脱臼歯の再植および固定

執筆者:Peter J. Heath, DDS, MD, American Board of Oral and Maxillofacial Surgery
レビュー/改訂 2019年 12月
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脱臼永久歯は,脱臼後可及的速やかに用手的に抜歯窩に再挿入する。暫間固定により,再植した歯を固定し,歯根膜の修復を促進する。

迅速に(30分未満)再植された脱臼歯は,予後が良好で多くの場合保存されるが,ほとんどの場合,最終的には根管治療が必要となる。歯が抜歯窩外にある時間が長ければ長いほど予後不良となるため,しばしば救急医療従事者またはプライマリケア医による再植が必要となる。しかしながら,約2時間後には通常,歯科医師へのコンサルテーションを行わない限り専門医以外の医師による再植は行われず,また通常,約3時間後には再植を試す価値はないと考えられている。

患者には,脱臼歯を洗ったり擦ったりしないこと,および脱臼歯を牛乳の入った容器に入れるか(信頼できる患者の場合は)舌の下に入れることを指示すべきである。医療専門家は,一時的な保管/輸送媒体として,ハンクス平衡塩溶液(Hanks' Balanced Salt Solution:HBSS)などの緩衝液を備蓄しておくべきである。

歯科的緊急事態,および破折歯・脱臼歯も参照のこと。)

脱臼歯の再植および固定の適応

  • 永久歯の脱臼,挺出,側方脱臼,または重度の亜脱臼(すなわち,歯が動揺し,疼痛を伴い,ときに出血を伴う)

脱臼歯の再植および固定の禁忌

絶対的禁忌

  • 乳歯の脱臼

  • 陥入した歯(深く歯槽に押し込まれた)

  • 重大な歯槽骨骨折,歯槽損傷,または永久歯の破折もしくは著しい齲蝕

  • 損傷した歯の部位における中等度/重度の歯周病

このような患者は管理のために歯科医師または口腔外科医に紹介すべきである。脱臼した乳歯は通常壊死し,感染するので再植しない。また,これらの歯は癒着状態になり脱落しないため,永久歯の萌出を妨げてしまうことがある。

相対的禁忌

  • 長時間,抜歯窩外にある(2時間以上)

長期予後は不良であるが,歯を廃棄しないこと;歯をHBSSに保管し,再植を試みることの可否について歯科医師または口腔外科医に相談する。専門医の助言が得られない場合,および/またはフォローアップが不確実である場合は,予後が非常に不良であることを患者に助言する。患者が希望する場合は,時間が妥当とみなせる2時間程度である場合,後述の方法で再植を試みる。

脱臼歯の再植および固定の合併症

  • 歯が脱落して誤嚥・誤飲することがある。

  • 長期合併症には,炎症性の歯根吸収または歯の癒着(歯根膜の生着によるものではなく,歯根と歯槽骨の癒着)などがある。

脱臼歯の再植および固定に使用する器具

  • 歯科用治療椅子,背もたれがまっすぐなヘッドレスト付きの椅子,またはストレッチャー

  • 口腔内照明用の光源

  • 非滅菌手袋

  • マスクおよび保護眼鏡,またはフェイスシールド

  • ガーゼ

  • 綿棒

  • 歯科用ミラーまたは舌圧子

  • 吸引装置

  • ハンクス平衡塩溶液(Hanks' balanced salt solution)(望ましい),またはそれが入手できない場合は牛乳

  • 常温重合する柔軟な固定用材料(例,歯周パック)

局所麻酔を行うための備品:

  • 表面麻酔軟膏*(例,5%リドカイン,20%ベンゾカイン)

  • 注射用の局所麻酔薬(2%リドカイン + アドレナリン†1:100,000含有または非含有,またはより長時間の麻酔では0.5%ブピバカイン + アドレナリン†1:200,000含有または非含有など)

  • 歯科用吸引式注射器(細い外筒および専用の注射用麻酔カートリッジ付き),またはロックハブ付きのその他の細い外筒の注射器(例,3mL)

  • 25Gまたは27G針:骨膜上浸潤の場合は長さ2cm;神経ブロックの場合は長さ3cm

*注意:全ての表面麻酔薬は粘膜表面から吸収され,用量限界を超えると毒性が生じることがある。軟膏剤は,低濃度の外用液剤およびジェルよりも管理が容易である。過剰なベンゾカインは,まれにメトヘモグロビン血症を引き起こすことがある。

†局所麻酔薬の最大用量は,アドレナリンを含有しないリドカインでは5mg/kg,アドレナリンを含有するリドカインでは7mg/kg,ブピバカインでは1.5mg/kgである。注:1%溶液は(いずれの物質であれ)10mg/mL(1gm/100mL)に相当する。アドレナリンは血管収縮を引き起こし,麻酔作用を延長させる。心疾患のある患者には,アドレナリンは限られた量のみ投与すべきである(1:100,000に希釈されたアドレナリンを含む溶液を最大3.5mL);あるいは,アドレナリンを含まない局所麻酔薬を使用する。

その他の留意事項

  • 再植の予後は歯根膜細胞の生存に依存する:歯冠のみで歯を扱い,愛護的に含嗽するのみとし,歯根を把持・操作したり,擦ったり(そうすることで健全な歯根膜線維が除去される可能性がある)してはならない。

  • 脱臼歯を再植した特定の高リスク患者には,心内膜炎に対する抗菌薬の予防投与を行うべきである。

  • 処置に協力できない患者(通常は小児)には鎮静が必要になることがある。

脱臼歯の再植および固定における関連する解剖

外傷による歯の転位は以下のように段階的に定義される:

  • 振盪—歯に転位や可動性はないが,歯根膜の炎症により歯が接触や圧力に過敏になる

  • 亜脱臼—歯に転位はないが動揺がある

  • 脱臼—歯の転位はあるが脱落していない

  • 脱落—歯が抜歯窩から完全に抜けている(完全脱臼)

再植を成功させるには,歯を支えるための比較的損傷のない抜歯窩(歯槽骨)が必要である。

脱臼歯の再植および固定での体位

  • 患者を傾け,後頭部が支えられている状態にする。

  • 頭部の方向を変え頸部を伸展させ,脱落部位に手が届きやすくなるようにする。

  • 下顎の場合は,半仰臥位をとり,開口時に下顎の咬合平面が床とほぼ平行になるようにする。

  • 上顎の場合は,より仰臥位をとり,上顎の咬合平面が床に対しておよそ60~90度になるようにする。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

初期評価および準備

  • 非滅菌手袋およびマスク/保護眼鏡,またはフェイスシールドを着用する。

  • 歯冠のみで歯を扱い,歯根の組織に触れないようにする。

歯が抜歯窩外にある時間が20分未満の場合は,直ちに再植する。生理食塩水で愛護的に歯を洗浄する。歯根のための空隙を確保するために,愛護的な洗浄と吸引(先端が細いもの)を用いて抜歯窩から血餅の大部分を除去する。血餅を全て除去しようとして時間を無駄にしてはならない。

歯の向きが正しいことを確認する。必要であれば,反対側の歯を位置の参考にする。

歯が抜歯窩外にある時間が20分以上2時間未満の場合は,30分間ハンクス平衡塩溶液(Hanks' balanced salt solution:HBSS;望ましい治療法)に歯を浸漬して歯根膜線維の細胞を再活性化させた後,歯を再植する。HBSSが入手できない場合は,牛乳を用いることができるが,あまり望ましくない。生理食塩水はさらに望ましくない代替手段である。前述の方法で血餅を除去する。

麻酔が必要な場合

  • ほとんどの下顎歯では,下歯槽神経ブロックを行う。

  • ほとんどの上顎歯では,骨膜上浸潤麻酔を行う。

  • 学齢期の小児に頻繁に起こる他に重大な外傷のない前歯の脱落に対しては,抜歯窩上の局所浸潤により通常十分な麻酔が得られ,神経ブロックよりも迅速である。

脱臼歯の再植

  • 歯冠を把持し,解剖学的に正しい方向に愛護的に抜歯窩に挿入する(必要であれば反対側を参考にする)。

  • 歯根部の組織を圧迫せずに,愛護的に歯を抜歯窩に押し込み(歯冠部を圧迫),歯を固定する。

  • 咬合の確認:患者に愛護的かつ緩徐に咬合させ,対合歯が再植歯を動かさないことを確認する。必要であれば歯の位置を再調整して,患者が正常に歯を咬み合わせることができるようにする。

  • 歯を固定する(以下参照)。

  • 歯をしっかりと固定できない,または歯の向きが正しいかどうか確信が持てない場合は,患者を歯科医師に直接紹介する。

亜脱臼歯(動揺するが転位していない)の安定化

  • 歯冠を愛護的に動かし,歯を正しい位置に整復するが,歯根部の組織を圧迫しない。

  • 歯を固定する(以下参照)。

脱臼歯を整復する(側方へ転位または歯槽から部分的に挺出している;陥入した歯は歯科医師が管理すべきである)

  • 必要に応じて指で圧迫し,転位歯を解剖学的に正しい位置に整復する。隣接歯と対合歯を参考にする。口蓋に転位した歯の場合は,ときに鉗子による前方への愛護的な牽引が必要となる。歯が著しく転位している場合は,歯科医師または口腔外科医に直接紹介するのが最善である。

  • 咬合の確認:患者に愛護的かつ緩徐に咬合させ,対合歯が整復した歯を動かさないことを確認する。

  • 歯を固定する(以下参照)。

整復した歯を固定する

  • 指示に従って柔軟な固定用材料を準備する(例,Coe-PakTMという歯周組織用のペーストの場合は,ベースとキャタリストを1:1の比率で十分に混合し,手袋をはめて湿らせた指で円柱状[ソーセージ]の形に丸める)。

  • 歯を歯槽内の所定の位置に保持する。

  • 細長くしたペーストを2本作る。再植歯の頬側に1本,舌側/口蓋側に1本置き,両側の1本または2本の歯にそのペーストを伸ばす。歯の咬合面は覆わない。

  • ペーストを歯の隙間に挿入しながら,愛護的にペーストの表面を滑らかにする。

  • 当該歯の両側が被覆できない場合は,固定用材料は頬側のみに装着する。

  • 暫間固定が効果的でなければ,より高度な固定の選択肢がないか,患者を歯科医師に直接紹介する。

  • 再植後,関連する損傷を同定するために歯科用X線写真を撮影する。

脱臼歯の再植および固定のアフターケア

  • 必要であれば,破傷風予防を行う。

  • 通常は抗菌薬が適切である(例,アモキシシリン500mg,1日3回を7日間)。

  • 患者は患側では咀嚼せず,液体と軟らかい食物のみを食べ,熱い食物と冷たい食物は避けるべきである。

  • フォローアップまで3~4時間毎に,温かい塩水によるごく軽い含嗽を行う。歯肉縁を避けて愛護的に歯磨きをする。

  • 疼痛には氷片およびNSAID(非ステロイド系抗炎症薬,例,イブプロフェン400g,6時間毎)を使用する;重度の損傷に対して必要であれば,麻薬性鎮痛薬(例,アセトアミノフェンとコデイン,ヒドロコドン,またはオキシコドンの併用)を使用してもよい。

  • 腫脹を軽減するため,顔面片側に氷嚢(30分間当てた後は30分間外す)を24時間当てた後,温罨法に切り替える。

  • 衛生的な固定(例,ワイヤーおよび接着型レジン)を行うため,可能であれば当日のうちに可及的速やかに歯科医師によるフォローアップを手配する。

  • 脱臼歯の再植および固定は歯の生着を保証するものではないことを患者に伝えておく。再植が成功した場合でも,当該歯には根管治療が必要となる(まれに,迅速に再植された,根未完成で根尖孔が開大した歯では血行が回復し,根管治療は不要となる)。

注意点とよくあるエラー

  • 再植は可能であれば30分以内に行う。2時間以上経ってから行われた再植の予後は非常に不良である。

  • 不潔物で汚染された歯は破傷風の危険因子であるため,予防接種歴を確認すべきである。

アドバイスとこつ

  • 迅速な再植と歯の慎重な取扱いが最も重要である。

  • 患者および親は当然のことながら心配し不安を抱いている。再植までの時間を短縮するために必要な協力を得るためには,穏やかな態度で安心させることが重要である。

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