歯肉炎

執筆者:James T. Ubertalli, DMD, Hingham, MA
レビュー/改訂 2022年 5月
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歯肉炎は歯周病の一種であり,歯肉の炎症を特徴とし,腫脹を伴う出血,発赤,浸出液,正常歯肉形態の変化,およびときとして不快感を引き起こす。診断は視診に基づく。処置は専門家による歯の清掃と家庭での口腔衛生の強化である。進行例では抗菌薬または外科手術が必要になることがある。

正常な歯肉は硬く,歯に密着し,歯間部は先の尖った形状を呈する。歯冠近くの角化歯肉はピンク色で小さな点で覆われた組織である。この組織が歯冠の間の全スペースを満たす。歯冠からより離れたところにある歯肉(歯槽粘膜と呼ばれる)は非角化性で,脈管が豊富で赤く,可動性があり,頬粘膜につながっている。正常歯肉からは舌圧子による診査で出血や排膿がないはずである。

炎症,すなわち歯肉炎(最も一般的な歯肉の問題)は,歯周炎へと進行することがある。

歯肉炎の病因

歯肉炎には以下のものがある:

  • プラーク性(典型的には口腔衛生不良による)

  • 非プラーク性

プラーク性歯肉炎

ほぼ全ての歯肉炎はプラーク性である。石灰化したプラークは,カルシウムおよびリン酸塩による細菌,食物残渣,唾液,および粘液の結石である。不良な口腔衛生により歯肉と歯の間にプラークが堆積する;すなわち,歯肉炎は歯の欠損部では発生しない。プラークによる刺激は,歯と歯肉の間の正常な溝(歯肉溝)を深め,歯肉ポケットを形成する。これらのポケットに,歯肉炎と根面齲蝕を引き起こす細菌が入り込む。不正咬合,歯石,食片圧入,不適合修復物,口腔乾燥症などの他の局所因子が,二次的役割を果たす。

プラーク性歯肉炎は,ホルモン変化,全身性疾患,薬剤,または栄養欠乏によって,誘発されるかまたは増悪することがある。

思春期,月経周期もしくは妊娠中,および閉経期に起こるホルモン変化,または経口(または注射用)避妊薬によるホルモン変化によって,炎症が増悪することがある。

全身性疾患(例,糖尿病,AIDS,ビタミン欠乏症,白血病,白血球減少症)は感染に対する反応に影響を及ぼすことがある。一部のクローン病患者で小腸の急性増悪が起きた場合,肉芽腫性の歯肉肥大による敷石状の部位がみられる。

シクロスポリンやニフェジピンなどの薬剤,およびナイアシン(ペラグラを引き起こす)またはビタミンC(壊血病を引き起こす)の重度の欠乏症(米国ではまれ)は,歯肉炎を引き起こすことがある。

重金属(例,鉛,ビスマス)への曝露は,歯肉炎,および歯肉縁の暗線を生じる原因となることがある。

非プラーク性歯肉炎

非プラーク性歯肉炎は,わずかな割合で発生する。原因には,細菌,ウイルス,および真菌感染,アレルギー反応,外傷,粘膜皮膚疾患(例,扁平苔癬,類天疱瘡),ならびに遺伝性疾患(例,遺伝性歯肉線維腫症)などがある。

歯肉炎の症状と徴候

単純性歯肉炎は,最初に歯と歯肉の間の溝が深くなり,続いて1本以上の歯の歯肉が帯状に発赤して炎症を起こし,歯間乳頭が腫脹し,易出血性の状態となる。疼痛は通常生じない。炎症は消失することも,何年も表在のままとどまることも,またはときとして歯周炎へ進行することもある。

歯冠周囲炎は,部分的に萌出した歯を覆う歯肉弁(operculum)の急性で有痛性の炎症であり,通常第3大臼歯(智歯)周囲に認められる。感染がよくみられ,膿瘍または蜂窩織炎が発生することもある。歯冠周囲炎は,歯肉弁の下部に食物が停滞すると再発することが多く,対合歯の上顎第3大臼歯によって生じる外傷により増悪することがある。歯肉弁は,歯が完全に萌出すると消失する。多くの智歯は萌出せず,埋伏歯と呼ばれる。

閉経期に,剥離性歯肉炎が発生することがある。易出血性で深い赤みを呈する有痛性の歯肉組織を特徴とする。水疱が表皮剥離の前に生じることもある。食物片による擦過に抵抗する角質細胞がないために,歯肉は軟らかい。同様の歯肉病変が,尋常性天疱瘡,水疱性類天疱瘡,良性粘膜類天疱瘡,または萎縮性扁平苔癬に伴うことがある。

妊娠中は特に歯間乳頭に腫脹が生じる可能性が高い。妊娠の第1トリメスター中に,軟らかく赤みのある有茎性の歯肉の増殖が歯間乳頭にしばしば発生し,妊娠中持続することがあり,分娩後に消退することもしないこともある。このような増殖はときに妊娠腫と呼ばれる化膿性肉芽腫である。急速に発達し,それから成長を止める。歯石や粗造な修復物マージンのような,原因となる刺激物が一般的に存在する。このような増殖物は妊娠していない女性もしくは男性にもみられる。

コントロール不良の糖尿病は,歯肉への刺激の影響を増幅させることがあり,結果,二次感染や急性歯肉膿瘍がよくみられる。

白血病においては,歯肉は白血病細胞の浸潤で充血し,浮腫,疼痛,易出血性などの臨床症状を呈する事がある。

壊血病では,歯肉が炎症を起こし,肥大,充血,易出血性がみられる。点状出血と斑状出血が,口腔内全体に現れることがある。

ペラグラでは,歯肉が炎症を起こし,易出血性で,二次感染を起こしやすい。さらに,口唇は赤みを帯びてひびが入り,口に灼熱感を生じ,舌は滑沢で鮮紅色となり,舌と粘膜が潰瘍化することがある。

歯肉炎の診断

  • 臨床的評価

歯肉線にある紅斑性の脆弱な組織の所見により歯肉炎の診断を確定する。歯肉疾患の早期発見のため,各歯の周囲にあるポケットの深さを頻繁に測定する歯科医師もいる。深さが3mm未満であれば正常であるが,ポケットがより深ければ歯肉炎と歯周炎のリスクが高い。

歯肉炎の治療

  • 定期的な口腔衛生と専門家による清掃

単純性歯肉炎は,抗菌性含嗽剤使用の有無にかかわらず,適切な口腔衛生でコントロールすることができる。十分なスケーリング(専門家による手用または超音波器具による清掃)を行うべきである。必要に応じて不適切な形態の修復物は形態修正もしくは新製し,局所的な刺激物は除去する。過剰な歯肉がある場合は,切除することもある。歯肉増殖を引き起こす薬剤は可能であれば中止する;不可能であれば,ホームケアの向上と専門家による清掃の頻度を高くすることにより(少なくとも3カ月に一度),通常は過剰増殖を抑えることができる。妊婦腫は切除する。

歯冠周囲炎の処置には次の方法がある:

  • 歯肉弁下の停滞物の除去

  • 生理食塩水,1.5%過酸化水素水,または0.12%のクロルヘキシジンによる洗浄

  • 抜歯(特に同様の症状を繰り返す場合)

重度の感染を来すならば,抜歯の前日に抗菌薬を投与し,治癒期間中も継続する。一般的なレジメンはアモキシシリン500mg,6時間毎経口投与,10日間(または全ての炎症の消退後3日間まで)である。歯冠周囲炎を伴う膿瘍は,局所の切開排膿,歯肉弁および根面のデブリドマン,または抜歯が必要である。

全身性疾患による歯肉炎においては,その疾患に対して行う。閉経期の剥離性歯肉炎においては,エストロゲンやプロゲスチンの持続的投与が有益となることがあるが,この治療法(ホルモン療法を参照)には有害作用があり,使用の推奨は制限される。それ以外では,コルチコステロイドリンスまた歯肉に直接塗布するコルチコステロイドペーストが処方されることがある。尋常性天疱瘡および類似の皮膚粘膜疾患によって生じる歯肉炎には,コルチコステロイドの全身投与による治療が必要なこともある。

歯肉炎の予防

デンタルフロスと歯ブラシによる毎日のプラーク除去と,6カ月~1年間隔の歯科医師または歯科衛生士による定期的な口腔清掃が,歯肉炎の発症の抑制に役立つ。歯肉炎の素因となる全身性疾患の患者には,より頻回の(2週間から3カ月毎)専門家による口腔清掃が必要である。

要点

  • 歯肉炎は主に口腔清掃の不良によって生じるが,ホルモン変化(例,妊娠,閉経)またはある種の全身性疾患(例,糖尿病,AIDS)による場合もある。

  • 専門家による口腔清掃に加えて,必要に応じた抗菌性含嗽剤の処方が通常は十分な対応である。

  • 全身的要因もまた治療しなければならない。

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