扁桃周囲膿瘍には切開排膿または穿刺吸引が必要である。
扁桃周囲膿瘍は,扁桃周囲炎(扁桃周囲膿瘍および蜂窩織炎を参照)および副咽頭間隙膿瘍(深頸部の膿瘍)と鑑別しなければならない。蜂窩織炎には排膿は不要であり,副咽頭間隙膿瘍は外科的手技で排膿すべきである。
扁桃周囲膿瘍の排膿の適応
臨床的に明らかな扁桃周囲膿瘍:切開排膿または穿刺吸引
扁桃周囲膿瘍の可能性がある場合:診断および治療のための穿刺吸引
扁桃周囲膿瘍の排膿の禁忌
絶対的禁忌
難治性の開口障害
相対的禁忌
非協力的な患者
凝固障害
診断が不確定(切開排膿に対して)
診断が不確かな場合は,膿瘍の存在を確認するためにポイントオブケア超音波検査または穿刺吸引を施行することができる。代替手段としては,CTのほか,軽症患者では抗菌薬投与と綿密なフォローアップを条件とする退院などがある。
扁桃周囲膿瘍の排膿の合併症
血液の誤嚥
出血
頸動脈穿刺
膿瘍の不完全な排膿
扁桃周囲膿瘍の排膿で使用する器具
手袋
保護用の眼鏡
マスク
鎮痛薬および鎮静薬の静脈内投与用の薬剤
局所麻酔薬(例,1%リドカインにアドレナリンを添加),25Gおよび20~22G針,5mLシリンジ
表面麻酔薬のスプレー剤(例,4%リドカイン)
舌圧子
ヘッドランプ
壁内の吸引源に接続したFrazier型吸引管付きカテーテルまたはYankauer吸引カテーテル
穿刺吸引では,10mLシリンジと18Gまたは20G針
切開排膿では,11番または15番の刃のメス
切開排膿では,扁桃鉗子
扁桃周囲膿瘍の排膿に関するその他の留意事項
穿刺吸引では,膿瘍腔を見落として扁桃周囲炎と誤診することがある。そのため,膿瘍が依然として疑われる場合(例,臨床所見または画像所見に基づく)は,たとえ穿刺吸引で膿が回収されなくても,抗菌薬およびコルチコステロイドの静脈内投与により患者を治療し,綿密な経過観察を行う(入院させることもある)医師もいる。
扁桃周囲膿瘍の排膿における重要な解剖
扁桃は咽頭の前口蓋弓と後口蓋弓の間にある。扁桃の側壁は上咽頭収縮筋に隣接している。
扁桃周囲膿瘍は,扁桃被膜,上咽頭収縮筋,および口蓋咽頭筋の間にある。扁桃内には膿瘍はない。
扁桃の後外側約2.5cmの位置に内頸動脈がある。
扁桃周囲膿瘍の排膿での体位
患者を座位にし,後頭部を支え,突然後方に動かないようにすべきである。
扁桃周囲膿瘍の排膿のステップ-バイ-ステップの手順
鎮痛薬の静脈内投与が必要かどうかを検討する(十分な説明と局所麻酔を行った場合は通常不要である)。必要な場合は,処置の数分前にフェンタニル1~3μg/kg(必要であれば漸増)を投与してもよい。
表面麻酔薬を噴霧し,効果が現れるまで数分待つ。
視認性を向上させるため,助手に頬を側方に牽引させる。
舌圧子または指で舌が邪魔にならない位置に退かせる。
膿瘍の最も突出した部分を同定する。膿瘍の位置を同定するために,ときにポイントオブケア超音波検査が用いられる。
5mLシリンジと接続した25G針を用いて,2~3mLの麻酔薬(1%リドカインにアドレナリンを添加)を粘膜に注射する。
症状を軽減するためにコルチコステロイドを1回静脈内投与する医師もいる(例,デキサメタゾン10mg,メチルプレドニゾロン60mg)。
穿刺吸引
10mLシリンジと18Gまたは20G針を使用する
持続的に吸引し,針を側方ではなく矢状面方向(前方から後方)に向ける。これは頸動脈を避けるために重要である。
まず最も突出した部位(通常は上極)から吸引する。膿が吸引されない場合は,中極,次いで下極を吸引する。扁桃自体を吸引してはならない。
典型的には2~6mLの膿が回収される。検体を培養に供する。
切開排膿
膿が流れ出ること,およびそれを吐き出さなければならないことを患者に警告しておく。
15番または11番のメスを使用し,刃を0.5~1.0cm残して全てテープで覆う。
最も突出した部位,または穿刺吸引(行った場合)で膿が同定された部位を,前後方向に0.5cm切開する。
吸引カテーテルで膿および血液を除去する。切開後は多少の出血が予想される。
閉じた扁桃鉗子を切開した開口部に挿入し,小房があれば,鉗子を愛護的に開いて破る。
生理食塩水または過酸化物と生理食塩水の希釈液で含嗽をさせる。
扁桃周囲膿瘍の排膿のアフターケア
患者を1時間観察して出血などの合併症がないか確認し,患者が輸液に耐えられることを確認する。
退院させて経口抗菌薬と温かい生理食塩水の含嗽による治療を行わせ,24時間後にフォローアップする。
過度の出血もしくは誤嚥がみられる患者,または患者が経口抗菌薬を服用できない患者には,長期の観察または入院が必要である。
多発性膿瘍の既往がある患者には,通常,膿瘍の再発を予防するために4~6週間後に待機的な扁桃摘出術を施行すべきである。
抗菌薬の投与を10日間継続すべきである。経験的に投与する薬剤の例としては,ペニシリン,第1世代セファロスポリン系薬剤,およびクリンダマイシンがある。その後,できれば,培養結果に基づいた抗菌薬を処方する。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)の可能性がある場合は,経験的に投与する抗菌薬を広域にして,これをカバーすべきである。
扁桃周囲膿瘍の排膿の注意点とよくあるエラー
過鎮静により,誤嚥のリスクが生じる
膿瘍腔に麻酔薬を直接注入する(これには疼痛が伴うため)
針またはメス刃を深く挿入しすぎる(頸動脈を貫通するリスクがあるため);1cmの深さで膿が回収できない場合は,それ以上深く挿入してはならない。
穿刺吸引で,針が矢状面方向(前方から後方)に挿入されていることを確認していない。頸動脈がある側方に針を挿入してはならない。
扁桃周囲膿瘍の排膿のアドバイスとこつ
ヘッドランプは,両手を使うことができるため不可欠であり,片方の手で穿刺吸引を行い,もう片方の手は舌圧子で舌を押し下げることができる。
麻酔薬を正しい深さに注入すると,アドレナリンによって誘発される血管収縮により,粘膜が蒼白化するはずである。
穿刺吸引では,穿刺の深さを制限するために,プラスチック製のシースの遠位1cmを切り取って針にかぶせ直すことで,針が1cmしか出ないようにする医師もいる。シースが脱落して吸引されないように,シースをシリンジにテープで固定する。
切開排膿の場合と同様に,深さのガイドとして,遠位0.5~1cmを残してメス刃全体にテープを貼る医師もいる。
刺入部から膿が排出され続ける場合は,吸引または切開排膿の再施行が必要になることがある。