レプトスピラ症は,スピロヘータの一種であるLeptospira属細菌のうち,いくつかの病原性血清型によって引き起こされる感染症である。症状は二相性を示す。どちらの段階でも急性の発熱がみられ,第2期にはときに肝臓,肺,腎臓,髄膜への感染が生じることがある。診断は培養および血清学的検査による。治療はドキシサイクリンまたはペニシリンなどの抗菌薬による。
スピロヘータ科の細菌は,菌体のらせん状形態によって他の細菌と区別される。病原性のあるスピロヘータとしては,Treponema属,Leptospira属,Borrelia属などがある。Treponema属とLeptospira属はどちらも薄すぎて明視野顕微鏡検査では観察できないが,暗視野顕微鏡または位相差顕微鏡下では明瞭に観察できる。Borrelia属はより厚く,染色することで明視野顕微鏡下でも観察できる。
レプトスピラ症は多くの家畜や野生動物に発生する人獣共通感染症であり,ヒトにおいては不顕性感染となることもあれば,重篤な(ときに死に至る)疾患を引き起こすこともある。ヒトの感染は米国ではまれである。
Leptospira属細菌は,保菌動物(一般的にはネズミ,イヌ,ウシ,ウマ,ヒツジ,ヤギ,およびブタ)の慢性腎感染症を通じて自然環境中に維持されている。それらの動物は長年にわたりレプトスピラを尿中に排出する。イヌ,ウシ,ブタ,およびネズミは,おそらくヒトへの一般的な感染源である。
ヒトへの感染は,感染動物の尿または組織との直接接触か,汚染された水または土壌との間接的接触により起こる。皮膚の擦過傷と露出した粘膜(結膜,鼻粘膜,口腔粘膜)が通常の侵入門戸である。よりまれな侵入形式として,飛沫核のエアロゾル吸入がある。レプトスピラ症は職業病(例,農業従事者,下水処理場や食肉処理場の従業員)であるが,米国では大半の患者がレジャー活動中に偶発的に感染している(例,汚染された淡水中での遊泳)。米国以外では,豪雨後や淡水の洪水の後にアウトブレイクが報告されている。Leptospira属細菌は,淡水源(例,湖,池)では数週間から数カ月生き延びることができる。しかし,海水中では数時間しか生き延びられない。
米国では,レプトスピラ症の症例について疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)への報告が義務づけられている。米国で報告される年間100~200症例(プエルトリコで発生率が最も高く,次いでハワイ州)は,主に夏の終わりごろから秋の初頭にかけて発生する。おそらく,特徴的な臨床所見を欠くことから,診断,報告に至らない症例がさらに多数あると考えられる。
レプトスピラ症の症状と徴候
潜伏期間は2~20日(通常は7~13日)である。
レプトスピラ症は特徴的な二相性を示すが,少数の患者では劇症の単相性疾患しかみられない。
敗血症期は突然始まり,頭痛,重度の筋肉痛,悪寒,発熱,咳嗽,咽頭炎,胸痛のほか,一部の患者では喀血がみられる。通常は3~4日目に結膜充血が出現する。脾腫および肝腫大はまれである。この段階は4~9日続き,その間,悪寒および発熱を繰り返し,しばしば体温が39℃以上に急上昇する。その後解熱する。
第2期または免疫期は,第6~12病日に血清中への抗体出現に伴って始まる。発熱と早期症状が再発するほか,髄膜炎を発症することもある。まれに虹彩毛様体炎,視神経炎,および末梢神経障害が発生する。肺病変は肺出血を伴い重症となることがある。この段階は典型的には4~30日間続く。
妊娠中に感染した場合,レプトスピラ症は回復期においても流産を引き起こすことがある。
ワイル病(黄疸出血性レプトスピラ症)は,レプトスピラ症の重症型であり,黄疸のほか,通常は高窒素血症,貧血,意識障害,および長く続く発熱がみられる。発症はより軽症型のそれと類似する。しかしながら,その後は毛細血管損傷に起因する鼻出血,喀血,点状出血,紫斑,斑状出血などの出血症状が出現し,まれにくも膜下,副腎または消化管出血へと進行することがある。血小板減少が起こりうる。3~6日目には肝細胞および腎の機能障害の徴候が現れる。腎臓の異常としては,タンパク尿,膿尿,血尿,高窒素血症などがみられる。肝細胞傷害はわずかであり,完治する。
死亡率は黄疸のない患者では0%である。黄疸がある場合の致死率は5~10%(重症例では最大40%)で,60歳以上の患者ではさらに高率となる。
レプトスピラ症の診断
血液培養
血清学的検査
ときにPCR法
ウイルス性髄膜脳炎,ハンタウイルスによる腎症候性出血熱,他のスピロヘータ感染症,インフルエンザ,および肝炎でも類似の症状がみられる可能性がある。二相性の経過がレプトスピラ症の鑑別に役立つことがある。
不明熱患者においてレプトスピラへの曝露が考えられる場合(例,淡水の洪水後)には,レプトスピラ症の可能性を考慮すべきである。
レプトスピラ症が疑われる患者には,血液培養,急性期および回復期(3~4週間)の抗体価,血算,血清生化学検査,ならびに肝機能検査を施行すべきである。
髄膜炎所見を認める場合は腰椎穿刺が必要である;髄液細胞数の範囲は10~1000/μL(0.01~1 × 109/L)であるが,通常は500/μL(0.5 × 109/L)未満で,単核球が優勢である。髄液中グルコース値は正常で,タンパク質値は100mg/dL(1g/L)未満である。
末梢血白血球数は大半の患者で正常またはわずかに高値となるが,黄疸を伴う重症患者では50,000/μL(50 × 109/L)に達することがある。70%を超える好中球の存在は,レプトスピラ症をウイルス性疾患と鑑別するのに役立つ。ビリルビンの血清中濃度上昇は,アミノトランスフェラーゼの血清中濃度上昇と釣り合いが取れない。黄疸のある患者では,ビリルビン値は通常20mg/dL未満(342μmol/L未満)であるが,重度の感染症では40mg/dL(684μmol/L)に達することがある。
レプトスピラを検体から分離するか,体液または組織中に観察することでレプトスピラ症が確定される。発症後1週目は,レプトスピラが存在し,抗体価は上昇していない状態であり,血液および髄液培養は陽性となる可能性が高い;尿培養は1~3週目に陽性となる可能性が高い。レプトスピラ症の診断には特殊な培地と長時間の培養が必要であるため,レプトスピラ症の疑いがあれば,そのことを検査室に連絡しておくべきである。
レプトスピラ症は以下のいずれかによっても診断を確定することができる:
Leptospira凝集抗体価の4倍以上の上昇がみられる(2週間以上空けて採取したペア検体の顕微鏡下凝集試験)。
検体が1つしか採取できない場合,典型的な症候がある患者で抗体価が800倍以上となる(レプトスピラ症の有病率が低い地域では200倍,場合によっては100倍以上でも可)。
発症早期であれば,PCRのような分子生物学的検査でも,迅速に診断を確定できる。
3~5日以内(抗菌薬療法を最も効果的に行えた場合で感染経過の早期)であれば,酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によるIgMの定量でも感染症を同定できるが,陽性判定が得られたとしても確実な検査法(例,培養,顕微鏡下凝集試験,PCR法)で確認すべきである。
レプトスピラ症の治療
ペニシリン
ドキシサイクリン
抗菌薬療法は,感染初期に開始した場合に最も効果的となる。
重症例には,以下のうちの1つが推奨される:
ベンジルペニシリン150万単位,静注,6時間毎,7日間
アンピシリン500~1000mg,静注,6時間毎,7日間
セフトリアキソン1g,静注,24時間毎,7日間
重症例では,支持療法も重要となるが,具体的には輸液および電解質療法のほか,ときに腎代替療法や輸血も行うことがある。
比較的軽症例には,以下のうちの1つを投与することがある:
ドキシサイクリン100mg,経口,12時間毎,5~7日間
アンピシリン500~750mg,経口,6時間毎,5~7日間
アモキシシリン500mg,経口,6時間毎,5~7日間
患者の隔離は必要ないが,尿の取扱いと廃棄は慎重に行わなければならない。
レプトスピラ症の予防
発症を予防するため,ドキシサイクリン200mg,経口,週1回の投与を,予想される地域的曝露が始まる1~2日前から開始し,その曝露が終わるまで継続すべきである。
要点
レプトスピラ症は多くの家畜や野生動物(特にイヌやネズミ)に発生する人獣共通感染症であり,米国ではヒトの感染症はまれで,感染動物の尿や組織または汚染された水または土壌との接触によって伝播する。
経過は敗血症期および免疫期の二相性となる。
敗血症期は,頭痛,重度の筋肉痛,39℃を超える発熱,悪寒,咳嗽,咽頭痛,結膜充血のほか,ときに喀血を伴って突然始まり,4~9日間持続する。
免疫期は,血清中に抗体が出現する第6~12病日に始まり,発熱や他の症状が再発し,一部の患者では髄膜炎が発生することがある。
ワイル病はレプトスピラ症の重症型で,黄疸に加えて,通常は高窒素血症,貧血,意識障害,ときに出血症状を伴う。
血液培養,髄液検査(髄膜炎の所見がみられる場合),尿培養,血清学的検査,およびPCR検査により診断する。
重症例はベンジルペニシリン,アンピシリン,またはセフトリアキソンの注射剤で,比較的軽症例はドキシサイクリン,アンピシリン,またはアモキシシリンの経口剤で治療する。