プロゲスチン注射による避妊法

(酢酸メドロキシプロゲステロンデポ剤)

執筆者:Frances E. Casey, MD, MPH, Virginia Commonwealth University Medical Center
レビュー/改訂 2023年 7月
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    世界中で様々なプロゲスチン注射による避妊法が利用可能である。

    メドロキシプロゲステロン酢酸エステルのデポ剤(DMPA)は,メドロキシプロゲステロン酢酸エステルの結晶懸濁液として調製された長時間作用型の注射製剤である。

    DMPAの場合の1年目の妊娠率は,正確な使用では0.2%,普通の使用(すなわち,注射が遅れることがある)では約6%である。

    DMPAは2つの異なる製剤が入手可能で,3カ月毎に筋注(150mg)または皮下注射(104mg)として投与される。吸収速度を早めることがあるため,注射部位のマッサージはすべきではない。効果的な避妊をもたらす血清中ホルモン濃度は通常,注射後24時間より得られ,少なくとも14週間は持続するが,16週まで避妊効果を保つのに十分な高値である可能性がある。

    注射の間隔が16週を超える場合は,次の注射を行う前に妊娠検査を行うべきである。DMPAは,月経周期の初めの5~7日以内に投与される場合,直ちに開始することができる(quick- start protocol)。この時期の間に開始されない場合,7日間は他の避妊法を同時に用いるべきである。

    DMPAは自然流産または中絶後直ちに,または授乳の状況にかかわらず分娩後すぐに開始することもできる。

    Noristerat(NET-EN)は,米国では入手できないが,エナント酸ノルエチステロンをヒマシ油/安息香酸ベンジル液に懸濁した長時間作用型注射剤である。妊娠率はDMPAと同じである。NET-ENは殿筋または三角筋の深部への筋肉内注射(200mg)として,典型的には8週間毎に投与できるが,最初の6カ月間の投与後は12週間まで間隔を延長することができる。DMPAと同様に,注射部位のマッサージはすべきではない。避妊に効果的な血清中ホルモン濃度は通常72時間以内に得られる。注射の間隔が13週を超える場合は,次の注射を行う前に妊娠検査を行うべきである。NET-ENはDMPAと同じquick-start protocolに従うことができ,バックアップとしての他の避妊法も同じである。またDMPAのように,NET-ENは自然流産または中絶後直ちに,または授乳の状況にかかわらず分娩後すぐに開始することもできる。

    禁忌と有害作用

    プロゲスチン注射に対する禁忌はほとんどなく,これらはプロゲスチン単剤経口避妊薬と同様である。

    プロゲスチン注射の最も頻度の高い有害作用は不正性器出血である。初回注射後3カ月以内に,約30%の使用者が無月経となる。さらに30%に,月に11日間を超える少量の性器出血や不正出血(通常は軽度)がみられる。これらの出血異常にもかかわらず,貧血は通常起こらない。連続して使用すると,出血は減少する傾向にある。2年後,使用者の約70%で無月経となる。

    DMPAは作用持続時間が長いため,薬剤の中止後,排卵が遅れることがある。最後の注射の後,約半数の女性で月経周期が6カ月以内に再開し,約4分の3の女性で1年以内に再開する。しかしながら,排卵が最長で18カ月遅れることがある。排卵が起これば,妊孕性は通常急速に回復する。NET-ENを使用している女性では排卵の再開はより速やかに起こり(平均3カ月),6カ月以内に妊孕性が回復する(1)。

    典型的には,プロゲスチン注射の使用開始後最初の1年間に女性の体重が1.5~4kg増え,その後も体重は増え続ける。代謝よりも食欲の変化が原因と考えられているため,プロゲスチン注射の使用を望む女性はカロリー摂取を制限しエネルギー消費を増やすよう通常助言される。

    一部の研究では,DMPAを使用している女性の1~5%が抑うつまたは気分変化を報告した(2)。しかしながら,DMPA開始前のベースラインスコアは考慮されなかった。適切にデザインされた研究では,DMPAにより既存の抑うつが増悪するというエビデンスは認められなかった(3,4)。NET-EN使用者において,分娩後に抑うつが増加することを示すエビデンスがいくつかある(5)。

    頭痛はプロゲスチン注射を中止する一般的な理由であるが,重症度は時間とともに低くなる傾向にある。プロゲスチン注射を使用する大部分の女性では頭痛は起こらず,既存の緊張型頭痛または片頭痛は通常悪化しない。

    プロゲスチン注射使用によってエストロゲン値が低い場合には骨密度が低下する可能性があるが,骨折リスク上昇のエビデンスはなく,骨密度スキャンは推奨されない(6,7)。プロゲスチン注射を使用する青年および若年の女性は,使用しない場合と同様に,身体活動,荷重運動を行い,カルシウムおよびビタミンDのサプリメントを摂取すべきである。骨密度は典型的に,注射中止後にベースラインの水準に戻る。

    耐糖能に軽度で可逆的な悪化が起こりうる。DMPAはリポタンパク質を変化させ,高比重リポタンパク質(HDL)を低下させ,低比重リポタンパク質(LDL)のHDLに対する比を増加させうることが知られているが,この作用は一時的であり,DMPA使用後36カ月以内に改善するようである。NET-ENでも同様の作用が予想される。エストロゲンベースの方法とは異なり,プロゲスチン注射は高血圧のリスクを上昇させない(8)。

    DMPAが乳癌,卵巣がん,または子宮頸癌のリスクを上昇させることはないようである。

    有益性

    プロゲスチン注射は以下のリスク低下と関連がある:

    DMPAが鎌状赤血球症の女性で疼痛発作の発生率を減少させることを示唆したエビデンスもある。

    プロゲスチン注射は,肝酵素を誘導する抗てんかん薬と相互作用を起こさないため,痙攣性疾患の患者において適切な避妊の選択肢となりうる。

    参考文献

    1. 1.Fotherby K, Howard G: Return of fertility in women discontinuing injectable contraceptives. J Obstet Gynaecol (Lahore) 6 Suppl 2:S110-S115, 1986.doi:10.3109/01443618609081724

    2. 2.Westhoff C, Truman C, Kalmuss D, et al: Depressive symptoms and Depo-Provera. Contraception 57(4):237-240, 1998.doi:10.1016/s0010-7824(98)00024-9

    3. 3.Singata-Madliki M, Carayon-Lefebvre d'Hellencourt F, Lawrie TA, et al: Effects of three contraceptive methods on depression and sexual function: An ancillary study of the ECHO randomized trial. Int J Gynaecol Obstet 154(2):256-262, 2021.doi:10.1002/ijgo.13594

    4. 4.Gupta N, O'Brien R, Jacobsen LJ, et al: Mood changes in adolescents using depot-medroxyprogesterone acetate for contraception: a prospective study. J Pediatr Adolesc Gynecol 14(2):71-76, 2001.doi:10.1016/s1083-3188(01)00074-2

    5. 5.Lawrie TA, Hofmeyr GJ, De Jager M, et al: A double-blind randomised placebo controlled trial of postnatal norethisterone enanthate: the effect on postnatal depression and serum hormones. Br J Obstet Gynaecol 105(10):1082-1090, 1998.doi:10.1111/j.1471-0528.1998.tb09940.x

    6. 6.Kaunitz AM, Miller PD, Rice VM, et al: Bone mineral density in women aged 25-35 years receiving depot medroxyprogesterone acetate: recovery following discontinuation. Contraception 74(2):90-99, 2006.doi:10.1016/j.contraception.2006.03.010

    7. 7.Rosenberg L, Zhang Y, Constant D, et al: Bone status after cessation of use of injectable progestin contraceptives. Contraception 76(6):425-431, 2007.doi:10.1016/j.contraception.2007.08.010

    8. 8.Berenson AB, Rahman M, Wilkinson G: Effect of injectable and oral contraceptives on serum lipids. Obstet Gynecol 114(4):786-794, 2009.doi:10.1097/AOG.0b013e3181b76bea

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