は外科的に行う。治療として,子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術,浸潤病変の可能な限りの切除(腫瘍減量手術)が必要であり,通常は化学療法が必要である。

米国では,卵巣がんは婦人科がんとして2番目に多い(70人に約1人罹患する)。卵巣がんは,女性におけるがん関連死因の第5位であり,米国では2022年に推定19,880例の新規症例および12,810例の死亡が推定されている(1)。発生率は先進国で高い。

総論の参考文献

  1. 1.American Cancer Society: Key Statistics for Ovarian Cancer.Accessed 6/21/22.

卵巣がんの病因

卵巣がんは主に閉経期と閉経後女性に生じる。

卵巣がんのリスクの上昇は以下による:

  • 第1度近親者の卵巣がんの既往

  • 未経産

  • 高齢での出産

  • 早い初経

  • 閉経の遅れ

  • 子宮内膜がん(子宮体がん),乳癌,または結腸癌の既往歴または家族歴

リスクの低下は以下による:

  • 経口避妊薬の使用

高異型度漿液性卵巣がんでは,14~18%の患者でBRCA1(breast cancer 1)およびBRCA2(breast cancer 2)遺伝子の生殖細胞系列変異が同定され,3%に体細胞BRCA変異(BRCAm)またはメチル化による不活化が認められる(1)。高異型度漿液性卵巣がんでは,約半数の患者で相同組換え(DNA損傷の修復と複製に関与する)の欠損が検出される(2)。

BRCA遺伝子の常染色体顕性(優性)変異は,50~85%の乳癌の生涯発生リスクに関連している。BRCA1変異を有する女性では,卵巣がんの生涯発生リスクが20~40%であるが,BRCA2変異を有する女性のリスクは11~20%である。これらの変異の発生率はアシュケナージ系ユダヤ人の祖先をもつ人々で一般集団よりも高い。TP53PTENSTK11/LKB1CDH1CHEK2ATMMLH1,およびMSH2を含むいくつかの他の遺伝子の変異は遺伝性乳癌および/または卵巣がんに関連している。

胚細胞腫瘍は通常30歳未満の女性で生じる。XY性腺形成不全症は卵巣胚細胞腫瘍の素因となる。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Cancer Genome Atlas Research Network: Integrated genomic analyses of ovarian carcinoma.Nature 474 (7353):609–615, 2011.doi: 10.1038/nature10166

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卵巣がんの病理

卵巣がんは組織学的に多様である(卵巣がんの種類の表を参照)。

大半(90%)の卵巣がんは上皮細胞から発生し,残り(胚細胞腫瘍,性索間質性腫瘍)は卵巣の他の種類の細胞から発生する。

上皮性卵巣がんは以下の5つの組織型に分類される:

  • 高異型度漿液性癌

  • 低異型度漿液性癌

  • 類内膜癌

  • 明細胞癌

  • 粘液性癌

高異型度漿液性癌は,上皮性卵巣がんの最も頻度の高い組織型(70%を超える)であり,通常は進行がんとして診断される。高異型度漿液性卵巣がん,卵管癌,および腹膜癌は,それぞれ臨床像および治療法が共通している。リスク低減のための両側卵管卵巣摘出術を受けたBRCA変異陽性女性を対象とした研究結果に基づくと,卵巣腫瘤または腹膜病変として顕在化する高異型度漿液性癌の大半は卵管に由来する。

粘液性卵巣がんは,他の組織型よりI期で発見される可能性が高く,I期の上皮性卵巣がん患者の27%近くを占めている。

表&コラム
表&コラム

卵巣がんは以下のように拡がる:

  • 直接進展

  • 腹腔への細胞のばらまき(腹膜播種)

  • 骨盤と大動脈周辺へのリンパ行性転移

  • 肝や肺への血行性転移(それほど多くはない)

卵巣がんの症状と徴候

卵巣がんは無症状のことがある。症状が存在する場合,それらは非特異的である(例,ディスペプシア,腹部膨満,早期満腹感,排便習慣の変化,頻尿)。末期には,卵巣腫大や腹水により骨盤痛,貧血,悪液質,腹部の腫脹が生じる。

付属器の腫瘤(しばしば充実性,不整形,固着している)が偶発的に発見されることがある。内診および腟直腸診で,典型的にはびまん性に結節性の腫瘤が検出される。少数の患者は卵巣腫瘤の捻転に続発した重度の腹痛で受診する。

ホルモンを産生する胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍は,機能的影響を及ぼすことがある(例,甲状腺機能亢進症,女性化,男性化)。

卵巣がんの診断

  • 超音波検査(早期がんが疑われる場合),CTまたはMRI(進行がんが疑われる場合)

  • 腫瘍マーカー(例,がん抗原[CA]125)

卵巣がんは以下を認める女性で疑われる:

  • 原因不明の付属器腫瘤

  • 原因不明の腹部膨満

  • 排便習慣の変化

  • 意図しない体重減少

  • 原因不明の腹痛

閉経後女性において卵巣腫瘤は悪性である可能性が高い。良性の機能性嚢胞は,妊娠可能年齢の女性では機能性の胚細胞腫瘍や性索間質性腫瘍と似ていることがある。

腹水を伴う骨盤内腫瘤は卵巣がんを示唆するが,Meigs症候群(腹水と右胸水を伴う良性の線維腫)でも認めることがある。

画像検査

早期がんが疑われる場合は,まず超音波検査を行う;以下の所見はがんを示唆する:

  • 充実性成分

  • 表面の突出

  • 大きさ > 径6cm

  • 不整形

  • 経腟ドプラ血流検査における低い血管抵抗

進行がんが疑われる場合(例,腹水,腹部膨隆または身体診察中にみつかる結節または固定)は,通常CTまたはMRIを術前に行い,がんの進展度を判断する。

腫瘍マーカー

非上皮性腫瘍(例,胚細胞腫瘍,性索間質性腫瘍)の腫瘍マーカーにはβ-ヒト絨毛性ゴナドトロピンサブユニット(β-hCG),乳酸脱水素酵素(LDH),α-フェトプロテイン,およびインヒビンが含まれる;これらは典型的に若年患者で測定されるが,若年患者はこれらのがんのリスクがより高い。CA125も測定する。閉経期および閉経後の患者では,この年齢層における卵巣がんは大半が上皮性腫瘍であることから,CA125のみ測定する。CA125は進行上皮性卵巣がんの80%で上昇するが,早期では正常範囲内である場合がある。子宮内膜症,骨盤内炎症性疾患,妊娠,子宮筋腫,腹膜炎,または卵巣がん以外に由来する腹膜癌などでも軽度に上昇することがある。

閉経後女性における,充実性と嚢胞性が混合した骨盤内腫瘤で,特にCA125の上昇がある場合には卵巣がんの疑いが生じる。

組織型

生検は,細胞の漏出を引き起こして進展範囲の拡大につながる可能性があるため,手術適応がない患者を除き,ルーチンには推奨されない。まれに,生検が行われる場合,腫瘤に関しては針生検,腹水に関しては穿刺吸引により検体を採取する。

超音波検査で良性に見える腫瘤に対しては,6週間後とその後3~6カ月毎に,悪性所見が生じていないことが確認されるまで超音波検査を繰り返す。良性に見える腫瘤としては,良性嚢胞性奇形腫(類皮嚢胞),卵胞嚢胞,子宮内膜症性嚢胞などがある。はっきりしない腫瘤には,組織型を確定するために試験開腹と片側卵管卵巣摘出術が必要になることがある。

進行期診断

卵巣がんは外科的に進行期診断を行う(卵巣がん,卵管癌,および腹膜癌のFIGO外科的進行期分類の表を参照)。

表&コラム
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早期がんが疑われる場合,進行期診断は腹腔鏡下またはロボット補助下腹腔鏡手術で行われることがある。それ以外では,上腹部へ十分に到達可能な腹部正中切開が必要である。

進行期診断のための手技として子宮全摘出術や両側卵管卵巣摘出術などがある。全ての腹膜面,横隔膜,腹腔内および骨盤内臓器を視診し,触診する。骨盤内,傍結腸溝,横隔膜洞からの洗浄液を採取し,中央と外側の骨盤部および腹部の腹膜について複数の生検を行う。早期例では,大網部分切除を行うとともに,骨盤および傍大動脈リンパ節の組織検体を採取する。センチネルリンパ節生検は卵巣がん患者にはルーチンに行われない。

また,がんは組織学的にも分類し,上皮性卵巣がんは低異型度(グレード1)または高異型度(グレード2または3)に分類される。

卵巣がんの予後

治療を行った場合の卵巣がんの女性の5年生存率は以下の通りである:

  • I期:85~95%

  • II期:70~78%

  • III期:40~60%

  • IV期:15~20%

腫瘍の悪性度が高い場合,または手術で明らかに浸潤している組織を全て切除できない場合,予後は不良となる;これらの症例では,浸潤組織を直径1cm未満または理想的には顕微鏡的残存にまで減少させることができれば(腫瘍減量手術),予後は最良となる。

III期およびIV期の卵巣がんでは,再発率は約70%である。

卵巣がんの治療

  • 通常,子宮摘出術および両側卵管卵巣摘出術

  • 腫瘍減量手術

  • 通常,術後化学療法,しばしばカルボプラチンおよびパクリタキセルを用いる

National Comprehensive Cancer Network (NCCN): NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Ovarian Cancerも参照のこと。)

卵巣がん,卵管癌,および腹膜癌の治療は,進行期,グレード,および組織型に基づく:

  • IA期またはIB期の卵巣腫瘍(卵巣に限局)および/またはグレード1の類内膜腫瘍では,手術単独後の予後は極めて良好である(生存率90%)。

  • IC期,II期,グレード3,または明細胞癌の患者には,アジュバント化学療法(例,カルボプラチンとパクリタキセルによる)が推奨される。

  • III期またはIV期に対しては,初回治療としての腫瘍減量手術に続いて全身化学療法を行うのが標準治療となっている。外科的切除の適応がない患者(がんの部位および大きさまたは併存症のため)には,ネオアジュバント化学療法とその後の腫瘍減量手術が望ましい選択肢である。

通常は子宮摘出術および両側卵管卵巣摘出術の適応であるが,若年患者におけるI期の非上皮性卵巣がんや低悪性度かつ片側性の上皮性卵巣がんでは,侵されていない卵巣と子宮を温存する妊孕性温存治療を考慮してもよい。

以下の少なくとも1つ以上に当てはまる場合は,ネオアジュバント化学療法の適応となる可能性がある:

  • 複数の肝転移

  • 肝門部リンパ節腫脹

  • 腎上部の傍大動脈リンパ節転移

  • びまん性腸間膜転移

  • 胸膜または実質性肺転移の所見

ある大規模ランダム化試験では,ネオアジュバント化学療法後に手術を施行した方が,手術後に化学療法を施行した場合よりも周術期の合併症発生率が低く,長期生存率は同程度であった(1)。

外科的進行期診断および腫瘍減量手術

卵巣がん,卵管癌,および腹膜癌に対する外科的手技としては,進行期診断や腫瘍減量手術(可能であれば明らかな浸潤組織を全て外科的に切除する)などがある。腫瘍減量手術は生存期間の延長と関連し,腫瘍減量手術後の残存病変の体積は生存期間と逆相関する。

卵巣がんに対する腫瘍減量手術には通常,以下が含まれる:

  • 大網亜全切除とときに直腸S状結腸の切除(通常は一次再吻合を伴う)

  • 根治的腹膜剥離

  • 横隔膜腹膜切除または脾臓摘出

腫瘍減量手術としては以下のものがある:

  • Complete surgery:腫瘍減量手術により肉眼で確認できる病変がなくなった場合

  • Optimal surgery:Gynecologic Oncology Groupの定義では,腫瘍減量手術により残存病変の最大径が1cm以下になった場合

  • Suboptimal surgery:腫瘍減量手術後に1cmを超える目視可能な腫瘍結節が残存している場合

腫瘍減量手術は生存期間の延長と関連することから,肉眼で確認できる病変を全て切除する腫瘍減量手術を行える時期を予測できることが重要であるが,これは困難である;統一された基準は存在しない。

以下が認められる患者では,optimal surgeryが行える可能性は低い:

  • PS(performance status)不良

  • 年齢 > 60歳

  • American Society of AnesthesiologistsのPhysical Statusの3または4に相当する

  • 併存症

  • 栄養状態不良

  • 腹腔外転移

  • 大きな腫瘍

  • 大腸への進展

  • 腎動静脈より上の後腹膜リンパ節転移および最大径が1cmを超える

  • 肝実質転移

  • 手術前CA125 > 500U/mL

Fagottiスコアは7つの腹腔鏡所見に基づいており,進行卵巣がん患者におけるoptimal surgeryの可能性を予測するのに役立つ可能性がある。このスコアリングシステムは,特定の部位における病変の有無に基づき,0または2のスコアを付与する。患者のスコアが10以上の場合,optimal surgeryが行える可能性は非常に低い。スコアが10未満の患者は,腫瘍減量手術の対象とみなされる(2)。

開腹手術前の診断的腹腔鏡検査により,患者にとって不必要な開腹(結果としてsuboptimal surgeryとなる)を避けることができる。腹腔鏡検査により,医師は組織生検を行い,確定診断を下し,生検検体を分析することができる。そのため,腫瘍減量手術の対象にならない患者は,化学療法を早期に開始できる。Optimal surgeryを実施できる可能性が低い腹腔鏡検査所見としては以下のものがある:

  • Omental cake

  • 広範にわたる腹膜播種または横隔膜播種

  • 腸間膜の引きつれ

  • 腸管および胃への浸潤

  • 脾臓および/または肝臓の表面への転移

全身または腹腔内化学療法

新たに卵巣がんと診断された患者の大半では病巣が腹膜全体に広がっており,そのため,治療は以下のいずれかとなる(進行期と組織型に応じた卵巣がんの術後治療の表を参照):

  • 進行期診断および腫瘍減量手術の後,6サイクルの静注化学療法

  • 3サイクルのネオアジュバント化学療法の後,手術とさらに3サイクルの化学療法

標準化学療法は6コースのパクリタキセルとカルボプラチンである。患者特性に応じて,その他の化学療法薬が使用されることがある。

再発リスクがより高い特定の患者(例,胸水または腹水がみられ,BRCA変異がない患者)では,化学療法にベバシズマブを追加し,それを維持療法として継続することが選択肢の1つである。

PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)は,DNAの一本鎖切断の修復に不可欠な酵素である。PARP酵素を阻害すると,一本鎖切断の状態が持続し,それによりDNA複製中に二本鎖切断が蓄積し,最終的に腫瘍細胞死に至る。

いくつかの臨床試験では,漿液性癌または高異型度類内膜癌の卵巣がんで一次化学療法を完了していた患者において,BRCA1変異とBRCA2変異のいずれも有していない患者も含めて,化学療法後のPARP阻害薬(PARPi)の投与により無増悪生存期間が改善した(3,4,5,6)。

2つのプラセボ対照試験では,一次治療としてプラチナ製剤による治療に反応した患者を対象として,PARPiによる維持療法が評価された。SOLO1試験では,体細胞および生殖細胞系列のBRCAmを有する患者を対象としてオラパリブが評価され(7),PRIMA/ENGOT-Ov26試験では,新たに進行卵巣がんと診断された患者(BRCAmキャリアに限定しない[4])を対象としてニラパリブが評価された。

VELIA試験には,未治療のIII期またはIV期高異型度漿液性卵巣がん患者が組み入れられた。この3群試験では,標準化学療法単独,標準化学療法 + ベリパリブ,標準化学療法 + ベリパリブとその後のベリパリブによる維持療法が比較された(3)。無増悪生存期間は,化学療法 + ベリパリブ + ベリパリブ維持療法群が最も長かった。

カテーテルを用いた腹腔内化学療法が静注化学療法の代替として提唱されている。腹腔内化学療法では,化学療法薬を腹膜表面に直接送達することで,顕微鏡的残存病変を排除する。進行期の卵巣がんでは,静注化学療法と腹腔内化学療法の併用により,初回治療としての腫瘍減量手術後の全生存期間が延長するようである(8)。このアプローチには合併症がないわけではなく,カテーテル関連の合併症が使用を制限しうる(9)。

腫瘍減量手術に続いて術中に温熱条件下で腹腔内に化学療法薬を直接送達する治療法(HIPEC)が結腸癌患者に用いられており,卵巣がんを対象とする研究が進められている。HIPECの潜在的な有益性は,DNA修復を障害することによって化学療法に対する感受性が増すことであり,アポトーシスを誘導し,熱ショックタンパク質を活性化する。

表&コラム
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化学療法により臨床的完全奏効が得られても(すなわち,身体診察が正常,血清CA125が正常,腹部と骨盤のCTが陰性),III期やIV期の患者のうち約50%に腫瘍が残存する。CA125が持続的に上昇している患者のうち,90~95%に腫瘍残存がある。

再発がん

卵巣がんの再発は,血清学的に腫瘍マーカー(例,CA125)によって,および/または放射線学的な進行の徴候によって検出可能である。再発例の治療法は,プラチナ製剤を含む治療が完了してから再発が検出されるまでの期間(platinum-free interval[PFI])に依存する。

  • 6カ月以上のPFIは,プラチナ製剤感受性を示唆する。

  • 6カ月未満のPFIは,プラチナ製剤抵抗性を示唆する。

再発卵巣がん患者に対する主な治療は全身療法である。化学療法が効果を示した後に再発または進行した場合は,化学療法を再開する。卵巣がんに有用な薬剤としては,リポソーム化ドキソルビシン,ドセタキセル,パクリタキセル,ゲムシタビン,ベバシズマブや,シクロホスファミド + ベバシズマブまたはゲムシタビン + シスプラチンの併用などがある(10)。生物学的製剤による分子標的療法は研究中である。

プラチナ製剤感受性の卵巣がんが再発した場合は,PARP阻害薬(オラパリブ,ニラパリブ,またはルカパリブ[rucaparib])を維持療法に使用する(11,12)。

プラチナ製剤感受性の卵巣がん患者に対する二次治療としての腫瘍減量手術のランダム化試験では,様々な結果が得られている。いくつかの試験では,腫瘍減量手術に続く化学療法と化学療法単独とが比較され,ある試験(GOG-0213)では全生存期間の延長は認められなかったが,他の試験では全生存期間(DESKTOP IIIで53.7カ月 vs 46.0カ月)または無増悪生存期間(SOC-1で17.4カ月 vs 11.9カ月[13,14,15])に有意な延長が認められた。

治療に関する参考文献

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  2. 2.Petrillo M, Vizzielli G, Fanfani F, et al: Definition of a dynamic laparoscopic model for the prediction of incomplete cytoreduction in advanced epithelial ovarian cancer: Proof of a concept.Gynecol Oncol.139 (1):5–9, 2015.doi:10.1016/j.ygyno.2015.07.095 Epub 2015 Jul 18.

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  5. 5.Ray-Coquard I, Pautier P, Pignata S, et al: Olaparib plus bevacizumab as first-line maintenance in ovarian cancer.N Engl J Med 381 (25):2416–2428, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1911361

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  8. 8.Armstrong DK, Bundy B, Wenzel L, et al: Intraperitoneal cisplatin and paclitaxelin in ovarian cancer.N Engl J Med 354:34–43, 2006.doi: 10.1056/NEJMoa052985

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  12. 12.Pujade-Lauraine E, Ledermann JA, Selle F, et al: Olaparib tablets as maintenance therapy in patients with platinum-sensitive, relapsed ovarian cancer and a BRCA1/2 mutation (SOLO2/ENGOT-Ov21): A double-blind, randomised, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol 18 (9):1274–1284, 2017.doi: 10.1016/S1470-2045(17)30469-2 Epub 2017 Jul 25.

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卵巣がんの予防

BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもつ患者で,挙児希望が無い場合には,予防的両側卵管卵巣摘出術を行うことで,卵巣がんのリスクが,また程度は低いが乳癌のリスクが低下する。BRCA1またはBRCA2遺伝子変異をもつ患者ではカウンセリングのため婦人科腫瘍専門医に紹介すべきである。

スクリーニング

卵巣がんに対するスクリーニング検査は存在しない。しかしながら,BRCA変異などの既知の遺伝的なリスクがある女性は,注意深く経過観察すべきである。

大規模試験のデータはCA125が高い特異度(ある研究では最大99.9%)をもつことを示しているが,感度は中程度(ある研究では71%)に過ぎず,陽性適中率は低い;したがって,無症状で平均的なリスクの女性へのスクリーニング検査としてはCA125は推奨されない。

集学的スクリーニングが研究されているが,有効性は確定されていない。ある大規模ランダム化試験では,年1回の集学的スクリーニング(CA125,経腟超音波検査[TVUS])とスクリーニングなしの場合が比較された。追跡期間中央値16.3年の時点で,集学的スクリーニングによって早期の卵巣がんまたは卵管癌を有する女性がより多く検出されたが,卵巣がんまたは卵管癌による死亡に有意な減少は認められなかった (1)。

乳癌および卵巣がんは大半が散発性であり,BRCA変異を原因とするものの割合は乳癌で約6%,卵巣がんで15%に過ぎない。しかしながら,卵巣がん,卵管癌,または腹膜癌と診断された全ての女性において遺伝性がん症候群の評価を考慮すべきであり,そのような女性には遺伝学的リスク評価を行うべきである。BRCA1またはBRCA2の生殖細胞系列または体細胞変異は,主治療や維持療法に影響を及ぼす可能性がある。遺伝性がん症候群(例,BRCA1またはBRCA2変異が関与するもの,リンチ症候群[遺伝性非ポリポーシス大腸癌])を有する可能性が高い女性を同定するため,他のがんの詳細な既往歴および家族歴を聴取すべきである。

家族歴に以下のいずれかがある場合には,BRCA遺伝子の異常をスクリーニングすべきである:

  • 第1度近親者が40歳前に卵巣がんと診断される。

  • 1人の第1度近親者が乳癌および卵巣がんと診断され,そのいずれかが50歳前に診断される。

  • 同家系の第1度および第2度近親者に卵巣がん2症例を認める。

  • 同家系の第1度または第2度近親者に乳癌2症例および卵巣がん1症例を認める。

  • 同家系の第1度または第2度近親者に乳癌1症例と卵巣がん1症例を認め,乳癌が40歳前に診断または卵巣がんが50歳前に診断される。

  • 同家系の第1度または第2度近親者に乳癌2症例を認め,両方とも50歳前に診断される。

  • 同家系の第1度または第2度近親者に乳癌2症例を認め,一方が40歳前に診断される。

また,アシュケナージ系ユダヤ人の女性が家系員の中に1人でも50歳前に診断された乳癌または卵巣がんを認める場合,BRCA遺伝子異常のスクリーニングを考慮すべきである。

予防に関する参考文献

  1. 1.Menon U, Gentry-Maharaj A, Burnell M, et al : Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): A randomised controlled trial.Lancet 397 (10290):2182–2193, 2021.doi: 10.1016/S0140-6736(21)00731-5 Epub 2021 May 12.

要点

  • 卵巣がんは大半が閉経後および閉経期女性に発生し,未経産,高齢出産,早い初経,閉経の遅れ,および特定の遺伝子マーカー(BRCA変異)によってリスクが上昇する。

  • 症状(例,ディスペプシア,腹部膨満,早期満腹感,gas pain,背部痛)は非特異的である。

  • がんが疑われる場合は,まず超音波検査(ときに続けてCTまたはMRI)と腫瘍マーカー(例,CA125)の測定を行う。

  • 典型的には,治療は外科的進行期診断(子宮摘出術,両側卵管卵巣摘出術,骨盤内洗浄,および腹膜生検)および腫瘍減量手術とその後の化学療法(例,カルボプラチン,パクリタキセル,およびベバシズマブ)となる。

  • 平均的リスクの女性に対して効果的なスクリーニングはないが,高リスクの女性(例,BRCA変異キャリア)には超音波検査および/またはCA125によるスクリーニングを行う。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. National Cancer Institute: Ovarian, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancer: This web site provides links to information about causes, genetics, prevention, and treatment of ovarian, fallopian tube, and primary peritoneal cancer, as well as links to information about screening, statistics, and supportive and palliative care.

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