甲状腺癌は4つの型に大別される。大半の甲状腺癌は無症候性の結節として顕在化する。まれに,小さな甲状腺癌においてリンパ節,肺,または骨転移による症状が最初の症状になることがある。診断は穿刺吸引細胞診によることが多いが,他の検査が必要になる場合もある。治療は外科的切除で,通常は続けて放射性ヨウ素による残存組織のアブレーションを行う。
(甲状腺機能の概要も参照のこと。)
甲状腺癌は乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,未分化癌の4型に大別される。甲状腺癌の大半が乳頭癌または濾胞癌であり,通常は悪性度が高くなく,死に至ることはまれである。対照的に,未分化癌はかなり進行が速く,予後不良である一方,遠隔転移を来した髄様癌の患者は何年も生存する場合もあるが,総じてがん死に至る。乳頭癌と濾胞癌は併せて甲状腺分化癌と呼ばれるが,これは正常甲状腺組織との組織学的類似性と,機能分化(例,サイログロブリン分泌)が保たれていることに由来する。
大半の甲状腺癌は無症候性の結節として顕在化する。まれに,小さな甲状腺癌においてリンパ節,肺,または骨転移による症状が最初の症状になることがある。診断は穿刺吸引細胞診によることが多いが,他の検査が必要になる場合もある。
分化型甲状腺癌の治療は,1.5cmを超える病変に対する外科的切除であり,しばしば続けて放射性ヨウ素による残存組織のアブレーションが行われる。これより小さな病変は手術により治療するか,積極的サーベイランスを行う。
甲状腺乳頭癌
乳頭癌は甲状腺癌全体の80~90%を占める。男女比は1:3である。最大5%の症例が家族性である。大半の患者が30~60歳で発症する。高齢患者では腫瘍の進行がより速いことが多い。多くの乳頭癌は濾胞成分を含んでいる。亜型の1つに乳頭癌様核を有する非浸潤性甲状腺濾胞性腫瘍(noninvasive follicular thyroid neoplasm with papillary-like nuclear features)があるが(かつてはencapsulated follicular variant of papillary carcinomaと呼ばれていた),これは良性病変と考えられている(1)。
甲状腺乳頭癌の発生率は過去数十年で上昇したが,これについては,頸部超音波検査や頸部を撮影領域に含めたMRI,CT,またはPETを受けた患者において小さながんが偶然発見されるようになったことが最大の原因である。
腫瘍は3分の1の患者でリンパ行性に所属リンパ節に進展するほか,肺に転移することもある。55歳未満の患者で小さな腫瘍が甲状腺に限局している場合,予後は極めて良好である。
4cmを超える腫瘍とびまん性に進展した腫瘍には,甲状腺全摘術または亜全摘術が必要であり,さらに術後に,甲状腺機能の低下がみられた時点か組換え甲状腺刺激ホルモン(TSH)の注射剤を投与した後に適切な高用量でヨウ素131を投与することにより,放射性ヨウ素による残存甲状腺組織のアブレーションを行う。全ての残存甲状腺組織を破壊するために,6~12カ月後に治療を繰り返すこともある。
治療終了後はTSH抑制量のレボチロキシンを投与するとともに,血清サイログロブリン値を測定して再発または残存病変の検出に役立てる。リンパ節での再発は頸部超音波検査で検出する。約20~30%の患者(主に高齢患者)で再発または持続がみられる。
一葉に限局した4cm未満の被包型乳頭癌の治療は通常,甲状腺亜全摘術であるが,葉峡切除のみを推奨する専門家もいる;手術ではほぼ常に根治が得られる。甲状腺刺激ホルモン抑制量の甲状腺ホルモンを投与することで,再増殖の可能性を最小限に抑え,遺残した顕微鏡的な乳頭癌病変を消退させる。リンパ節および遠隔転移の所見がない1.5cm未満の乳頭癌には,積極的サーベイランスが手術に代わる選択肢となりうる(2)。
甲状腺乳頭癌に関する参考文献
1.Nikiforov YE, Seethala RR, Tallini G, et al: Nomenclature revision for encapsulated follicular variant of papillary thyroid carcinoma: A paradigm shift to reduce overtreatment of indolent tumors.JAMA Oncol 2(8):1023–1029, 2016.doi:10.1001/jamaoncol.2016.0386
2.Saravana-Bawan B, Amandeep Bajwa A, Paterson J, et al: Active surveillance of low-risk papillary thyroid cancer: A meta-analysis.Surgery 167:46–55, 2020.doi: 10.1016/j.surg.2019.03.040
甲状腺濾胞癌
濾胞癌(Hürthle細胞癌を含む)は甲状腺癌の約10%を占める。高齢患者とヨウ素欠乏地域でより頻度が高い。乳頭癌より悪性度が高く,血行性に遠隔転移する。
治療としては,乳頭癌の治療と同様,甲状腺亜全摘術を施行した上で放射性ヨウ素による残存甲状腺組織のアブレーションを行う必要がある。転移巣は乳頭癌のそれより放射性ヨウ素療法に高い反応性を示す。治療終了後には甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制量のレボチロキシンを投与する。再発および持続を検出するため,血清サイログロブリン値の測定と頸部超音波検査を定期的に行うべきである。
甲状腺髄様癌
髄様癌は甲状腺癌の約4%を占め,カルシトニンを産生する傍濾胞細胞(C細胞)で構成される。散発性(通常は一側性)の場合もあるが,しばしば家族性で,retがん原遺伝子の変異により引き起こされる。家族性髄様癌は単独で発生する場合と,多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN 2A)およびMEN 2Bの部分症である場合がある。カルシトニンにはカルシウムおよびリンの血清中濃度を低下させる作用があるが,高濃度のカルシトニンは最終的に受容体のダウンレギュレーションを引き起こすため,血清カルシウム値は正常範囲である。また,腫瘍内にコンゴレッドに染まる特徴的なアミロイド沈着を認める。
転移はリンパ系を介して頸部および縦隔リンパ節のほか,ときに肝臓,肺,骨にも及ぶことがある。
典型的には無症候性の甲状腺結節を呈するが,現在ではMEN 2Aまたは2B家系に対するルーチンのスクリーニングにより,触知可能な腫瘍が生じる前に診断される例が多くなっている。
髄様癌は他のホルモンまたはペプチド(例,副腎皮質刺激ホルモン[ACTH],VIP,プロスタグランジン類,カリクレイン類,セロトニン)の異所性産生を伴う場合,劇的な生化学所見を呈することがある。
最善の検査は血清カルシトニン値の測定であり,大幅な上昇がみられる。カルシウム負荷(15mg/kgを4時間かけて静注)によりカルシトニンの過剰分泌が誘発される。
X線撮影または超音波検査では,原発巣に密で均一な塊状の石灰化像を認めることがある。
甲状腺髄様癌では,retがん原遺伝子の変異を検出する遺伝学的検査を全ての患者が受けるべきであり,変異がみられた患者の近親者には,遺伝子検査とカルシトニンの基礎値および刺激後の測定を行うべきである。
両葉に病変があることが明らかでない場合も,甲状腺全摘術の適応となる(1)。リンパ節も郭清する。副甲状腺機能亢進症がある場合は,過形成性または腺腫様の副甲状腺の切除が必要になる。
褐色細胞腫がある場合は,通常両側性である。術中に高血圧クリーゼを誘発する危険があるため,褐色細胞腫は甲状腺切除術の前に同定して切除しておくべきである。
髄様癌およびMEN 2Aの患者では長期生存がよく得られ,10年時点で3分の2を上回る患者が生存している。散発例とMEN 2Bにおける髄様癌の予後はより不良である。
カルシトニンが高値であるが触知可能な甲状腺異常がない近親者は,この段階では根治の見込みがより高いことから,甲状腺切除術を受けるべきである。血清カルシトニンの基礎値と刺激後の値は正常ながら,retがん原遺伝子の変異を有する血縁者に対して手術を推奨する専門家もいる。
甲状腺髄様癌に関する参考文献
1.Wells Jr SA, Asa SL, Henning D, et al: Revised American Thyroid Association Guidelines for the Management of Medullary Thyroid Carcinoma prepared by the American Thyroid Association Guidelines Task Force on Medullary Thyroid Carcinoma.Thyroid 25(6): 567–610, 2015.doi: 10.1089/thy.2014.0335
甲状腺未分化癌
未分化癌は甲状腺癌の約1%を占める。主に高齢患者に発生し,女性でやや頻度が高い。腫瘍が痛みを伴って急速に増大することを特徴とする。急速な甲状腺腫大は甲状腺リンパ腫を示唆している可能性もあり,特に橋本病との関連で発見された場合には,その可能性が高い。
効果的な治療法はなく,本疾患は総じて死に至る。約80%の患者が診断後1年以内に死亡する。腫瘍が比較的小さい少数の患者で,甲状腺切除術とそれに続く外照射療法によって根治が得られている。化学療法は主として実験的に行われる。この種の腫瘍の最大40%にBRAF V600E変異が認められる。ダブラフェニブとトラメチニブを併用する分子標的療法により,腫瘍の進行を遅らせられることが示されているが,長期生存率の改善は今のところ示されていない(1)。
甲状腺未分化癌に関する参考文献
1.Bible KC, Kebebew E, Brierley J, et al: 2021 American Thyroid Association Guidelines for Management of Patients with Anaplastic Thyroid Cancer.Thyroid 31(3):337–386, 2021. doi: 10.1089/thy.2020.0944
放射線誘発甲状腺癌
核爆弾の爆発,原子炉事故,または放射線療法での甲状腺への誤照射により発生するような高線量の環境放射線に甲状腺が曝露すると,甲状腺腫瘍が発生する。腫瘍は被曝の10年後に検出されることもあるが,リスクは30~40年間増大したままである。このような腫瘍は通常良性であるが,約10%は甲状腺乳頭癌である。腫瘍はしばしば多中心性またはびまん性である。
甲状腺照射を受けた患者は,甲状腺の触診および超音波検査を毎年受けるべきである。甲状腺シンチグラフィーは必ずしも罹患領域を反映しない。
超音波検査で結節が認められた場合は,穿刺吸引細胞診を行うべきである。疑わしい病変や悪性病変が存在しない場合には,TSH抑制量の甲状腺ホルモンを生涯にわたり補充することにより,甲状腺機能と甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑制して,甲状腺腫瘍が発生する可能性を低減する方針を多くの医師が推奨している。
穿刺吸引細胞診で悪性腫瘍が示唆される場合は,手術が必要である。甲状腺亜全摘術または全摘術が選択すべき治療法であり,悪性腫瘍が発見された場合は,引き続き(大きさ,組織学所見,および浸潤度に応じて)放射性ヨウ素による残存甲状腺組織のアブレーションを行う。