Q熱は,リケッチア様の桿菌であるCoxiella burnetiiを原因菌とする急性または慢性疾患である。急性型では,発熱,頭痛,倦怠感,および間質性肺炎が突然発生する。慢性型の臨床像は侵された器官系を反映したものとなる。診断はいくつかの血清学的手法,起因菌の分離,またはPCR法によって確定される。治療はドキシサイクリンによる。
(リケッチアとその近縁微生物による感染症の概要も参照のこと。)
Coxiella burnetiiは,多形性を示す小型の細胞内寄生桿菌であり,現在ではRickettsiaには分類されていない。分子生物学的研究により,この微生物はLegionella属と同じくプロテオバクテリアに再分類されている。
Q熱には以下の種類がある:
急性
慢性
急性型では,呼吸器系を侵す発熱性疾患を呈することが多いが,ときに肝臓が侵されることもある。妊娠中に感染した女性では,自然流産および早産のリスクが高くなる。
慢性Q熱は5%未満の患者でみられる。通常,心内膜炎または肝炎を呈するが,骨髄炎が生じることもある。
Q熱は世界各地に分布しており,ペットまたは家畜において不顕性感染の形で保持されている。ヒツジ,ウシ,およびヤギがヒトへの感染にとって第一の病原体保有生物である。C. burnetiiは便,尿,乳汁,および組織(特に胎盤)の中で長期間生残することから,媒介物や感染性エアロゾルが容易に発生する。C. burnetiiは自然界では動物-ダニ間サイクルによっても維持されているが,ヒトへの感染に節足動物は関与しない。
Q熱の病因
Q熱の症例は,家畜(無症状のことが多い)や畜産物との濃厚接触がある職業の従事者にみられる。通常,伝播は長距離を移動する可能性がある感染性エアロゾルの吸入によって起こるため,感染したヤギやヒツジが飼育されている場所の風下に住んでいる人々に影響が及ぶ。汚染された生乳の摂取によっても感染する可能性がある。
C. burnetiiは毒性が強く,不活化処理に抵抗性で,粉塵および便中で数カ月にわたり生存可能であり,1菌体でも感染が成立することがある。こういった特徴があるため,C. burnetiiは生物兵器として使用される可能性がある。
ヒトからヒトへの感染は非常にまれである。
Q熱の症状と徴候
潜伏期間は平均18~21日である(範囲は9~28日)。急性Q熱は無症状のことが多いが,そうでない場合は突然発症し,インフルエンザ様の症状,すなわち発熱,重度の頭痛,悪寒,重度の倦怠感,筋肉痛,食欲不振,および発汗がみられる。発熱は40℃に達することもあり,1週間から3週間以上持続する。
まれに,急性Q熱が脳炎または髄膜脳炎として現れることがある。
発症後4~5日には呼吸器症状(乾性咳嗽,胸膜性胸痛)が出現する。それらの症状は,高齢患者や衰弱した患者では特に重症化する可能性がある。診察では,断続性ラ音がよく聴取されるほか,硬化を示唆する所見を認めることもある。リケッチア感染症とは異なり,急性Q熱では発疹がみられない。
一部の患者で生じる急性肝障害は,ウイルス性肝炎に類似し,発熱,倦怠感,右上腹部痛を伴う肝腫大のほか,ときに黄疸がみられる。頭痛および呼吸器徴候を欠くことが多い。
急性Q熱患者の最大20%でQ熱後疲労症候群が発生すると報告されている(1)。患者は重度の疲労,筋肉痛,頭痛,羞明,気分や睡眠の変化などを訴える。
慢性Q熱は,最初の感染から数週間あるいは何年も後に発現することがある。心臓弁の異常,動脈瘤,または血管移植の既往がある人は,慢性Q熱を発症するリスクが高い。妊娠および免疫抑制にも慢性Q熱発症との関連が報告されている。肝炎が不明熱として現れることがある。肝生検で肉芽腫を認めることがあるが,その場合は肝肉芽腫の他の原因(例,結核,サルコイドーシス,ヒストプラズマ症,ブルセラ症,野兎病,梅毒)との鑑別が必要になる。
心内膜炎は培養陰性の亜急性細菌性心内膜炎と類似し,大動脈弁が最もよく侵されるが,疣贅はどの心臓弁にも生じうる。著明なばち指,動脈塞栓,肝腫大,脾腫,および紫斑性の発疹が生じることもある。Q熱心内膜炎を発症した患者のうち,急性感染症の症状がみられるのはわずか20~40%である。
急性Q熱の致死率は無治療の患者でも約1%に過ぎない。無治療の慢性Q熱心内膜炎は常に死に至る。十分な抗菌薬治療を行えば,Q熱心内膜炎の死亡率は5%未満まで低下する(2)。神経が侵される一部の患者では後遺症が残る。
症状と徴候に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Information for Healthcare Providers, Q Fever
2.Million M, Thuny F, Richet H, et al: Long-term outcome of Q fever endocarditis: a 26-year personal survey.Lancet Infect Dis 10(8):527-35, 2010.doi: 10.1016/S1473-3099(10)70135-3.Epub 2010 Jul 14.PMID: 20637694.
Q熱の診断
感染組織による蛍光抗体法(IFA)またはPCR法
ときに急性期および回復期検体での血清学的検査
Q熱の診断が症状から容易に示唆されることはない。早期には,Q熱は多くの感染症(例,インフルエンザ,その他のウイルス感染症,サルモネラ症,マラリア,肝炎,ブルセラ症)に類似する。後期には,Q熱は様々な形態の細菌性,ウイルス性,およびマイコプラズマその他の非定型肺炎に類似する。動物または畜産物との接触が重要な手がかりとなる。
感染組織のIFAが第1選択の診断法であるが,別の方法として酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を用いてもよい。急性期および回復期血清(典型的には補体結合法)を使用してもよい。II相菌抗原に対する抗体は急性疾患の診断に用いられ,I相菌およびII相菌抗原の両者に対する抗体は,慢性疾患の診断に用いられる。
PCR法では生検検体中の起因菌を同定できるが,陰性であったからといってこの診断を除外できるわけではない。
臨床検体からC. burnetiiを分離できることがあるが,これは特別な研究施設でのみ可能であり,ルーチンの血液および喀痰培養では陰性となる。
呼吸器系の症候がみられる患者には,胸部X線が必要であり,その所見としては,無気肺,胸膜に接する陰影,胸水,肺葉性の実質性陰影などがある。巨視的な肺所見は細菌性肺炎と類似することがあるが,組織学的にはオウム病や一部のウイルス性肺炎に類似している。
急性Q熱においては,血算値が正常となることもあるが,約30%の患者では白血球数が高値となる。典型例ではアルカリホスファターゼ,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が軽度(正常値の2~3倍)に上昇する。肝生検が施行された場合には,しばしばびまん性の肉芽腫性変化が認められる。
Q熱心内膜炎では,血液培養は陰性となり,心臓弁の増殖性病変は小さく,心エコー検査でも約12%の患者でしか描出されないことから,診断が困難になる可能性がある(CDC: Diagnosis and Management of Q Fever — United States, 2013: Recommendations from CDC and the Q Fever Working Groupを参照)。
Q熱の治療
ドキシサイクリン
急性Q熱の初期治療としては,成人ではドキシサイクリン200mgを経口で単回投与した後,100mgの1日2回経口投与を開始し,状態が改善して解熱した状態がおよそ5日間持続し,かつ投与期間が7日以上になるまで続けるが,典型的には2~3週間の治療が必要になる。テトラサイクリン系薬剤に対する耐性は報告されていない。
テトラサイクリン系薬剤は8歳未満の小児では歯牙黄染を引き起こす可能性があるが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,軽症例では5日間,高リスクの小児には10日間投与する場合においては,ドキシサイクリン2.2mg/kg,経口または静注,1日2回による治療が正当であると勧告している(1)。小児においても歯の着色やエナメル質の脆弱化を引き起こすことなく,ドキシサイクリンによる短期間(5~10日間,リケッチア感染症の場合と同様)の治療が可能であることが研究によって示されている(2)。妊婦にはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを160mg/800mg,1日2回の用量で妊娠中に投与してもよいが,妊娠32週を超えて投与してはならない。
心内膜炎には,長期の治療が必要であり(数カ月から数年あるいは生涯),典型的には最低18カ月の期間を要する(3)。成人にはドキシサイクリン100mg,経口,1日2回に加え,ヒドロキシクロロキン200mg,経口,8時間毎の投与が推奨されている。ヒドロキシクロロキンには心臓に対する有害作用があるため,この薬剤を使用している患者では,心電図検査を繰り返してQTc間隔をモニタリングすべきである。臨床徴候,赤血球沈降速度,血算,および抗体価をモニタリングすべきであり,これを治療の中止時期の決定に役立てる。この疾患とその治療は複雑であるため,その対処には感染症専門医へのコンサルテーションが役立つ。多くの場合,抗菌薬療法の効果は部分的であり,損傷のある弁には外科的な弁置換術を行う必要があるが,ときに手術なしで治癒に至ることもある。
慢性の肉芽腫性肝炎については,至適なレジメンは確立されていない。
治療に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Information for Healthcare Providers, Q Fever
2.Todd SR, Dahlgren FS, Traeger MS, et al: No visible dental staining in children treated with doxycycline for suspected Rocky Mountain Spotted Fever.J Pediatr 166(5):1246-51, 2015.doi: 10.1016/j.jpeds.2015.02.015.Epub 2015 Mar 17.PMID: 25794784.
3.Million M, Thuny F, Richet H, et al: Long-term outcome of Q fever endocarditis: a 26-year personal survey.Lancet Infect Dis 10(8):527-35, 2010.doi: 10.1016/S1473-3099(10)70135-3.Epub 2010 Jul 14.PMID: 20637694.
Q熱の予防
ワクチンが有効であり,Q熱ワクチンが市販されているオーストラリアでは,職業的にリスクの高い人々(例,食肉処理場や乳製品製造所の従業員,動物飼料精製工場の従業員,牧畜業の従事者,羊毛選別作業の従事者,農業従事者)を対象として予防接種が推奨されている。
すでにQ熱に対する免疫を有している個人にワクチンを接種すると重度の局所反応が生じる可能性があるため,皮膚テストと血液検査による接種前スクリーニングを行って,Q熱に対する免疫の有無を特定しておくべきである。
要点
ヒトのQ熱は世界中で起こっており,ヒツジ,ウシ,およびヤギが主な病原体保有生物である。
ヒトへの伝播は感染性エアロゾルの吸入によるのが通常であり,節足動物の関与はない。
急性症状はインフルエンザに類似し,高齢患者や衰弱した患者では呼吸器症状が特に重症化することがある。
慢性Q熱は患者の5%未満に起こり,心内膜炎または肝炎として現れる。
感染組織を用いた蛍光抗体法またはPCR法により診断する。
急性Q熱はドキシサイクリンで治療し,典型的には2~3週間継続するが,心内膜炎には長期の治療(数カ月から数年,あるいは生涯)が必要である。
Q熱を予防するワクチンが市販されているがオーストラリアでのみ入手できる。