産褥子宮内膜炎

執筆者:Julie S. Moldenhauer, MD, Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2022年 1月
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産褥子宮内膜炎は子宮の感染症であり,通常は下部性器や消化管から上行してくる細菌によって引き起こされる。症状として,子宮の圧痛,腹痛または骨盤痛,発熱,倦怠感,ときに分泌物がみられる。診断は臨床的に行うが,まれに培養を要する。治療は広域抗菌薬(例,クリンダマイシンとゲンタマイシンの併用)による。

産褥子宮内膜炎の発生率は主に分娩様式により異なる:

  • 経腟分娩:1~3%

  • 予定帝王切開(陣痛開始前に施行):5~15%

  • 緊急帝王切開(陣痛開始後に施行):15~20%

患者の特徴も発生率に影響する。

産褥子宮内膜炎の病因

子宮内膜炎は,分娩中または分娩後における絨毛膜羊膜炎の後に発生しうる。素因となる状態としては以下のものがある:

複数菌感染であることが多く,最も頻度の高い病原体としては以下のものがある:

  • グラム陽性球菌(主にB群レンサ球菌,表皮ブドウ球菌[Staphylococcus epidermidis],および腸球菌[Enterococcus]属)

  • 嫌気性菌(主にPeptostreptococcus属,Bacteroides属,およびPrevotella属)

  • グラム陰性細菌(主にGardnerella vaginalis,大腸菌[Escherichia coli],肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]およびProteus mirabilis

感染は子宮内膜(子宮内膜炎),子宮傍組織(子宮傍結合組織炎),および/または子宮筋層(子宮筋層炎)で起こることがある。

まれに,腹膜炎,骨盤内膿瘍,骨盤血栓性静脈炎肺塞栓症のリスクを伴う)が単独で,または複合して発生することがある。多くはないが,敗血症性ショックおよびその続発症(死亡を含む)が起きる。

産褥子宮内膜炎の症状と徴候

典型的には,産褥子宮内膜炎の初期症状は下腹部痛および子宮の圧痛で,その後に発熱(分娩後24~72時間以内に起こることが最も多い)が生じる。悪寒,頭痛,倦怠感,および食欲不振がよくみられる。症状が微熱のみである場合もある。

通常,蒼白,頻脈,白血球増多が起こり,子宮は軟らかで大きく,圧痛がある。分泌物は減少するか,多量で悪臭を認めることがあり,血液を伴うことも伴わないこともある。子宮傍組織が侵された場合には,疼痛および発熱は重度である;大きく,圧痛のある子宮は子宮広間膜の基部で硬結し,骨盤壁またはダグラス窩にまで至る。

骨盤内膿瘍が発生している場合,子宮からは離れた腫瘤または隣接した腫瘤として触知可能であるか,または標準的な抗菌薬療法にもかかわらず,発熱および腹痛が持続することがある。

産褥子宮内膜炎の診断

  • 臨床的評価

  • 通常他の原因を除外する検査(例,尿検査および尿培養)

分娩後24時間以内の診断は,疼痛,圧痛,および分娩後38℃を超える体温などの臨床所見に基づく。

初めの24時間以降は,連続する2日間に38℃以上の発熱を認める患者で他の原因が明らかでない場合,産褥子宮内膜炎が存在すると推測される。発熱および下腹部症状の他の原因としては,尿路感染症(UTI),創感染症,骨盤内の敗血症性血栓性静脈炎,会陰の感染などがある。子宮の圧痛は,帝王切開を受けた患者の創部の圧痛との区別が困難なことが多い。

微熱があり腹痛を認めない患者では,無気肺乳房緊満乳房感染,尿路感染症,下肢の血栓性静脈炎など他の潜在的原因について評価する。乳房緊満による発熱は39℃以下にとどまることが多い。微熱が2~3日続いた後体温が急に上昇する場合は,乳房緊満よりも感染が原因と考えられる。

尿検査および尿培養が通常行われる。

子宮内膜の培養は,頸部を通じて採取した検体がほぼ常に腟および頸部の細菌叢に汚染されているため,適応となるのはまれである。ルーチンの抗菌薬レジメンが子宮内膜炎に無効で,ほかに明らかな感染の原因がない場合のみ子宮内膜の培養を行うべきである;無菌的な腟鏡診を行うことで腟での汚染を避け,検体は好気培養および嫌気培養に供する。

血液培養が適応となるのはまれであり,ルーチンの抗菌薬レジメンが子宮内膜炎に無効な場合か,臨床所見から敗血症が示唆される場合に限られる。

子宮内膜炎の十分な治療にもかかわらずピークの体温が下がる傾向がなく,発熱が48時間を超えて(一部の医師は72時間をカットオフとする)続く場合は,骨盤内膿瘍および骨盤血栓性静脈炎(特に画像検査で膿瘍が明確でない場合)など他の原因を考慮すべきである。通常,CTによる腹部および骨盤の画像検査は膿瘍に感度が高いが,骨盤血栓性静脈炎については血栓が大きい場合のみ検出できる。画像検査でどちらにも異常がみられない場合には,通常は除外診断である骨盤血栓性静脈炎を推定し,典型的に治療としてヘパリンの試験的投与が開始される。治療への反応で診断が確定する。

パール&ピットフォール

  • 産褥子宮内膜炎の十分な治療により,48~72時間後にピークの体温に低下傾向がみられない場合には,骨盤内膿瘍を考慮し,特に画像検査で膿瘍がみられない場合には,敗血性骨盤血栓性静脈炎を考慮する。

産褥子宮内膜炎の治療

  • クリンダマイシン + ゲンタマイシン ± アンピシリン

産褥子宮内膜炎の治療は広域抗菌薬レジメンにより,発熱のない状態が48時間持続するまで静注を継続する。

第1選択として,クリンダマイシン(900mgを8時間毎に静注)とゲンタマイシン(1.5mg/kgを8時間毎に静注,または5mg/kg,1日1回)の併用投与がある(1);腸球菌感染が疑われる場合や,48時間経過までに改善がみられない場合には,アンピシリン(1gを6時間毎)を追加する。経口抗菌薬による維持療法は必要ない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Mackeen AD, Packard RE, Ota E, Speer L: Antibiotic regimens for postpartum endometritis.Cochrane Database Syst Rev (2):CD001067, 2015.doi: 10.1002/14651858.CD001067.pub3

産褥子宮内膜炎の予防

原因を予防または最小限にすることが不可欠である。経腟分娩を無菌化することはできないが,無菌的手技を用いる。

帝王切開の場合,予防的抗菌薬を手術の60分前に投与することで子宮内膜炎のリスクを最大75%まで減少できる。

要点

  • 産褥子宮内膜炎は帝王切開後(特に緊急手術であった場合)により頻度が高い。

  • 感染は通常,複数菌による。

  • 治療は臨床所見(例,産後痛,底部の圧痛,または原因不明の発熱)に基づき,広域抗菌薬を用いる。

  • 子宮内膜および血液培養はルーチンには行わない。

  • 帝王切開では手術の60分前に抗菌薬を予防投与する。

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