歯髄炎

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2023年 1月
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歯髄炎は未処置の齲蝕,外傷または複数の修復物に起因する歯髄の炎症である。主症状は疼痛である。診断は臨床所見とX線および歯髄診査(生活反応)の結果に基づく。処置として,齲蝕の除去,欠損部歯質の修復,ときには根管治療または抜歯が行われる。

歯髄炎は以下の場合に起こる:

  • 齲蝕が象牙質内に深く進行している場合

  • 歯に複数回の侵襲的処置が必要である場合

  • 外傷により,歯髄へのリンパおよび血液供給が阻害されている場合

歯髄炎は以下に分類される:

  • 可逆性:限局された炎症として始まる歯髄炎で,単純修復で歯牙保存が可能なもの。

  • 不可逆性:象牙質という硬い閉鎖空間内の腫脹により循環が損なわれ,歯髄が壊死し,感染が起こりやすくなった状態。

合併症

歯髄炎の感染性続発症には,根尖性歯周炎,根尖膿瘍,蜂窩織炎,および(まれに)顎骨骨髄炎がある。上顎歯からの感染拡大は,化膿性副鼻腔炎髄膜炎脳膿瘍眼窩蜂窩織炎海綿静脈洞血栓症を引き起こす可能性がある。

下顎歯からの感染拡大は,口底蜂窩織炎(Ludwig angina)副咽頭間隙膿瘍縦隔炎心膜炎,膿胸,頸静脈血栓性静脈炎を起こす可能性がある。

歯髄炎の症状と徴候

可逆性歯髄炎においては,歯に刺激(通常は冷感や甘味)が加わるときに疼痛が生じる。刺激が除去されると痛みは1~2秒で止まる。

不可逆性歯髄炎においては,疼痛が自発的に生じたり,刺激(通常は温熱,頻度は低いが冷感)が取り除かれた後も何分か残存したりする。患者は痛みを発する歯を特定することが困難であり,上顎と下顎の歯列弓を混同することさえある(ただし口腔の左右側を間違えることはない)。疼痛は歯髄の壊死により,その後数日で止まることがある。歯髄壊死が完了すると,歯髄は熱または冷刺激に応答しなくなるが,しばしば打診痛を示す。感染が起こり,根尖孔にまで拡大すると,歯は圧と打診に対して強烈に過敏になる。根尖周囲(歯槽)膿瘍が歯槽から歯を挙上し,咬合時に歯が「高く」感じる。

歯髄炎の診断

  • 臨床的評価

  • ときに歯科X線検査

診断は,病歴および刺激の誘発(熱および冷刺激を加える,および/または打診を行う)を用いた身体診察に基づく。歯科医師はまた,電気歯髄診断器を使用することもあるが,これにより歯髄の生死は判明するが歯髄が健康かどうかはわからない。患者が歯に加えられた微小な電流を感じることができれば,歯髄は生存している。

X線写真は,炎症が歯根まで拡大しているかの判断や,その他の病状除外の手助けとなる。

歯髄炎の処置

  • 可逆性歯髄炎に対しては形成充填

  • 不可逆性歯髄炎に対しては根管治療および歯冠補綴,または抜歯

  • 局所の処置で消失しない感染に対しては抗菌薬(例,アモキシシリンまたはクリンダマイシン)

可逆性歯髄炎においては,歯の処置(通常齲蝕の除去),続いて修復を行った場合に,歯髄を温存できる。

不可逆性歯髄炎とその続発症には,歯内療法(根管治療)または抜歯が必要である。歯内療法においては,歯に開口部を作り歯髄を除去する。根管内の清掃を徹底的に行い,根管形成後,ガッタパーチャを充填する。根管治療後に,臨床的には症状の消失によって,X線所見的には,数カ月の期間後,根尖部のX線透過像部の骨の再生によって治療の良否を判定する。患者に感染の全身徴候(例,発熱など)が認められる場合,経口抗菌薬を処方する(アモキシシリン500mg,8時間毎;ペニシリンにアレルギーのある患者には代替薬として,セファレキシンまたは別の第1世代もしくは第2世代セファロスポリン系薬剤,アジスロマイシン,クラリスロマイシン,ドキシサイクリンなどがある)(1)。もし症状が持続したり,悪化がみられたりする場合は,根管の見逃しがないか確認のため,通常は再度根管治療を行うが,別の診断の可能性(例,顎関節症,潜在的歯牙破折,神経疾患)も考慮に入れるべきである。

非常にまれであるが,圧搾空気や歯科用エアタービンを根管治療または抜歯時に用いた後,皮下または縦隔の気腫が発生することがある。これらの器具は空気を歯槽周囲組織に送り込み,筋膜面に沿って解離させる。顎と頸部の腫脹が急性に生じ,触診により腫脹した皮膚に特徴的な捻髪音が伴う場合に,それと診断される。ときに予防的な抗菌薬の投与を行うが,処置は通常必要ない。

治療に関する参考文献

  1. 1.Wilson WW, Gewitz M, Lockhart PB, et al: Prevention of viridans group streptococcal infective endocarditis: A scientific statement from the American Heart Association.Circulation 18;143(20):e963-e978, 2021. doi: 10.1161/CIR.0000000000000969

要点

  • 歯髄炎は歯の深い齲蝕,外傷または広範囲の修復に起因する歯髄の炎症である。

  • ときに感染が起こる(例,根尖膿瘍,蜂窩織炎,骨髄炎)。

  • 歯髄炎は可逆性または不可逆性の場合がある。

  • 可逆性歯髄炎では歯髄が壊死しておらず,冷感や甘味の刺激により疼痛が生じ(通常痛みは1~2秒で止まる),その修復には形成および充填を要する。

  • 不可逆性歯髄炎の場合,歯髄は壊死しつつあり,刺激(しばしば温熱)により,典型的には数分間持続する疼痛がみられる;根管治療または抜歯が必要である。

  • 不可逆性歯髄炎の後期には歯髄壊死が生じ,熱や冷感刺激に歯髄は反応しないが,しばしば打診に反応する;根管治療または抜歯が必要である。

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