典型的な成人では,1日当たり約1mgの鉄(Fe)が表皮および消化管細胞の剥離により喪失しているほか,閉経前女性では,さらに平均0.5~1mg/日の鉄が月経により失われる。こうした鉄の喪失は,米国の典型的な食事に含まれる10~20mgの鉄の一部を吸収することによって均衡が保たれている。鉄の吸収は,体内の貯蔵鉄量により調節されており,通常は身体の必要量と均衡している。しかしながら,体内から鉄を排出する生理的機序が存在しないため,身体が必要とする量より過剰に吸収された鉄(または頻回の輸血によりもたらされた鉄)は,以下のように組織中に沈着する。
ヘモジデリン沈着症は,典型的には組織障害を引き起こさない鉄の局所沈着である。
ヘモクロマトーシス(鉄過剰症)は,典型的に全身性で進行し,鉄の沈着により組織障害を来すことがある。
鉄過剰症は,遺伝性ヘモクロマトーシス(鉄代謝の遺伝性疾患)または二次性ヘモクロマトーシスにより引き起こされる場合があり,二次性ヘモクロマトーシスは,鉄の過剰な経口摂取,鉄の過剰な吸収,または頻回の輸血に起因する後天性疾患である(1, 2)。鉄過剰症の合併症は,主として内分泌器官(特に膵臓,性腺,および下垂体),肝臓,および心臓における鉄蓄積に起因している。
アフリカ型鉄過剰症は,サハラ以南アフリカの鉄を豊富に含む発酵飲料を飲む人々に最も多く生じる。遺伝的要素がアフリカ型鉄過剰症の発生機序の一因になっていると考えられているが,遺伝子は同定されていない。
(鉄中毒および特発性肺ヘモジデローシスも参照のこと。)
総論の参考文献
1.Bacon BR, Adams PC, Kowdley KV, et al: Diagnosis and management of hemochromatosis: 2011 Practice Guideline by the AASLD.Hepatology 54 (1): 328–343, 2011.
2.Fleming RE, Ponka P: Iron overload in human disease.New Engl J Med 366:348–359, 2012.