小腸移植

執筆者:Martin Hertl, MD, PhD, Rush University Medical Center
レビュー/改訂 2022年 8月
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小腸移植が行われるのはまれである(例,2021年の米国での移植は96例)。続発性の胆汁うっ滞性肝疾患に対する新しい治療(例,ω脂肪酸の豊富な魚油サプリメント)およびより安全な中心静脈ラインの留置方法が開発されたことにより,小腸移植が行われる頻度は下がっている。

小腸移植は以下の患者に適応となる:

  • 腸疾患(例,腹壁破裂,ヒルシュスプルング病,自己免疫性腸炎,微絨毛封入体病などの先天性腸症)または腸切除(例,腸間膜の血栓塞栓症もしくは広範囲のクローン病のため)に続発する腸管不全による死亡リスクがある患者

  • 腸管不全(例,胆汁うっ滞性肝疾患による肝不全,反復性の敗血症,静脈アクセスの完全喪失)の治療に用いる完全静脈栄養に関連する合併症を発症した患者

  • 閉塞,膿瘍,瘻孔,虚血,または出血を起こす局所浸潤性の腫瘍(通常,家族性ポリポーシスを伴うデスモイド腫瘍)の患者

移植の概要も参照のこと。)

手技

1つの理由として,小腸が単独で,肝臓とともに,または胃,肝臓,十二指腸,および膵臓とともに移植されることがあるため,心拍のある脳死ドナーからの入手は手間がかかる。部分的小腸同種移植片に対する血縁生体ドナーの役割は,まだ確立されていない。

手技は医療施設によって様々である;移植後免疫抑制レジメンも様々であるが,典型的なレジメンとして,導入療法には抗リンパ球グロブリン,続く維持療法には高用量タクロリムスおよびミコフェノール酸などがある。

小腸移植の合併症

移植後の合併症も参照のこと。)

拒絶反応

拒絶反応をチェックするため,最初は週1回の内視鏡検査が適応となる。移植後1年以内に約30~50%のレシピエントに拒絶反応の発作が1回以上みられる。内視鏡検査によるルーチンのサーベイランスは無期限に継続する。

拒絶反応の症状と徴候には,下痢,発熱,および腹部痙攣などがある。内視鏡検査所見としては,粘膜の発赤,脆弱性,潰瘍,剥脱などがあり,変化は不均一に分布し,検出困難なこともあるが,ウイルス封入体の有無によってサイトメガロウイルス性小腸炎と鑑別できる。生検所見には,鈍化した絨毛および粘膜固有層の炎症性浸潤などがある(カテゴリー別に見た小腸移植拒絶反応の症状の表を参照)。

急性拒絶反応の治療は,高用量コルチコステロイド,抗胸腺細胞グロブリン,またはその両方の投与である。

表&コラム
表&コラム

他の合併症

手術合併症は患者の50%にみられ,吻合部漏,胆汁漏洩および狭窄,肝動脈血栓症,乳び性腹水などがある。

手術以外による合併症としては以下のものがある:

  • 移植片虚血

  • 腸管関連リンパ組織の移植に起因する移植片対宿主病

  • 後のリンパ増殖性疾患の発生

  • 感染症のリスク増大

小腸移植の予後

小腸単独移植後の1年生存率(1年生着率)は以下の通りである:

  • 患者:約65%

  • 移植片:約50%

感染症が多くみられる死亡原因である。

肝臓および小腸の同時移植では,手技がより広範囲にわたり,レシピエントの病状がより重篤であるため,生存率がより低い。しかし,周術期後の移植片および患者の生存率は小腸単独移植後よりも高く,おそらく移植肝に保護作用があり,抗体を吸収し中和することによって拒絶を防ぐためであると想定されている。

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