脂質代謝の概要

執筆者:Michael H. Davidson, MD, FACC, FNLA, University of Chicago Medicine, Pritzker School of Medicine;
Pallavi Pradeep, MD, University of Chicago
レビュー/改訂 2023年 5月
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脂質は食物から吸収される,または肝臓で合成される脂肪である。トリグリセリド(TG)およびコレステロールが疾患に最も寄与するが,全ての脂質が生理的に重要である。

コレステロールは,細胞膜,ステロイド,胆汁酸,およびシグナル伝達分子の構成成分であり,あらゆるところに存在する。

トリグリセリドは,主に脂肪細胞や筋細胞にエネルギーを貯蔵する働きがある。

リポタンパク質は親水性の球体構造をしていて,その表面タンパク質(アポタンパク質,またはアポリポタンパク質)は脂質を代謝する酵素の補因子およびリガンドである(脂質代謝に重要な主要アポタンパク質および酵素の表を参照)。

全ての脂質は疎水性であり,その大半は血液に溶けないため,リポタンパク質に包まれて輸送される必要がある。リポタンパク質は,大きさおよび比重(脂質とタンパク質との比と定義される)によって分類され,低比重リポタンパク質(LDL)高値および高比重リポタンパク質(HDL)低値は動脈硬化性心疾患の主要な危険因子であることから重要とされる。

脂質異常症とは,血漿コレステロールおよび/またはトリグリセリドが高値であること,またはHDL-Cが低値であることであり,動脈硬化発生に寄与する。

表&コラム
表&コラム

脂質代謝の生理

リポタンパク質の合成,処理,およびクリアランスの経路に欠陥が生じると,アテロームのもととなる脂質が血漿および内皮へ蓄積する可能性がある。

外因性(食事による)脂質の代謝

食事による脂質の95%以上が以下のものである:

  • トリグリセリド(TG)

食事による脂質の残り約5%は以下のものである:

  • コレステロール(食物中にコレステロールエステルとして存在)

  • 脂溶性ビタミン

  • 遊離脂肪酸(FFA)

  • リン脂質

食物中のTGの代謝は胃および十二指腸で始まり,そこで胃リパーゼ,活発な胃の蠕動による乳化,および膵リパーゼによりTGがモノグリセリド(MG)およびFFAへと消化される。食物中のコレステロールエステルは同じ機序によって脱エステル化され,遊離コレステロールとなる。

次に,モノグリセリド,FFA,および遊離コレステロールは小腸で胆汁酸ミセルによって可溶化され,(小腸内腔と小腸絨毛を往復する)胆汁酸ミセルにより小腸絨毛へ送られて吸収される。

一旦腸上皮細胞へ吸収されると,これらは再びTGとなり,最大のリポタンパク質であるカイロミクロンにコレステロールとともに組み込まれる。

カイロミクロンは,食物中のTGおよびコレステロールを腸上皮細胞内からリンパ管を通じて循環血液中へと輸送する。脂肪組織や筋組織の毛細血管では,カイロミクロン上のアポタンパク質C-II(アポC-II)が内皮のリポタンパク質リパーゼ(LPL)を活性化してカイロミクロンのトリグリセリドのうち90%を脂肪酸およびグリセロールに変換し,これらはエネルギー利用または貯蔵のため脂肪細胞や筋細胞に取り込まれる。

その後,コレステロールに富んだカイロミクロンレムナントは肝臓に戻り,そこでアポタンパク質E(アポE)の媒介する過程を通じて除去される。

内因性脂質の代謝

肝臓によって合成されたリポタンパク質が内因性のトリグリセリドおよびコレステロールを輸送する。リポタンパク質は,含有するTGが末梢組織に取り込まれるか,またはリポタンパク質自体が肝臓で除去されるまで,血中を持続的に循環する。肝臓でのリポタンパク質合成を刺激する因子は,一般に血漿コレステロール値およびTG値を上昇させる。

超低比重リポタンパク質(VLDL)はアポタンパク質B-100(アポB)を含み,肝臓で合成され,TGおよびコレステロールを末梢組織に輸送する。VLDLは,血漿中の遊離脂肪酸(FFA)およびカイロミクロンレムナントに由来する過剰なTGを肝臓から搬出するための手段である。VLDLの合成は肝臓内FFAが増加すると増加し,高脂肪食摂取時や,過剰な脂肪組織がFFAを循環血液中に直接放出するとき(例,肥満,コントロールされていない糖尿病)などに生じる。VLDL表面のアポC-IIは内皮のLPLを活性化することでTGをFFAおよびグリセロールへと分解し,これらは細胞によって取り込まれる。

中間比重リポタンパク質(IDL)は,LPLがVLDLを処理する過程で生まれる産物である。IDLはコレステロールに富んだVLDLレムナントであり,肝臓で除去されるか肝リパーゼによってアポB-100を保持したままLDLへと代謝される。

低比重リポタンパク質(LDL)はVLDLおよびIDLの代謝物であり,全てのリポタンパク質の中で最もコレステロールに富んでいる。全LDLの約40~60%は,アポBおよび肝LDL受容体によって媒介される過程を介して肝臓で除去される。残りは肝臓のLDL受容体または肝臓以外の非LDL(スカベンジャー)受容体によって取り込まれる。肝臓のLDL受容体は,カイロミクロンによる肝臓へのコレステロールの輸送や食事中の飽和脂肪の増加によってダウンレギュレーションが起こり,食事中の脂肪およびコレステロールの減少によってアップレギュレーションが起こる。肝臓以外のスカベンジャー受容体はマクロファージ上に最も顕著に認められ,肝臓の受容体で処理されなかった過剰なLDLを取り込む。単球は内皮下領域に遊走し,マクロファージになる;こうしたマクロファージはその後,酸化LDLを取り込み,アテローム性プラーク内で泡沫細胞を形成する。

LDL粒子のサイズは,大型で浮揚性のものから小型(small)で高密度(dense)のものまで幅がある。small dense LDLは特にコレステロールエステルに富み,高トリグリセリド血症およびインスリン抵抗性などの代謝障害に随伴する。

高比重リポタンパク質(HDL)は,腸上皮細胞と肝臓の両方で合成され,始めはコレステロールを含まないリポタンパク質である。HDL代謝は複雑であるが,HDLの1つの役割は末梢組織および他のリポタンパク質からコレステロールを受け取り,他の細胞やリポタンパク質(コレステロールエステル転送タンパク質[CETP]を使用),肝臓(除去目的)などそれが最も必要とされている場所まで輸送することである。作用は概して抗アテローム形成性である。

細胞からの遊離コレステロールの流出はATP結合カセット輸送体A1(ABCA1)によって媒介され,ABCA1はアポタンパク質A-I(アポA-I)と結合して原始(nascent)HDLを産生する。原始(nascent)HDL中の遊離コレステロールは続いて酵素レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)によってエステル化され,成熟したHDLが産生される。血漿HDL濃度はコレステロールの逆輸送を完全には反映していない可能性があり,HDL濃度が高いことで得られる保護作用は,抗酸化特性および抗炎症特性による可能性もある。

リポタンパク質(a)[Lp(a)]はアポタンパク質(a)を含むLDL様粒子で,クリングルと呼ばれる,システインに富んだ5つの領域を特徴とする。これらの領域の1つはプラスミノーゲンと相同で,血栓溶解を競合的に阻害することにより,血栓形成の素因となると考えられる。また,Lp(a)は動脈硬化を直接促進する可能性がある。Lp(a)の産生およびクリアランスの代謝経路は十分解明されていないが,慢性腎臓病患者(特に透析患者)ではこの濃度が上昇する。

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