原発性卵巣機能不全

(早発閉経;原発性卵巣不全;早発卵巣不全;高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)

執筆者:JoAnn V. Pinkerton, MD, University of Virginia Health System
レビュー/改訂 2023年 1月
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原発性卵巣機能不全では,40歳未満の女性で,血中ゴナドトロピン(特に卵胞刺激ホルモン[FSH])値が高いにもかかわらず,排卵が規則的に起こらず,卵巣が十分な性ホルモンを産生しない。診断はFSHおよびエストラジオール値の測定による。典型的には,治療はエストロゲン-プロゲストーゲン併用療法による。

原発性卵巣機能不全では,40歳未満の女性で卵巣の正常な機能が停止する。この疾患は,以前は早発卵巣不全または早発閉経と呼ばれていたが,原発性卵巣機能不全の女性では必ずしも月経が停止するわけではなく,必ずしも卵巣の機能が完全に停止するわけではないため,これらの用語は誤解を招くものである。そのため,原発性卵巣機能不全の診断は,妊娠が不可能であることを常に意味するわけではない。また,この疾患は,卵巣がもはや正常に機能していないことを意味するだけであり,女性が早期に老化していることを示唆するわけではない。

原発性卵巣機能不全では,卵巣に以下がみられる:

  • 排卵が停止するか,排卵が間欠的になる

  • エストロゲンプロゲステロン,およびテストステロンのホルモン産生を停止するか,間欠的にしか産生しない

原発性卵巣機能不全の病因

原発性卵巣機能不全には,以下を含む様々な原因がある(原発性卵巣機能不全の一般的な原因の表を参照)。

  • 出生時に存在する卵胞数が少ない。

  • 卵巣が手術,化学療法,または放射線療法の際に損傷を受けたときに起こるように,卵胞閉鎖の速度が加速している。

  • 卵胞に機能障害がある(自己免疫性卵巣機能障害で起こるように)。

  • 特定の遺伝性疾患が存在する。

早発卵巣不全を引き起こす可能性がある遺伝性疾患としては,以下のものがある:

Y染色体を有する遺伝性疾患は,原発性卵巣機能不全の原因にもなる。これらの疾患は,通常35歳までに明らかになり,卵巣胚細胞腫瘍のリスクを高める。

表&コラム
表&コラム

原発性卵巣機能不全の症状と徴候

潜在性または生化学的な原発性卵巣機能不全(下記の分類を参照)の女性では,唯一の徴候が原因不明の不妊であることがある。顕性(overt)の原発性卵巣機能不全または早発卵巣不全の女性では,典型的には無月経や不規則な出血を認め,エストロゲン欠乏の症状や徴候(例,骨粗鬆症,萎縮性腟炎,性欲減退)がよくみられる。抑うつなどの気分の変化がみられることもある。

卵巣は通常小さくかろうじて触知できるが,ときに腫大することがあり,その場合は通常は免疫性疾患が原因である。原因疾患の症状や徴候(例,ターナー症候群による形態的特徴;脆弱X症候群による知的障害,形態異常の特徴,および自閉症;まれに,副腎皮質機能低下症による起立性低血圧,色素沈着,腋毛および陰毛の減少)がみられることもある。

原発性卵巣機能不全の女性が51歳頃(平均閉経年齢)までエストロゲン療法を受けない場合,骨粗鬆症認知症パーキンソン病抑うつおよび冠動脈疾患のリスクが上昇する。

原発性卵巣機能不全の原因が自己免疫疾患である場合,女性は生命を脅かす可能性がある原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)のリスクがある。

原発性卵巣機能不全の診断

  • 卵胞刺激ホルモン(FSH)およびエストラジオール

  • 甲状腺機能検査,空腹時血糖,電解質,およびクレアチニン

  • ときに遺伝子検査

原発性卵巣機能不全は40歳未満の女性で,原因不明の不妊,月経異常,エストロゲン欠乏の症状がみられる場合に疑われる(1)。

妊娠検査を実施し,血清FSHおよびエストラジオール値を2~4週間,毎週測定する;FSH値が高く(> 20mIU/mL,しかし通常は > 30mIU/mL),エストラジオール値が低ければ(通常 < 20pg/mL),卵巣機能不全が確定する。その後は,疑われる原因に応じてさらなる検査を実施する。

抗ミュラー管ホルモンは小さな卵胞でのみ産生されるため,卵巣予備能の低下の診断を試みる際にこのホルモンの血中濃度が用いられている。正常値は1.5~4.0ng/mLである。非常に低い値は卵巣予備能の低下を示唆する。生殖内分泌医は,抗ミュラー管ホルモン値を用いて,排卵誘発薬に対する反応が不良となる女性の予測や不妊治療が成功する可能性が比較的低いカップルの予測に役立てる。抗ミュラー管ホルモンは月経周期中いつでも測定することができる。より新しく感度の高い抗ミュラー管ホルモンの検査が,早期閉経の診断に役立つ可能性がある。

原発性卵巣機能不全の家族歴,知的障害,振戦,または運動失調がみられる場合は,FMR1前変異の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査の適応となる。35歳未満の女性で卵巣機能不全が確定した場合,またはFMR1前変異が疑われる場合には,核型を明らかにする。

核型が正常な場合,または自己免疫性の原因が疑われる場合は,血清抗副腎抗体および抗21-水酸化酵素抗体(副腎の自己抗体)を検査する。

抗卵巣抗体検査は正確性に欠けるため,推奨されない (2)。

自己免疫性の原因が疑われる場合は,自己免疫性甲状腺機能低下症を調べる検査も行う;これらには,甲状腺刺激ホルモン(TSH),サイロキシン(T4),および抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体と抗サイログロブリン抗体などの測定が含まれる。

副腎皮質機能低下症が疑われる場合,朝のコルチゾール値測定または副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)負荷試験により診断を確定できる。

自己免疫系の障害に対するその他の検査を行うべきである;これには,血算と白血球分画,赤血球沈降速度,抗核抗体およびリウマトイド因子の測定などがある。

エストロゲン欠乏の症状や徴候がみられる場合は骨密度を測定する。

卵巣生検は適応とならない。

分類

原発性卵巣機能不全は臨床所見と血清FSH値に基づき分類される:

  • 潜在性(occult)原発性卵巣機能不全(卵巣予備能低下[diminished ovarian reserve]):原因不明の不妊および血清FSHの基礎値が正常

  • 生化学的(biochemical)原発性卵巣機能不全:原因不明の不妊および血清FSHの基礎値上昇

  • 顕性(overt)原発性卵巣機能不全:不規則な月経周期および血清FSHの基礎値上昇

  • 早発卵巣不全:長年にわたる不規則または希発月経,妊娠の可能性,および血清FSHの基礎値上昇

  • 早発閉経:無月経,永久不妊,原始卵胞の完全な枯渇

診断に関する参考文献

  1. 1.Stuenkel CA, Gompel A, Davis SR, et al: Approach to the patient with new-onset secondary amenorrhea: Is this primary ovarian insufficiency?J Clin Endocrinol Metab 107 (3):825–835, 2022. doi: 10.1210/clinem/dgab766

  2. 2.Novosad JA, Kalantaridou SN, Tong ZB, Nelson LM: Ovarian antibodies as detected by indirect immunofluorescence are unreliable in the diagnosis of autoimmune premature ovarian failure: A controlled evaluation.BMC Womens Health 3 (1):2, 2003.doi: 10.1186/1472-6874-3-2 PMID: 12694633; PMCID: PMC153539.

原発性卵巣機能不全の治療

  • エストロゲン-プロゲストーゲン避妊薬またはホルモン療法(併用ホルモン療法またはホルモン補充療法)

  • 妊娠を望む場合は体外受精

原発性卵巣機能不全があり妊娠を望まない女性には,エストロゲン/プロゲスチン避妊薬(周期的または長期サイクル)またはエストロゲン-プロゲスチン療法(周期的または連続使用)による治療が可能である。

周期的併用ホルモン療法は,これらのホルモンの禁忌がある場合を除いて51歳頃(平均閉経年齢)まで行う(1);この治療法はエストロゲン欠乏症状を緩和し,骨密度の維持に役立ち,冠動脈疾患,パーキンソン病,気分の変化(抑うつを含む),萎縮性腟炎および認知症の予防の助けとなる可能性がある。女性が平均閉経年齢になってからは,ホルモン療法を継続するかどうかは女性の個々の状況(例,症状の重症度,骨折のリスク)により異なる。

妊娠を望む女性では,1つの選択肢として提供卵子の体外受精を行い,子宮内膜が移植胚を維持できるよう,エストロゲンとプロゲストーゲンを投与する。卵子ドナーの年齢が,レシピエントの年齢よりも重要である。この技術はかなり成功率が高いが,この技術を用いなくても原発性卵巣機能不全と診断された女性が妊娠することがある。原発性卵巣機能不全の女性で,排卵率を改善または妊孕性を回復することが証明された治療法はない。しかしながら,妊孕性の回復について研究が進められている。

妊娠を望む女性の他の選択肢としては,卵巣の組織,卵子,または胚の凍結保存や,胚提供などがある。これらの技術は,卵巣不全となる前または卵巣不全時に利用できる(特にがん患者において)。新生児および成人の卵巣には,何カ月にもわたり安定して増殖し,in vitroで成熟卵母細胞となることが可能な卵原幹細胞が少数存在する;これらの細胞は将来,不妊治療の開発に利用される可能性がある。卵巣組織移植の成功が報告されており,将来的には,妊孕性を喪失した女性に対する選択肢になる可能性がある(2)。

原発性卵巣機能不全の女性の約5~10%は,不妊治療なしで最終的に自然に妊娠する。

早発卵巣不全の女性において骨量減少を予防するためには,禁忌がない限り,骨に特異的な治療(例,ビスホスホネート)よりもホルモン療法またはエストロゲン/プロゲスチン避妊薬が推奨される;これらの治療は女性が平均閉経年齢(約51歳)になるまで行われ,その年齢になると治療を再評価することがある。

骨粗鬆症を予防するため,原発性卵巣機能不全の女性は十分な量のカルシウムおよびビタミンDを摂取すべきである(食事および/または栄養補助食品による)。

Y染色体を有する女性は,卵巣胚細胞腫瘍のリスクが高いため,開腹下または腹腔鏡下での両側卵巣摘出が必要である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Committee on Gynecologic Practice: Committee Opinion No. 698: Hormone therapy in primary ovarian insufficiency.Obstet Gynecol 129 (5):e134–e141, 2017.doi: 10.1097/AOG.0000000000002044

  2. 2.Sheshpari, S., Shahnazi, M., Mobarak, H. et al: Ovarian function and reproductive outcome after ovarian tissue transplantation: A systematic review.J Transl Med 17:396, 2019.

要点

  • 原因不明の月経異常,不妊,またはエストロゲン欠乏症状のみられる女性では,原発性卵巣機能不全を疑う。

  • FSH(通常 > 30mIU/mLの高値である)およびエストラジオール(通常 < 20 pg/mLの低値である)を測定し診断を確定する。

  • 抗ミュラー管ホルモン値を測定し,不妊治療への反応が不良である女性を予測するのに役立てる。

  • 自己免疫性の原因が同定された場合,他の自己免疫疾患の検査を行う。

  • 禁忌がなければ,骨密度を維持しエストロゲン欠乏の症状およびその合併症を緩和するために,51歳頃(平均閉経年齢)まで周期的エストロゲン-プロゲストーゲン療法(併用ホルモン療法)を処方する。

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