異物および剥離は最も頻度の高い結膜および角膜の損傷である。異物の除去方法は異物の種類によって異なる。
表面の異物は,洗浄および湿らせた綿棒で除去する。
埋没した異物は,滅菌されたスパッド(眼内異物を除去するための器具)または25Gもしくは27G針の先端を使用して除去する必要があり,一般に細隙灯ガイド下に行われる。
眼内異物または何らかの穿通性損傷は,眼科医により外科的に治療される。
眼異物除去の適応
眼内異物の疑い
眼異物除去の禁忌
絶対的禁忌
なし
相対的禁忌
緊急眼科コンサルテーションが必要な眼内異物またはその他の穿通性損傷が同定されているか疑われる場合
患者が非協力的な場合
患者は異物除去中に眼を動かさずに固視できなければならない。協力できない可能性のある患者(例,幼児,中毒状態の成人)では眼科コンサルテーションを行うべきである。
眼異物除去の合併症
眼異物除去で使用する器具
コバルトブルーフィルターを使用した細隙灯(推奨)またはウッド灯を使用した双眼レンズ(ルーペ)
局所麻酔薬(例,0.5%プロパラカイン点眼薬)
フルオレセイン眼検査用試験紙
滅菌された綿棒
スパッド,または25Gもしくは27G針をツベルクリン用シリンジに取り付けたもの
低速の角膜ドリル(rotary burr)
滅菌生理食塩水および10~20mLシリンジ
眼異物除去に関するその他の留意事項
どの時点であれ眼内異物またはその他の穿通性損傷が疑われた場合は,処置を中断し,眼球にそれ以上の圧をかけないようにする。眼球を硬いシールド(骨の眼窩縁の直上または周囲に装着する)で保護し,抗菌薬の全身投与(例,セファゾリンとゲンタマイシンの経験的投与)および制吐薬の投与を行い,直ちに眼科コンサルテーションを行い評価および治療を受けさせる。
眼異物除去での体位
除去にあたり,患者を細隙灯の前に座らせ,医師はその対側に座る。
患者の頭を固定する(例,細隙灯の額当てと顎当てにしっかりと押し付けるようにする)。患者が適切な姿勢を維持するのを助手が助けてもよい。
処置を行う方の手で患者の顔の骨(例,頬骨弓または鼻梁)に触れておくと,患者が動いても手が連動する。
眼異物除去のステップ-バイ-ステップの手順
患者が不快感に耐えられる場合は,表面麻酔なしで処置前の眼の診察を行う。ペンライトを使用して,眼球虚脱または前房消失がないかを外側から調べる。視力,眼球運動,瞳孔径,形,および反射を確認する。穿孔の徴候が認められたら,処置を中断し,直ちに眼科コンサルテーションを行う(上記その他の留意事項を参照)。
処置前診察の前に表面麻酔薬を使用しなかった場合は,患者に上を見てもらい,眼科用表面麻酔薬を患眼の下結膜円蓋に滴下する。薬剤がこぼれないよう,約1分間眼を閉じておくよう患者に伝える。
患者を細隙灯の前に座らせる。
フルオレセインを使用し,Seidel徴候(角膜または強膜の穿孔から流れ出る房水の暗い水流で表層のフルオレセインの色が分断される)の有無を確認する。Seidel徴候がある場合は処置を中断し,直ちに眼科コンサルテーションを行う。
眼の中に異物がないかを確認する。下眼瞼の直下に母指を,上眼瞼の直上に示指を置き,母指と示指を広げることで眼瞼を牽引する。結膜および角膜の全体を視診する。上結膜円蓋を視診するときは患者に下を見てもらい,下結膜円蓋を視診するときは上を見てもらう。細隙灯のビームの幅と角度を変えて角膜異物を調べ,深さを測定する。上眼瞼を反転,二重反転させる。そのためにまず,上眼瞼の上部を綿棒で愛護的に押す。次に,上眼瞼縁を持ち上げ,患者の額に向かって上後方に裏返す。続いて,上結膜円蓋が見えるまで綿棒で尾側に押すことにより二重反転を行う。
目に見える異物もしくは角膜上皮剥離がない場合,または目に見えるのが軽い角膜上皮剥離のみの場合,湿らせた綿棒で上下結膜円蓋を拭い取り,眼洗浄および眼瞼反転の記述に従って眼を洗浄する。化学物質への曝露歴がなければ,約90~120mL(several fluid ounce)の生理食塩水で眼を洗浄するだけで十分な場合がある。
表面異物の除去
表面異物を結膜または角膜から取り除くには,まずその領域を愛護的に洗浄し(例,シリンジに入れた滅菌生理食塩水で),その領域を湿らせることで異物を浮かせて取り除くことを試みる。洗浄液の水流を直接異物に当てない。
湿らせた綿棒を転がすようにして,異物を表面から愛護的に取り除く。
湿らせた綿棒で角膜に触れるときは,繊細な円周運動を描くようにして上皮の損傷を避ける。
埋没した異物の除去
埋没した異物の除去には,好みに応じて,スパッド,低速の角膜ドリル(rotary burr),または小さな(例,ツベルクリン用)シリンジに取り付けた25Gもしくは27G針を使用する。
これらの器具を鉛筆を持つように把持する。
患者には目の前にある物体を見つめるように言う。
必ず角膜周辺から角膜異物に近づくようにして(すなわち,除去用器具が患者の視野を決して横切らないように),利き手を使用する。2段階のアプローチを行う。
まず,拡大鏡を使用せずに,手技を行う方の手(尺側)を患者の顔(頬骨弓または鼻梁領域)に当て,角膜周辺付近のスポットで除去用器具を操作する。
次に,拡大鏡下に,角膜表面から逸らして除去用器具を保持しながら,ゆっくりと慎重に異物に近づけ,角膜周辺から内側に進める。
ベベルを上にしてスパッドまたは針を持ち,その先端を使用して角膜から異物を取り上げたり掬ったりする。異物を完全に除去するにはこの手順を数回繰り返さなければならない場合がある。この手技によって取り除ける表面の錆輪(rust ring)もある。異物が移動したが眼の表面に残っている場合は,水流で洗い流すか,異物の除去に使用したものと同じ除去用器具の1つを使用する。
角膜ドリルの使用を避ける眼科以外の医師もいる。ドリルは通常,錆輪の除去の際に使用されるが,埋没した角膜異物の除去にも使用できる。回転しているドリルをごく短時間そっと異物に押し付ける。そしてドリルを離し,どれだけ除去されたか評価する。これを異物(または錆輪)が除去されるまで繰り返す。除去できる量と,ドリルによってできる角膜欠損のサイズを絶えず秤にかける。ドリルはスパッドまたは針より大きな欠損を残す。(回転方向を逆にすることで)ドリルの向きを逆にすると役立つ場合がある。錆輪を除去する必要はない;24時間後のフォローアップケアの際に眼科医に対処してもらうことができる。
眼異物除去のアフターケア
処置後の視力を検査する。
フルオレセインを滴下し,処置後も依然として穿孔がない(すなわち,Seidel徴候がない)ことを確認する。
抗菌薬の軟膏または点眼薬を処方する(例,シプロフロキサシン0.3%軟膏または点眼薬を1日4回,5~7日間)。
外用コルチコステロイドは処方しない。
表面麻酔薬は処方しない。
眼を覆わない。
24時間後の眼科医によるフォローアップを依頼するか,それができなければ,症状が24時間以内に完全に消失しない場合は緊急受診するよう患者に伝えておく。
眼異物除去時の注意点とよくあるエラー
角膜に埋没した異物の除去には綿棒を使用しない。擦過により角膜上皮の広範囲が損傷する可能性がある。
洗浄に強膜レンズは使用しない。使用すると,異物が角膜のさらに深部に潜り込んでしまう可能性がある。
針を表面から逸らしながら近づけ,手を顔に固定して操作すれば,針による角膜穿孔のリスクは低い。
眼異物除去のアドバイスとこつ
最も侵襲性の低い処置からより侵襲性の高い処置へと進む;多くの場合,異物は洗浄で洗い流せる。