米国では,避妊しようとしているカップルの3分の1が,特に女性が30歳以上の場合に,精管切除術または卵管不妊手術による永久的な避妊を選択する。
不妊手術は非常に効果的である;1年後の妊娠率は以下の通りである:
精管切除術:0.15%
卵管の永久的な不妊手術:0.6%
不妊手術は永久的なものと意図されており,そうみなすべきである。挙児希望がある場合は回復手術を考慮してもよいが,そのような手技後の生児出生率は以下の通りである:
精管再建術(vasectomy reversal):約26%(1)
卵管不妊手術:卵管を閉鎖した場合はわずか,卵管を摘出した場合は0%(体外受精が奏効する可能性がある)
女性では,妊孕性の回復が成功するかどうかは,患者の年齢,卵管の処置の種類,残っている卵管の割合,骨盤部の瘢痕化の程度,および女性とそのパートナーの妊孕性の検査結果に依存する。
精管切除術
この手技では,精管を切断し,断端を結紮または焼灼する。精管切除術は約20分で行うことができ,局所麻酔を使用する。不妊となるには術後に約20回の射精が必要で,精子を含まない射精が2回あることで確認すべきであり,そのような精液は通常,手術の3カ月後に得られる。それまでの間は他の避妊法を用いるべきである。
手技後2~3日間は軽度の不快感がよくみられる。この期間は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を服用し,射精をしないことが推奨される。
精管切除術の合併症としては以下のものがある:
血腫(5%以下)
精子肉芽腫(精子漏出に対する炎症反応)
自然発生的な再吻合(通常は術後間もなく起こる)
精管切除術後の累積妊娠率は,5年時点で1.1%である。
卵管不妊手術
卵管不妊手術では,卵管に対して以下の処置を行う:
切断して一部を切除する
結紮,焼灼,または様々な機械的器具(プラスチックバンドやリング,ばね式クリップ)を用いて閉鎖する
完全に摘出する
妊娠率は,プラスチックバンドよりもばね式クリップの場合の方が高い。機械的器具を用いる手技は組織損傷が少ないため,結紮または焼灼による閉鎖に比べ,より可逆的となりうる。卵管の完全な摘出と,卵巣がんリスクの40~50%の減少との関連がみられる(2)。出産後の永久的な避妊は,インターバル手技よりも失敗率が低い。
用いられる外科的アプローチとしては,以下のものがある:
腹腔鏡手術,通常はインターバル手技で用いられる(分娩後の時期の後)
小開腹手術,通常は分娩後の手技に用いられる
卵管結紮術は,帝王切開中または経腟分娩の1~2日後に臍周囲の小切開を用いて施行できる(小開腹手術)(3)。
腹腔鏡手術による永久的な避妊法
女性に永久的な避妊をもたらすのに用いられる腹腔鏡手術は,通常は分娩から少なくとも6週間経過後に,手術室において,インターバル手技(妊娠に関係ない手技)として行われてきたもので,全身麻酔が用いられる。
それらの手技の累積失敗率は10年時点で約1.8%であるが,他の手技よりも失敗率が高い手技もある。
小開腹手術による永久的な避妊法
小開腹手術は,通常は女性が分娩直後に永久的な避妊を求める場合に,腹腔鏡手術の代わりに用いられることがある。
小開腹手術には全身,区域,または局所麻酔が必要である。小さな腹部切開(2.5~7.6cm)を行い各卵管の一部を切除する。腹腔鏡に比べ,小開腹手術では痛みがより強く,回復にはやや長い時間がかかる。
子宮鏡手術による永久的な避妊法
2000年代前半には,コイルを備えたマイクロインサートを卵管に留置する子宮鏡手術が,女性に永久的な避妊をもたらす目的で施行可能であった。しかし,この方法で使用されていた器具は,2018年12月31日をもって市場から排除された。このため,この方法はもはや用いられていない。
子宮鏡を用いる不妊手術に使用されるコイルは外側の層がニッケル/チタン合金,内側の層がステンレス鋼およびポリエチレンテレフタレート(PET)で構成されている。PET線維が増殖反応を促進することで,卵管を閉塞させる。
子宮鏡手術と腹腔鏡手術による永久的な避妊法において,意図しない妊娠の発生率は同程度である。患者に骨盤痛または性器出血が持続している場合は,マイクロインサートの除去が必要になることがある。典型的にはマイクロインサートは子宮鏡手術で除去するが,マイクロインサートの一部が卵管外にある場合は腹腔鏡手術が必要になることがある。
合併症
卵管不妊手術の合併症はまれである。具体的には以下のものがある:
死亡:女性10万人当たり1~2人
出血または腸損傷:女性の約0.5%
その他の合併症(例,卵管閉塞の失敗):女性の最大約5%
異所性妊娠:卵管閉塞後に生じた妊娠の約30%
子宮鏡手術による永久的な避妊法の合併症としては,骨盤痛,異常子宮出血,炎症性疾患などもみられる。
参考文献
1.Lee R, Li PS, Schlegel PN, Goldstein M: Reassessing reconstruction in the management of obstructive azoospermia: reconstruction or sperm acquisition?Urol Clin North Am 35 (2):289-301, 2008.doi: 10.1016/j.ucl.2008.01.005
2.Hanley GE, Pearce CL, Talhouk A, et al: Outcomes From Opportunistic Salpingectomy for Ovarian Cancer Prevention. JAMA Netw Open 5(2):e2147343, 2022.Published 2022 Feb 1.doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.47343
3.Yoon SH, Kim SN, Shim SH, et al: Bilateral salpingectomy can reduce the risk of ovarian cancer in the general population: A meta-analysis. Eur J Cancer 55:38-46, 2016.doi:10.1016/j.ejca.2015.12.003
要点
精管切除術と卵管結紮術は永久的とみなすべきであるが,回復手術によりときに妊孕性が回復することを患者に伝えておく。
男性では精管を切断し,その後結紮または焼灼する;不妊は通常3カ月後に2回の精子のない射精により確認する。
女性では卵管を切断または摘出する;切断の場合は引き続いて卵管の一部を切除するか,結紮,焼灼や様々な機械的器具(プラスチックバンドやリング)を用いて卵管を閉鎖する;用いられる手技には腹腔鏡および小開腹手術がある。