舌の損傷は以下により生じることがある:
偶発的に舌を噛んだ
鋭利または破折した充填物または歯
鈍的外傷
穿通性外傷
偶発的に舌を噛むことは,正常な咀嚼時,痙攣発作時,または顎に打撃を受けた際(例,転倒,喧嘩,自動車事故)に,舌が歯に挟まれて生じることがある。鋭利または破折した充填物または歯は重大な損傷を引き起こすことがある。
重度の顔面鈍的外傷による舌損傷は,隣接組織の重大な損傷を伴うのが通常である。
顔面の穿通性外傷としては,銃創や重度の刺創または穿通創などがある。舌に損傷がある場合,顔面下部にある他の組織の損傷が示唆される。顔面の重度の穿通性損傷は,大量出血を起こすほか,誤嚥や舌と口底の浮腫によって気道閉塞につながる可能性がある。
舌損傷は大半が比較的軽微であり,舌への血液供給が豊富であることから,感染を合併することなく速やかに治癒する可能性が高い。しかしながら,血液供給が豊富であるがゆえに,重度の損傷が起きると止血が困難になる。
舌損傷のみの診断は,典型的には視診で明らかである。重度外傷がある場合は,気道の確保および管理,出血のコントロール,ならびに重大な血管損傷の同定を済ませてから,下顎,中顔面,および歯の評価を行う。(外傷患者へのアプローチも参照のこと。)
舌の外傷の治療
鋭利な歯または充填物の研磨
二次治癒
ときに縫合
出血は通常,患者が受診するまでに止まっている。出血を伴う裂傷のみの場合は,ガーゼパッドによる圧迫で処置できることが多い。大量の出血を伴う口腔顔面外傷は,通常,手術室で麻酔・気道確保下で評価および管理すべきである。
舌損傷における主な考慮点は,修復が必要かどうかである。この点については,舌を修復するには患者が非常に協力的であるか,鎮静薬または麻酔を用いる必要があるため,同程度の大きさの皮膚裂傷の場合よりも慎重に判断する。そのため,腕の裂傷は修復しても,舌の裂傷は自然治癒を待つことも可能である。
幸いなことに,多くの舌裂傷には外科的修復は不要である。
修復が必要な舌裂傷としては,以下の条件に当てはまるものがある:
剥離状または部分的切断
持続性の出血
構造上の問題(例,裂傷が舌を二分している,大きく開口している,U字型,大きな弁を含んでいる)
2cmを超える創傷(舌尖部が分離している場合はより小さい)
非外科的治療
破折した歯または充填物による表在性の舌裂傷は,歯の充填(研磨)または充填物の修復によって治療する。単純な線状の裂傷は,マウスガードまたはマウスプロテクターの使用により治癒する。
外科的治療
舌裂傷の管理は,裂傷全般の治療と同じ原則に従い,局所麻酔,洗浄,および修復を行う。
最も協力的な患者でさえ,口を開けて舌を動かさない状態を維持できるのはまれである。助手がガーゼで舌を把持し,伸展させておいてもよい。麻酔した舌尖部に強度の高い牽引糸を置き,それを牽引および安定化に用いる医師もいる。小児の場合,典型的には処置のための鎮静やときに麻酔が必要になる。
局所麻酔には,一般的に1~2%リドカイン/アドレナリンによる浸潤麻酔が許容される。舌前方3分の2の裂傷は,神経ブロックにより麻酔できる(下歯槽神経ブロックも参照)。外用消毒薬(例,ポビドンヨード)は不要である。
患者が誤嚥を起こさないよう注意しながら,創傷部を適量(例,100mL未満)の生理食塩水で洗浄する。異物は全て除去するが,修復中に創傷部に唾液が入らないように保つことは不可能であり,またその必要はない。
明らかに壊死した組織を切除する。その後,3-0または4-0の吸収性縫合材料で創傷部を閉鎖する。吸収性縫合糸は,合成非吸収性縫合糸より柔らかく(そのため口腔内の不快感が少ない),抜去する必要がない。
数日間は軟食とし,飲食後には含嗽をさせるべきである。非常に軽微な場合を除き,裂傷は全て48時間程度で確認すべきである。抗菌薬は,創傷が汚染されている場合(損傷の性質に基づき,外因性の原因による)と基礎疾患(コントロール不良の糖尿病やその他の易感染状態)がある場合を除き,通常は不要である。健康な患者における舌裂傷に対する抗菌薬使用の有益性は,ほとんどの場合,限定的である。抗菌薬が必要と判断した場合は,ペニシリン,アモキシシリン,またはクリンダマイシン(ペニシリンアレルギーがある場合)を考慮する。