ツツガムシ病は,Orientia tsutsugamushi(以前はツツガムシ病リケッチア[Rickettsia tsutsugamushi])を原因菌とするダニ媒介性疾患である。症状は発熱,原発病変,斑状発疹,およびリンパ節腫脹である。
(リケッチアとその近縁微生物による感染症の概要も参照のこと。)
ツツガムシ病はリケッチア感染症の関連疾患である。
O. tsutsugamushiは,森林や農村地帯に生息する大型ネズミ,ハタネズミ,野ネズミなどの齧歯類に寄生するダニの幼虫(ツツガムシ)によって媒介される。ヒトはツツガムシ(幼虫)による刺咬後に感染する。このダニはO. tsutsugamushiの媒介生物であると同時に自然界での病原体保有生物でもある。
ツツガムシ病は,日本,朝鮮半島,中国,インド,および北オーストラリアを境界とするアジア太平洋地域の風土病である。
ツツガムシ病の症状と徴候
6~21日(平均10~12日)の潜伏期の後,発熱,悪寒,頭痛,全身性リンパ節腫脹など,ツツガムシ病の症状が突然発症する。発熱の発症時には,ツツガムシによる刺咬部にしばしば痂皮が生じる。ツツガムシ病の典型的な病変は,まず直径約1cmの硬結した赤い病変として出現し,最終的には水疱状になって破裂し,黒色の痂皮で覆われるようになる。O. tsutsugamushiが痂皮を形成する能力は菌株毎に異なるが,皮膚の色が薄い人では痂皮の検出が比較的容易になる。所属リンパ節が腫大する。
体温は最初の1週間で上昇していき,しばしば40~40.5℃に達する。頭痛は重度で,結膜充血と同様によくみられる。有熱期の5~8日目には体幹に斑状の発疹が出現し,しばしば上肢と下肢に進展する。これは速やかに消失する場合と,強い色調を帯びた斑状丘疹状に変化する場合がある。有熱期の1週目には咳嗽がみられ,2週目には肺炎が生じることがある。
重症例では,脈拍数の上昇,血圧の低下,ならびにせん妄,昏迷,および筋痙攣がみられる。脾腫を認めることもあり,間質性心筋炎が他のリケッチア感染症より高頻度で発生する。無治療の患者では,高熱が2週間以上続くことがあり,その後数日をかけて徐々に解熱していく。治療を行った場合は,通常36時間以内に解熱に転じる。回復は速やかで,特に問題は起きない。
Images courtesy of Yoshiki Taniguchi, MD.From Taniguchi, Y: Eschar, fever, and rash in a 43-year-old man.Dermatology Online Journal 3(2), 1997.
ツツガムシ病の診断
臨床的特徴
発疹部生検検体の蛍光抗体染色法による起因菌の検出
急性期および回復期血清での血清学的検査(急性期には血清学的検査は有用でない)
PCR法
ツツガムシ病の臨床像はロッキー山紅斑熱および発疹チフスと類似している。ただし,ツツガムシ病は様々な地域(日本,朝鮮半島,中国,インド,および北オーストラリアを境界とするアジア太平洋地域)で発生し,しばしば周囲のリンパ節腫脹を伴う痂皮が形成される。
詳細については,リケッチアとその近縁微生物による感染症の診断を参照のこと。
ツツガムシ病の治療
ドキシサイクリン
抗菌薬は症状の出現直後に投与した場合に最も効果的となる。
ツツガムシ病の初期治療としては,成人ではドキシサイクリン200mgを経口で単回投与した後,状態が改善して解熱した状態が48時間持続し,かつ投与期間が7日以上になるまで,100mgの1日2回投与を継続する。
テトラサイクリン系薬剤は8歳未満の小児では歯牙黄染を引き起こす可能性があるが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,軽症例では5日間,高リスクの小児には10日間投与する場合においては,ドキシサイクリン2.2mg/kg,経口または静注,1日2回による治療が正当であると勧告している(1)。小児においても,歯の着色やエナメル質の脆弱化を引き起こすことなく,ドキシサイクリンによる短期間(5~10日間,リケッチア感染症の場合と同様)の治療が可能であることが研究によって示されている(2)。妊婦にはトリメトプリム/スルファメトキサゾールを160mg/800mg,1日2回の用量で妊娠中に投与してもよいが,妊娠32週を超えて投与してはならない。
妊婦および重度のドキシサイクリンアレルギーがある患者では,アジスロマイシン(1日目に500mg,その後250mg,1日1回でさらに2~4日間,または初回1g,その後500mg,1日1回で2日間)がドキシサイクリンの安全かつ効果的な代替薬であることが示されている(3)。
クロラムフェニコール500mg,経口または静注,1日4回,7日間が代替治療の1つである。クロラムフェニコールの経口剤は米国では入手できないが,使用すると血液指標のモニタリングを必要とする血液有害事象が引き起こされる可能性がある。
治療に関する参考文献
1.Centers for Disease Control and Prevention: Information for Healthcare Providers, Typhus Fevers
2.Todd SR, Dahlgren FS, Traeger MS, et al: No visible dental staining in children treated with doxycycline for suspected Rocky Mountain Spotted Fever.J Pediatr 166(5):1246-51, 2015.doi: 10.1016/j.jpeds.2015.02.015.Epub 2015 Mar 17.PMID: 25794784.
3.Lee SC, Cheng YJ, Lin CH, et al: Comparative effectiveness of azithromycin for treating scrub typhus: A PRISMA-compliant systematic review and meta-analysis.Medicine (Baltimore) 96(36):e7992, 2017.doi: 10.1097/MD.0000000000007992
ツツガムシ病の予防
薮を除去し,残留性殺虫剤を散布してダニを駆除するか個体数を低減することが,ツツガムシ病の予防に役立つ。曝露の可能性が高い場合は,防虫剤(例,ジエチルトルアミド[DEET])を使用するべきである。
要点
ツツガムシ病は,ツツガムシ(ダニの幼虫)の刺咬によって伝播されるアジア太平洋地域の風土病である。
発熱(しばしば刺咬部位の痂皮化を伴う),悪寒,重度の頭痛,および全身性リンパ節腫脹が突然始まり,発疹が出現して拡大する。
ドキシサイクリンで治療し,これにより重症例でも迅速な回復がみられる。