腎疾患に伴う貧血は,主にエリスロポエチン(EPO)の欠乏またはEPOに対する反応性の低下に起因するhypoproliferative anemiaであり,これは正球性および正色素性の傾向を示す。治療法としては,基礎疾患を是正する治療やEPOの補充のほか,ときに鉄剤の投与などがある。
(赤血球産生低下の概要も参照のこと。)
慢性腎臓病に伴う貧血は多因子性である。
最も一般的な機序は次のものである:
エリスロポエチン(EPO)の産生低下による赤血球産生の低下
EPOの欠乏によりエリスロフェロンが産生されなくなり,その結果として,ヘプシジンが抑制されなくなり,鉄の囲い込み(iron sequestration)が増加する(慢性疾患に伴う貧血でみられるプロセスと同様である)(1)。
その他の因子としては以下のものがある:
血小板の機能障害,透析,および/または血管異形成による失血
EPOに対する骨髄の抵抗性
二次性副甲状腺機能亢進症
尿毒症(赤血球寿命の短縮につながる)
腎臓でのEPO産生の低下と貧血の重症度は,必ずしも腎機能障害の程度と相関するわけではないが,クレアチニンクリアランスが45mL/min(0.75 mL/s/m2)を下回ると貧血が生じる。腎糸球体病変(例,アミロイドーシス,糖尿病性腎症による)は,腎臓の排泄不全の程度に応じて一般に最も重度の貧血を引き起こす。
総論の参考文献
1.Kautz L, Jung G, Valore EV, et al: Identification of erythroferrone as an erythroid regulator of iron metabolism.Nat Genet 46:678–684, 2014.doi: 10.1038/ng.2996
腎疾患に伴う貧血の診断
血算,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査
腎疾患に伴う貧血の診断は,腎機能不全,正球性貧血,および末梢血の網状赤血球減少の証明に基づく。
骨髄で赤芽球低形成を認めることがある。末梢血塗抹標本で赤血球断片化が同定され,特に血小板減少症が認められる場合は,微小血管障害性溶血性貧血が示唆され,追加の検査および治療が必要である。
腎疾患に伴う貧血の治療
基礎にある腎疾患の治療
ときに遺伝子組換えエリスロポエチンおよび鉄剤
腎疾患に伴う貧血の治療は以下を目指して行う:
腎機能の改善
赤血球産生の増加
腎機能が正常化すれば,貧血は徐々に改善する。
遺伝子組換えEPOは慢性腎臓病患者の貧血を改善し,輸血の必要性を減少させるため,一般にヘモグロビン値が10g/dL未満(100g/dL未満)になった時点で開始される。長期にわたり透析を受けている患者では,遺伝子組換えエリスロポエチン(例,エポエチン アルファ,ダルベポエチン アルファ)と鉄剤の併用が選択すべき治療である。ただし,EPOの産生減少とEPOに対する骨髄の抵抗性が同時に生じているため,遺伝子組換えEPOの用量を高めに設定する必要がある。目標はヘモグロビン値を10~11.5g/dL(100~115g/L)にすることである。ヘモグロビン値が12~13g/dL(120~130g/L)を超えて上昇すると,有害作用(例,静脈血栓塞栓症,心筋梗塞,死亡)が生じる可能性があるため,ヘモグロビン値の反応を慎重にモニタリングする必要がある。透析を受けていない慢性腎臓病患者には,より低用量でEPOを使用する。
さらに,遺伝子組換えEPOに対する十分な反応を確保するために貯蔵鉄の十分な補充が必要であり,しばしば鉄剤の同時投与も必要となる。ヘモグロビン値が10g/dL(100g/L)未満,フェリチン値が500ng/mL(500μg/L)以下,かつトランスフェリン飽和度(TSAT)が30%以下の患者では,鉄剤静注の追加を考慮する。
ほぼ全例で8~12週までに赤血球数が最大値に達する。
低酸素誘導因子プロリルヒドロキシラーゼ(HIF-PH)阻害薬(例,ダプロデュスタット)は,透析患者における経口の選択肢の1つである。HIF-PH阻害薬は,HIFの分解を阻害することにより,内因性エリスロポエチンの血中濃度を上昇させる。HIF-PH阻害薬は赤血球造血刺激因子製剤と同様のヘモグロビン増加をもたらし,心血管系の有害事象の発生率も同程度とみられるが(1),長期の安全性データが不足している。
治療に関する参考文献
1.Singh AK, Carroll K, Perkovic V, et al: Daprodustat for the Treatment of Anemia in Patients Undergoing Dialysis. N Engl J Med 2021;385(25):2325-2335.doi:10.1056/NEJMoa2113379