食事によるビタミンE欠乏症は食料不安の割合が高い国でよくみられる;その他の国の成人ではまれであり,通常は脂肪の吸収不良による。主な症状は,溶血性貧血および神経脱落症状である。診断は血漿総脂質に対する血漿α-トコフェロールの比率の測定に基づき,比率が低ければビタミンE欠乏症が示唆される。治療はビタミンEの経口投与から成り,神経脱落症状があるか,または欠乏症が吸収不良によるものであれば,高用量を投与する。
ビタミンE欠乏症により,赤血球の脆弱性およびニューロン(特に末梢軸索および後角ニューロン)の変性が起こる。
ビタミンEは,類似の生物学的活性をもつ化合物群(トコフェロール群およびトコトリエノール群を含む)である。最も生物学的活性が高いのはα‐トコフェロールであるが,β‐,γ‐,δ‐トコフェロール,4種類のトコトリエノール,およびいくつかの立体異性体も重要な生物学的活性を有する。これらの化合物は,細胞膜における多価不飽和脂肪酸の脂質過酸化を防ぐ抗酸化物質として働く(ビタミンの供給源,機能,および作用の表を参照)。ビタミンEの食物由来の供給源としては,植物油,ナッツ類などがある。
血漿トコフェロール濃度は,血漿総脂質の濃度によって異なる。正常では,血漿α‐トコフェロール濃度は5~20μg/mL(11.6~46.4μmol/L)である。
高用量のビタミンEサプリメントによってがんや心血管疾患が予防されることはない;サプリメントによって遅発性ジスキネジアを予防できるか否かについては議論がある。2000単位/日までの用量がアルツハイマー病の進行を遅らせたり前立腺癌のリスクを下げたりするという確かなエビデンスはなく,ある研究ではビタミンEの補給により前立腺癌のリスクが高まることが示唆されている(1)。
多くの強化食品やサプリメントに含まれるビタミンEの量は単位で記載されているが,現在ではmgの使用が推奨されている。
(ビタミンの概要も参照のこと。)
参考文献
1.Klein EA, Thompson IM Jr, Tangen CM, et al: Vitamin E and the risk of prostate cancer: The Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial (SELECT).JAMA 306(14):1549-56, 2011.doi: 10.1001/jama.2011.1437
ビタミンE欠乏症の病因
食料不安の割合が高い国では,ビタミンE欠乏症の最も一般的な原因は以下のものである:
不十分なビタミンEの摂取
食料不安の割合が低い国では,最も一般的な原因は以下のものである:
無βリポタンパク質血症(アポリポタンパク質Bの遺伝性欠損によるBassen-Kornzweig症候群),慢性胆汁うっ滞性の肝胆道疾患,膵炎,短腸症候群,嚢胞性線維症など,脂肪の吸収不良を引き起こす疾患
脂肪の吸収不良を伴わないまれな遺伝性のビタミンE欠乏症が,肝臓代謝の障害の結果起こる。
ビタミンE欠乏症の症状と徴候
ビタミンE欠乏症の主な症状は,軽度の溶血性貧血および非特異的な神経脱落症状である。無βリポタンパク質血症では,生後20年以内に進行性の神経障害や網膜症を来す。
ビタミンE欠乏症は,早産児における未熟児網膜症(後水晶体線維増殖症とも呼ばれる),ならびに新生児における脳室内および上衣下の出血の一部の一因となることがある。罹患した早産児には筋力低下がみられる。
小児では,慢性胆汁うっ滞性の肝胆道疾患または嚢胞性線維症により,深部腱反射の消失,体幹および四肢の運動失調,振動覚および位置覚の低下,眼筋麻痺,筋力低下,眼瞼下垂,ならびに構音障害を伴う脊髄小脳失調症などの神経脱落症状が生じる。
成人では脂肪組織に大量のビタミンEが貯蔵されているため,吸収不良の成人ではビタミンE欠乏症により脊髄小脳失調症が起こることは非常にまれである。
ビタミンE欠乏症の診断
α‐トコフェロール低値または血清脂質に対する血清α‐トコフェロール比の低値
不十分な摂取歴や素因となる状況がなければ,ビタミンE欠乏症になる可能性は低い。診断の確定には通常,ビタミンE濃度の測定が必要である。過酸化物に反応する赤血球溶血の測定により,診断が示唆される可能性があるが,非特異的である。ビタミンE欠乏症により赤血球の安定性が損なわれるにつれ,溶血が亢進する。
血清α‐トコフェロール濃度の測定が最も直接的な診断法である。成人では,血清α‐トコフェロール濃度が5μg/mL未満(11.6μmol/L未満)の場合,ビタミンE欠乏症が示唆される。異常な脂質濃度がビタミンEの状態に影響する可能性があるため,高脂血症の成人では,血清脂質に対する血清α‐トコフェロールの比率の低値(<0.8mg/g総脂質)が最も正確な指標である。
無βリポタンパク質血症の小児および成人では,血清α‐トコフェロール濃度は通常検出できない。
ビタミンE欠乏症の治療
α‐トコフェロールまたは混合トコフェロール(α-,β-,およびγ‐トコフェロール)の補給
吸収不良により臨床的に明らかな欠乏症が生じている場合は,α‐トコフェロール15~25mg/kgを1日1回経口投与すべきである。または,混合トコフェロール(200IU)を投与してもよい。しかし,早期の神経障害を治療するため,または無βリポタンパク質血症におけるビタミンEの吸収および輸送の障害を克服するためには,より高用量のα‐トコフェロールの注射による投与が必要である。
ビタミンE欠乏症の予防
早産児には補給が必要になることがあるが,ヒトの母乳や市販の人工乳には,正期産の新生児にとって十分なビタミンEが含まれている。
要点
ビタミンE欠乏症は通常,食料不安の割合が高い国では不十分な食事からの摂取によって,または食料不安がない国では脂肪の吸収不良を引き起こす疾患によって引き起こされる。
ビタミンE欠乏症により,主に軽度の溶血性貧血および非特異的な神経脱落症状が生じる。
不十分な摂取または素因となる病態に加えて一致する所見のある患者では,診断を確定するためにトコフェロール濃度を測定する。
トコフェロールの補給により治療する。