海綿静脈洞血栓症は非常にまれな典型的に海綿静脈洞の敗血症性血栓症であり,通常は鼻せつまたは細菌性副鼻腔炎により起こる。症状と徴候には,疼痛,眼球突出,眼筋麻痺,視力障害,乳頭浮腫,および発熱などがある。診断はCTまたはMRIで確定する。治療は抗菌薬の静注による。合併症がよくみられ,予後は予断を許さない。
海綿静脈洞血栓症の病因
海綿静脈洞は頭蓋骨底に位置する海綿状の静脈洞で,顔面の静脈からの静脈血が流入する。海綿静脈洞血栓症は一般的な顔面感染症(最も顕著なものは鼻せつ[50%],蝶骨洞炎または篩骨洞炎[30%],および歯性感染症[10%])の極めてまれな合併症である。最も頻度が高い病原体は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(70%),次いでレンサ球菌(Streptococcus)属である;歯科または副鼻腔の感染症が基礎疾患である場合は嫌気性菌がより一般的である。
横静脈洞血栓症(乳様突起炎に関連する)および上矢状静脈洞血栓症(細菌性髄膜炎に関連する)も起こるが,海綿静脈洞血栓症に比べまれである。
海綿静脈洞血栓症の病態生理
海綿静脈洞血栓症の症状と徴候
海綿静脈洞血栓症の診断
海綿静脈洞血栓症の予後
抗菌薬時代における死亡率は約15~20%である。さらに40%の患者では重篤な続発症(例,眼筋麻痺,失明,脳卒中,下垂体機能低下)がみられ,これらが永久に残る可能性がある。
海綿静脈洞血栓症の治療
高用量抗菌薬の静注
ときにコルチコステロイド
ときに抗凝固療法
海綿静脈洞血栓症患者の初期の抗菌薬には,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリン1~2gの4時間毎投与に第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフトリアキソン1g,12時間毎)を併用することなどがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)が多い地域では,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリンに代わってバンコマイシン1gを12時間毎に静注すべきである。基礎に副鼻腔炎または歯性感染症がある場合には,嫌気性菌に対する薬剤(例,メトロニダゾール500mg,8時間毎)を追加すべきである。
基礎に蝶形骨洞炎がある例で,特に24時間以内に抗菌薬に対して臨床反応がない場合には,外科的な副鼻腔ドレナージが適応となる。
海綿静脈洞血栓症の二次治療には,脳神経障害に対するコルチコステロイド(例,デキサメタゾン10mg,静注または経口,6時間毎)などがある。抗凝固薬の投与については議論がある;未分画および低分子ヘパリンが禁忌のない患者に使用されているが,その効力を確立するエビデンスを得るにはさらなる研究が必要である。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Plewa MC, Tadi P, Gupta M: Cavernous sinus thrombosis.StatPearls Publishing, Treasure Island, 2020.