海綿静脈洞血栓症は非常にまれな典型的に海綿静脈洞の敗血症性血栓症であり,通常は鼻せつまたは細菌性副鼻腔炎により起こる。症状と徴候には,疼痛,眼球突出,眼筋麻痺,視力障害,乳頭浮腫,および発熱などがある。診断はCTまたはMRIで確定する。治療は抗菌薬の静注による。合併症がよくみられ,予後は予断を許さない。
海綿静脈洞血栓症の病因
海綿静脈洞は頭蓋骨底に位置する海綿状の静脈洞で,顔面の静脈からの静脈血が流入する。海綿静脈洞血栓症は一般的な顔面感染症(最も顕著なものは鼻せつ,蝶骨洞炎または篩骨洞炎[50%超],および歯性感染症)の極めてまれな合併症である(1)。最も頻度が高い病原体は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(70%),次いでレンサ球菌(Streptococcus)属である;歯科または副鼻腔の感染症が基礎疾患である場合は嫌気性菌がより一般的である。
横静脈洞血栓症(乳様突起炎に関連する)および上矢状静脈洞血栓症(細菌性髄膜炎に関連する)も起こるが,海綿静脈洞血栓症に比べまれである。
病因論に関する参考文献
1.Caranfa JT, Yoon MK: Septic cavernous sinus thrombosis: A review.Surv Ophthalmol 66(6):1021-1030, 2021.doi: 10.1016/j.survophthal.2021.03.009
海綿静脈洞血栓症の病態生理
海綿静脈洞血栓症の症状と徴候
海綿静脈洞血栓症の診断
MRIまたはCT
海綿静脈洞血栓症はまれであるためしばしば誤診される。眼窩蜂窩織炎に合致する徴候がある患者では考慮すべきである。海綿静脈洞血栓症を眼窩蜂窩織炎と鑑別する特徴には,脳神経障害,両眼性,精神状態の変化などがある。
診断は神経画像検査に基づいて行う。MRIがより望ましいが(1),CTも役立つ。MR静脈造影(MRV)およびCT静脈造影は,CTおよびMRI検査のいずれよりも感度が高い。有用な補助検査には血液培養および腰椎穿刺などがある(1)。
診断に関する参考文献
1.Saposnik G, Bushnell C, Coutinho JM, et al: Diagnosis and management of cerebral venous thrombosis: A scientific statement from the American Heart Association.Stroke 55(3): e77-e90, 2024.https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000456
海綿静脈洞血栓症の治療
高用量抗菌薬の静注
ときにコルチコステロイド
ときに抗凝固療法
海綿静脈洞血栓症患者の初期の抗菌薬には,例としてナフシリン(nafcillin)またはオキサシリン1~2gの4時間毎投与に第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフトリアキソン1g,12時間毎)を併用することなどがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus)が多い地域では,ナフシリン(nafcillin)またはオキサシリンに代わってバンコマイシン1gを12時間毎に静注すべきである。基礎に副鼻腔炎または歯性感染症がある場合には,嫌気性菌に対する抗菌薬(例,メトロニダゾール500mg,8時間毎)を追加すべきである(1, 2)。
基礎に蝶形骨洞炎がある例で,特に24時間以内に抗菌薬に対して臨床反応がない場合には,外科的な副鼻腔ドレナージが適応となる。
海綿静脈洞血栓症の二次治療には,脳神経障害に対するコルチコステロイド(例,デキサメタゾン10mg,静注または経口,6時間毎)などがある。抗凝固薬の投与については議論がある;未分画および低分子ヘパリンが禁忌のない患者に使用されている。これらの薬剤は合併症発生率を低下させる可能性があるが,死亡率低下における効果を立証するエビデンスを得るには,さらなる研究が必要である(3)。
治療に関する参考文献
1.Saposnik G, Barinagarrementeria F, Brown RD Jr, et al; American Heart Association Stroke Council and the Council on Epidemiology and Prevention: Diagnosis and management of cerebral venous thrombosis: A statement for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association.Stroke 42(4):1158-1192, 2011.doi: 10.1161/STR.0b013e31820a8364
2.Saposnik G, Bushnell C, Coutinho JM, et al: Diagnosis and management of cerebral venous thrombosis: A scientific statement from the American Heart Association.Stroke 55(3):e77-e90, 2024.https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000456
3.Levine SR, Twyman RE, Gilman S: The role of anticoagulation in cavernous sinus thrombosis.Neurology 38(4):517-522, 1988.doi: 10.1212/wnl.38.4.517
海綿静脈洞血栓症の予後
抗菌薬時代における死亡率は約15%である。さらに患者の3分の1超では重篤な続発症(例,眼筋麻痺,失明)がみられる;脳卒中および下垂体機能低下も発生する可能性があり,障害が永久に残ることがある(1)。
予後に関する参考文献
1.Halawa O, Gibbons A, Van Brummen A, et al: Septic cavernous sinus thrombosis: Clinical characteristics, management, and outcomes.J Neuroophthalmol Apr 24, 2024.doi: 10.1097/WNO.0000000000002146.Online ahead of print.
要点
海綿静脈洞血栓症は,鼻せつ,蝶骨洞炎または篩骨洞炎,および歯性感染症などの感染症の極めてまれな合併症である。
リスクのある患者で顔面痛および発熱があり,特に精神状態の変化,眼筋麻痺(例,第6脳神経),ホルネル症候群,眼球突出,および/または眼瞼浮腫を伴う場合,本症の診断を考慮する。
MRIまたはCT(または速やかに施行可能であればMR静脈造影またはCT静脈造影)による神経画像検査を直ちに施行する。
ブドウ球菌に有効な抗菌薬に加えて第3世代セファロスポリン系薬剤で治療し,副鼻腔炎または歯性感染症がある場合は,メトロニダゾールを投与する。



