炎症性眼窩疾患は,眼窩組織を侵す良性で占拠性の炎症である。
炎症性眼窩疾患は,眼窩炎性偽腫瘍とも呼ばれ,眼窩内の一部または全ての組織を侵す可能性がある炎症を来す。炎症反応は非特異的,肉芽腫性,または血管炎性もしくは反応性リンパ組織過形成による場合がある。炎症は基礎疾患(例,IgG4関連眼窩疾患または多発血管炎性肉芽腫症)の一部である場合もあれば,単独で生じている場合もある。全年齢層の患者が罹患しうる。進行は急性のことも慢性のこともあり,再発の可能性もある。
非感染性の炎症性眼窩疾患の最も頻度の高い病因は甲状腺眼症(TED)であり,バセドウ病眼症としても知られる。TEDの発生機序は解明が進んでいないが,眼窩の線維芽細胞および脂肪の甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する免疫グロブリンが,炎症性サイトカインの放出,炎症,およびグリコサミノグリカンの蓄積をもたらすことに起因している可能性がある。
眼窩組織の炎症は感染によって引き起こされる可能性がある。
非感染性で非炎症性眼窩疾患のその他の原因としては,腫瘍,血管奇形,および外傷などがある。
Images courtesy of Richard C.Allen, MD, PhD.
炎症性眼窩疾患の症状と徴候
炎症性眼窩偽腫瘍の典型的な症候として,眼瞼の腫脹および発赤とともに突然発症する疼痛がある。眼球突出,複視,および視力障害も起こりうる。反応性リンパ組織過形成またはIgG4関連眼窩疾患では,眼球突出や腫脹以外には症状は通常ほとんどない。
TEDにおける眼症は甲状腺機能亢進症の発症前に起こることもあれば20年後に起こることもあり,甲状腺機能亢進症の臨床経過とは独立して悪化また改善することが多い。TED患者の5%に甲状腺機能低下症が認められ,一部の患者では甲状腺機能が正常な状態で典型的な眼症がみられる(「甲状腺機能正常(euthyroid)バセドウ病」)。TEDの症状と徴候としては,ほぼ全ての眼窩炎でみられる非特異的症状(すなわち,眼球突出,複視,眼窩周囲の浮腫,球後痛)のほか,本疾患に特異的なもの(すなわち,眼瞼後退)がある。視力を脅かす合併症はまれであるが,圧迫性視神経症または兎眼にともなう重度の角膜障害によって引き起こされる可能性がある。
炎症性眼窩疾患の診断
CTまたはMRI
類似の症状および身体所見は炎症性眼窩偽腫瘍および眼窩感染症でも起こるが,炎症性眼窩偽腫瘍では外傷の既往または近接する感染巣(例,副鼻腔炎)がない。CTまたはMRIによる神経画像検査が必要である。感染と非感染性炎症を鑑別する上で有用な画像上の特徴は,眼窩感染における隣接する副鼻腔病変の存在である。慢性例または再発例に対し,基礎疾患の所見を明らかにするために生検が行われることがある。甲状腺眼症では,下直筋および内直筋の腫大がよくみられ,腱は保たれる。
炎症性眼窩疾患の治療
コルチコステロイド,放射線療法,および/または免疫調節薬
手術
炎症性眼窩偽腫瘍の治療は炎症反応の種類によって変わり,コルチコステロイドの経口投与,放射線療法,いずれかの免疫調節薬の投与などがありうる。炎症性眼窩偽腫瘍の難しい症例,特に肉芽腫性炎症を伴う症例では,炎症が主に血管炎であれば,腫瘍壊死因子(TNF)αに対するモノクローナル抗体を用いた治療,またはリツキシマブを用いたリンパ球枯渇により,初期にある程度の成功が得られている。
バセドウ病患者における眼症の治療では,セレン,コルチコステロイド,眼窩照射,およびときに外科手術が必要になることがある。テプロツムマブは,インスリン様成長因子1(IGF-1)受容体阻害薬であり,中等度から重度の眼症に対して効果的な治療法である(1)。随伴する甲状腺機能亢進症の治療としては,エチオナミド,放射性ヨード,または手術があるが,放射性ヨード治療は眼症の進行を加速させる可能性があるため,その活動期には禁忌である(活動期は典型的には臨床的な活動性スコアによって示される臨床徴候および症状によって決定される)。重度の甲状腺眼症では外科的減圧が必要となる場合がある。眼症の治癒または進行の予防に,外科的甲状腺切除術が役立つ可能性がある。
治療に関する参考文献
1.Smith TJ, Kahaly GJ, Ezra DG, et al: Teprotumumab for thyroid-associated ophthalmopathy.N Engl J Med 376:1748-1761, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1614949
より詳細な情報
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Ronquillo Y, Patel BC: Nonspecific orbital inflammation (NSOI).StatPearls Publishing, Treasure Island, FL, 2020.