進行性核上性麻痺(PSP)

(Steele-Richardson-Olszewski症候群)

執筆者:Hector A. Gonzalez-Usigli, MD, HE UMAE Centro Médico Nacional de Occidente
レビュー/改訂 2022年 2月
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進行性核上性麻痺は,眼球の随意運動を進行性に障害し,動作緩慢,進行性体軸性ジストニアを伴う筋強剛,偽性球麻痺,および認知症をもたらす,まれな中枢神経系の変性疾患である。診断は臨床的に行う。治療は症状の緩和に焦点を置く。

運動障害疾患および小脳疾患の概要も参照のこと。)

進行性核上性麻痺の原因は不明である。

基底核および脳幹のニューロンが変性し,異常なリン酸化を示すタウタンパク質を含んだ神経原線維変化も認められる。

PSPの症状と徴候

進行性核上性麻痺の症状は通常,中年期後期に始まる。

初発症状としては以下のものがある:

  • 首を固定した状態での上方視または下方視の困難や階段昇降の困難

眼球の随意運動,特に下方注視が困難になるが,頭部の受動運動(頸部の屈曲,伸展)で誘発される反射による鉛直方向の眼球運動は正常に保たれる。

動作が緩慢になり,筋肉が硬直し,体軸性ジストニアが生じる。患者は後方に倒れそうになる傾向がある。

嚥下困難,情緒不安定を伴う構音障害(偽性球麻痺),抑うつ,および睡眠障害がよくみられる。安静時振戦が生じる場合がある。

最終的には認知症に至る。多くの患者は約5年以内に生活能力を失い,約10年以内に死亡する。

進行性核上性麻痺には,優勢な症状または徴候に基づいた,以下のような臨床病型がある(1):

  • リチャードソン症候群:進行性核上性眼筋麻痺および重度の平衡感覚障害を伴う古典的な進行性核上性麻痺(70%以上の症例でみられる最も頻度の高い病型)

  • PSP-P:パーキンソン型(Parkinsonian)の進行性核上性麻痺で,レボドパに反応してわずかな一過性の改善がみられる

  • PSP-PAFG:すくみ足を伴う純粋な無動(pure akinesia with freezing of gait)を特徴とする

  • PSP-PGF:進行性のすくみ足(progressive gait freezing)を特徴とする

  • PSP-PNFA(PSP-SL):進行性の非流暢性失語,または発語もしくは言語障害(progressive nonfluent aphasia or speech or language disorders)を特徴とする

  • PSP-AOS:発語失行(apraxia of speech)を特徴とする

  • PSP-FTLD(PSP-F):前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia)を特徴とする

  • PSP-CBS:大脳皮質基底核症候群(corticobasal syndrome)を特徴とし,著明な非対称性の症状を引き起こす

  • PSP-MN(PSP-PLS):原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis)に関連する運動ニューロン症状(motoneuron symptoms)を特徴とする

ほかにも以下のような病型がありうる:

  • PSP-C:小脳(cerebellar)徴候を特徴とする

  • PSP-PI:姿勢不安定(postural instability)を特徴とする

リチャードソン症候群以外の病型(非古典型[非定型パーキンソニズムと呼ばれる])では,眼筋麻痺が数年遅れることがある。

進行性核上性麻痺では臨床病型毎に異なる特徴がみられる(例,パーキンソン病の特徴,大脳皮質基底核症候群,言語障害,前頭側頭葉の変性徴候,無動,すくみ足)。

PSPの診断

  • 臨床的評価

進行性核上性麻痺の診断は臨床的に行う。

通常は他の疾患を除外するためにMRIを施行する。進行例のMRIでは,特徴的な中脳の縮小を認め,これは正中矢状断像で最もよく観察され,中脳がハチドリまたは皇帝ペンギンに似た形状を呈する。横断像では,中脳はアサガオのように見えることがある(2)。

診断に関する参考文献

  1. 1.Höglinger GU, Respondek G, Stamelou M, et al: Clinical diagnosis of progressive supranuclear palsy: The Movement Disorder Society criteria.Mov Disord (32) 6,:853–864, 2017.Epub 2017 May 3.doi: 10.1002/mds.26987

  2. 2.Adachi M, Kawanami T, Ohshima H, et al: Morning glory sign: a particular MR finding in progressive supranuclear palsy.Magn Reson Med Sci 3 (3):125–132, 2004.

PSPの治療

  • 支持療法

PSPの治療では,症状の緩和に焦点を置くが,満足のいく効果は得られない。ときに,レボドパおよび/またはアマンタジンにより筋強剛が部分的に軽減することがある。理学療法と作業療法は,患者の移動能力と機能を改善し,転倒リスクを減少させるのに役立つことがある。

PSPは死に至る疾患であるため,本疾患の診断後は速やかに事前指示書を作成するよう患者を促すべきである。これらの指示書には,終末期においてどのような種類の医療を希望するかを示すべきである。

要点

  • 古典的な進行性核上性麻痺では,首を固定した状態での上方視または下方視の困難や階段昇降の困難が初発症状となる場合がある。

  • 進行性核上性麻痺では臨床病型毎に異なる特徴がみられる(例,パーキンソン病の特徴,大脳皮質基底核症候群,言語障害,前頭側頭葉の変性徴候,無動,すくみ足)。

  • 症状に基づいて診断するが,他の疾患を除外するためにMRIを施行する。

  • 症状の緩和に重点を置き,筋強剛の緩和のためにレボドパおよび/またはアマンタジンを考慮し,理学療法および作業療法を処方する。

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