遺伝性血小板機能異常症

執筆者:David J. Kuter, MD, DPhil, Harvard Medical School
レビュー/改訂 2022年 6月
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    遺伝性血小板機能異常症は,生涯にわたる出血傾向を引き起こす,まれな疾患群である。診断は血小板凝集能検査で確定する。重篤な出血を抑制するため,通常は血小板輸血が必要である。

    血小板疾患の概要も参照のこと。)

    正常な止血には以下が必要である:

    • 血小板の粘着

    • 血小板の活性化

    血小板の粘着(すなわち,露出した血管内皮下層への血小板の付着)には,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)と血小板糖タンパク質Ib/IX複合体が必要である。

    血小板が活性化すると,血小板凝集およびフィブリノーゲン結合が促進されるが,それには血小板糖タンパク質IIb/IIIa複合体を必要とする。活性化により血小板の貯蔵顆粒からアデノシン二リン酸(ADP)が放出され,シクロオキシゲナーゼが媒介する反応を介してアラキドン酸がトロンボキサンA2に変換される。放出されたADPが他の血小板上のP2Y12受容体に作用することにより,それらの血小板が活性化され,損傷部位に動員される。さらに,ADP(およびトロンボキサンA2)により血小板糖タンパク質IIb/IIIa複合体の変化が促進され,それによりフィブリノーゲン結合が増加することで,血小板の凝集が可能になる。

    遺伝性血小板機能異常症には,以上の基質および段階のいずれかの異常が関係している可能性がある。この種の疾患は,生涯を通じて出血性疾患が認められるものの血小板数と凝固検査結果が正常となる患者で疑われる。診断は通常,血小板凝集能検査に基づくが,血小板凝集能検査の結果は大きく変動する可能性があるため,確定的な解釈ができない場合も多い(遺伝性血小板機能異常症における凝集能検査の結果を参照)。血小板凝集能検査では,様々な活性化物質(例,コラーゲン,アドレナリン,ADP,リストセチン)に反応して血小板が凝集する能力を評価する。この種の疾患の診断には通常,そのような凝固障害に精通した専門医の助力が必要である。

    血小板凝集能検査は,血小板数が100,000/μL(100 × 109/L)未満である場合は信頼できない。

    表&コラム
    表&コラム

    血小板粘着障害

    ベルナール-スーリエ症候群は,まれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患である。血管内皮のVWFに結合する糖タンパク質Ib/IX複合体の欠損により,血小板の粘着が妨げられる。出血が重度になる場合がある。血小板は異常に大きい。リストセチンでは凝集しないが,ADP,コラーゲン,およびアドレナリンでは正常に凝集する。

    白血球封入体が生じる血小板減少性疾患であるメイ-ヘグリン異常症とチェディアック-東症候群でも,機能異常を伴った巨大血小板がみられる。

    これらの疾患ではいずれも,重篤な出血をコントロールするために血小板輸血が必要になる。

    フォン・ヴィレブランド病は,血小板粘着に必要なフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の欠乏または欠陥によって生じる。治療としては,デスモプレシンの投与,またはウイルス不活化を行った中間純度第VIII因子濃縮製剤もしくは新規の遺伝子組換えVWF製剤によるVWF補充療法を行うことが多い。

    血小板活性化障害

    血小板活性化の増幅障害は,最も一般的な遺伝性血小板機能異常症であり,軽度の出血を引き起こす。この病態は,血小板顆粒内のADPが減少すること(貯蔵プールの欠乏),アラキドン酸からトロンボキサンA2を生成できないこと,または血小板がトロンボキサンA2に反応して凝集する能力を欠いていることに起因している可能性がある。

    血小板凝集能検査では,コラーゲン,アドレナリン,および低用量のアデノシン二リン酸(ADP)への曝露後には凝集が低下し,リストセチンおよび高用量ADPへの曝露後には凝集が正常となる。同様のパターンは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)またはアスピリンを使用しても起こる可能性があり,その作用は数日間続くことがある。したがって,これらの薬剤を最近服用した患者では,血小板凝集能検査は行うべきでない。

    血小板無力症(グランツマン病)は,血小板糖タンパク質IIb/IIIa受容体に異常が生じる,まれな常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患であり,血小板が凝集できない。患者は重度の粘膜出血(例,鼻腔パッキングおよび濃厚血小板の輸血を行わなければ止まらない鼻出血)を起こす場合もある。アドレナリン,コラーゲン,または高用量ADPへの曝露にも血小板が凝集せず,リストセチンへの曝露後に一過性に凝集するという所見によって診断を確定する。重篤な出血を抑制するために血小板輸血が必要である。

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