双極症

執筆者:William Coryell, MD, University of Iowa Carver College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 8月 | 修正済み 2022年 12月
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双極症は,躁エピソードおよび抑うつエピソードにより特徴づけられ,これらは交互に生じることもあるが,多くの患者はどちらか一方が優勢である。正確な原因は不明であるが,遺伝,脳内神経伝達物質の変化,および心理社会的因子が関与する可能性がある。診断は病歴に基づく。治療は気分安定薬の投与で構成され,ときに精神療法を併用する。

通常,双極症は10代,20代,または30代で発症する(小児および青年における双極症も参照)。生涯有病率は約4%である。

双極症は以下のように分類される:

  • 双極症I型:少なくとも1回の明白な(すなわち,通常の社会的および職業的機能を破綻させる)躁エピソードならびに通常は複数回の抑うつエピソードの存在により定義される。発生率は男女でほぼ同じである。

  • 双極症II型:複数回の抑うつエピソードとともに少なくとも1回の軽躁エピソードが認められるが,明白な躁エピソードがみられないと定義される。発生率は女性の方がやや高い。

  • 特定不能の双極症:明らかな双極性の特徴を示す疾患であるが,他の双極症の具体的な診断基準を満たさないもの

気分循環症では,長い期間(2年以上),軽躁エピソードおよび抑うつエピソードの両方を含む状態を患者は呈するが,これらのエピソードは双極症またはうつ病の具体的な基準を満たさない。

気分症の概要も参照のこと。)

双極症の病因

双極症の正確な原因は不明である。遺伝因子が大きく関与している。神経伝達物質であるセロトニンノルアドレナリン,およびドパミンの調節障害に関する知見も示されている。

心理社会的因子が関与している可能性がある。しばしば,ストレスとなるライフイベントが症状の初回発現およびその後の増悪に関連するが,その因果関係はまだ確立されていない。

双極症患者の一部では,特定の薬物が増悪の誘因となる可能性があり,そのような薬剤としては以下のものがある:

双極症の症状と徴候

双極症は急性期症状から始まり,その後は寛解および再発の経過を繰り返す。しばしば完全寛解するが,多くの患者では症状が残存し,一部の患者では職業上の能力が大きく損なわれる。再発とは,躁症状,抑うつ症状,軽躁症状,または抑うつと躁の特徴が混在する症状が独立したエピソードとしてより強く現れる場合を指す。

エピソードは数週間から3~6カ月間続き,抑うつエピソードは典型的には躁または軽躁エピソードより持続期間が長い。

1つのエピソードの開始から次のエピソードの開始までの周期の長さは,患者によって様々である。まれにしかエピソードが生じない(おそらく生涯に数回のみ)患者もいれば,急速交代型(通常は1年に4回以上のエピソードと定義される)の患者もいる。各周期で躁と抑うつを交互に繰り返す患者はごく少数に過ぎず,大半ではどちらか一方が主となる。

自殺企図または自殺既遂もみられる。双極症患者における自殺の生涯発生率は,一般集団の15倍以上と推定されている。

躁エピソードは,高揚した,開放的な,または易怒的な気分が1週間以上持続するとともに,目標指向的な活動の持続的な増加または気力の顕著な増大に加えて,以下の症状が3つ以上認められる場合と定義される:

  • 自尊心の肥大または誇大性

  • 睡眠欲求の減少

  • 普段より多弁

  • 観念奔逸または思考促迫

  • 注意転導性

  • 目標指向的な活動の増加

  • 望ましくない結果を招く可能性が高い活動(例,買いあさり,ばかげた事業への投資)への熱中

躁状態の患者は,楽しく,しかしリスクの高い様々な活動(例,ギャンブル,危険なスポーツ,見境のない性行為)を,疲れを知ることなく過度に,かつ衝動的に行うことがあり,それに伴う害の可能性は認識していない。症状が重度であるために,患者本来の役割(職業,学業,家事)を果たせなくなる。無分別な投資,買いあさり,その他を選択することにより,取り返しのつかない結果を招くことがある。

躁エピソードを呈している患者は快活で,派手または色彩豊かな服装をすることがあり,かつしばしば高圧的な態度をとり,発語は早口で,制止することが困難である。音による連想(意味ではなく,言葉のもつ音が引き金となって新たな思考が生まれる)がみられることもある。気が散りやすく,主題または試みが絶えず次々と変わることがある。しかしながら,自分は最高の精神状態にあると信じている傾向がある。

病識の欠如および活動量の増大のため,しばしば差し出がましい行動に出ることがあり,この2つは危険な組合せとなりうる。対人的な摩擦のため,自分は不公平に扱われている,または迫害されていると感じることがある。その結果として,患者は自身または他者にとって危険な存在となる場合がある。精神活動の加速は,患者には思考促迫として経験され,医師には観念奔逸として観察される。

躁病性精神症(manic psychosis)は,統合失調症との鑑別が困難となりうる精神症症状を伴う,より極端な臨床像である。患者は極度の誇大性または被害妄想(例,キリストのように迫害を受けている,FBIに追われているなど)を呈することがあり,ときに幻覚を伴う。活動レベルが著しく高まり,患者は走り回りながら金切り声をあげる,ののしる,または歌を歌う場合がある。気分の変動が大きくなり,しばしば易怒性が増加する。本格的なせん妄(せん妄躁[delirious mania])が生じて,一貫性のある思考および行動が完全に失われることがある。

軽躁

軽躁エピソードは,躁ほど極端ではない状態であり,抑うつ状態ではない平常時と明らかに異なる行動が4日以上持続する明確なエピソード,および躁に関する上述の追加症状が3つ以上認められる明確なエピソードである。

軽躁期には,気分が明るくなり,気力が顕著に増大するのにつれて睡眠欲求が減少し,精神運動活動が加速する。患者によっては,軽躁期には気力の高まり,創造性,自信,および普段以上の社会的機能がみられるため,適応的となる。多くの患者は,その多幸感に満ちた楽しい状態を終わらせたくないと願う。一部の機能はかなり良好で,機能が著しく損なわれることはない。しかしながら,一部の患者では,軽躁が注意転導性,易怒性,および気分変動として現れ,患者も他者もあまり魅力的には感じない。

抑うつ

抑うつエピソードには,うつ病に典型的な特徴が認められ,そのエピソードには,同じ2週間の間に以下の症状が5つ以上認められ,かつそのうち1つは抑うつ気分または興味もしくは喜びの喪失でなければならず,自殺念慮および自殺企図を除き,いずれの症状もほぼ毎日みられなければならない:

  • ほぼ1日中みられる抑うつ気分

  • ほぼ1日中みられる,全てまたはほぼ全ての活動における興味または喜びの著明な減退

  • 有意な(5%を超える)体重の増加もしくは減少または食欲の減退もしくは亢進

  • 不眠(しばしば睡眠維持障害)または過眠

  • 他者により観察される(自己報告ではない)精神運動興奮または制止

  • 疲労感または気力減退

  • 無価値感または過剰もしくは不適切な罪悪感

  • 思考力もしくは集中力の減退または決断困難

  • 死もしくは自殺についての反復思考,自殺企図,または自殺を実行するための具体的計画

双極症の抑うつ状態では,単極性の抑うつと比べて,精神症的特徴がより高い頻度でみられる。

混合性の特徴

躁または軽躁のエピソードは,エピソード中の大半の日に抑うつ症状が3つ以上認められる場合,混合性の特徴を有すると指定される。この病態はしばしば診断が困難であり,次第に交代が続く状態に変化することがあり,そうなった後の予後は純粋な躁または軽躁状態より不良である。

混合性のエピソード中は自殺リスクが特に高い。

双極症の診断

  • 臨床基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition)

  • 甲状腺機能亢進症を除外するためにサイロキシン(T4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度測定

  • 臨床所見または血液もしくは尿検査による精神刺激薬乱用の除外

双極症の診断は,上述の躁または軽躁症状の同定に加えて,寛解および再発の既往に基づく。双極症I型と診断するには,社会的または職業的機能が著しく損なわれるほど,あるいは患者自身または他者への害を予防するために入院が必要となるほどに重度の躁症状がみられる必要がある。

抑うつ症状で受診する患者の一部には,過去に軽躁または躁を経験しているが,具体的に質問されなければ,それを報告しない患者もいる。巧みな質問によって病的徴候(例,過度の浪費,衝動的な性的逸脱,精神刺激薬の乱用)が明らかになることがあるが,そのような情報は近親者から聴取できる可能性の方が高い。Mood Disorder Questionnaireなどの構造化質問票が有用となる場合がある。全ての患者に対して,希死念慮,自殺計画,または自殺行動について,優しく,かつ率直に質問することが必要である。

精神刺激薬乱用または甲状腺機能亢進症もしくは褐色細胞腫などの身体疾患によっても,同様の急性躁症状または軽躁症状が生じることがある。甲状腺機能亢進症の患者では,典型的にはほかにも身体的な症状・徴候がみられるが,新規患者には甲状腺機能検査(T4およびTSH濃度)が妥当なスクリーニングとなる。褐色細胞腫の患者では著明な高血圧が間欠的または持続的にみられ,高血圧がみられない場合は,褐色細胞腫の検査は適応とならない。その他の疾患が躁の症状を引き起こすことは多くないが,抑うつ症状はいくつかの疾患で生じることがある(抑うつ症状および躁症状の主な原因の表を参照)。

原因となる薬物を同定する上では,物質使用(特にアンフェタミン類およびコカイン)の検討と血中または尿中薬物スクリーニングが役立つことがある。しかしながら,薬物使用が単に双極症患者のエピソードを誘発しただけの可能性もあるため,薬物使用に関連しない症状(躁症状または抑うつ症状)の所見を検索することが重要である。

一部の統合失調感情症でも躁症状がみられるが,そのような患者では,精神症的特徴が異常な気分エピソードの期間を越えて持続することがある。

双極症患者が不安症(例,社交恐怖症パニック発作強迫症)を併発している場合もあり,このことが診断を混乱させている可能性がある。

双極症の治療

双極症の薬物療法も参照のこと。)

  • 気分安定薬(例,リチウム,特定の抗てんかん薬),第2世代抗精神症薬,またはその両方

  • 支援および精神療法

通常,双極症の治療は以下の3段階に分けられる:

  • 急性期:初期の(ときに重度の)病像を安定化してコントロールすることを目的とする

  • 継続期:十分な寛解を達成することを目的とする

  • 維持期または予防期:患者を寛解状態に維持することを目的とする

軽躁患者の大半は外来患者として治療が可能であるが,重度の躁または抑うつには,しばしば入院患者の管理が必要となる。

双極症の薬物療法

双極症用の薬剤としては以下のものがある:

  • 気分安定薬:リチウムおよび特定の抗てんかん薬(特にバルプロ酸,カルバマゼピン,およびラモトリギン)

  • 第2世代抗精神症薬:アリピプラゾール,ルラシドン,オランザピン,クエチアピン,リスペリドン,ジプラシドン,およびカリプラジン

これらの薬剤は,いずれの治療段階でも単剤または併用で使用されるが,用量は様々である。

いずれの薬剤にも重大な有害作用があり,薬物相互作用がよくみられ,全ての患者に効果的となる薬剤はないことから,双極症に対する薬物療法の選択は困難となる場合がある。各患者で以前に効果的かつ忍容性良好であった薬剤に基づいて選択すべきである。患者が双極症の治療薬の投与を以前に受けたことがない(または薬歴が不明の)場合は,患者の病歴(特定の気分安定薬の有害作用に注目する)と症状の重症度に基づいて選択する。

重度の抑うつには,ときに特定の抗うつ薬(例,選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI])が追加されるが,その有効性については議論のある状況であり,それらは抑うつエピソードに対する単剤療法としては推奨されない。ケタミンの点滴も双極症における重度の抑うつエピソードの治療に効果的であることが示されている。

その他の治療法

電気痙攣療法(ECT)は,治療抵抗性の抑うつに対してときに用いられ,躁に対しても効果的である。

光療法は,季節型(秋冬の抑うつと春夏の軽躁)または非季節型の双極症I型またはII型の抑うつ症状の治療に有用となる可能性がある。おそらくは増強療法として最も有用である。

重度かつ難治性のうつ病に対する治療にときに用いられる経頭蓋磁気刺激療法は,双極症の抑うつにも効果的であることが証明されている。

教育および精神療法

重大なエピソードを予防するためには,家族など患者に親しい人々から支援を得ることが極めて重要である。

患者とそのパートナーに対する集団療法がしばしば推奨され,そこでは双極症,その社会的帰結,および治療における気分安定薬の中心的役割について学習する。

個人精神療法は,患者が日常生活の諸問題に対してより適切に対処し,自分を見つめ直す新たな視点を得て適応するのに役立つ。

患者(特に双極症II型の患者)が気分安定薬の処方を遵守しないことがあるが,これは,この種の薬剤が覚醒度や創造性を低下させると患者が考えがちなためである。医師は,気分安定薬は通常,対人関係,学業,専門職,および芸術的探究においてより一定したパフォーマンスを発揮する機会をもたらすものであるため,創造性の減退は比較的まれであることを説明することができる。

患者が精神刺激薬およびアルコールを避け,睡眠不足を最小限にし,再発の初期徴候を認識するように,カウンセリングを行うべきである。

患者に金銭を浪費する傾向がある場合は,家族内の信頼できる人物に金銭管理を任せるべきである。性的な不節制の傾向がみられる患者には,結婚生活における帰結(例,離婚)および不特定多数との性行為による感染リスク(特にAIDS)について情報を提供すべきである。

支援団体(例,Depression and Bipolar Support Alliance[DBSA])は,患者が共通する経験および感情を共有するための懇談会を開催することにより,患者を支援することができる。

要点

  • 双極症は周期性の疾患であり,抑うつの有無を問わず躁エピソードが生じる病型(双極症I)または軽躁および抑うつエピソードが生じる病型(双極症II)がある。

  • 双極症は職場で仕事をこなす能力および社会的に交流する能力を著しく損ない,かつ自殺リスクが高いが,軽度の躁(軽躁)では,気力の高まり,創造性,自信,および普段以上の社会的機能が認められることがあるため,ときに適応的となることもある。

  • 周期の長さおよび頻度は患者により異なり,生涯に数回のみの患者もいれば,年に4回以上みられる患者もいる(急速交代型)。

  • 各周期で躁と抑うつが交互に現れる患者はごく少数であり,大半の周期では,一方がある程度優勢である。

  • 診断は臨床基準に基づくが,精神刺激薬使用症と身体疾患(甲状腺機能亢進症または褐色細胞腫など)を,診察と検査によって除外する必要がある。

  • 治療法は臨床像およびその重症度に依存するが,典型的には気分安定薬(例,リチウム,バルプロ酸,カルバマゼピン,ラモトリギン)および/または第2世代抗精神症薬(例,アリピプラゾール,ルラシドン,オランザピン,クエチアピン,リスペリドン,ジプラシドン,カリプラジン)を使用する。

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