脊髄性筋萎縮症には,脊髄前角細胞および脳幹運動核の進行性変性による骨格筋萎縮を特徴とする,いくつかの病型の遺伝性疾患が含まれる。臨床症候は乳児期または小児期から始まる。臨床像は病型によって異なり,筋緊張低下,反射低下,吸啜・嚥下・呼吸困難,発達遅滞などがみられ,重症型では生後まもなく死亡することもある。診断は遺伝子検査による。治療は支持療法による。
脊髄性筋萎縮症は通常,5番染色体長腕上にあるSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子の常染色体潜性(劣性)変異を原因とし,ほとんどの場合,その変異によりエクソン7のホモ接合性の欠失が生じている。脊髄性筋萎縮症は,中枢神経系を侵すこともあり,純粋な末梢神経系疾患ではない。SMN2は修飾遺伝子であり,SMN1遺伝子と99%同一で5q上に位置する;コピーが複数存在する場合,SMN2は本疾患の重症度を修飾することがあり,SMAの患児間で表現型に差がみられることの説明となる。また,5q上の変異に起因しないまれな病型のSMAも存在する。
脊髄性筋萎縮症には主要な病型が5つ存在する。
脊髄性筋萎縮症0型は,出生前に発症する;妊娠後期における胎動の減少,ならびに出生時の重度の筋力低下および筋緊張低下として現れる。罹患した新生児には,両側顔面神経麻痺,反射消失,心形成異常のほか,ときに関節拘縮がみられる。生後6カ月以内に呼吸不全により死亡する。
脊髄性筋萎縮症1型(乳児脊髄性筋萎縮症,ウェルドニッヒ-ホフマン病)も,胎児が子宮内にいる間からみられ,生後6カ月頃までに症状が現れる。罹患した乳児には,筋緊張低下(しばしば出生時に認められる),反射低下,舌の線維束性収縮,および顕著な吸啜・嚥下困難があり,最終的には呼吸困難を来す。通常は呼吸不全により,95%が生後1年以内に,4歳までには全例が死亡する。
脊髄性筋萎縮症2型(中間型,デュボビッツ病)は,通常は生後3~15カ月で症状が出現し,お座りができるようになる患児は全体の25%未満で,歩行やずり這いがきるようになる患児はいない。小児では弛緩性の筋力低下および線維束性収縮がみられるが,幼児では認めにくいこともある。深部腱反射も消失する。嚥下困難を認めることもある。大半の患児が2~3歳までに車椅子生活を余儀なくされる。多くの場合は呼吸器系合併症により,若くして死に至ることがしばしばある。しかしながら,小児期に自然に進行が停止することもあり,その場合は非進行性の筋力低下が永続的に残り,重度の脊柱側弯症およびその合併症のリスクが高くなる。
脊髄性筋萎縮症3型(若年型,クーゲルベルク-ウェランダー病)は通常,生後15カ月から19歳までに症状が出現する。所見はI型のそれと類似するが,進行はより緩徐であり,期待余命もより長い;一部の患者では寿命も正常である。家族性の症例の中には,特定の酵素欠損(例,ヘキソサミニダーゼ欠損)により二次的に生じるものもある。対称性の筋力低下および萎縮が近位から遠位へ進行し,大腿四頭筋および股関節屈筋群に始まり,下肢で最も著明に現れる。後には上肢も侵される。期待余命は呼吸器系合併症が発生するか否かにより異なる。
脊髄性筋萎縮症4型(遅発型)は潜性遺伝(劣性遺伝),顕性遺伝(優性遺伝),またはX連鎖遺伝であり,成人期(30~60歳)に発症し,主に近位部の筋力低下および萎縮が緩徐に進行する。この疾患と下位運動ニューロン優位の筋萎縮性側索硬化症の鑑別は困難なことがある。
SMAの診断
電気診断検査
遺伝子検査
原因不明の筋萎縮および弛緩性筋力低下が(特に乳児および小児で)みられた場合は,脊髄性筋萎縮症の診断を疑うべきである。
筋電図および神経伝導検査を行うべきであり,その範囲には脳神経が支配する筋を含めるべきである。伝導は正常であるが,罹患筋では(臨床症状がみられないことも多いが)神経支配が失われている。
確定診断は遺伝子検査により行い,約95%の患者で原因の突然変異が検出される。
治療可能な原因を除外し,原因が致死的であるかどうかを判定するため,ときに筋生検が行われる。血清酵素(例,クレアチンキナーゼ,アルドラーゼ)がわずかに上昇することもある。
家族歴が陽性であれば羊水穿刺が行われ,これによりしばしば診断に至る。
SMAの治療
支持療法
ヌシネルセン,オナセムノゲン アベパルボベク(onasemnogene abeparvovec-xioi),またはリスジプラム
根治的な治療法はない。脊髄性筋萎縮症の治療は支持療法が中心である。
進行がみられないか遅い患者には,脊柱側弯症および拘縮を予防するための理学療法,装具,および特別な器具が有益となりうる。理学療法士および作業療法士を通して補助器具を用い,自分で食事をしたり,文字を書いたり,コンピュータを使えるようにすることで,患児の自立性および自己管理能力が改善される可能性がある。
ヌシネルセンは,SMN2(survival motor neuron 2)遺伝子のプレメッセンジャーRNAのスプライシングを修飾するアンチセンスオリゴヌクレオチドであり,この薬剤はわずかに運動機能を改善し,身体障害の発生と死亡を遅らせる可能性がある。
両アレル変異を有する2歳未満のSMN1患者の治療にはオナセムノゲン アベパルボベク(onasemnogene abeparvovec-xioi)を使用することができる。この薬剤はアデノウイルス由来のベクターを用いて機能性のSMN遺伝子を運動ニューロン細胞に送達する。この薬剤は単回用量を1時間かけて1回のみ点滴静注する。15名の小児を対象とした研究では,介助なしで座る,口から食べる,寝返りをうつ,1人で歩くなどの運動マイルストーンを達成した小児もいた(1)。重篤な肝損傷の潜在的リスクがある。
運動ニューロン2(SMN2)スプライシング修飾薬であるリスジプラムも,生後2カ月以上の脊髄性筋萎縮症患者の治療に使用することができる。液剤を1日1回,経口的にまたは栄養チューブを介して投与する(2)。最も頻度の高い有害作用は発熱,下痢,および発疹であった。
治療に関する参考文献
1.Mendell JR,, Al-Zaidy S, Shell R, et al: Single-dose gene-replacement therapy for spinal muscular atrophy.N Engl J Med 377 (18):1713–1722, 2017.doi: 10.1056/NEJMoa1706198
2.Baranello G, Servais L, Day J, et al: P.353FIREFISH Part 1: 16-month safety and exploratory outcomes of risdiplam (RG7916) treatment in infants with type 1 spinal muscular atrophy.Neuromuscul Disord 29 (supplement 1):S184, 2019, doi: https://doi.org/10.1016/j.nmd.2019.06.515
要点
乳児および小児で原因不明の筋萎縮および弛緩性筋力低下がみられた場合は,脊髄性筋萎縮症の評価を行う。
筋電図では筋の脱神経がみられる。
遺伝子検査を用いて,脊髄性筋萎縮症の有無および病型を確定する。
患者を理学療法士および作業療法士に紹介し,生活機能を独りで行えるよう訓練させる。
ヌシネルセン,オナセムノゲン(onasemnogene),またはリスジプラムは,わずかではあるが運動機能を改善し,身体障害の発生と死亡を遅らせる可能性がある。