せつ(おでき)は,ブドウ球菌感染により生じる皮膚膿瘍であり,毛包とその周囲の組織を侵す。ようは複数のせつが皮下でつながってできる病変であり,せつよりも化膿が深く,瘢痕化を来す。それらは皮下膿瘍よりは小さく浅在性である。診断は病変の外観による。治療は温罨法としばしばブドウ球菌に有効な抗菌薬の内服である。
(皮膚細菌感染症の概要も参照のこと。)
せつとようは,どちらも健康な若年者に発症することがあるが,肥満または易感染状態(好中球の機能障害を含む)の人や高齢者でより多くみられ,糖尿病患者でも生じやすい可能性がある。比較的衛生状態の悪い過密地区に住む人々や,強毒株に感染した患者と接触した人々の間で集団発生が生じることがある。
素因として,皮膚または鼻腔内での細菌の定着,高温多湿の気候,毛包の閉塞または解剖学的異常(例,ざ瘡における面皰)などがある。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)が頻度の高い原因の1つである。
せつは頸部,乳房,顔面,および殿部に好発する。せつは,皮膚と下部構造が密着している部位(例,鼻,耳,手指)に生じると不快となり,疼痛を伴うこともある。外観は結節または膿疱であり,壊死組織および血性の膿汁を排出する。
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ようは,複数のせつが皮下でつながってできる病変である。発熱を伴うことがある。
せつとようの診断
臨床的評価
病変の培養
診断は診察による。
培養検体を採取すべきである。
せつとようの治療
排膿
しばしば,MRSAに有効な抗菌薬
膿瘍は切開排膿する。排膿を促すため,間欠的に温罨法を行う。
抗菌薬を使用する場合は,培養および感受性試験の結果が出るまで,MRSAに有効なものを使用すべきである。発熱のない患者では,5mm未満の単一病変の治療に抗菌薬は不要である。次の場合には抗菌薬の全身投与が推奨される:
5mmを超えるか排膿で消失しない5mm未満の病変
多発性の病変
蜂窩織炎の拡大を示唆する所見
易感染状態
心内膜炎のリスクがある患者
発熱
治療選択肢としては,スルファメトキサゾール/トリメトプリム800/160mg~1600/320mg,経口,1日2回,クリンダマイシン300~600mg,経口,6~8時間毎,ドキシサイクリンまたはミノサイクリン100mg,経口,12時間毎などがある。
MRSAが蔓延している病院に入院しているせつ腫症の患者では,他の入院患者から隔離し,培養結果に基づき蜂窩織炎に推奨される治療を行わなければならない可能性がある。
せつはしばしば再発するが,イソプロピルアルコールに溶解したグルコン酸クロルヘキシジンまたは2~3%クロロキシレノールを含有する液体石鹸を使用することで予防できる。再発性のせつ腫症の患者では,肥満,糖尿病,誘発因子に対する職業的または産業的曝露,黄色ブドウ球菌(S. aureus)の鼻腔内保菌やMRSAの定着など,素因に対する治療を行うべきである。前述の対策にもかかわらず,せつが発生した場合は,リファンピシンと別の経口抗菌薬の併用を考慮してもよい。
要点
毛包に結節または膿疱がみられ,壊死組織と血性の膿汁が排出されている場合,特に頸部,乳房,顔面,または殿部の場合には,せつを疑う。
せつおよびようの検体で培養を行う。
病変の排膿を行う。
易感染性,発熱,また心内膜炎のリスクのある患者,5mm未満の病変が排膿後も消失しない患者,ならびに病変が5mmを超えるか,多発しているか,拡大している患者には,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)に有効な抗菌薬を処方する。