多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN 2A)

(MEN 2,多発性内分泌腺腫症2型,Sipple症候群)

執筆者:Lawrence S. Kirschner, MD, PhD, The Ohio State University;
Pamela Brock, MS, CGC, The Ohio State University
レビュー/改訂 2023年 6月
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多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN 2A)は,甲状腺髄様癌,褐色細胞腫,副甲状腺の過形成または腺腫(副甲状腺機能亢進症を引き起こす)のほか,ときに皮膚アミロイド苔癬がみられることを特徴とする常染色体顕性(優性)の症候群である。臨床的特徴はどの腺が侵されるかによって異なる。家族性甲状腺髄様癌は,明瞭に区別できるMEN 2Aの亜型である。診断は遺伝子検査によって確定する。ホルモン検査および画像検査が腫瘍の局在診断に役立ち,可能なときは腫瘍を外科的に切除する。

多発性内分泌腫瘍症の概要も参照のこと。)

MEN 2A,MEN 2B,および家族性甲状腺髄様癌では,10番染色体上のがん原遺伝子RETに変異が同定されている。RETタンパク質は受容体型チロシンキナーゼであり,MEN 2Aおよび家族性甲状腺髄様癌での遺伝子変異により特定の細胞内経路が活性化される。

MEN 2Aの症状と徴候

臨床的特徴は存在する腫瘍の種類によって異なる(多発性内分泌腫瘍症に伴う病態の表を参照)。

甲状腺

ほぼ全ての患者が甲状腺髄様癌を有する。腫瘍は通常小児期に発生し,甲状腺傍濾胞細胞(C細胞)過形成で始まる。腫瘍はしばしば多中心性である。

副腎

褐色細胞腫は通常副腎に発生する。褐色細胞腫はMEN 2A家系内の患者の40~50%に生じる。孤発性の褐色細胞腫とは対照的に,MEN 2Aでみられる家族性の褐色細胞腫は副腎髄質過形成から始まり,50%を上回る症例で多中心性かつ両側性である。副腎外の褐色細胞腫はまれである。褐色細胞腫はほぼ常に良性であるが,一部には局所再発の傾向がみられ,このことが治療に伴う合併症の多さや死亡率の高さの説明となっている。

MEN 2A(およびMEN 2B)に随伴する褐色細胞腫は通常ノルアドレナリンに不釣り合いな量のアドレナリンを産生し,孤発例とは対照的である。

褐色細胞腫に続発する高血圧クリーゼは一般的にみられる症状である。褐色細胞腫を伴うMEN 2A患者の高血圧症は,持続性ではなく発作性であることの方が多く,通常の孤発例とは対照的である。褐色細胞腫を有する患者は発作性の動悸,不安,頭痛,発汗を呈することもあるが,多くは無症状である。

副甲状腺

10~20%の患者が,高カルシウム血症腎結石症,腎石灰化症,または腎不全を伴う副甲状腺機能亢進症(おそらくは長期に持続する)の所見を呈する。副甲状腺機能亢進症ではびまん性過形成または多発性腺腫として複数の腺が侵されていることが多く,MEN 2Aでは副甲状腺機能に軽度の異常がみられる場合もある。

その他の症状

一部のMEN 2A家系では,そう痒および鱗屑を伴う丘疹状皮膚病変が肩甲骨間または四肢伸側に生じる皮膚アミロイド苔癬がみられる。ヒルシュスプルング病が2~5%のMEN 2A患者にみられる。

MEN 2Aの診断

  • 甲状腺髄様癌に対する血清カルシトニン

  • 副甲状腺機能亢進症に対する血清カルシウム,24時間尿中カルシウム,および副甲状腺ホルモン

  • 褐色細胞腫に対する血漿遊離メタネフリンまたは尿中カテコラミンおよびメタネフリン濃度

  • 頸部超音波検査と必要に応じて追加の画像検査

  • MRIまたはCTによる褐色細胞腫の局在診断

  • 遺伝子検査

血清カルシトニンは甲状腺髄様癌の存在を示す優れたマーカーであり,治療効果や進行を追跡するためのバイオマーカーとしても使用できる。

副甲状腺機能亢進症は,高カルシウム血症,低リン血症,および副甲状腺ホルモン濃度の上昇によって診断される。

褐色細胞腫は無症候性のこともあるため,除外が困難な場合がある。最も感度の高い検査は,血漿遊離メタネフリンまたは尿中カテコラミンおよびメタネフリン(特にアドレナリン)の測定である。

甲状腺および副甲状腺の腫瘤の局在を同定するための頸部画像検査は,超音波検査から開始し,必要に応じてCT,MRI,または核医学検査を行うべきである。褐色細胞腫の局在診断または両側性病変の同定にはCTまたはMRIが有用である。

症例の多くは,既知症例の家族のスクリーニング時に同定される。両側性褐色細胞腫の患者とMEN 2Aに特徴的な内分泌症状が少なくとも2つ認められる患者でも,MEN 2Aを疑うべきである。診断は遺伝子検査によって確定できる。甲状腺髄様癌のうち家族性の症例は25%に過ぎないが,甲状腺髄様癌では全例で遺伝子検査を行うべきである。家族性甲状腺髄様癌では,ほぼ全例でRET変異が認められるが,孤発性と思われる症例でも約7%と高い頻度で認められる(1)。

遺伝学的スクリーニング

MEN 2A患者の家族に対する遺伝学的スクリーニングが第1選択の診断検査であり,そのような検査が利用可能となったことで,早期の甲状腺髄様癌に対する生化学的スクリーニングはあまり用いられなくなっている。特定のRET変異は,甲状腺髄様癌の進行の速さや他の内分泌障害の存在といった表現型上の特徴の予測因子でもあるため,臨床的な管理に重要である;ただし,進行の速さの予測には,発症時に高齢であることや診断時の腫瘍の病期が高いといったその他の要因の方が有用となる可能性がある(2)。

出生前診断には,着床前遺伝学的診断検査と出生前絨毛採取または羊水穿刺が用いられている。

家系内に罹患者がいる患者では,副甲状腺機能亢進症および褐色細胞腫の年1回のスクリーニングを青年期(高リスク型の家族がいる場合は11歳時,中リスク型の家族がいる場合は16歳時)に開始して,無期限に継続すべきである。副甲状腺機能亢進症のスクリーニングは血清カルシウム濃度の測定によって行う。褐色細胞腫のスクリーニング法としては,症状に関する問診,脈拍数および血圧の測定,臨床検査などがある。

診断に関する参考文献

  1. 1.Wells SA Jr, Asa SL, Dralle H, et al: American Thyroid Association Guidelines Task Force on Medullary Thyroid Carcinoma.Revised American Thyroid Association guidelines for the management of medullary thyroid carcinoma.Thyroid 25(6):567–610, 2015.

  2. 2.Voss RK, Feng L, Lee JE, et al: Medullary thyroid carcinoma in MEN2A: ATA moderate- or high-risk RET mutations do not predict disease aggressiveness.J Clin Endocrinol Metab 102(8):2807–2813, 2017.

MEN 2Aの治療

  • 同定された腫瘍の外科的切除

  • 予防的甲状腺切除術

褐色細胞腫甲状腺髄様癌または副甲状腺機能亢進症のいずれかで発症した患者では,褐色細胞腫のために他の手術時のリスクが高まるため,たとえ無症状であっても,最初に褐色細胞腫を切除すべきである(1)。褐色細胞腫の切除を受ける患者は,術前にα遮断薬(典型的にはフェノキシベンザミン,ドキサゾシン,またはプラゾシン)の十分な投与を受けるべきである。腹腔鏡下副腎摘出術は,合併症発生率が低く,開腹手術より望ましい。両側褐色細胞腫がよくみられるため,副腎温存手術が行われる場合もある(2)。

甲状腺髄様癌の手術では,甲状腺全摘術およびcentral compartmentにおけるリンパ節郭清を行うべきであり,術前の画像検査で適応があれば追加リンパ節郭清を行う。残存病変または再発病変の術後評価としては,血清カルシトニン値の測定および頸部超音波検査のほか,適応があれば胸頸部のCTもしくはMRI,骨シンチグラフィー,またはPETを行うべきである。

甲状腺髄様癌が転移している場合は,チロシンキナーゼ阻害薬(セルペルカチニブ,カボザンチニブ,バンデタニブなど)により無増悪生存期間が延長する可能性がある。転移性甲状腺髄様癌を対象としたその他のチロシンキナーゼ阻害薬の臨床試験が進行中である(3)。細胞傷害性薬剤による化学療法および放射線療法の多くは,生存期間の延長には無効であるが,疾患の進行を遅らせる場合がある。局所再発のリスクが高い患者および気道閉塞のリスクがある患者には,アジュバント療法として外照射を考慮すべきである。免疫療法(例,腫瘍由来ワクチンまたは腫瘍細胞への遺伝子導入)および放射免疫療法(例,放射性同位体を結合させたモノクローナル抗体)によって生存期間が延長することが示された試験もある。

遺伝子検査でRET変異を保有する小児が同定された場合は,予防的甲状腺切除術が推奨される。変異のタイプによっては,最も早くて生後1カ月から予防的甲状腺切除術が適応となる。甲状腺髄様癌は早期の甲状腺切除術により根治または予防できる。RET変異を有する患者には遺伝子型表現型相関が認められ,そこから甲状腺髄様癌の発症年齢および臨床経過に関する情報が得られることがあり,その情報は患児の手術時期に影響を及ぼす。

MEN 2患者では心理的苦痛がよくみられ,慢性的に続くようである。その要因として,疾患に関して得られる情報が少ないこと,自分の子供に変異があること,手術の回数,併存疾患があることなどがあり,このような患者を同定して治療するための心理学的評価が推奨される(4)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Wells SA Jr: Advances in the management of MEN2: From improved surgical and medical treatment to novel kinase inhibitors.Endocr Relat Cancer 25:T1–T13, 2018.

  2. 2.Castinetti F, Qi XP, Walz AL, et al: Outcomes of adrenal-sparing surgery or total adrenalectomy in phaeochromocytoma associated with multiple endocrine neoplasia type 2: An international retrospective population-based study.Lancet Oncol 15(6):648–655, 2014.

  3. 3.Okafor C, Hogan J, Raygada M, et al: Update on Targeted Therapy in Medullary Thyroid Cancer. Front Endocrinol (Lausanne).12:708949, 2021.doi:10.3389/fendo.2021.708949

  4. 4.Rodrigues KC, Toledo RA, Coutinho FL, et al: Assessment of depression, anxiety, quality of life, and coping in long-standing multiple endocrine neoplasia type 2 patients.Thyroid 27(5):693–706, 2017.

要点

  • 多発性内分泌腫瘍症2A型の患者の大半に甲状腺髄様癌がみられ,典型的には小児期に発生する。

  • その他の症候には,ホルモン過剰によるもの,特に,褐色細胞腫による高血圧症および副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症がある。

  • がん原遺伝子RETの変異を調べる検査と,本症候群の他の腫瘍に関する臨床的評価を行うべきである。

  • 可能であれば腫瘍は切除する(まず褐色細胞腫から)。

  • 予防的甲状腺切除術が推奨されるが,その時期は具体的な変異の影響を受ける場合がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Saravana-Bawan B, Pasternak JD.Multiple endocrine neoplasia 2: an overview. Ther Adv Chronic Dis 2022;13:20406223221079246.Published 2022 Feb 25.doi:10.1177/20406223221079246

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