月経前症候群(PMS)

(月経前不快気分症;月経前緊張症)

執筆者:JoAnn V. Pinkerton, MD, University of Virginia Health System
レビュー/改訂 2023年 1月
意見 同じトピックページ はこちら

月経前症候群(PMS)は,反復性の黄体期障害(luteal-phase disorder)であり,易刺激性,不安,情緒不安定,抑うつ,浮腫,乳房痛,および頭痛を特徴とし,月経前の5日間に生じ,通常は月経開始後数時間で治まる。月経前不快気分症は重症型のPMSである。診断は臨床的に行い,しばしば患者の日々の症状の記録に基づく。治療は対症療法であり,具体的には食事,薬剤,カウンセリングが含まれる。

妊娠可能年齢の女性の約20~50%にPMSがみられ,約5%には月経前不快気分症(PMDD)と呼ばれる重症型のPMSがみられる。

PMSの病因

PMSの原因は不明である。

可能性のある原因や寄与因子として,以下のものがある:

  • 複数の内分泌性要因(例,低血糖,糖代謝における他の変化,高プロラクチン血症,エストロゲンおよびプロゲステロン血中値の変動,エストロゲンおよびプロゲステロンへの異常反応,アルドステロンや抗利尿ホルモン[ADH]の過剰)

  • 遺伝的素因

  • セロトニン欠乏

  • 場合によりマグネシウムおよびカルシウムの欠乏

エストロゲンおよびプロゲステロンは,過剰なアルドステロンやADHが引き起こしうるように,一過性の体液貯留を起こすことがある。

PMSに最も影響を受ける女性がより低いセロトニン値を示し,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(セロトニンを増加させる)がときにPMS症状を緩和することから,セロトニン欠乏が一因であると考えられている。

マグネシウムおよびカルシウムの欠乏が一因となることがある。

PMSの症状と徴候

PMS症状の種類と程度の強さは女性により,さらに周期により異なる。症状は典型的には月経前の5日間に始まり,月経の開始後数時間以内に治まる。症状はストレス時や閉経期ではより重度になることがある。閉経期の女性では,症状が月経後まで持続する場合がある。

最も一般的な症状は,易刺激性,不安,興奮,怒り,不眠症,集中困難,嗜眠,抑うつ,および重度の疲労である。体液貯留により浮腫,一時的な体重増加,乳房の張りと疼痛が生じる。骨盤部の重感や圧迫感,背部痛が起こることがある。一部の女性,特に若年女性では,月経が始まる際に月経困難症の症状が現れる。

その他の非特異的な症状として,頭痛,回転性めまい,四肢の錯感覚,失神,動悸,便秘,悪心,嘔吐,食欲の変化などがある。ざ瘡および神経皮膚炎が生じることもある。

PMS症状が起こっている間,既存疾患が悪化することがある。このような既存疾患には以下のものがある:

  • 皮膚疾患

  • 眼の障害(例,結膜炎)

  • 痙攣性疾患(痙攣発作の増加)

  • 結合組織疾患(例,全身性エリテマトーデス[SLE],関節リウマチの急性増悪[flare-up])

  • 呼吸器疾患(例,アレルギー,感染症)

  • 片頭痛

  • 気分症(例,抑うつ,不安)

  • 睡眠障害(例,不眠,過眠)

月経前不快気分症(PMDD)

PMSの重症型である月経前不快気分症(PMDD,うつ病の症状と徴候の月経前不快気分症も参照)を有する女性もいる。PMDDでは症状は規則的かつ月経周期の後半のみに起こる;症状は月経とともにまたは直後に治まる。気分は際立って抑うつ的であり,不安,易刺激性,情緒不安定が顕著である。自殺念慮がみられることがある。日常活動への関心は大幅に低下する。

PMSと対照的にPMDDではルーチンの日常活動や機能全般を妨げるほど重度の症状を起こす。PMDDは激しい苦痛,身体障害を来し,しばしば過小診断される。

パール&ピットフォール

  • 月経直前に,機能を果たす能力に支障を来す非特異的ではあるが重度の症状がみられる場合は,月経前不快気分症を考慮する。

PMSの診断

  • PMSは,患者による症状の訴えによる

  • ときに,うつ質問票

  • PMDDは,臨床基準による

PMSは身体症状(例,腹部膨満,体重増加,乳房の圧痛,手足の腫脹)に基づいて診断する。女性に症状を毎日記録するように指示することがある。身体診察および臨床検査は役に立たない。

PMDDが疑われる場合は,重度の症状が規則的に起こるかどうか判定するために,患者に2サイクル以上日々の症状を評価するよう指示する。

PMDDと診断するためには,以下の症状のうち5つ以上を月経の前週の大部分に認め,症状は月経の次の週には軽微になるか,みられなくなる必要がある。以下の症状が少なくとも1つ含まれていなければならない:

  • 著明な気分変動(例,突然悲しくなる)

  • 著明な易怒性もしくは怒り,または対人関係の摩擦の増加

  • 著明な抑うつ気分,絶望感,または自虐的思考

  • 著明な不安,緊張感,または感情の高ぶり

さらに,以下の症状が少なくとも1つ認められなければならない:

  • 普段の活動への関心の低下,場合により引きこもりが生じる

  • 集中困難

  • 気力減退または疲労感

  • 著明な食欲の変化,過食,または特定の食物への渇望

  • 不眠症または過眠症

  • 打ちのめされる,または抑制がきかないような感情

  • PMSに関連する身体症状(例,乳房の圧痛,浮腫)

また,症状のパターンが過去12カ月間の大部分で認められており,かつ症状が日常活動および機能を妨げるほど重度でなければならない。

抑うつ症状のある患者はうつ質問票を用いて評価するか,正式な評価のために精神医療の専門家に紹介する。

PMSの治療

  • 睡眠衛生,運動,および健康的な食事

  • ときに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはホルモン剤

PMSの治療は困難なことがある。全ての女性を対象として効力が証明された単独の治療法はなく,いずれか単独の治療を用いて完治する女性はほとんどいない。このため治療には忍耐だけでなく試行錯誤も必要である。

一般的な対策

PMSの治療は対症療法であり,十分な休息と睡眠,定期的な運動,リラックスできる活動から始める。定期的な運動は易刺激性,不安,不眠症だけでなく,腹部膨満の緩和に役立つことがある。ヨガが役に立つことがある。

食習慣の変更(タンパク質を増やす,糖分を減らす,複合炭水化物を摂取する,食事の量を少な目にし回数を増やす)が助けになる可能性があるが,カウンセリング,ストレスの多い活動の回避,リラクゼーション訓練,光線療法,睡眠の調整,および認知行動療法も同様に有用な場合がある。ほかに可能な戦略としては,特定の食物および飲料(例,コーラ,コーヒー,ホットドッグ,ポテトチップ,缶詰製品)を避け,他の食物(例,果物,野菜,牛乳,食物繊維を多く含む食品,低脂肪の肉,カルシウムおよびビタミンDを多く含む食物)をより多く摂取するなどがある。カルシウムサプリメント(600mg,1日2回)により,否定的気分および身体症状が軽減することがある。

一部の栄養補助食品は,症状の緩和にわずかに効力がある;これには,セイヨウニンジンボクの実(チェストベリー)のエキス(身体症状を緩和するようである),ビタミンB6(100mg/日を超えない),およびビタミンEが含まれる。

PMDDの女性を含め,気分の問題が大きな懸念である場合には,認知行動療法が役立つことがある。バイオフィードバックおよび誘導イメージ療法も役立つ場合がある。精神療法は,女性が症状によりよく対処する方法を学ぶのに役立つ可能性がある;ストレスの軽減やリラクゼーション法瞑想は,緊張や重圧の緩和に役立つ可能性がある。

薬剤

非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)は疼痛,痛みおよび月経困難症の軽減に役立つ。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は,気分を改善し,乳房の圧痛や食欲の変化などの身体症状を軽減することがランダム化試験で示されている。SSRIが不安,易刺激性,および他の感情症状を軽減するための第1選択薬となる(特にストレスを避けられない場合)。SSRI(例,フルオキセチン20mg,経口,1日1回)はPMSおよびPMDDの症状を効果的に軽減する。継続的な投与の方が,間欠的な投与よりも効果的である。SSRIの中でいずれの薬剤が他の薬剤より効果的だということはないようである。臨床試験ではSSRIがPMDDの治療に効果的であることが示されている;PMDD治療に承認されているものにはフルオキセチン,セルトラリン,およびパロキセチンが含まれる。臨床試験で有効性が示されているその他のSSRIには,パロキセチン,シタロプラム,およびエスシタロプラムなどがある。これらの薬剤は継続的に,あるいは月経周期のうち14日間の黄体期(周期の後半)のみに処方するか,後半14日間の黄体期に用量を増量して処方することができる。

クロミプラミンは全周期または半周期で投与され,感情症状を効果的に軽減するが,セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるネファゾドンおよびベンラファキシンも同様である。

抗不安薬が有用なこともあるが,依存や嗜癖の可能性があるためあまり望ましくない。ブスピロンは,周期を通して,または黄体期後半に投与されることがあり,PMSおよびPMDDの症状の軽減に役立つ。有害作用には,悪心,頭痛,不安,めまいなどがある。

一部の女性にはホルモン療法が効果的である。選択肢としては以下のものがある:

  • 経口避妊薬

  • プロゲステロン腟坐薬(200~400mg,1日1回)

  • 経口プロゲストーゲン(例,微粒子化プロゲステロン100mg,就寝時),月経開始前10~12日間

  • 長時間作用型プロゲスチン(例,メドロキシプロゲステロン200mg,筋注,2~3カ月毎)

避妊法として経口避妊薬の使用を選択する女性には,ドロスピレノン + エチニルエストラジオールを投与できる。しかし,静脈血栓塞栓症のリスクが上昇する可能性がある。

まれに,極めて重度または難治性の症状に,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニスト(例,リュープロレリン3.75mgの筋注,ゴセレリン3.6mgを月1回皮下投与)と低用量エストロゲン-プロゲスチン(例,経口エストラジオール0.5mg,1日1回 + 微粒子化プロゲステロン100mg,就寝時)を,周期的変動を最小限にするために投与する。

体液貯留は,ナトリウム摂取量を減らし,症状が出現すると思われる直前に利尿薬(例,スピロノラクトン100mg,経口,1日1回)を服用することによって軽減する場合がある。しかしながら,体液貯留を最小限に抑えて利尿薬を服用しても全ての症状が軽減されるわけではなく,効果がないこともある。

ブロモクリプチンおよびモノアミン酸化酵素阻害薬は有用でない。ダナゾールには重大な有害作用がある。

手術

重度の症状の女性では,両側卵巣摘出により月経周期がなくなるため,症状が改善することがある;その後51歳頃(平均閉経年齢)までホルモン補充療法が適応となる。

要点

  • 月経前症候群(PMS)の症状は非特異的なことがあり,女性毎に異なる。

  • PMSは症状のみに基づいて診断する。

  • 症状が重度で生活に支障を来す場合は,月経前不快気分症(PMDD)(しばしば過小診断される)を考慮し,2サイクル以上症状を記録するよう指示する;PMDDの診断は臨床基準を満たす必要がある。

  • 治療では通常,個々の患者にとって何が助けとなるかを確認するため,様々な戦略を試すことになる;生活習慣の改善から開始し,次にSSRI,経口避妊薬,またはときに認知行動療法を試す。

  • GnRHアゴニストおよび卵巣摘出術は重症例のみに限定する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Lanza di Scalea T, Pearlstein T: Premenstrual dysphoric disorder.Med Clin North Am 103(4):613–628, 2019.doi: 10.1016/j.mcna.2019.02.007: This article discusses the definition, etiology, and treatment of premenstrual dysphoric disorder.

  2. Appleton SM: Premenstrual syndrome: Evidence-based evaluation and treatment.Clin Obstet Gynecol (1):52–61, 2018.doi: 10.1097/GRF.0000000000000339: Evidence for diagnosis and treatment is reviewed.

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS