扁平苔癬は,そう痒を伴う再発性の炎症性発疹が生じる疾患で,平坦に隆起した多角形で紫色のはっきりした小丘疹を特徴とし,それらが融合して表面のざらざらした鱗屑を伴う局面を形成することがあり,しばしば口腔病変や性器病変を伴う。診断は通常臨床的に行い,皮膚生検で裏付けが得られる。一般に,治療にはコルチコステロイドの外用または病変内注射が必要となる。重症例では光線療法,またはコルチコステロイド,レチノイド,もしくは免疫抑制薬の全身投与が必要になることもある。
扁平苔癬の病因
扁平苔癬は,遺伝的素因のある人において表皮基底角化細胞に対するT細胞性の自己免疫反応が生じるために発生すると考えられている。薬剤(特にβ遮断薬,非ステロイド系抗炎症薬[NSAID],アンジオテンシン変換酵素阻害薬,スルホニル尿素薬,金製剤,抗マラリア薬,ペニシラミン,サイアザイド系薬剤)が扁平苔癬を引き起こすことがある;薬剤性の扁平苔癬(苔癬型薬疹と呼ばれることがある)は薬剤性以外の扁平苔癬と鑑別できないことがあり,より湿疹に近いパターンを示すこともある。
肝炎(B型肝炎,B型肝炎ワクチン,および特にC型肝炎による肝機能不全)および原発性胆汁性胆管炎(かつては原発性胆汁性肝硬変として知られていた)との関連が報告されている。
扁平苔癬の症状と徴候
典型的な病変は,そう痒を伴い平坦に隆起した多角形で紫色の丘疹および局面である。初期病変は直径2~4mmで辺縁が角ばっており,横から光を当てると特徴的な光沢がみられる。病変は通常,対称性に分布し,手関節の屈側面,下肢,体幹,亀頭,口腔粘膜,および腟粘膜に好発するが,より広範に分布することもある。顔面に生じることはまれである。発症は突然な場合もあれば,緩徐な場合もある。小児が罹患することはまれである。
この画像には,扁平苔癬に典型的な横から光を当てると光沢を帯びる小丘疹が写っている。
Image courtesy of Karen McKoy, MD.
この画像には,扁平苔癬により生じた水疱性病変(一部は破裂している)が写っている。
Image courtesy of Karen McKoy, MD.
この画像には,扁平苔癬により生じた丘疹および局面が写っている。
Image courtesy of Karen McKoy, MD.
この写真には,色の濃い皮膚に生じた扁平苔癬の丘疹および局面が写っている。上肢背側に平坦に隆起した紫色の丘疹がみられる。色の濃い皮膚では,紅斑がより紫色ないし褐色に見えることがある。
Image courtesy of Karen McKoy, MD.
この画像には,扁平苔癬患者の手背に生じた平坦に隆起した紫色の丘疹と,それらが融合してできた局面が写っている。
Image provided by Thomas Habif, MD.
急性期には,皮膚表面のひっかき傷など皮膚の小さな損傷部位に新しい丘疹が出現することがある(ケブネル現象)。病変は時間とともに融合または変化し,色素沈着,萎縮,角質増殖(肥厚性扁平苔癬),小水疱・水疱が生じることがある。そう痒を伴うが,病変が剥脱したり痂皮化することはまれである。頭皮が侵されると,斑状の瘢痕性脱毛(毛孔性扁平苔癬)を生じることがある。
約50%の症例では口腔粘膜が侵され,口腔病変は皮膚病変がなくても生じることがある。網状でレース様の青白色の線状病変(ウィッカム線条)が口腔扁平苔癬の特徴的所見であり,特に頬粘膜で顕著である。舌縁および無歯領域の歯肉粘膜も侵されることがある。びらん型の扁平苔癬が生じることもあり,しばしば疼痛を伴う浅い口腔内潰瘍が繰り返し発生し,長期間持続すると,まれに悪性化する。慢性的に増悪と寛解を繰り返すのが一般的である。
外陰および腟粘膜がしばしば侵される。口腔粘膜所見のある女性の最大50%が未診断の外陰扁平苔癬を有している。男性では,性器病変,特に亀頭の病変がよくみられる。
最大10%の症例で爪が侵される。所見の強さは様々であり,爪床の変色,縦方向の隆起および側方の菲薄化,爪母および爪甲の完全な消失,さらには後爪郭に生じた瘢痕が爪床に入る所見(翼状爪)がみられる。
扁平苔癬の診断
扁平苔癬の予後
多くの症例では介入なしで病変が消退するが,これはおそらく,誘発因子が消失するためと考えられる。数年後に再発することがあるが,これは誘因への再曝露が生じたか,誘発機序に何らかの変化が生じたことが原因である可能性がある。以前は不顕性であった感染症(歯膿瘍など)を治療することで,消退につながることがある。
外陰腟扁平苔癬が慢性化し,治療抵抗性となる場合があり,生活の質の低下や腟または外陰の瘢痕形成を引き起こす。口腔粘膜病変は通常,生涯持続する。
扁平苔癬の治療
局所療法
全身療法
ときに光線療法
無症状の扁平苔癬には治療は不要である。扁平苔癬の誘因と疑われる薬剤を中止すべきであり,原因薬剤を中止してから病変が消失するまでには,数週間から数カ月を要する可能性がある。
局所療法
治療法を評価した対照研究はほとんどない。選択肢は病変の部位と範囲によって異なる。体幹または四肢に扁平苔癬が生じた症例の大半は外用療法で治療できる。限局例の大半では,コルチコステロイドの外用が第1選択の治療法である。四肢の厚い病変には高力価の軟膏またはクリーム(例,クロベタゾール,フルオシノニド)を使用でき,顔面,鼠径部,および腋窩には,比較的低力価の薬剤(例,ヒドロコルチゾン,デソニド[desonide])を使用できる。通常通り,コルチコステロイドによる皮膚萎縮のリスクを低減するため,投与コースの数を制限すべきである。ポリエチレンのラップまたはフルランドレノリド含有テープを使用することで,効力を高められる場合がある。角化局面,頭皮病変,および他の治療に抵抗性を示した病変に対しては,コルチコステロイドの病変内注射(生理食塩水で5~10mg/mLに希釈したトリアムシノロンアセトニド溶液)を4週に1回の頻度で行ってもよい。
全身療法および光線療法
汎発性の扁平苔癬には,局所療法を行うのは実際的でなく,経口薬または光線療法を用いる。コルチコステロイドの内服(例,プレドニゾンを20mg,1日1回で2~6週間継続してから漸減する)を重症例に用いてもよい。この疾患は治療を中止するとリバウンドを起こすことがある;しかし,コルチコステロイドの全身投与は長期にわたり行うべきではない。
レチノイドの内服(例,アシトレチン(acitretin)30mg,1日1回,8週間)は,それ以外の治療で難治性となった症例で適応となる。グリセオフルビン250mg,1日2回の3~6カ月間の内服も効果的となりうる。コルチコステロイドまたはレチノイドが無効に終わった場合は,シクロスポリン(1.25~2.5mg/kg,経口,1日2回)を使用することができる。ソラレンと紫外線A波照射の併用療法(PUVA療法)またはナローバンドUVB(NBUVB)療法による光線療法は,経口薬物療法の代わりとなる治療法であり,特に経口薬物療法が禁忌の場合や無効に終わった場合によく用いられる。
ジアフェニルスルホン,ヒドロキシクロロキン,アザチオプリン,およびトレチノインの外用も有用となりうる。多くの治療法がある他の疾患と同様,個々の薬剤が常に効果を示すわけではない。
乾癬の治療に用いられるアプレミラスト(ホスホジエステラーゼ4阻害薬)は,外陰部扁平苔癬の女性患者への使用について現在研究されている。
口腔扁平苔癬
口腔扁平苔癬の治療はやや異なる。びらんを来した潰瘍の症状緩和にリドカインビスカスが有用となることがあるが,炎症を起こした粘膜では吸収量が高まる可能性があるため,用量は200mg(例,2%溶液を10mL)または4mg/kg(小児の場合),1日4回を超えないようにすべきである。タクロリムス0.1%軟膏の1日2回の外用により長期の寛解が得られることもあるが,この方法は十分に評価されているわけではない。
その他の治療法としては,コルチコステロイドの外用(粘着性基剤を使用),病変内注射,全身投与がある。
びらん性の口腔扁平苔癬は,ジアフェニルスルホン,ヒドロキシクロロキン,またはシクロスポリンの経口投与に反応することがある。シクロスポリンの含漱剤も役立つ可能性がある。
要点
扁平苔癬は遺伝的素因を有する患者に生じる自己免疫疾患と考えられているが,薬剤によって引き起こされる場合や,C型肝炎などの疾患に合併する場合もある。
扁平苔癬の特徴は,そう痒を伴い平坦に隆起した多角形で紫色の丘疹が繰り返し発生することであり,それらが融合して局面になることもある。
口腔および性器に病変が発生し,慢性化して,合併症につながることがある。
扁平苔癬の診断は,臨床的な外観と必要に応じた生検による。
限局性の扁平苔癬は,コルチコステロイドの外用または注射により治療する。
全身性の扁平苔癬は,経口薬または光線療法により治療する。