閉じ込め症候群は,四肢麻痺および下位脳神経が麻痺しているが意識は覚醒している状態であり,合図として用いる眼球運動以外,表情を示す,動く,話す,意思を伝達することができない。
典型的な閉じ込め症候群は,四肢麻痺を引き起こして下位脳神経および水平注視制御中枢を障害する脳卒中(橋の出血または梗塞)に起因する。比較的まれな原因として,重度かつ広範囲の運動神経麻痺を生じるその他の疾患(例,ギラン-バレー症候群)と後頭蓋窩および橋の腫瘍がある。
閉じ込め症候群は,感染症,腫瘍,毒素,外傷,動静脈奇形,およびオピオイドの使用によっても起こりうる。
閉じ込め症候群の症状と徴候
閉じ込め症候群患者の認知機能は正常であり,覚醒しており,開眼および正常の睡眠-覚醒サイクルがある。患者は聞くことができ,見ることができる。しかしながら,顔面下部の運動,咀嚼,嚥下,発話,呼吸,四肢の運動はいずれもできない。垂直方向の眼球運動は可能であり,開眼と閉眼または特定回数の瞬きで質問に答えることができる。
閉じ込め症候群の診断
臨床的評価
閉じ込め症候群の診断は主として臨床的に行う。反応性の評価に通常利用される運動(例,疼痛刺激の回避)がみられないために,意識がないと誤認される可能性がある。そのため,動くことのできない全ての患者に,瞬きまたは垂直眼球運動をするよう求めることにより,患者の理解力を確認すべきである。
植物状態の場合と同様に,治療可能な疾患を除外するために脳画像検査が適応となる。CTまたはMRIによる脳画像検査を行い,橋病変の異常の同定に役立てる。診断に疑問が残る場合,脳機能のさらなる評価のため,PET,SPECT,機能的MRI,または誘発電位検査を施行する。
閉じ込め症候群の患者では,脳波を測定すると正常な睡眠-覚醒パターンを認める。
閉じ込め症候群の予後
閉じ込め症候群の患者の予後は原因および患者が受けられる補助のレベルによって変わる。例えば,一過性の虚血または椎骨脳底動脈分布域の小さな脳卒中による閉じ込め症候群は,完全に回復する可能性がある。原因が部分的に可逆的な場合(例,ギラン-バレー症候群),数カ月かかって回復しうるが,完全回復はまれである。
予後良好因子としては以下のものがある:
水平眼球運動の早期回復
運動野への磁気刺激に対する誘発電位の早期回復
不可逆性または進行性の疾患(例,後頭蓋窩および橋を侵す悪性腫瘍)は通常死に至る。
閉じ込め症候群の治療
支持療法
コミュニケーション訓練
閉じ込め症候群の患者に対しては,支持療法が治療の中心であり,具体的には以下を行うべきである:
不動状態による全身合併症(例,肺炎,尿路感染症,血栓塞栓症)の予防
適切な栄養補給
四肢拘縮を予防するための理学療法
閉じ込め症候群に対する特異的な治療法はない。
認知機能は完全に正常でコミュニケーションが可能であるため,治療に関する決定は患者自身が行うべきである。
言語療法士が瞬目および眼球運動によるコミュニケーションの合図の作成を手伝うこともある。
閉じ込め症候群の患者の中には,眼球運動によって制御するコンピュータ端末やその他の手段を用いて,インターネット上で互いにコミュニケーションをとっている者もいる。新たに開発された脳コンピュータインターフェースは,閉じ込め症候群患者のコミュニケーション能力の回復に役立つ可能性がある(1)。
治療に関する参考文献
1.Milekovic T, Sarma AA, Bacher D, et al: Stable long-term BCI-enabled communication in ALS and locked-in syndrome using LFP signals.J Neurophysiol 120 (1):343–360, 2018.