鞭虫症は,鞭虫(Trichuris trichiura)による感染症である。症状としては,腹痛と下痢のほか,多数寄生では貧血や低栄養などがみられる。診断は便中の虫卵を検出することによる。治療はメベンダゾール,アルベンダゾール,またはイベルメクチンによる。
(寄生虫感染症へのアプローチも参照のこと。)
鞭虫症は,土壌を介して感染する線虫感染症として3番目に多い。世界で6億400万人から7億9500万人が感染していると推定される。Trichuris trichiuraは主に,人糞が肥料として使用されているか,土壌に排便する習慣がある熱帯または亜熱帯の開発途上地域で感染が発生している。小児は感染量が最も多い。米国では,鞭虫症の大半の症例は衛生環境が不良な流行地域からの移民または旅行者に発生しているが,南部の一部の地域では現地で感染した症例も存在する。
感染経路は糞口感染である。摂取された虫卵が孵化し,幼虫が小腸の陰窩に侵入する。1~3カ月かけて成熟した後,成虫は盲腸および上行結腸に移行し,そこで表層上皮に付着し,交接し,産卵する。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention, Global Health, Division of Parasitic Diseases and Malaria.
成虫は1~2年生存すると推定されるが,さらに長く生存する場合もある。
鞭虫症の症状と徴候
鞭虫(Trichuris)の少数寄生は,しばしば無症状である。
多数寄生の患者では,腹痛,食欲不振,および下痢がみられることがあり,結果として体重減少,貧血,直腸脱が生じることもあり,これらの症状は特に小児でよくみられる。
鞭虫症の診断
便の鏡検
鞭虫症の診断は便の鏡検により行う;両端に明瞭な蓋を有するレモン形の特徴的な虫卵が容易に発見される。他の適応で肛門鏡,直腸鏡,または大腸内視鏡検査が施行された際に,小刻みに動く成虫が腸管内腔に脱出しているのが発見されることがある。
血算により貧血の有無を確認する。
鞭虫症の治療
メベンダゾール
アルベンダゾール
イベルメクチン
メベンダゾール100mg,経口,1日2回,3日間が鞭虫症の患者に効果的である。集団治療プログラムでは,メベンダゾール500mgの単回投与が使用されている。個々の患者に効果的な別の治療として,アルベンダゾール400mg,経口,1日1回,3日間またはイベルメクチン200μg/kg,経口,1日1回,3日間の投与もある。これらの薬剤は通常,妊娠中に使用すべきではない。
イベルメクチンによる治療を予定している場合,ロア糸状虫の流行地である中央アフリカに行ったことがある患者では,ロア糸状虫(Loa loa)の同時感染がないか評価すべきであり,イベルメクチンはロア糸状虫のミクロフィラリアの濃度が高い患者では重度の反応を引き起こす可能性がある。
鞭虫症の予防は,効果的な下水処理システム,衛生的な食品の調理,汚染されている可能性のある水の回避,および手洗いなどの良好な個人衛生によって可能となる。
要点
鞭虫症は主に,人糞が肥料として使用されているか,ヒトが土壌に排便する習慣のある熱帯または亜熱帯の開発途上地域で発生するが,米国南部でも主に小児への感染が発生している。
感染経路は糞口感染である。
少数寄生の場合は無症状のことが多いが,多数寄生では腹痛,食欲不振,下痢のほか,小児では体重減少,貧血,および直腸脱が生じることがある。
鞭虫症の診断では,便検体を検査して両端に明瞭な蓋を有するレモン形の特徴的な虫卵を同定する。
メベンダゾール,アルベンダゾール,またはイベルメクチンにより治療する。
イベルメクチンによる治療を予定している場合,ロア糸状虫(Loa loa)の流行地である中央アフリカに行ったことがある患者では,ロア糸状虫の同時感染がないか評価すべきであり,イベルメクチンはロア糸状虫(Loa loa)のミクロフィラリアの濃度が高い患者では重度の反応を引き起こす可能性がある。