第VIII,第IX,および第XI因子の高値は静脈血栓塞栓症(VTE)の危険因子である。これらのレベルは遺伝的に規定されているが,第VIII因子の高値は慢性炎症や他の全身性疾患でみられることがある。治療はVTEに対する抗凝固療法であり,第VIII因子が上昇している症例では基礎疾患に対する特異的治療を行う。
第VIII,第IX,および第XI因子は主に肝臓で作られる凝固タンパク質である。第VIII因子は,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)と結合した不活性型として循環しており,血管が損傷すると活性化されてVWFと分離する。その後,遊離した第VIII因子は第IX因子と相互作用して血液凝固を促進する。
第VIII因子の高値については,がんのない静脈血栓塞栓症(VTE)の初発患者を年齢および性別でマッチングした対照と比較した症例対照研究であるLeiden Thrombophilia Studyにおいて,VTEの危険因子であることが初めて明らかにされた。150IU/Lを超える第VIII因子活性に,約5倍のVTEリスク増加との関連が認められた(1)。第VIII因子の高値はまた,VTE再発の危険因子としても同定されている(2)。
第IX因子および第XI因子抗原の高値も,VTEのリスク増加との関連が認められる(3, 4)。しかしながら,Longitudinal Investigation of Thromboembolism Etiology研究では,年齢,性別,人種,研究,BMI(body mass index),および糖尿病で補正した場合,第XI因子にはVTEのリスク増加との関連が認められるが第IX因子にはその関連が認められないことも明らかにされた(5)。
フォン・ヴィレブランド因子の高値についても,VTEのリスク増加との関連が認められている(6)。
総論の参考文献
1.van der Meer FJ, Koster T, Vandenbroucke JP, Briët E, Rosendaal FR.The Leiden Thrombophilia Study (LETS). Thromb Haemost 1997;78(1):631-635.
2.Kyrle PA, Minar E, Hirschl M, et al.High plasma levels of factor VIII and the risk of recurrent venous thromboembolism.N Engl J Med 2000; 343(7):457-462.doi: 10.1056/NEJM200008173430702
3.van Hylckama Vlieg A, van der Linden IK, Bertina RM, Rosendaal FR.High levels of factor IX increase the risk of venous thrombosis.Blood 2000; 95(12):3678-3682.PMID: 10845896
4.Meijers JC, Tekelenburg WL, Bouma BN, Bertina RM, Rosendaal FR.High levels of coagulation factor XI as a risk factor for venous thrombosis.N Engl J Med 2000; 342(10):696-701.doi: 10.1056/NEJM200003093421004
5.Cushman M, O'Meara ES, Folsom AR, Heckbert SR.Coagulation factors IX through XIII and the risk of future venous thrombosis: the Longitudinal Investigation of Thromboembolism Etiology.Blood 2009; 114(14):2878-2883.doi: 10.1182/blood-2009-05-219915
6. Edvardsen MS, Hindberg K, Hansen ES, et al.Plasma levels of von Willebrand factor and future risk of incident venous thromboembolism. Blood Adv 2021;5(1):224-232.doi:10.1182/bloodadvances.2020003135
第VIII,第IX,および第XI因子の高値の診断
第VIII,第IX,または第XI因子の測定
第VIII,第IX,および第XI因子抗原の濃度および活性は直接測定できる。
第VIII因子の活性は抗凝固療法の影響を受け,第VIII因子が急性期反応タンパク質であることから,重要なこととして,第VIII因子活性の測定は,患者が抗凝固薬の投与を受けておらず,感染症や炎症性疾患に罹患していない場合に行う(1)。
第VIII因子のレベルは,妊娠,エストロゲンを含有するホルモン療法,がん,肝疾患,腎疾患,甲状腺機能亢進症,血管内溶血,および運動によっても上昇する。
抗凝固薬の投与を受けている患者の第VIII因子活性を測定すると,第VIII因子活性の偽低値が発生する。第VIII因子抗原は抗凝固療法の影響を受けない。対照的に,第VIII因子の抗原量や活性レベルは全身性炎症や他の多くの病態(上記参照)で増大するため,第VIII因子の測定はこれらの疾患がない状況で行うのが理想である。
第IX因子抗原はビタミンK拮抗薬で減少させることができるが,直接作用型経口抗凝固薬では減少させることができない。第XI因子抗原は抗凝固療法の影響を受けない。第IX因子および第XI因子の活性レベルは抗凝固療法により低下する。
診断に関する参考文献
1.O'Donnell J, Tuddenham EG, Manning R, Kemball-Cook G, Johnson D, Laffan M.High prevalence of elevated factor VIII levels in patients referred for thrombophilia screening: role of increased synthesis and relationship to the acute phase reaction.Thromb Haemost 1997; 77(5):825-828.PMID: 9184386
第VIII,第IX,および第XI因子の高値の治療
抗凝固療法
第VIII,第IX,および第XI因子が高値となった静脈血栓塞栓症患者の治療には,直接作用型経口抗凝固薬およびビタミンK拮抗薬が効果的である(1)。
治療に関する参考文献
1.Campello E, Spiezia L, Simion C, et al.Direct Oral Anticoagulants in Patients With Inherited Thrombophilia and Venous Thromboembolism: A Prospective Cohort Study. J Am Heart Assoc 2020;9(23):e018917.doi:10.1161/JAHA.120.018917